※この作品はR-18です。

高貴なるTS転生大和撫子清楚系美少女JK退魔師巫女が強者足る雄に惨めにも全裸土下座にて屈服した果てに孕んだ挙句、その子供も交尾を懇願するまでに無様にも雌落ちした屈辱隷属花嫁に至るまでの恥辱を晒す軌跡   作:ユキリス

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集会

 これだけの過酷な死闘を演じてみせたフウガは、その身を襲う疲労をなんら感じさせることのない、朗らかな笑顔を浮かべて意識を眠りへと落とす。

 

 流石の彼といえど、先程まで瀕死同然の重体であったのだから、気絶にまで至るのは必然といえた。

 

 何処か憂いが失われた清々しい微笑を見せているフウガを尻目に、ユキを抱き抱えたままに立ち上がる龍鬼。

 

「衛生班、奴を休憩室まで運べ。ユキは俺自ら連れて行く」

 

 次いで、恐る恐るといった様子で遠巻きから此方を眺めている武闘会主催側の関係者に、有無を言わせぬ口調で声を投げかける。

 

「は、はいッ!」

 

 多分に強烈な圧迫感が伴う龍鬼の命を受けた者達は、慌てた様子で返答すると共に、一歩足を前へと踏み出した。

 

 そしてその瞬間にことは起こった─

 

「シッ」

 

 夜闇が辺り一体を支配する最中、一筋の月明かりが、まるで気を衒うかの如く闘技場を照らし出す。

 

 すると、常人であれば聞き逃してしまう程に小さな一瞬の呼吸と共に、その後に続く風切り音が龍鬼へと聞き届けられる。

 

 何事であるかなどと思考を巡らせるよりも早く、鍛え抜かれた龍鬼の逞しい肉体は、条件反射の領域で虚空を迸る銀光の輝きを捉える。

 

 鋭利に尖らせた白銀の先端が月夜を反射して鈍い輝きを見せたのも束の間、即座に龍鬼の手に囚われてしまう。

 

 そうして間髪さえ入れずに勢いよく拳を握り込んだ途端に、太くて逞しい五指が手中に納められた短剣を割り砕く。

 

 突如として眼前に現れた、神速で投擲されたナイフを素手で掴み取り、更に硬度では、鋼鉄をも超越せし白銀を、粉々に粉砕してみせる。

 

「させん」

 

 握り拳を開いた龍鬼の手中からは、砂礫の様にこぼれ落ちる圧縮された銀刀の破片が、宙を撫でる微風に乗って、虚空へと消える。

 

 冷徹なまでの鋭く冴えた眼光が、短刀を放ったであろう間者の位置を捕捉すると共に、その場に佇んでいた龍鬼の姿が掻き消える。

 

「ッ」

 

 夜闇に紛れていた黒装束の人影は、自らの存在を悟られたことに対して驚愕も露わに息を呑む。

 

 極限まで自らの気配を断ち、外界からの人々の意識とは遮断された、完全なる隠密を果たしていた。

 

 にも関わらず投擲した短刀の軌道を追われて、その先の位置を看破され、圧倒的なまでの慧眼で、瞬時に自らの姿を捉われてしまった。

 

 僅かばかり溢れた呼吸から窺える男の声音とは異なる幾分か高い音程は、未だ年若い少女のものだろうか。

 

「‥貴様、女か」

 

 予想していた相手とはあまりに違えた相手の、己より遥かに矮小な背格好を目の当たりにした龍鬼は、困惑も露わに問いを投げかける。

 

「‥」

 

 しかしながら彼の問いかけに対して、未だ沈黙を保つ少女は、この闘技場において自らが袋の鼠であることを理解するに至る。

 

「‥だが、女子(おなご)だとしても手加減はできんぞ」

 

 問うた手前心苦しくはあるが、僅かながらに己の自重を前方へと傾けて、上体を低くした龍鬼は、冷徹な声音で宣言する。

 

 傲岸不遜に過ぎる尊敬な態度で、圧倒的なまでの威圧感(プレッシャー)を放つ龍鬼の、強靭なる肉体から気炎が立ち昇る。

 

「‥ぃ」

 

 すると驚くべきことに、彼の眼前で油断なく短刀を構えている少女から蚊の鳴くような囁きでの返答がある。

 

「ひつよう‥ないッ!」

 

 そして、僅かながらの間を一泊置いた直後、唐突にも大声で叫ぶと共に、対峙する龍鬼へと襲いかかる少女。

 

 漆黒の装束を身に纏い、暗闇に紛れる暗殺者は、流れる様に洗練された淀みない動作で、夜闇へと躍り出る。

 

