次回からエチエチタイムに入らせて貰おうと思います。
それから、毎回誤字脱字の報告してくれてるニキ達に感謝を。
誤字脱字はご愛敬。
お金を受け取った日の帰り。
早速、星歌から電話が来た。
『明日、明日香君の学校、創立記念日で休みだよね?』
「え?」
何で知ってるんだこの人。
『虹夏一日家に居ないから明日、朝から家に来て』
「あ、あの」
『? 都合悪かった?』
「いいえ。......はい。分かりました」
『そ、じゃ明日』
プツッ!
「......」
一方的に切られた。
携帯の画面を見ながら、未だ煮え切らない僕。
だってそうだ。相手は何かと世話になってる恩人。PAさんとはまた違う。どう接したらいいか分からないし、それに虹夏にも何か引け目を感じてしまう。
グルグルとどうしようもない夢想の雲を首を振り霧散させる。
「大丈夫......大丈夫――よしっ」
家の前で一人喝を入れると、鍵を開け、家の中へと入って行ったのだった。
「ただいま」
「お帰りなさい!!」
次の日。
「ゆーの夕飯は作った、それから――」
「お兄ちゃん行ってきまーす」
「あ! ちょっと待って!」
し忘れた事がないか確認していると、玄関から最愛の妹の声が。
言っとかないと。
制し、急いで玄関に向かった。
「お兄ちゃん今日晩までお仕事で居ないから、ちゃんと戸締りしてお留守番しておいて?」
「うん、分かった」
「忘れ物ない? ハンカチは?」
「もー。お兄ちゃん私もう小六だよ? もう子供じゃないんだよ」
不機嫌な顔も可愛い。
「ごめんごめん」
「もう。じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
僅かに微笑み、手を振る遊里に振り返す僕。
扉が閉まる音。
家の空気が変わり、寂しくなる。
「......ふぅ」
高鳴りそうになる気持ちを静めつつ、携帯を取り出した。
『もしもし』
「も、もしもし。明日香です。これから行きます」
『うん、分かった』
プツッ!
「ッ? 機嫌悪いのかな......」
スターリーで一緒に居るとは言え、未だに星歌の態度に時折ドキリとさせられる。
「だ、大丈夫。大丈夫だから」
胸を右手で摩りながら、呟く。
昔、母から教わった緊張を解く方法。
苦し紛れの暗示だ。
自分自身、効くかどうかなんて承知してるであろうその場凌ぎの小手先の技。
それでも、今はないよりはマシと身支度を整えながらする。
「いってきます」
朝日差し込む家の中、仏壇の方を向きながら小さく漏らすと持ち家を後にする。
今日はスターリーに続く階段を下りずに、代わりに上へ伸びる階段に足をかけ上る。
歩く時に当たる風の音、唾を飲み込む際に響く振動、心臓の高鳴る鼓動......普段は気にならない筈のそれらの微細な音が、何故だか煩わしいと思える程に大きく感じた。
一歩、一歩と進む、今まで幾度と通った場所でも視点が変われば途端に新鮮味を帯びていき、それと同時に足の動きも鈍くなる。
行きたくない......とは違う。
嫌......という訳でもない。
相手が星歌の安心感。
これから起こる事への不安感。
お金を貰ったからという使命感。
それらがグチャグチャにかけ回された、名状し難い感情。
頭を巡らせていると、いつの間にか扉の前に立っていた。
一呼吸置く。それから、インターフォンに指をかける。
『......はい』
「あ、明日香です」
『ん』
必要最低限の会話が終わり直ぐに開錠音が聞こえ、扉が開かれる。
そこには、何時もとは違う灰色のジャージに髪をまとめ肩から前に流すラフな姿の星歌。
「入って」
「はい」
感情の色が見えない顔。
無意識に歩みを止めそうになるが、悟られまいと意識して足を動かし扉を閉めると足を靴を脱ぎ、中へ。
「お邪魔します」
「おう」
初めての人の家と言うのはどうしても緊張するもので、それがお金で買われたとあらば尚更だ。
星歌の背中に小鳥のように付いて行きつつ家具や床、匂いと言った情報を収集していく。
「明日香君」
「ッ! はい」
踵を返し此方を見る星歌。
来るッ!
