※この作品はR-18です。

僕と死神と王の証   作:はつのとうこ

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二十四話

 

 

 

 

 

 

 

 暑い。

 暑すぎる。

 外に出たのはいいものの、とにかく暑い。アスファルトはスニーカーを履いているにもかかわらず足の裏を焼いてくる。

 照りつける日差しはまさに熱線の名がふさわしく、汗が吹き出て止まらない。

 加えて無風。地球がまるで涼むなと言わんばかりに暑さを押し付けてくる。

 

「あっつ……」

 

 夏だといえば仕方がないのだが、それにしてもこの暑さはどうだ。直刃はちょっぴり泣きそうになった。

 この暑さの中、わざわざ制服姿の直刃はもう死にかけに近かった。さらに言なら、直刃の体は暑さに対してかなりの弱体化していて、これも大いに関係があるだろう。

 

「クーラーに頼りすぎだね……」

 

 夏休み中、外出するのはこれでまだ二度目である。すっかりセックス三昧で外にまったく出なくなった直刃は、体も空調のガンガン効いた室内に慣れてしまって環境の変化に適応できないのだ。

 人間は、急な温度変化に対応できない。身を以て今知った直刃だった。

 考えてもみれば、去年までの直刃なら、クーラーなんて考えられないような暮らしだった。どんなに暑くても我慢。我慢出来なくても我慢。どうしても無理そうなら近所のスーパーに入って涼をとるといった具合だった。そういえばそもそもクーラー自体を設置していなかった気がする。

 半年前だってそうだった。暑さは無かったが、あのマンションに住み始めて間もない頃も、直刃は電気代の節約に躍起になっていた。せめて金の掛からない子供でいようと、とにかく電気を使わない生活を心がけた。ついでに節水も。

 お世話になるのだし、当然だと思っていた。その気持ちは今でも変わらない。世間一般で言えば、直刃は所謂ヒモであることは明確なので、それなりに必死だった。

 ところが、それが夏になると事情が変わった。死神達は直刃のためにと空調を効かせ続けた。

 遠慮しようとした直刃だが、その前にふと考えてしまったのだ。

 彼女達だって、暑いことは暑いはずだ。そして電気代を払っているのは彼女達。ならば、直刃が空調を止める権利はあるのだろうか。

 寒いようなら止めてもいいとは言われているが、そうならないように紫羽が精密に温度調節している。直刃が空調に不満を訴えることはまず無かった。

 こうなると何も言えない。

 結局、空調については彼女達に任せるようにした。普通の同居人として置き換えてみると、この暑い中働いてきた人達にその金でクーラー使うんじゃねぇと文句を言おうとしているわけだ。自分は何もしていないのに。ちょっと筋が通っていないだろう。

 そんなこんなで直刃は空調について触れなくなった。まさかこんな弊害が出るとは思いもしなかったが。

 

「すいません、直刃様……」

 

 申し訳なさそうな雷歌の声が聞こえた。

 せめてこれくらいはと歩きながら直刃の腕を抱き、制服越しに高校生らしからぬ巨乳を押し付けてくる。

 この暑さの中でもコレかと自分でも呆れそうになるが、それだけではないのだ。というよりも、今雷歌に離れられたら死ぬ自信があった。

 

「氷室みたいに直刃様の周りだけ涼しく出来ればいいんですけど……」

 

「ううん、とっても助かってるよ雷歌。ありがとう」

 

「は、はいっ……!」

 

 直刃は雷歌に顔を寄せ、頬ずりをした。自分でしておいてなんだが、なんとも歩きにくい。身長差はあまりないのでそこが救いではあるのだが、それを抜きにしてもやっぱ。歩きにくい。

 しかしこの暑さの中、ひんやりと冷たいままの彼女の肌は、どうしても離れ難かった。

 何故なら、今彼女の体温はとてつもなく低いからだ。

 

「ふぅ、暑いなぁ……」

 

「何処かで休みましょうか?」

 

「うーん、そうしたいけど……あんまり遅くなっちゃうとこのみに怒られそうだからやめておこうか」

 

「そんな事より直刃様の体調の方がよっぽど大事です!」

 

「あはは、そんなに心配しないで」

 