 一直線に真正面から迫り来る少女の肉体は、まるで迅雷の如き素早さを伴い、龍鬼へと接敵する。

 

 あまりに愚直に間合いを詰めてくる少女の足運びに不意を突かれた形となる龍鬼であったが、即座に拳を突き出して構えた。

 

「ッ」

 

 だが、瞬きをした一瞬にも満たない間隙に、改めて敵を視認しようとした龍鬼の視界から、少女の姿は消失している。

 

 先程まで捉えていた少女の姿が突如として姿を消したあまりに想定外の事態に、流石の龍鬼とて動揺を露わにした。

 

 しかしながら相手の離れ技を目の当たりにした彼は、これまで潜り抜けてきた修羅場と培ってきた経験を元に最適解を導き出す。

 

 腕に抱いたユキへと迫り来る、少女が繰り出した鈍い光を発する鋭利な短刀を、己の拳で弾き飛ばす。

 

 かちあげられた短刀を介して、自らの腕を伝う衝撃から、身を襲う強烈なまでの痛みに顔を顰める少女。

 

「ッ」

 

 確殺に至るべく突き出された、自らの暗器が素手で防がれたことに対する驚愕の色を瞳に浮かべた少女は、即座に一歩後退する。

 

「おおッ!!」

 

 だが、間髪入れずに間合いを詰めた龍鬼から放たれた拳が、少女の手中にある暗器の刀身だけを粉微塵に粉砕する。

 

 追い討ちをかけるべく裂帛の気合いが込められた、まるで龍の伊吹の如き龍鬼の咆哮が、少女の肉体を痺れさせる。

 

「そ‥んな‥」

 

 身に降りかかる追撃に対して、自らの危機を悟る少女は、凡そ常人であれば不可能な距離を、一足飛びに後退して間合いをとる。

 

 しかしながら、自らの手中に納められた柄だけになった短刀の残骸を目の当たりにした少女の唇が、身に余る恐怖を受けて、密かに戦慄いた。

 

「‥貴様では俺に勝つことはできん。諦めて投降しろ。さすれば俺が便宜をはかっても良い」

 

 あまりに強大なる存在と対峙している事実を、改めて認識することとなり身を震わせる少女に対し、甘言を用いる龍鬼。

 

 彼は心底から眼前の暗殺者の少女へと心を砕き、その幼き身に己自ら鉄槌を下だねばならないことを憂いていた。

 

「‥ぅ‥」

 

 そんな彼の提案に僅かながらに躊躇いを見せた少女であったが、再度腰元の剣帯に手を伸ばし、予備の短刀の柄を握る。

 

「愚かな」

 

 本心からの善意を無碍にされながらも、大いに躊躇いを見せる龍鬼の表情には、悲哀の念が浮かべられている。

 

 眼前で短刀を構えている少女は、未だ成人にも満たないユキと同程度の齢であることが、小柄で未発達な幼い体躯から窺える。

 

 曲がりなりにも幼き子の父である龍鬼は、己の娘と同い年程の少女を手にかけるつもりは、毛程もなかった。

 

「安心するが良い。殺しはせん」

 

 慈悲深い穏やかな声音で声をかけた龍鬼は、勢いよく地面を踏み砕き、瞬時に少女との間合いを詰めた。

 

 疾風の如き神速で駆ける龍鬼を視界で捉えること叶わず、反応することすらままならない少女は、己の眼を疑った。

 

「ッ」

 

 気がつけば突如として接敵されていた少女は、唐突に眼前に現れた龍鬼の姿を前にして、声にならない悲鳴をあげる。

 

 例え幼少の時分から、どれ程過酷な修練を積んだ暗殺者だとしても、圧倒的なまでに生物としての格が隔絶した龍鬼には叶うまい。

 

 それ程までに種族差における自力の差は大きく、増してや、幼き少女の身にあっては、幾百もの齢を重ねた龍鬼に手も足も出ないのは道理。

 

 寧ろここまで劣等の存在で善戦することができたのは、この少女が如何に、幼少の頃より厳しい鍛錬を重ねてきたかが窺える。

 

 それは、先程までフウガと死闘を繰り広げていた光景を目の当たりとしていた、人々からは考える余地もなく明らかであった。

 

「かはッ」

 

 しかしながら、だからといってこれまでの少女の努力が必ず報われるというわけでなく、鬼人族において最強たる龍鬼と対峙すれば、地面に伏すこととなるのは自明の理。

 

 即座に短刀を振り上げる儚い抵抗も虚しく、無常なる龍鬼が繰り出した圧倒的なまでの暴力たる一撃は、案の定容赦なく、少女の脇腹を抉り抜いた。

 

「‥う‥そ‥」

 