覚悟を決めて目を閉じ唇を突き出すように上半身をやや前に倒す。
「そこに座ってて」
「............はい」
何やってんだ僕ッ! これじゃ、まるで僕の方がやりたがってるみたいじゃないか。
PAさんの時のようになるかと身構えていたが、そう言う訳でもなく唯々リビングまで通されとキスをされるどころかソファを指差し、奥の部屋に引っ込んでしまった。
「恥ずかしい!」
勢いよく座り、自身の愚行に顔が羞恥の色に染めあがる。
何とか持ち直そうと、顔を振り思考を振り落とすと、視線を自身の膝から部屋へと向けた。
広い家。
二人で住んでるんだよね? やっぱりライブハウスってお金になるのかな......毎日スターリー開いてるし。
でも、店長さんいっつも同じような服着てるよね。......特にこだわりとかないのかな?
それにしても――
「おしゃれな部屋」
何だかドラマに出て来そうな......ん? メイド、服? これ前からあったっけ?
指さした場所に足を揃え座りながら、久しぶりに来た人の家に対して安堵と共に好奇心がひょっこりと顔を出し、年甲斐もなく視線を右へ左へ縦横無尽に動かしていると、見覚えのないメイド服が目の前のテーブルに置かれていた。
「それ着て」
「......ッ! あ、はい」
店長さん。全然気づかなかった。
気付かない内に戻っていた星歌に驚き、己の意思とは別に返事をしてしまう。
......まぁ服ぐらい............? メイド服?
「店長さ「星歌」え?」
「今日から店長じゃなくて星歌」
「えっと......せ、星歌さん」
たどたどしくそう言うと、星歌は満足そうな顔で僕の隣に腰を下ろす。
メイド服と星歌とを見て、どうしていいか分からず動けないで居ると「き・が・え・て」とまた不満げな顔に。
やるしかない。いきなりキスされて押し倒されるよりマシだ。
ええい!
意を決し立ち上がると、目の前に置かれたメイド服を持って「どこで着替えれば良いですか」と快活の良い声を発す。
「? ここだけど」
「へ?」
「だからここ。ここで着替えて」
「......」
「......六万円」
「うぅ......分かりました」
そうだ、星歌さんは大金を払ったんだ。
六万円も貰ったのに駄々をこねてちゃ、最悪お金を返さないといけない事に......それだけは避けないと。
「あまり見ないで、く、くださいね」
星歌に背を向け、身に着けている衣服を脱いでいく、シャツ、ズボン、下着姿になりメイド服に手をかけると椅子に座ったクライアントから「待った」がかかる。
「え!? い、今ですか!?」
「忘れたんだよ。ちょっと待ってて。服着ちゃダメだからね」
小走りで奥に引っ込んだと思ったら、今度は直ぐに戻って来る。
「ひっ!」
――女性の下着を持って。
「はい」
「あ、ああ、ああああ」
ハイじゃない! 今だって崖っぷちなのにそんなの着たら、残り少ないアイデンティティーが......アイデンティティーが崩壊する。
こうなったら――
「あ、コラ!」
「それだけは! 下着だけは勘弁して下さいぃ」
手に持っていたメイド服を素早く着ようとするが、星歌に押し倒されそれを阻止される。
「なに今更恥ずかしがってんだ!」
黒色のブラジャーとパンツ。両方に赤色のリボンが真ん中に飾られており、セクシーさを引き立てている。
そして、極めつけは一緒に手に持っている黒色のベルトのようなもの。
それはストッキングをずり落ちないようにする『ガーターベルト』と呼ばれるベルト。
何故僕がそれを知っているのかと言うと、学校で同級生の男子生徒達がコソコソと見ていたエロ本に載っていたから。
どうして、嫌がっているか。それは、ガーターベルトを着けていた女の子がとんでもない犯され方をしていたからだ。
イヤだ! あんなのはイヤだ!
「だってそれ女の人のッ、それにそれ誰のですか!?」
「虹夏の」
「うそでしょ!?」
「嘘だよ。ちゃんと店で買ってきた」
「よかった......って! そう言う問題じゃなくて」
バンッ!!!
