『イン○レオン鬼畜、強攻めアンソロジー逃がさない』サンプル: 暗殺遊山 作:ムラムリ
原作:ポケットモンスター
タグ:R-18 オリ主 残酷な描写 インテレオン ゲッコウガ R-18G
1.
この頃にしては晴れやかな空。
一匹の青い鳥が魚を咥えながらカロスの空を飛んでいた。
ウッウと呼ばれるそのポケモンは海を挟んだガラルを主な生息地としているが、翼を持つ彼らにとっては国境も、半端な距離の海峡もその自由な翼を遮る障壁にはなり得ない。
また、最近こそはその二国は不穏な情勢を見せているが、ウッウというポケモンは余程の馬鹿であるという認識は広く知られているものでもあり、今日も彼らは地上の喧騒など意識もせずに、その二国の空を自由気ままに飛んでいた。
街中の上空から、ウッウは煉瓦造りの巨大な建物へと飛んでいた。建物の両脇から飛び出す金属の平行線はどこまでも続いており、中はとても開放的だ。
その建物の中から丁度、黒光りする巨大な金属の塊が飛び出して来た。出発を告げる管楽器と蒸気の音をうるさく響かせながら、また黒い煙を上空へと数多に撒き散らしながら、その平行線の上をどこまでも進んでいく。
その建物は、カロスの中でも有数の大きさを誇る駅の一つだった。
国外にも通じる路線のある駅の構内には、入るにはパスポートが必要だ。だが、翼を持つポケモンにとっては何の関係もなく、ウッウは路線から駅構内へと入っていく。
中ではヤヤコマやヤミカラスといったような、蒸気機関車を使う客の手に持つ食べ物を狙うようなポケモンも数多く居る。だがウッウはそんなものには興味がないと言わんばかりに一瞥すると、辺りをしきりに見回す。
そして、一際長い列車が停まっている乗降場にある売店の上に着地した。
その路線は幾つもの国を横断する、旅行でも貿易でも強く重要な路線だ。
情勢が不安な昨今においても、それを利用する人やポケモンの賑わいは常日頃から変わらないどころか、それ以上の賑わいを見せている。
着地してからというものの何かを探すように辺りを見回していたウッウは、一匹のポケモンを見つけると、それを追うようにじっと見つめ始めた。
人とポケモンが雑多に行き交わす乗降場、そこへとパスポートを提示して入って来たポケモン。
二本足で立つそのポケモンは細身でありながら人と比べてもかなり高めの身長を誇っており、この喧騒の中でも強く目立っていた。
そのポケモンは、先に構内に入っていた旅の道連れであろう別のポケモンと合流すると、喧騒の中をするりするりと通り抜けていく。
そのポケモンの頭に向けて、ウッウは口に咥え続けていたサシカマスを弾丸のように吐き出し、飛ばした。
出国審査を通り抜けたインテレオンは、鞄を椅子代わりにして、端の方で座っていたゲッコウガに手を振りながら歩いて行った。
「おまたせ」
「大丈夫だったか?」
「ええ。色々聞かれたけど、貴方と一緒に旅行するっていう事を伝えたら通してくれたわ」
インテレオン。エージェントポケモンとも呼ばれるその種族は、この国同士の緊張の走る時勢においては別国に居るだけで肩身を狭くさせられるポケモンだ。
また、ゲッコウガもしのびポケモンの名の通り、カロスにおけるインテレオンと同じような種族である。
そんな、国同士の情報戦の先陣を切るような二匹が親しげに会話している様子は、否が応でも目を引くもので。
また、それは二匹も理解していた。
「じゃあ行こうか」
「ええ」
それぞれ鞄を片手に持つ。けれどその親しげな様子とは裏腹に、空いた片手で手を繋ぐという事まではしていなかった。
単純にこの喧騒の中で手を繋いで歩くというのは難しいからか、それとも意外と複雑な関係なのか。
「それにしても、今日は日差しが鋭いわね」
毎日のように列車から立ち昇る黒煙にも関わらず、日光を遮らずに通してくるその天井には、今も尚、曲芸が得意なポケモン達が掃除に取り組んでいた。
そうして素通りしてくる日光を直接目に入れないように、片手で視界を遮りながら空を見上げるインテレオン。
とても絵になるようなそんなポーズに連られて複数人が空を見上げた瞬間、インテレオンの手が何かを絡め取るように動いたのに気付いたのは、ゲッコウガを含めてほんの僅かだった。
そして、それがインテレオンの身のどこかに隠されたのも。
「……そうだな」
「お腹減っちゃったから、ちょっと売店に寄るね」
「ああ、先に行ってる」
ゲッコウガはインテレオンが何をしたのか、気付きながらも特に何も言わず。
またゲッコウガの手にも、いつの間にか水苦無で胸を突かれたデデンネが握り締められていた。
2.