 暴風さえ伴う振り抜いた拳に撃ち抜かれた少女の未成熟な幼い肢体が、受け身をとるのも虚しく、くの字に折れ曲がり、その場で力なく頽れた。

 

 無論精一杯の手加減を施した龍鬼であるから、致命傷にはほど遠く、幸いにも意識を刈り取られるだけに終わる。

 

 脅威であった暗殺者の少女の意識が失われたことを確認した衛生班の者達は、流れるような洗練された、迅速な動きで、未だ地面に横たわるフウガを担架へと乗せる。

 

 筋肉に覆われた大柄なフウガの肉体を、担架へと納めた男達は、幾分か急足で控え室へと駆けていった。

 

 早急に行われた一連の動きから、鬼人族の村において、如何にフウガという男が重要視されているのかが窺える。

 

 神聖な決闘を穢すことは、最早掟を破ることと、同義であることを理解しているが故に、彼等は介入してこなかった。

 

 しかしながら、ユキが龍鬼とフウガの決闘を中断させたことで、彼等が躊躇う原因も失われた。

 

 それらのしがらみを理解していたからこその、衛生班への、龍鬼自らの声掛けであったのだが、瀕死同然まで追い込んでしまったのは最早批判を免れない。

 

 当然名家であるフウガの家からの追求の声はあるだろうが、先程の衛生班の男達から向けられていた厳しい視線も同様に懸念の一つだろうか。

 

 であるからして、進んでフウガの介抱を呼びかけた龍鬼の心遣いも、もしかしたら無駄骨であるのかも知れなかった。

 

 つまるところ、今回から得られた成果、所謂教訓は、過ぎたるは及ばざるが如し、と言った具合の反省点だろうか。

 

 あまりに無骨極まる小風な考えに基づいて、己の行動をさして鑑みることがない龍鬼にとって、無論後悔の念はない。

 

 しかしながら、元より村内において恐れられて孤立気味であった彼の立場は、今回の武闘会で圧倒的な力を見せつけたことにより、殊更に疎まれるようになるのは自明の理。

 

 あまつさえ無愛想で著しく評判がよろしくない龍鬼が、この村において支持を集めるフウガを瀕死に追い込み、打ちのめしたことへの影響は計り知れない。

 

 無論のことながら、現段階において、それに対しての良し悪しを判断するのは、流石の龍鬼とて不可能だ。

 

 幾ら強靭なる頑強な肉体と、幾多の修羅場を潜り抜けてきた経験を併せ持つ龍鬼であっても、先見の明があるわけでなし。

 

 故に、鬼人族の村においての、事実上の頂点に君臨することとなる己に対して、人々がどの様な感情を抱くのかを理解するには至らない。

 

 元より戦闘に対しては最強の名を冠する龍鬼であるが、ユキ意外の対人関係に関しては、希薄と称して相違ない。

 

 だが、強者ばかりが集う、この武闘会での勝利を見事納めてみせたことは、手放しで称賛されるべき偉業であることには違いなかった。

 

 この村において、圧倒的なまでの武力を誇ることは、それだけで権威を持つに値する者と見做される。

 

 故に武闘会が開催される以前までは、この鬼人族の村を、魔物から守る、守護者としての地位に甘んじていた。

 

 しかしながら、己の娘がために判断を迫られたが故の、武闘会での優勝という結果に落ち着いた限りである。

 

 そんな彼であるからして、ユキ意外の取るに足らない、有象無象の外野からの評価など、なんら意に解す必要性すら感じていなかった。

 

 だからだろうか、控室へと姿を消した、衛生班の男達に運ばれているフウガから、なんの躊躇いもなく視線を外す。

 

 逸らした視線を地面へと倒れ伏している少女へと移して、己の胸中から湧き上がる静かな怒りを咀嚼する。

 

 己の娘と同様に、未だ成人にも満たない齢である少女は、その幼い身体に余る様な、過酷な環境に身を置いている。

 

 幼き少女を襲う理不尽な所業に、身を焦がす様な憤怒を覚えた龍鬼は、拳を硬く握ることで、溢れ出る衝動を抑え込む。

 

 己に対する、村の人々からの評価などよりも、未だ地面に横たわる、不幸な境遇の少女に対しての感情の方が遥かに憂うべき事柄であった。

 

 しかしながら、そこまで巡らせていた思考は、不意に感じ取った、複数の気配により、途中で中断されることとなる。

 

 今し方まで、暫しの間熟考し、思索に耽っていた龍鬼の周囲では、僅かな月夜が照らす夜闇の中、紛れる様にして、漆黒の人影が蠢いている。

 