抵抗する僕に業を煮やした彼女は僕の顔、直ぐ隣を握りこぶしを振り下ろす。
「ッ!?」
「――良いから着けろ」
「......は、はい」
突然の拳に慄く僕。
慮外の事態にどうしたらいいか分からず、直ぐに先ほどまであれだけ嫌がっていた選択肢に縋りついた。
「――あ。ご、ごめん! 怖かったよね」
僕の上から退き、倒れる僕を座らせ顔を合わせると。
「でもね。自分で言うのも何だけど少なくないお金を払ってる。嫌な事はしないとは言ったけど、明日香君も出来るだけ頑張って欲しい」
「う、そうですよね。お金を貰った上に嫌だなんて」
「本当の事言うと私自身結構我慢してるんだ。......だからあんな行動に出たと言うか......私こそごめん」
「そんな! わ、悪いのは僕ですから」
そうだよ。
今の星歌さんはお客さん何だよ。
大金払って望んだサービスを受けれなかったら僕だって怒る、と思う。
うん。幾ら嫌だとは言え。これぐらいは、これぐらいは頑張らないと――
さらば男の僕!!
「......へ、変じゃないでしょうか」
見よ僕の姿を。
メイド服に身を包み、ホワイトブリムを頭に載せた情けない姿を。
唯一の救いは一般的に見るフレンチメイドにアレンジを加えたモノではなく、ロングスカートタイプのヴィクトリアンメイドという点だろう。
これにより、肌のほぼ全てが隠れており、恥ずかしさが半減する。
しかし、忘れてはならないのは今の僕は女性物の下着、それとガーターベルトを着用しているという事。
恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!
頬が噴火するのではないかという程紅潮させている僕。
「ッ!!!!」
「て、店長さん!?」
星歌さんが壊れた。
鼻息を荒くしながら、スマホを横に向け連写。
「可愛い......」
「あの、店「星歌」星歌さん。そんなに撮ってどうするおつもりで?」
「こんな機会滅多にないから撮れる内に撮って置かないと」
そんな食べれる内に食べておかないとみたいな事言われても。
「ふぅ」
「ぼ、僕はどうすれば?」
「――ん? ああそうだな......まずは掃除、かな?」
「分かりました」
エッチなことしないのかな? 別にし、したい訳じゃないけど......なら何であんな大金を?
脳内に小さく燻る疑問。
どこか感じる違和感に、小首を傾げながら星歌の言う通り、掃除を開始する。
まずは掃除機を。
充電スタンドに挿された掃除機を取り出し、端からなぞる様にかけていく。
「......」
チラリと星歌の方に瞳を向けるとソファに腰をかけ僕の方をじっと見ていた。
「......」
何か見られてるんだけどッ! 何で? やっぱり怒ってる?
「あ、あの。どうかしましたか?」
「何でもない。そのまま続けて」
「分かりました」
絶対に何でもないことない。
だって、さっきから視線が全然外れないんだもん。
テーブルの下をする時も、ソファの後ろをする時も、ずっと目が離れない。チラリと見るとかじゃない、ガン見だ。
しかも視線には劣情を含んだ、湿度のある視線という訳ではなく、かと言って普通に見ている訳という訳でもない。
理由が分からない。
不愉快以下、違和感以上のこの感じ。
「あ、そっちは良いから」
「え?」
「リビングだけでいいよ」
「でも」
「それよりこっち来て」
「はい」
まだ掃除機しかしてないけど......しかもリビングだけ?
「はいこれ」
櫛?
それは、ひどく使い込まれた櫛。
飾り気も可愛らしさもないシンプルな物だった。
星歌を見るとソファからずり落ち、床に座り「ん」と一言。
髪を解かせって事かな?
