※この作品はR-18です。

お風呂上がりの妹   作:霧里

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狸寝入りの妹

うつらうつらとしていた

 

もう少しだけと、兄がお風呂から上がるのを待っていたけれど、それも辛くなってきた

だんだんと重くなる瞼。船を漕ぎ始めた頭は、そのまま眠気に負けてソファの上に引きずられてしまう

 

ねむ…

 

口に出せたかどうか。その頃には頭の半分は眠りに着いていて、廊下の向こうから、のっし、のっしと、聞こえてくる足音を夢見心地で聞いていた

 

「しゅり、おい…しゅり。寝るなら部屋に…」

 

兄の声に名前を呼ばれてる

大きな影が私を覆い隠し、風呂上がりの熱気を近くに感じると、肩を小さく揺すられた

 

「むにゃ…」

 

起きようかと、一瞬身体を起こしかけて、やっぱやめと、力を抜いた

悪戯をしてみたくなる。このまま狸寝入りをする私を、兄がどうしてくれるのかと甘えてみたい

それに、私の知らない所で兄が何をするのかを、盗み見したくなっていた

 

「ったく」

 

困ったような声の後、私の身体がゆっくりと持ち上がっていく

膝を抱えられ、背中を支えられる。いわゆるお姫様抱っこな体勢に、内心の私は、キャーキャーとはしゃいでしまっていた

 

丸まった身体が、厚い胸板に押し付けられると、ドクン、ドクンと、力強い心臓の音が伝わっても来る

 

守られてる

 

その心音は、私を強く安心させてくれた

 

兄の心音に紛れて、私の鼓動も強くなる。

とく、とく…と、比べてしまえば、あまりにか細くて消え入りそうなものだった

くすぐったい自分の心音を抱えるように、私は丸くした身体を兄の胸板に擦り寄せる

無意識か、反射的にか。幼い頃の手癖は、そのまま兄の服を捕まえて、きゅっと、小さな手で握っていた

 

 

階段を上がってしまえばもうすぐに、自分の部屋の前だった

短い至福は終わりを告げて、再び兄の声に呼びかけられる

 

「しゅり、ほら部屋着いたぞ…ダメか」

 

兄の胸の内はまるでゆりかごの様だった。

すっかり味を占めてしまった私は、そんな程度で起きて上げる訳もなく、相変わらず可愛い寝息を返事に変える

 

ここで狸がバレてしまったら、同じ手は使えなくなる

だとすれば、私は何をおいても居眠りを続ける必要があったのだ

 

「物置かよ…」

 

私の部屋に入った兄の第一声に、内心頭を抱えさせられた

 

なにも、片付けては、居なかった

 

いや今更だ、私がズボラなのは兄にだって分かっている

付け焼き刃に取繕立ってしょうがないのは確かなのだが、少なくもない乙女心が過去の私を責め立てていた

 

なにより失敗したのは、壁に張りっぱなしのイケメンのポスターだった

 

「こいつでも、いちおう興味はあるのか」

 

その独り言だけで、兄が何に目を向けているか、見なくても分かってしまう

何か言われまいかと聞き耳を立てて、けれど、何も言われないまま、ゆっくりと兄の身体が離れていった

 

慣れ親しんだベッドの感触。掴みっぱなしだった私の指が、兄の太い指にはがされていく

私を部屋に送り届けて、すぐに出ていくのかと思いきや、そうはならなかった

 

なんとなく、瞼の向こう側で視線を感じていた

兄のデカい存在感はそこに立ち尽くしたまま、私を見つめている様な気がする

 

「こいつに彼氏が出来たら…か」

 

ふいに聞こえた独り言に、心臓がざわつき出す

お風呂に向かう兄の背中に投げた問いかけが、どうして今になって出てくるのか

「少し寂しい」と、言った兄の言葉に、どうしても都合の良い期待が重なってしまう

 

兄も私の事が好きだったり

 

ポロッとでもそんな言葉を零さないもんかと、閉じた視界の向こう側に意識を集中して、兄の呼吸の音さえも逃さないように耳を傾けた

 

「こう…だったかな? ふぅ…変身っ」

 

しかしだ、兄は変身してしまった

 

あんまりな期待外れに、流石の恋心も鳴りを潜めると、呆れ返った私は、ゆっくりと閉じていた瞼を開いていった

 

「なにやってんの? おにぃ…」

 

問いかけとともに、私の三白眼が見つけたものは、格好をつける巨漢の男

昔によく見た、ヒーロー番組の決めポーズを決める兄の姿だった

 

「あ…。いや、おはよう、しゅり」

「あーなんだっけ? おにぃ、好きだったよね、それ」

「いや、好きだったのは俺じゃなくて、お前のほうだったろ?」

「そだっけ?」

「あの、ラスボスの。いっつも応援してじゃないか」

「まあ、赤いのよりは好きだったかな。おにぃが良く真似しててさ」

 