 それも単独ではなく複数人の人影が、観客の人々を隠れ蓑として、龍鬼の様子を窺っている様であった。

 

 その突出した隠密の技術により、人々の認識の範囲外へと身を置くことを可能とする術は、龍鬼をして感嘆させる能力である。

 

 だからこそ、危険極まる厄介な相手は、躊躇することなく、この場で全員を再起不能にまで追い詰め、捕らえる必要があった。

 

 しかしながら、これから相見える複数の相手との戦闘に備え、動き出すべく姿勢を落とした龍鬼とは異なり、黒装束の者達は、その限りではない。

 

 多勢に無勢という相手にとって有利な状況でありながら、彼等は慢心することもなく、正確に龍鬼の脅威を看破している。

 

 相見えれば地に伏せることになるのは、己達であることへの理解へと至る彼等には、最早この場に留まる意義はない。

 

 自重を前方へと傾けて、足を踏み出そうとしている龍鬼とは対称的に、黒装束の彼等は、まるで夜闇に溶けるかの様に、この場から姿を消失させた。

 

 皆目見当も付かない隠密の術を行使して、龍鬼という最大の脅威から逃走を試みた彼等は、仲間の少女一人を犠牲にして、逃げおおせることができた。

 

 そのあまりに吐き気を催すかの様な残酷な事実に、憤怒を覚えた龍鬼は、踏み出した一歩に勢いよく力を乗せて、地面を踏み砕く。

 

 心の奥底から湧き上がる、身を焦がすかの様な強烈なまでの、行き場のない怒りを、胸中へと抱える彼である。

 

 抑えきれないまでの溢れんばかりの衝動を、地面を踏み抜く衝撃で、どうにかして相殺を試みる。

 

 その愚行に対して自覚がある龍鬼は、至らない己と、少女に対して無常なる世界に嘆きを覚えて、月夜が照らす満面の星空を仰ぎ見る。

 

 辺り一面に散りばめられている無数の星屑が、幻想的なまでに煌めきを放ち、この薄汚い地上を煌々と照らしている。

 

「‥」

 

 だが、そんな壮大でいて神秘的なまでの光景を前にして、感傷に浸る己に嫌悪を覚えた彼は、残酷な夜闇へと視線を戻す。

 

 己が昏倒させた少女は、未だ地面に倒れ伏したままであり、目を覚ます気配すら見せていない。

 

「んんっ、‥おとう‥さま?」

 

 そうして肉体をうつ伏せに倒れ伏し、身じろぎひとつしない暗殺者の少女へと憐憫の眼差しを向ける龍鬼へと、不意に声がかけられる。

 

 朦朧とした意識の中、強烈な疲労感に苛まれ、白く明滅し、混濁した視界で龍鬼を見上げるユキ。

 

「‥ユキ、目が醒めたか」

 

 蚊が鳴くような囁きでの呼びかけに対して、気遣わしげな面持ちを浮かべた龍鬼は、ユキの頭を大きな手のひらで包み込む様に撫でる。

 

「‥は‥い‥申し訳ありません。わたし‥この様な‥」

 

 意識を失ってしまったことを失われた記憶の空白を鑑みるユキは、自らの失態を悟り、唇を震わせて戦慄かせる。

 

「何、気にすることはない。‥だが、身体の調子はどうだ?」

 

 そんな、心底から落ち込んだ面持ちで、己を上目遣いで見上げるユキに対して、穏やか声音で気遣う様子を見せている。

 

「‥はい‥。とても眠くはありますが、痛いところなどは特には御座いません」

 

 朧げな意識ながら、龍鬼の慈愛満ち溢れる気遣いに対しては、健気にも懸命に、はっきりとした鮮明な声音で答えてみせるユキ。

 

 未だ身を襲う酩酊感の様な心地に僅かばかりに頬を赤く染めるユキは、きめ細かい細やかな指先で、龍鬼の胸板を撫でる。

 

 筋肉の隆起した肉体に艶かしく伝う白魚の如き純白の指が、龍鬼の精悍な顔へと至り、頬を撫でる。

 

 すると、きめ細やかなユキの肌が擦り合わされると同時、暖かく心地の良い何処かぬるま湯にも似た感触に、肉体を包み込まれる龍鬼である。

 

「‥これは」

 

 そして今し方指を這わされた箇所へと自らの五指で触れる龍鬼は、平素から微動だにしない彫像の如き表情を僅かながらに崩す。

 

「治癒魔術ではないな。これは‥どのような手品の類だ?」

 

 幾ら鬼人族において最強の名を冠する龍鬼といえど、超常の現象の類にはとんと疎い彼である。

 

 故に、今現在己の身に起きている現象についいて、この術を行使した本人であるユキへと問うた次第である。

 