櫛と星歌、交互に見て恐る恐るソファに座り、「失礼します」ゆっくりと櫛を頭に下ろす。
「んー......もうちょっと弱くして」
「ッ! すみません痛かったですか?」
「そうじゃないよ」
言われた通り、力加減を弱める。
「......」
「......」
静寂で満たされた室内。
静謐な空間のなかで、星歌の髪を撫でつける僕。
その間には楽しさ所か、会話すらない。
全くもって不可解な感じ。
「私の髪どう?」
「え?」
唐突な問いに櫛が止まる。
「止めないで続けてよ」
「あ、すみません。えっと......か、髪ですか?」
言われた事のない質問に、戸惑いいい淀んでいると短い笑いが聞こえた。
「明日香君考えすぎ。こういうのは思った事さっと言えばいいんだよ」
「綺麗です。とても」
「名前言って」
「て、......星歌さん」
「星歌」
「え!? それは「言って」......」
「お願い」
「......せ、いか」
「褒めて」
「星歌の髪、凄く綺麗です」
「もっと」
「せ、星歌の髪綺麗......あの星歌さん何かあったんですか?」
「せ・い・か」
やや圧のある語調。
「星歌何か嫌な事でもあったんですか?」
「何でそう思う?」
「何だかさっきから変と言うか、ちょっとおかしいとって言うか」
こちらを振り向き、何か言おうと口を開くが、何かが詰まったような様子で小さく「何でもないよ」と一言。
「......」
気まずい.......。な、何か話題を逸らさないと、何かないか、何か――。
「そう言えばせ、いかはバンドしてたんですよね?」
「昔な。てかそれ誰から聞いた?」
「伊地知さんからです」
「ふーん」
あ、これ会話が途切れる奴だ。
「何の! 楽器してたんですか?」
緊張で声が大きくなっちゃった......。
「ギターだよ」
「き、聞いてみたいなー何て......(ガタッ!)嘘です怒らないで下さい!」
言葉の途中で立ち上がり、足早に去って行く。
だが、直ぐにギターとアンプを携えて戻って来た。
「今日、敬語やめたら弾く」
「え゛!?」
どうしよう、この状況で嫌なんて言えないよ。
選択肢があるようで存在しないその取引に、僕は頷くしかなかった。
返事を聞いた星歌は満足そうに表情が柔らかくなり、アンプをコンセントに繋ぎ、ギターにコードを挿す。
チューニングもそこそこに、ピックを持ち、立ち上がると――。
ジャァァァァンッ!!!
腹の奥に響く音。
「ッ!!!!」
僕が星歌の演奏に飲み込まれるまで十秒となかった。
素人目からでも分かる上手さ、もう一度聞きたいと思えるようなキャッチ―なフレーズを滑らかに、それでいて大胆にかき鳴らす。
音が身体全体を包み込み、まるで部屋と一体となったように錯覚する。
ずっと見ていたい。少しも聞き逃したくない。
今までスターリーで聞いていた音楽が子守歌に聞こえる程の圧巻の演奏に、想いが込み上がってくる。
これがロック。これがギターッ! スゴイ、すごい、凄い凄い凄い!!!
――僕もやってみたい!!!!
そう思える程凄いのに。
「――どうだった?」
なんでそんな辛そうな顔をしてるんだろう?
「す、す、凄かったです! あ! いや、凄かった!」
「......そっか」
予期してなかった淡泊な返しに、高まった気分が潮が引く様に収まっていく。
困惑する僕を他所に、片付け始める星歌。
どうするべきが分からず、声を出すのを躊躇していると、その間に星歌がソファに座り隣を叩く。
それに対して、僕は言われるがまま腰を下ろす。
「ッ!? 星歌さん!?」
「はぁ~......明日香君寝心地いいね」
「え? あ、ありがとう」
あ、頭が。星歌さんの頭が僕の膝にッ。
「......頭撫でて」
「頭? えっと」
目上の人に対して頭を触ることが無かった僕は、どうしていいか分からず右手を星歌の頭に翳す。
どこから触ればいいんだろう。ここかな? で、でも犬や猫って触ったら嫌がる所があるって言うし、もしそんな所触ったりしたら......考えるだけでも――。
「妹の頭撫でるみたいにやればいいから」
態勢をそのまま僕の手を掴み、自身の頭に載せそう言う。
「......か、噛んだりしない?」
「私を何だと思ってるんだ?」
「ごごご、ごめんなさい」