 語気の荒い雷歌の頭を撫でると、ふにゃぁと気の抜けた声が彼女から漏れた。

 こうしていると死神などとは到底思えない。普通の少女である。

 しかしその実、この天音雷歌という少女――いや、天音雷歌という死神は、死神達の中でも一目を置かれる存在なのである。

 少し前にアリアから聞いた話だ。なんでも雷歌は、どうやらちょっとばかし魔術の天才らしい。

 死神としての能力は、氷室が氷を操り、朱雀が炎を操るように、雷歌もまた雷を操る。後の二人はいまだに能力が不明なのだが、一先ず置いておこう。

 雷歌の話だ。彼女はその雷以外にも、魔術を巧みに行使して様々な事象を引き出せるらしい。

 例えとして思い出されるのが、雷歌と初めてであったライブ会場だろう。あの人数の記憶をいっぺんに書き換えるという所業をしたあの事件は、直刃の記憶に新しい。

 他にも様々な魔術を編み出せるらしいが、ともかく雷歌はそうした技術に長けているらしい。魔術自体は魔力を持つ者なら誰でも行使出来るらしいが、その雷歌は恐ろしく魔術のレベルが高いということだ。

 話を元に戻そう。つまり今現在はその魔術によって体の温度を一定に保っているらしい。ひんやりボディである。

 氷室ならば、苦もなく直刃の周りだけ温度を下げることが出来るらしいが、雷歌がそれをやると、いっその事雪を降らせるといった異常気象まで同時に引き起こされるらしい。

 時間をかければ「氷室と同程度にまで!」と意気込んでいた雷歌だが、それは直刃が断った。そこまでする事でもないだろうと思ったのだ。

 それにこうやってくっついてた方が、直刃としても楽しかった。

 二人肩を並べて歩く。ちょっとしたデート気分だ。

 とは言っても、デートではないのだが。

 

「おっはろー、二人ともー」

 

「おはよう、このみ」

 

「おはよう、笹谷さん」

 

 しばらく歩くと、集合地点にしておいた場所には茶髪のギャルがいた。言わずもがな直刃の幼なじみ、笹谷このみである。彼女も直刃や雷歌を同じく制服姿だ。

 今日は文化祭の準備を行う為に、学校へと向かっている。夏休み明けに文化祭があるため、直刃達が通う学校ではこうして夏休みの最中に準備をしなければならないのだ。

 面倒くさいとは思うが、家にいてもセックスするだけだ、たまには良いだろう。

 

「そんじゃま、行きますかね」

 

「あれ、友華は?」

 

「あのおデブはこの暑さでグロッキーみたい。多分連れてっても役に立たないよ、アレは」

 

「……割りといつもの事だね」

 

「そーそー。それに雷歌ちゃんだってアイツ苦手でしょ?」

 

「苦手っていうか、興味ないっていうか」

 

「……相変わらず直刃以外にはとことん辛辣ね」

 

「だって直刃様以外どうでもいいし♡」

 

「やめてよ、雷歌。恥ずかしい」

 

「……この暑さの中そんなノロケ見せられたら蒸発しちゃうからやめて」

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 校門を抜けると、さっそく下駄箱の付近で堂々とペンキを撒き散らす集団が居た。

 何を塗っているのかは見ても皆目検討もつかなかったが、校内には彼等を除いても相当数の生徒がいる雰囲気だ。

 つまりはよくある学校行事である。

 直刃達はすっかり文化祭気分になった。

 

「そういえば直刃、私達が何やるか知ってる?」

 

 わざわざ家から持ってきた上履きに履き替えていると、このみは何か含みのある言い方で聞いてきた。

 

「確かシンデレラの劇やるんでしょ? ここの学校は一年生は強制的に劇をやらされるとかなんとかって雄花先生が言ってて、クラスの皆のやる気が即座になくなったのを覚えてるよ」

 

 すっかり「天音雷歌こっそり復帰わくわくシークレットライブ」を出し物にするつもりだったクラスが、あの一言で文化祭へのモチベーションをゼロにしてしまった。

 直刃としては何でも良かったのだが、クラスの九割を占める天音雷歌ファンはそうは思わなかったらしい。あの時の悲壮感といったら凄まじいものだった。青菜に塩を掛けたようにクラスメイトの元気がしぼんでいく様は記憶に新しい。

 ――そういえば、クラスのみんなは何故やる気を出したんだろう。夏休みに集まろうなんてやる気は彼らには無かった筈だ。

 となると、つまり単純にクラスの皆がやる気になったか、それともやる気にさせる何かがあったか、だ。

 なんだか嫌な予感がした。

 

「ふふん、ただのシンデレラじゃないわ。聞いて驚け男女逆転よ!」

 

 精一杯のドヤ顔をするこのみに、直刃はため息をついた。

 外れて欲しい嫌な予感は、見事に的中した様だ。

 

「……あの、オチが読めたから言うけど、僕はドレスなんて着ないよ?」

 

「既に決定事項よ、灰被り王子」

 

 うめき声とともに、直刃は雷歌の胸に倒れ込んだ。現実では無いと言ってくれと、直刃は雷歌の体を強く抱きしめる。

 