「‥申し訳ございません。その‥わたしにもわかりかねます」

 

 しかしながら、この今し方に起きた現象を起こした術者本人であるにも関わらず、その本質を理解するに至っていない。

 

 そんなあまりに不可解な事態に陥っている現状を他所に、事の成り行きを見守っていた一人の人物が、二人の元へと向かう。

 

「いや、これまで生きてきた人生において見たこともない、凄まじい戦いであったよ龍鬼君。君の健闘に心からの賞賛を送らせてくれたまえ」

 

 観客席よりも遥か高い位置にある壇上から、ゆったりとした、緩慢な動作で降りてくる杖を片手に携えた男。

 

 しかしながら、歳の程は既に初老を迎えていながらも、階段を降る足取りは鮮明でしっかりとした足運で、ユキ達の傍へと赴く彼である。

 

 そこまで時間を要する事なくユキ達の元へと辿り着いた老人は、己のよりも大柄な龍鬼の仰見て口を開く。

 

「見事この武闘会での勝利を納めた君には、この村でのあらゆる権利が与えられる」

 

 老人が言い放ったその言葉には、彼がこれまで生き永らえてきた一生の、気が遠くなる程の圧倒的なまでの時が積み重ねられた、深みが感じられた。

 

 それは、嗄れながらも、心の奥底の髄まで染み渡る程に、穏やかなに落ち着いた、威厳さえ滲み出た声。

 

 しかしながらその尊大なまでの立ち振る舞いでの宣言から一泊置いた老人は、大仰な態度を改めて龍鬼達へと問いかける。

 

「‥それは約束しよう。だが、君の娘‥ユキ君が先程行使した術‥あれは一体なんだね?わたしはあの様な魔術を今まで一度たりとも見たことがない」

 

 彼は先程の神秘的なまでの光景を想起する様に、心底から驚いた表情を浮かべて瞳を見開いた。

 

 落ち窪んだ瞳が瞠目により顕となる様子は、さながら新種の魔物の様に思えたユキは、龍鬼の腕の中で小さな悲鳴をこぼす。

 

「まさか死人を生き返らせてしまう術など、この目で見る日が来ようとは思わなんだ」

 

 しかしながら、今し方浮かべていた驚愕の面持ちから一転、酷く穏やかな落ち着いた表情を取り戻す老人は、感嘆に打ち震えた言葉を呟いた。

 

「いや‥あれは魔術というよりは、神聖魔法‥はたまた奇跡の類か‥。あの様な芸当、限り得るのは、或いは神のみわざだけだろう」

 

 そして、大仰な程なまでに感涙に咽び泣き、煌々とした眼光を称えた、不気味な程に大きな瞳でユキを仰見る。

 

 一人でに何やらを呟き続ける老人は、己の異様なまでの迫力に怯えて、龍鬼の逞しい胸板に縋り付くユキの様子には、なんら気付いた様子がない。

 

「‥龍鬼君、恐らくだがあの時、君の娘には龍神様が宿っていたに違いない」

 

 そうして熟考の末に至る結論は、口に出した老人本人でさえ疑う様な、あまりにも突飛な発想である。

 

「今はもう御姿を見せていないが、先程の死人を生き返らせた術と、ユキ君の髪色がこの様に美しい白金に染まってしまったのがその証左」

 

 しかしながら、彼の言を証明するかの様に、未だ美しく白金の色に輝くユキの長髪からは、その見に余る膨大なまでの圧倒的なまでの魔力の奔流が、白金の残滓の粒子となって、虚空へと流れている。

 

「故に、不本意だと思うがどうか何卒、この後の集会にユキ君と共に同席してはくれないか?」

 

 次いで老人からなされた提案に、今度は龍鬼の眦が険を帯びる様に吊り上がり、表情を強張らせた。

 

 龍鬼を起点とした、圧倒的なまでの威圧感が吹き荒れて、その筋肉に覆われた強靭なる肉体からは、思わず気圧されてしまう程の気炎すら立ち昇る。

 

「あぁ‥安心してくれていい。無論君達の悪い様にはしないさ。それにこの武闘会で己の力を示した龍鬼君に今更意を唱える者もいなかろうて」

 

 だが、そんな彼の凄まじい程の風圧にさえ当てられて尚、好々翁然とした態度を崩すことのない老人は、飄々とした立ち振る舞いで、言葉を続ける。

 

「どうだね?これからの君達の身の振り方も考えなくてはならんだろう?だから、是非とも君達のこれからの方針を決めるのを、私達にも協力をさせて欲しいのだ」

 