「いいから早く撫でて。ん、早く」
「はい」
ゆっくりと、優しく、毛の流れに沿うようにそっと撫でた。
「んん」
丁寧に丁寧に撫でていると、次第に星歌の目尻が垂れさがっていき、身体に入った力が抜けていくのを感じた。
漏れ出る声にはどこか幼さの色が見え始めた頃、彼女の心の門が静かに開き始めたのだった。
「――大学生の時、母親が死んだんだ......」
「ッ!?」
いきなりのカミングアウトに一瞬手が止まるが、膝上で頭を揺らし催促され直ぐに再開。
「掃除に洗濯、料理......今まで意識しなかった『やらなきゃいけない事』が増えて、ライブの時とは違うプレッシャーが身体にのしかかって......。あぁ、別に面倒だったとかじゃないからね?」
「はい」
僕と同じだ。
「たださ......ただ、こうして撫でてくれる人が居なくなって、傷ついても抱きしめてくれる人が消えて、その上守らないといけないものが出来てさ。――君が来てびっくりしたよ」
「え?」
「雰囲気がね、母さんに似てたんだ」
「雰囲気?」
「うん。だから今こうしてると、なんだか母さんに頭撫でられてるみたいで......安心する」
そう言うと少し腰をくの字に顔を僕の膝に埋める。
「ほんとはしちゃダメだって分かってる。でも、我慢できなかった。金でまた......またさ......」
身体が僅かに震え、鼻のすする音が鼓膜を震わせた。
......そう言う事か。
母親が死んでから今まで、ずっと頑張って来たんだ。
傷ついても、しんどくなっても癒してくれる人は居ない、こうやって守ってくれる人が居なかった。
だから、傷つかないようにずっとつっけんどんな態度をとっていたんだ。
初めて見せる彼女の弱さ、痛い程僕には分かる。
自分自身通って来た道だ。
いいや、通っている道だ。
そう思うと、自然と口が開く。
「ずっと一人だったんだね」
父と母の死に泣く遊里にしたように撫でる。
「頼れる人もなくて......どうしようもなくて」
「中々妹には頼れないよね」
コクリと頷く星歌。
母の事を思い出しながら、僕は言う。「よく頑張りました」と。
その一言で、星歌の虚勢が涙と共に剥がれていく。
「な、んで......あの時、うんって言って上げられなかったんだろう。こんな事になるなら、もっと......もっと甘えとけば良かった」
喉が詰まったようなたどたどしい声。
「うん」
「ギターなんてしないでずっと家に居れば良かったッ!」
嚙みしめるように僕に言う。
「......」
「虹夏と仲良くすればよかった!!」
叫ぶように僕に言う。
「うん」
もう、今までの恐怖はない。
代わりにあるのは何も言って上げられない、もどかしさ。
土砂降りの雨が僕の膝を濡らしていく。
脇目もふらずに頭を撫でられながら泣きじゃくる彼女。
目の前に居るのは、女の子ただ一人。
寂しがり屋で頑張り屋の
なら、今まで出来なかったことをしてあげよう。
母親にはなれないけれど、代わりにはなれる。
母さん、母さんと泣き腫らす彼女の頭を撫でながら。
けれど、だけど、今は今だけは......いっぱい頑張った星歌のほんの少しの慰めになるのなら。
彼女をウンと甘えさせられる、そんな母親になりたいと......そう思った。
時間が経ち、雨が止む。
「お昼。何か作る?」
「............カレー」
「はい」
「でも、もうちょっとだけこのままでいさせて」
「はい」
そうしてそのまま頭を撫でていると、唐突に疑問が降ってくる。
「星歌」
「ん?」
仰向けになり僕を見上げる。
「今日一日お母さんの代わりにって僕を呼んだんだよね?」
「......うん」
そう言って、恥ずかしそうに再び横向きになった。
その姿はまるで遊里のような可愛らしさを覚えており、庇護欲をより一層書き立てられる。
だけど、今はそれは置いておいて、
「じゃあ何でメイド服着せたの?」
「......」
あれ? 反応がなくなった。
「星歌?」
「......」
「せ、星歌さん?」
「......」
「おーい」
結局、メイド服を着せられた理由は分からなかった。
次回『#7 触れたい 確かめたい』み、見て下さい。
参考文献
ぼっち・ざ・ろっく!特別編『星に手向けるあいの花』より
感想、評価貰えれば執筆速度UPします。