強くて、優しくて、そりゃヒーロー番組なんだから、皆そうなんだけど、それは敵役にも言えたことだった。部下のためなら身体を張って、5対1だなんて卑怯な状態でも負けず劣らず、ボロボロになりながらも前進する姿に、尊さの様な感情を覚えていたんだと思う

 

ああ、こんな人に私も守られたいなぁって、流石にそんなお姫様みたいな憧れはまだなかったけれど、私の異性の趣味は、ここからだったんだろう

爽やかイケメンがもてはやされる風潮から外れて、巨漢の大男を好むくらいには、今でも心の片隅に残っている背中だった

 

「私が好きだったから真似してたの?」

「まあ、な。お前がカッコいいていうのも分かるし。まあ、そのなんだ、焼きもちっていうか、意地っていうか、そういうもあったんだと思う」

「なんだよ、おにぃ。私のこと好きすぎかよ」

 

その瞬間、兄の雰囲気が変わっていた

 

「妹は可愛いもんだろ」って、いつもみたいに冗談で流されるもんだとばっかりに思っていたのに、妙に納得したというか、憑き物が落ちたような顔で私を見つめてくる

 

「なぁ、しゅりは俺のこと好きか?」

「そりゃ、大事なおにぃですもの」

 

私としてはいつもの調子で返したつもりだった

あくまでも、家族としてとの言い訳。おにぃに振られないように、予防線を盾にして恋心を後ろに隠す

 

「前に紹介したアイツよりも?」

「前って、あの人? そんなん、知らない男なんかいきなりつれてこられても困るだけだって」

「だったら、あのポスターの」

「いやいやいやいや。ラスボスの次はポスターに妬くの? どんだけ私のこと」

「好きだ」

「はぁぁっ?」

 

瞬間、顔が熱くなった

間近に迫った兄の顔をまともに見ていられず顔を背けてしまう

 

「いやな、俺からお前とったら何も残らないぞ? 身体鍛えたのだって、人に優しくしてたのだって、あのラスボスに負けたくないからだって」

「いや、だからってさ…」

「しゅり。俺よりいい男、他にいたか?」

「うぐ…」

 

言われて言葉に詰まる。あのラスボスに憧れて、そんな私の気を引くために鍛え続けた兄。向けられた好意も、捧げられた努力も、見事私の理想通りで、それ以上の男なんて見かける訳がなかった

 

「居なかったけど。私よりいい女は他にいるでしょ? 部活の先輩とか美人でさ、後輩の子とかも、なんか可愛い感じだったじゃん」

 

自分で言ってて悲しくなるが事実は事実

 

確かに兄は私のために頑張ってくれたけど

私が兄のために重ねた努力なんて、兄が流した汗水の一滴にも満たないはずだった

 

「分かる」と、頷いた兄は正しい。だけどもそれは、今まで妹の立場に甘んじていた自分を責めるみたいに聞こえてくる

美人な先輩、可愛い後輩。全くの他人である彼女たちはきっと、私なんかよりも兄に惚れられるために頑張ってみたりしていたはずだ

 

「誰かと付き合おうかとも考えたし、実際、デートくらいはしたしな」

「へ、へぇ…よかったじゃん。じゃあ…やっぱり私じゃなくたって」

「けどな、そいつらのために俺は頑張れなかったんだよ。デートの途中でも、お前の事が気にかかってしょうがない。腹は空かせてないかだとか、宿題はちゃんとやってるのかとか、友達付き合いはどうなってんだとかな…」

「おかんかっ」

「望むならそうもあろう」

「いらんいらんっ! こんなデカいのいるかいっ!?」

 

逃げ出そうとした私の上に、兄の身体が覆いかぶさってくる

天井が落ちてきたみたいな大きな身体。逃げ道を塞がれ、肩を掴まえられると、身動きすらもままならず、見つめてくる兄の視線を見ないようにするだけで精一杯だった

 

「なになに、ほんとどうしちゃったの? 今日のおにぃ、変だって…。一旦おちつこ? ね?」

 

兄の肩に、胸板に手を置いて、けれど、私の力じゃビクともしない

厚い胸板、太い腕、そこに添えられた自分の小さな手

兄と妹ではなくて、男と女と、そこに感じる異性の違いに、ドキッとさせられてしまう

 

「それにほらっ。あのラスボスだって、最後には負けちゃったわけだし、いつまでも真似してたら、おにぃも大変なことに…」

「負けないさ。お前のためなら、なんだって出来るぞ」

「そういうんじゃなくって…っ。あっ…ちょっ、おにぃ、だめ、って…ばぁ、ん、ちゅっ」

 

その瞬間、唇を奪われてしまっていた

 

驚きで大きく目が開き、恋心が心臓を逸らせた

 