 畳み掛ける様にして、まるで散弾の如き言葉の数々を並べ立てて見せるのが、この老人が曲者たる所以であろう。

 

 それもただ口から思いついただけの内容を吐き出しているのではなく、相手にとって如何に都合が良く甘言となり得るかの取捨選択を行っているのだから、驚愕も一入だろうか。

 

 目の前でなんら焦燥を露わにすることなく、自らの穏やかな調子を崩さずに、交渉の姿勢を見せる老人の姿に、口下手な龍鬼は殊更に押し黙る他にない。

 

「‥ああ。それなら問題はない。ユキはどうだ?」

 

 ようやく一言だけ捻り出した言葉も、ただの了承に頷く為だけに必要があっただけに過ぎず、平素から寡黙な龍鬼は、目の前の食わせ者である老人を前にして、殊更に口数を減らしている。

 

「‥はい‥。わたしはお父様の決定に、意義はございませんが‥」

 

 龍鬼の問いかけに対し、従順にも頷きを返すユキであるが、煌々とした鋭い眼光を落ち窪んだ瞳に称えている老人を前にしては、流石の彼女とて多少の躊躇いを覚えている様だった。

 

 平素から聖母の如き、母性にも似た博愛精神を垣間見せているユキであるが、どうやら目の前で佇んでいる老人に対してをその感情を向けるのは、些か憚られる様子である。

 

「おやおや‥これはこれは‥どうやらユキ君を怖がらせてしまいましたかな?ははっ、申し訳ない」

 

 美しい少女からの猜疑の視線を受けた老人は、飄々とした立ち振る舞いをなんら崩すことなく、素直に謝罪してみせる。

 

「あ‥いえ、わたしはただ‥」

 

 自らよりも遥かに齢を重ねていて、更には天上と称してなんら不自然ではない程に偉い身分である目の前の老人から頭を下げられて、殊更に萎縮して肩を縮こまらせるユキ。

 

「ついつい若い者を前にすると、喋らずにはいられないものですな。いや、本当に話し過ぎてしまいましたなぁ。どうか老人の道楽を許してくだされ」

 

 だが、そんな恐縮した様子で言葉を詰まらせて、口を噤む彼女を、特別意に解することもなく、淀みない口調で言葉を続ける老人である。

 

「これくらいしか楽しみがないもんで、話し相手がいないのも困り者ですな。ホホっ、お嬢さんにはちと退屈な話であったでしょう。いやっ、失敬失敬っ!」

 

 純白の麗しき乙女から僅かばかりに困惑の眼差しを向けられて尚、なんら堪える様子が見られない老人は、明朗快活にも笑い飛ばして見せた。

 

 正に人好きのする傍らに居て楽しい人物であることに、違いは無いのではあるのだが、対人関係に対してあまり明るくない龍鬼とユキの二人は、些か気圧された様子である。

 

「‥いえ、あの‥わたしは‥あ、会ったばかりの‥お、おじい様?を怖がるなんて、そんな‥失礼なこと‥」

 

 老人の爽やかな声音での問いかけに対して、目を白黒させて混乱するユキは、しどろもどろになりながらも、なんとか返答する。

 

 その回答はあまりに了見を得ない不明瞭な内容であり、ほぼ初対面同然の相手に対して、親族に付けるような敬称を口走ってしまったことを、口に出してから後悔するユキである。

 

 しかしながら最早言ってしまったことは後悔先に立たずといった具合に、困惑から囁き声であった筈の彼女の言葉は、見事地獄耳な老人には聞き届けられている。

 

「ホホっ、これはこれは‥まさか巫女様に、お爺さまなどと読んで頂けるとは、まっこと光栄の極みですじゃ。ありがたやありがたや」

 

 動転してしまっているユキの、明らかな失言に対して、腹を立てる様子もなく、寧ろ心底から歓喜を露わにした、嬉々とした面持ちを見せる老人は、元より溌剌とした声音を殊更に弾ませて見せた。

 

「おおっ、そういえば、自己紹介がまだでしたな。いやっ、誠に申し訳ない。自分でいうのもなんですが、いかんせん歳でしての、順序というものが、時々わからなくなってしまうのですよ」

 

 そうして一頻り話し終えた後に、ユキの様子からようやく得心したといった具合で、己が未だ名を名乗っていないことへの理解へ至る彼である。

 

「遅ればせながら名乗らせて頂くことをどうかご容赦願えますかな?」

 

 すると、些か大仰なまでの、僅かばかりに演技がかった仕草で地面についていた杖を浮かせて一礼をしてみせる老人。

 

 その冗談染みた明るい動作は、まるで他者を惹きつける様な、魅力に満ち溢れた立ち振る舞いで、ユキの緊張を解すには、酷く効果的面であった。

 