スパイの監視員であるメタモンはある日、末端のスパイであるインテレオンの様子をレントラーに化けて透視していた。
彼女は、部屋に分解して隠している通信機の要の部品を暫し逡巡した上で壊していた。
秘密警察の上司であるヤドキングは、監視員であるゲッコウガが最近臨んでいた、自らの特性を隠れ特性に変える実験への成功の喜びから、どこか妙な雰囲気を感じた。
彼の未来をマフォクシーやゴチルゼルに念じて貰うと、少なくともこの国でない、どこか遠い場所で敵国のスパイ疑惑が掛かっているポケモンと暮らしている姿が見えた。
捕えようとした時には、ゲッコウガは既に出国の為に駅の構内にまで着いていた。
ウッウはまずエージェントになどなれないポケモンではあるが、賢い個体は簡単な命令ならこなせる位の脳味噌を持っている。
例えば、その場所に行ってターゲットにうのミサイルを喰らわせろ、といった具合に。
また捕らえられたとしても芸を覚えさせる方が工夫すれば、尋問されたとしても大元にまで辿り着ける事はなく、スパイ活動に関しては都合良く使い捨てに出来る存在だった。
デデンネは電気を使ったインフラが少しずつ普及し始めてからと言うものの、都市区画においては爆発的に数を増やしているポケモンだ。
どれだけ対策しようとも、どれだけ駆除しようとも、電柱などに齧り付いて電気を吸い取っている姿は毎日のように見られる光景である。
しかしそれは、それ相応の賢さを持ちながらどこに居ても不自然な存在ではないという事で、ゲッコウガなどよりも遥かに自国の警備に向いた存在であった。
「……一線、超えちゃったな」
サンドイッチを買って、それを脇に挟みながらインテレオンは言った。
頭を貫く勢いで飛んできたサシカマスは、しかしその手に掴まれている。とても細身の体ではあるが、強烈な水鉄砲を放つその指は想像以上に強靭である。また、遥か遠くの敵をも容易く撃ち抜く目も合わされば、目に見える速さで飛んでくるサシカマスなど、掴むのに苦労はなかった。
今は気絶している、そのサシカマス。長時間丸呑みにされっぱなしでも、きちんと生きたままなのは、もしかしたら何かを伝える役割でも持っていたのかもしれない。
けれどそれが何であれ、インテレオンはもう聞く気もなかった。
巧妙にその身に隠していたサシカマスを、サンドイッチの紙袋の中へと滑り込ませる。
下顎を指で掴んだ時サシカマスが少し動いた気がしたが、気にせず下顎からその身を引き裂き、内臓を紙袋の下へと落とした。
皮も綺麗に剥いでから、検閲も容易くすり抜けた、隠し持っていたナイフで三枚に卸す。
ポッポー!!!!
乗車するのとは別の路線からは丁度列車が出発しようとしており、ウッウがそれに合わせて飛び去ろうとしていた。
ガタン、ゴトン、シュッ、シュッ!
インテレオンは視界の隅にそれを入れながら、自然な足取りで人とポケモンの雑踏をすり抜けて、ゴミ箱の前まで歩いていく。
そして、ウッウがその路線上に来た時。
紙袋の中から、一筋の水鉄砲が誰にも気づかれないまま発射された。
音も雑踏に紛れてしまう程度の威力。だが的確に翼に当てられたそれは。
「ギャッ!?」
ウッウの飛行を乱すには十分だった。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ぺきゃっ。
どしゃっ、べぢゅぼりゅべぎゃっ。
幼子の悲鳴が遠くから聞こえてくる。
ゴミ箱には既に赤く染まった紙袋が捨てられている。
列車へと向かうインテレオンの手には、売店のメニューにはない新鮮な魚の切り身が挟まれているサンドイッチが二つ、優しく握られていた。
列車に乗り、席に向かうと、ゲッコウガが黒い糸のようなものを摘んで眺めていた。
「お疲れ。買えたか?」
「ええ。これ、貴方の分」
「お、どうもな」
ゲッコウガはサンドイッチを受け取りながら、その黒い糸のような……先端が特徴的なデデンネの尻尾を窓からぽいと投げ捨てた。インテレオンに見せつけるように。
またゲッコウガは、受け取ったサンドイッチに新鮮な魚の切り身が挟まれている事に気付いた。それがそこの売店で売られているメニューの中には無い事も。
無言で食べる。
……言葉には出さなかったが、この駅での行動はそれぞれが優秀なスパイである事を、優秀な秘密警察である事を示すようなものだった。
疑いながらも、それぞれがそうであるという確証を持てないままに付き合い続けていた。
数年もの間、双方は確定的な証拠を出さないまま、踏み込んだ行動も起こさないまま、だらだらと付き合い続けていた。
その中で、互いの内心ばかりが理解されていった。優秀で目立つ種族であるが故に木端な役割しか与えられなかった燻りを。国同士の関係が悪化していく中、愛国心よりも使命よりも、ただただこの関係を続けていきたいという欲望を。
溜まり続けた感情はつい先日に弾けた。
そして遠くの国へと共に逃亡したいという計画は瞬く間に実行に移された。
だが、その計画はどうにもそれぞれの上に感知されてしまっているようだった。
けれどもインテレオンはサンドイッチを平らげ、水を少々飲むと言ったのだった。
「これから、楽しみね!」
ゲッコウガもまだ三分の一程残っているサンドイッチを手にしながら、答えた。
「そうだな。胸が躍ってるよ」
程なくして、列車は動き始めた。
その巨大な鉄の身は黒煙を吐き出し、がたがたと揺らし始める。
車窓が街中を映し始める頃、ゲッコウガも食事を終える。
そして少し名残惜しげにしながらも、カーテンを閉めた。