大きな兄の体。重なっている唇でさえ一回りも小さい私の唇は、軽くキスをされただけで、口を完全に塞がれてしまう

 

「ぷはっ! もうっ、告ってすぐキスとか、エロ本読み過ぎだろっ。私、うんともすんとも言ってないじゃんかっ!?」

「いや、すまん…つい、な。お前には、好かれているものだと思っていたし」

「なっ…。わ、私が? おにぃを?」

「ちがったか?」

 

違わない。むしろ大正解だ

隠していたつもりはなかったけど、バレてるとも思ってはおらず、急な図星に思考が固まってしまった

 

「お前、俺のこと鈍感だと思ってただろう?」

「ソンナコトナイデスヨ?」

「あれだ「大きくなったらお兄ちゃんと結婚する」とか、そういうのだと思って受け流してたんだが。一向に兄離れしてくれんし」

「…鬱陶しかった?」

「いや、嬉しかったが。困ってはいたな」

「困るって…私、なにかした?」

「はぁ…わざとじゃないって言うなら、お前はもう少し自覚したほうが良いな」

「自覚って…なに?」

「可愛んだよ、お前は…」

「かわっ、あ、やっ、ちょっとっ、んっ…ちゅっ、ぁ、はぁ…んんぅ」

 

大きな口に、私の唇が吸い込まれたみたい

キスをされながら、肩を抑えていた無骨な手の感触が、だんだんと滑り降りてくる

勢いで滑っただけ。ただそれだけのことと、肩をすくめて、身体を縮めて、すぐにも兄の手が離れていくものだと思い込もうとして

 

「んっ、あっ、やだ。おにぃ…どこ、さわって」

「おっぱいだな」

「おっ…」

 

それは期待どおりに、Tシャツの上から私の胸の膨らみを包み込んでいた

 

「そんな無防備な格好でうろつかれて、気にしない振りをする方の身にもなってくれ」

「だって、兄妹じゃん…そんな、気にする?」

「気になる。だから、こうしている」

「…変態じゃん、そんなの」

「男だからなぁ、俺も。聖人にはなれんよ」

 

これは夢なのだろうか?

 

現実の私はまだソファの上で眠っていて、夢見心地に兄との情事に思いを馳せながら、ぼんやりと自分を慰めている

だったら早く起きないと。次の瞬間には兄に肩を揺すられて、恥ずかしい所を見られてしまうかもしれないのに、私の身体は動いてはくれなかった

 

覆いかぶさっている兄の体。胸に触れる無骨な手の平の感触

乱暴をされている訳じゃない、無理矢理に抑えこまれている風でもない

単純な体格差。男と女の、毎日鍛え続けてた人と、引きこもり気味のもやしっ子との歴然とした体格差が、抵抗なんて言葉の意味をなくしていた

 

「嫌だって…泣いたら、どうする?」

「それは…悪い。俺が、悪かった。ビンタでもなんでもしてくれて構わない」

 

胸を包んでいた手の平が驚いたように反応し、しかし、そのまま離れていくかと思えば、胸の形を変えられてしまう

 

「おいこら、しっかりさわってんじゃん」

「いや、すまん。ついというか、惜しいというか…」

「もう、しょうがないんだから」

 

身体から力を抜く。大して代わり映えのしない抵抗を止めると、兄の体重が一気に寄りかかり、身体がベッドに沈み込んでいく

 

「…いいよ」

「見てもか?」

「うん」

「触るぞ…」

「だから良いって…」

「痛くは、ないか?」

「…ぅぅぅっ」

 

失敗したな

 

照れ隠しも相まって、つい口にしてしまった言葉は、兄に余計な気を使わせすぎた。なにかしようとする度に、立てられるお伺いは言葉責めのようでいて、それにいちいち頷かされるのは、新手の羞恥プレイみたいだった

 

「だぁっ、もうっ! いちいち言わせんな恥ずかしいの、私はっ。おにぃはさぁっ、もうさぁっ、やることやればいいんだよっ、イヤとか無いからっ」

「それは、なんだ? エロ本みたいにってやつか?」

「分かってんじゃんっ! 読んだことくらいあるでしょっ。もう勢いでやっちゃいえよっ…。じゃないと…私だって、どうしたらいいか、わらんし…だから」

 

だめだ、自分で何言ってるのかが分からない。感情がこんがらがってくる

 

おにぃに好きだと言われたのが嬉しくて、キスをされて驚きはしたけれど、求められるのは幸せだった。けど、それは同時に兄を異性として意識するという事に他ならない

 

肌を重ねる、身体を許す。情事への期待と、初めての不安と、エロ本のなかでしか知らない行為への憧れはだけ大きかったせいか、慎重すぎる兄の態度が不満でもあった

 

「…悪かった。いや、違うか…それじゃあ、抱くぞ、しゅり」

「え、あ、うん…いいよ、おにぃの好きにして…」

 

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