「あっ♡ ……って喜んでる場合じゃなかった。す、直刃様、お気を確かに、この私がそんなことはさせません!!!」

 

「まぁまぁ雷歌ちゃん、貴方だって愛する人のドレス姿は見てみたいでしょう?」

 

「直刃様が嫌というならば、それはこの世にはあってはならない事よ」

 

「なん……だと……?」

 

 「こいつラブコメのお決まりを軽々飛び越えやがった」と、愕然とするこのみではあったが、どうやら断られるパターンも想定していたらしくすぐに次の手を打ってきた。

 

「でも男女逆転とはいえ、劇中では結婚式を挙げられるんだから! ロマンチックだとは思わない!!?」

 

「そ、そうなの? い、いやでも直刃様は嫌がっている訳だし……」

 

 先ほどの言葉はいずこに消えたのか。雷歌はこのみの言葉に早くもグラつき始めた。

 これ以上会話を続けさせるとマズイ方向に行きそうだと感じたので、雷歌を連れて早く教室に向かうことにした。

 慌ててこのみが付いてくる。

 

「ねぇ、よく考えて雷歌ちゃん。高校を卒業した後に結婚するのと、高校の文化祭で結婚するのは、かなり違うわ」

 

「そうね。でもどうせだったらちゃんとした教会で正式にやりたいわ」

 

「雷歌、それには僕も同意す――」

 

「雷歌ちゃん、あなたはもっと頭の良い人だと思っていたわ……」

 

「ど、どういう意味よ?」

 

「雷歌、気にしなくて良いよ。どうせ、ロクでもない――」

 

「いい? よく考えなさい。つまりあなた達は、離婚とかいうバッドイベントをスルーして、人生で愛する人と二回も結婚出来るのよ? ……それって素敵やん?」

 

「そ、その発想はなかったわ……!」

 

「雷歌、君はもっと頭が良い人かと思ったよ……」

 

 こんなアホな理論で説得されるのか。

 一瞬で丸め込まれた雷歌に、直刃は軽く絶望する。

 女装だなんて、そんなのゴメンだ。しかも不特定多数に見られるなんて、地獄に等しい。

 雷歌達と同じ様に人間の記憶を弄れたとしても、女装だけは遠慮したい。というか絶対に嫌だった。

 意地でも頷かないと心に誓う。僕は絶対女装なんてしない。

 

「よう、シンデレラ王子! 今日も雷歌ちゃんとアツアツだな!! まるで今日の気温みたいにな!!!」

 

 追い討ちをかける様なうざったいクラスメイトのヤケクソな歓迎に、直刃はもう一度うめき声を上げた。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 結局、直刃がドレスを着るかどうかはひとまず保留になった。

 直刃を説得するには時間が掛かると踏んだこのみが、今日はひとまず劇に使う小道具を作ろうとクラスメイトに提案したためだ。

 未だ自分がドレスを着る選択肢が残っている現状に戦々恐々とする直刃だったが、このみに上手くやり込められるまで時間が出来たことは確かだった。

 この件に関してはじっくりと戦略を練るべきだ。友華は言わずもがなこのみの味方をするだろうし、そうなってくると如何にクラスメイトの同情を得るかが鍵になるだろう。

 

「直刃様、指を切らないように気をつけてくださいね♪」

 

「あはは……き、気をつけるよ……」

 

 とは言っても、こんな状況では同情もクソもなさそうだが。

 直刃の背中にはぽよんと柔らかなふくらみを押し付けられ、右肩の上には元国民的アイドルの愛くるしい顔が乗っていた。更に時折タイミングを見計らって雷歌が耳を舐めたり頬に軽くキスをしていて、付近にピンクな雰囲気を撒き散らす。

 その度にクラス中から非難の目が集まってしまう。

 直刃は心の中でため息を吐いた。

 周りを見渡すと男子全員からは憤怒の形相で睨まれ、このみ率いるギャル軍団も白い視線を送ってきている。先ほどまで多少あった女装に対しての同情的な視線ももはや消え失せ、敵意の海のど真ん中に直刃は居た。

 原因は言うまでもなく、雷歌だった。直刃は引き攣った笑みを浮かべた。

 こうなったのには、訳があった。今日何をするのかという目的が決まったところで、このみを筆頭とするやる気あふれるギャル達がテキパキとクラスに指示を出していた。皆与えられた役割をしっかりとしていて、序盤は和やかなムードで進んでいた。