「ふふっ、可笑しな人‥ええ、あなたの御名前をわたしに教えて下さいませ」

 

 未だ地面に倒れ伏し、昏倒している少女は黒装束を身につけていることが災いし、夜闇に紛れているせいか、ユキに気付かれることはない。

 

 暗殺者の少女は、身体を、地面へとのうつ伏せの体勢で横たえたまま、自らの腹部を抑えて、蚊の鳴くような声で、僅かながらに呻く。

 

 であるからして、ユキは朗らかな、聖母の如き微笑を、その美しいかんばせに称え、老人に向かって名乗ることへの許しを与える。

 

「では、では、この様な老体にもお優しい、寛大な巫女様のご厚意に甘んじて名乗らせていただきますじゃ。コホンっ、わたしはこの村の長をさせていただいております、ケレスと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」

 

 やはりというべきか、ユキ自身が想像するよりも遥かに目の前の老人の地位は、その年齢相応に高くある様である。

 

 そんな彼が一村人であるユキに対して最大限の、些か大仰に感じられてしまう程に、敬意を払って接しているのだから、驚きも一入だろうか。

 

「え‥あ‥もっ、申し訳御座いませんっ‥。重ね重ね無礼を働いてしまったことを、ここに深く謝罪申し上げ致します。どうぞケレス様、わたしからも、今後とも何卒、よしなにして頂ければ恐悦至極に存じます」

 

 だからだろうか、平素から丁寧な受け答えを心掛けているユキの態度が、より一層改まり、殊更に楚々とした、淑やかな立ち振る舞いを見せていた。

 

「ホホっ、この様なただの老いぼれにそこまでかしこまる必要などありませんぞ。ましてや、巫女様とあろう者がその様に簡単に頭を下げられましては、私達の立つ瀬がありませぬよ。いやいや‥本当にこちらこそよろしくお願い致しますじゃ」

 

 鬼人族の村を治める様な、圧倒的なまでの高い地位に居ながらも、目の前の長を務めるケレス老人は、過剰なまでに腰が低い。

 

「して、先程からそこに横たわる者は君達の知り合いかね?」

 

 互いの自己紹介を終えて深々と頭を下げて見せたケレスは、再び顔を上げた後に、地面にうつ伏せで転がっている少女へと視線を向ける。

 

「ああ、恐らくは、聖王国からの刺客の類だろう。どうしてかユキを狙っていたが、返り討ちにした。情報を吐かせるために生かしている」

 

 ケレスの問いかけに対して、先程まで沈黙を保っていた龍鬼が毅然とした態度で、淀みなく語ってみせる。

 

「そうですか‥聖王国‥。彼奴等は私達の村からも若いのを徴兵して、魔族領との戦に臨みたいのでしょう。恐らくは、巫女様を攫い、人質に取ることで、脅してでも助力を願いたかった、といったところですかな」

 

 手練れを撃退した事実を、事もなげに語ってみせる龍鬼に対して、対称的な様子を見せている老人は、重々しく頷くと共に言葉を続ける。

 

「まさかこのような強硬手段に出るとは、彼奴等も堕ちたものですな。無理矢理にでも戦いを強制させてくるとなれば、それ程追い込まれているのでしょうな」

 

 心底から嘆かわしいとでも言わんばかりに、数多の星屑が月夜に散らばる天を仰ぎ見て、嘆息するケレス。

 

「龍鬼君には面倒をかけるが、君自ら積極的に情報の収集に勤しんでくれるのならば是非もなし。有難い限りだ。‥コホンっ、では、行くとするかの。龍鬼君に巫女様、私についてきてくだされ」

 

 面倒事を己自ら引き受けた龍鬼に対して、幾度も頷いて感謝の意を示すケレスは、咳払いを一つして話を切り上げる。

 

 そして自らが先頭に立ち、集会の会場への案内を先導するべく、その老体には見合わない、しっかりとした力強い確かな足取りで、地面を踏みしめる。

 

「あの‥お父様、其方の御方はどうなされるのでしょうか?もしお怪我をされているのであれば、わたしがお治し致しますので、どうか此方へ近づけて頂けないでしょうか」

 

 存外に健脚な老人が、闘技場内を行く背中を目の当たりにして、幾分か慌てた様子でユキが気遣わしげな声をあげた。

 

「ああ、頼む」

 

 慈愛の滲み出るユキの言葉に鷹揚にも頷いてみせる龍鬼は、先程まで命のやり取りを交わしていた少女の肉体を抱き上げる。

 

 だらりと弛緩した少女の身体が、時折僅かながらに身じろぎをする様子を見せている事から察するに、痛みを覚えている様であった。

 

 そんな彼女の様子を目の当たりにして、悲哀に長い睫毛を伏せたユキは、眼前に翳した手のひらを優しく少女へと向ける。

 

 次いでなんの躊躇いもなく、龍鬼の拳が打ち込まれたであろう患部へと当たりをつけて、少女の腹部へと触れる。

 

 なんら迷いがない流れるように淀みがない、洗練された一連の動作に対して僅かながらに、驚きの表情を見せる龍鬼だろうか。

 

 そしてその瞬間─

 

「‥ん」

 

 眩いばかりの神秘的なまでの発光が少女の肉体を包み込んだかと思えば、先程まで蒼白であった彼女の顔色も、血色を取り戻し、幾分か肌の艶を取り戻していた。

 

 瞬きにも満たない一瞬で、たちまち治療を終わらせてしまったユキは、なんら動じた様子もなく、龍鬼を見上げた。

 

「終わりました、お父様。お待たせするのも失礼で御座いますから、お早く向かいましょう」

 

 本来であれば多分な魔力を消費する筈の治癒魔術を行使して尚も、平然とした様子で提案するユキの姿は、何処か幻想的なまでの雰囲気を漂わせている。

 

 先日までは漆黒出会った筈の髪色も、現在に至っては眩いばかりの輝く白金に染まり、殊更にその美貌に磨きが掛かっている。

 

 最早天使と称してなんら差し支えない程の、美の極限を体現しているかの様な、圧倒的なまでの常人とは隔絶した、神秘的なまでの美を、ユキは誇っていた。

 

「ああ」

 

 しかしながら、あまりに唐突であり、急激な容姿の変化に対して、彼女自身も未だ気付いていない様である。

 

 そんなユキの姿を目の当たりとして、現在起きている異常と称してもなんら差し支えない事象に対して考えを巡らせる龍鬼。

 

 平素から微動だにしない、その彫像の如き表情を僅かながらに強張らせて、珍しくも動揺した様子を見せている。

 

 そんな彼の機微には気付いてはいるものの、その懸念の原因が、自らが行使した術であることを理解しているユキであるからして、迂闊に声をかけることさえままならない。

 

 互いを気遣い合い、自らが抱える想いを胸に宿し、鬼人族の父娘は、これから待ち受ける曲者揃いの集会へと臨まなくてはならない。

 

 だからだろうか、幾分か平素とは異なった、甘えた様な態度で、龍鬼の逞しい首へと両腕を回すユキ。

 

「お父様‥」

 

 龍鬼が、この武闘会での勝利を納めた事により、これからどの様な生活が待ち受けているのか判然としない不安からの焦燥を露わにするユキは、それを誤魔化すため、口付けを強請る。

 

「何も案ずることはない」

 

 そんな美しい純白の少女の、多分に庇護欲を誘う姿を前にして、優しく言葉をかけた龍鬼は、彼女の薄桃色の唇へと口付けた。

 

 親愛を込めただけの触れ合わせるだけの口付けだが、それだけで先程まで身を支配していた緊張は、解きほぐれていき、ユキの焦燥感は跡形もなく消え去った。

 

 今、胸の内に満ち溢れるのは、身体全体を包み込む様に感じられる、心底からの安堵感だけであった。

 

 先程までは僅かばかりに平静を崩して思えたユキの様子が、平素通りの凛とした立ち振る舞いを取り戻してことを確認した龍鬼は、暗殺者の少女を肩に担ぐ。

 

 ユキと暗殺者の少女二人同時に持ち上げている形となる龍鬼であるが、その重心には一切のブレがなく、体勢も乱れることはない。

 

 幾ら幼き少女とはいえ、二人を軽々と持ち上げて見せる強靭なる肉体は、鬼人族最強の名を冠するに値する、誇るべき所以だろうか。

 

 その仲睦まじい父娘の光景を、好々爺然とした愛想の良い笑顔で眺めているケレスは、意外にも饒舌になることはなく、一言も口を開かない。

 

 ただただ微笑ましい光景を愛でるかの様に、優しげに細められた瞳で、鬼人族の親子を見つめている。

 

 ようやくケレスの後に続いて一歩踏み出した龍鬼は、殊勝にもケレスに向かい頭を下げて見せた。

 

 幾ら無骨な彼とて、ここまで明確なケレスの心遣いが伝わらない筈もなく、無言ながらも、しっかりと道理を果たす器量は持ち合わせていた。

 

「では、参りましょうか」

 

 待たされていたのにも関わらず、なんらその事を意に解すことがないケレスは、寧ろ上機嫌な微笑さえ見せて、ユキ達を先導したのであった。

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