 暫くすると事件が起こった。雷歌がやるはずだった作業を、一人の男子生徒が下心のままに「手伝います!」と言ってその全てを終わらせてしまったのだ。

 当然女性陣はこれに大いに憤慨し、罰としてその男子にはこのくそ暑い中近所のホームセンターまで行って大量の段ボールを運んでくるという、所謂死刑執行がなされた。

 事はそれで終わりかと思われたが、第二、第三の死刑囚が発生することを恐れたこのみがとある策を実行した。雷歌の隔離だ。

 雷歌のお供には僕が付けられた。

 僕たちは付き合っている。というかこのみが勝手に言いふらした。そして、彼氏の近くでならそうそう手出しは出来ないだろうというのもまた、このみの考えだった。

 言葉にはしていないが、このみは少しぐらいならイチャついてもいいからこれ以上問題を起こさないようにして頂戴と思って二人を隔離したのだろう。

 それが、マズかった。

 教室の中は熱い。空調設備が設置されていない訳ではないのだが、かといって生徒が勝手に使うのはご法度だった。

 学校まで直刃を暑さから守ってきたのは雷歌だ。わざわざ体温を下げてまで過保護に主を守ってきた雷歌が、まさかここで直刃から離れる訳がなかった。

 主が暑くないように、尚且つ主の大好きな女体を気の向くまま味わってもらうために。そんなことを考えたのだろう。

 結果、彼女は座り込んでいる直刃の後ろから抱き着くと、そのまま頬ずりをしながら直刃の段ボールを切り取る作業を手伝い始めてしまったのだ。

 

「暑くないですか、直刃様?」

 

「う、うん、ありがとうね……」

 

 雷歌は「お安い御用です♡」と微笑み、ぎゅむと抱き着く力を強めてきた。

 当たり前のように下着をつけていない、制服一枚越しの圧倒的な柔らかさの双乳。それがただ直刃の体温を保つためだけに使われていた。

 

「ちっ……」

 

「リア充爆ぜろ……」

 

「うぅ、俺も可愛い女の子が欲しい……あいつら爆発してその後俺の彼女にならんかな……」

 

「おい待て爆発するなら雷歌ちゃんは助けるぞ」

 

「確かに。爆発するのは一人でいいな」

 

 男子からは一斉に殺意を向けられた。

 まぁ彼らだってこの気温の中わざわざ学校に手伝いに来ている奴らだ。その時点で根がいい人間達なのはすぐ分かるし、実際冷や汗をかくような目線は無かった。

 それでも、こうして四面楚歌の中で作業するのは凄まじくストレスだし、味方が背後のおっぱいだけというのは心細かった。

 

「閃いたぞ、お前の願望を二つとも叶える方法が」

 

「何? 俺はどうすればいい?」

 

「あのショタにドレスを着させてお前と付き合えば万事解決だ」

 

「つまんねー冗談だな」

 

「そうか? お前ロリコンだろ?」

 

「……笹谷ー、話がある! 柊って彼女は居るけど彼氏は居ないよな!?」

 

 あんな会話をしているのは暑さのせいなのか、それとも自分のせいなのか。

 どっちにしてもこれ以上クラスの和を乱す訳にもいかないだろう。雷歌とは離れた方がいいな。

 

「痛ッ!?」

 

 そう考えた矢先だった。カッターの刃先が運悪く指先に突き刺さってしまった。

 人差し指の腹から、ぷっくりと血の塊が膨れ上がる――かと思いきや血はそのまま床にポタポタ垂れた。痛覚が警報を鳴らす。

 痛い。結構深く切った感覚がする。その証拠に血がいっぱいだ。慌てて制服に付かないように遠ざける。

 

「ああ!? す、直刃様!!!?」

 

 だらしない笑みで直刃の乳首を触るのに夢中になっていた雷歌が遅れてそれに気づき、慌てふためく。この世の終わりみたいな顔をしながら、どうにかしなければと呼吸を乱れさせる。

 可哀想に相当焦っている。大丈夫だと声をかけてあげたいが、ちょっと笑い事ではすまない痛みだった。

 

「っつぅ……!!!」

 

 傷口が熱を持ち、ジンジンと人差し指が響く。

 このレベルだと、舐めとけば治るなどと言っていられないかもしれない。保健室に行くべきだろうか。

 どうせ絆創膏かガーゼで終わる話なのだろうが、素人目にも心配になる出血量だった。

 人生初の保健室か。今まで無病息災で生きてきた直刃にしてみれば、結構新鮮な経験だった。雷歌みたいに焦っていないのが不思議なくらいだった。

 いや焦ってはいるが、それ以上にどうすればいいのか分からなくて困惑の方が大きかった。

 

「ら、雷歌、とりあえず保健室に――」

 

「ぅあ、あ、あんし、安心してください直刃様!! 今私が治して差し上げます!!!!」

 

「え、ちょっ……!?」

 

 言うが早いか雷歌は直刃の人差し指をパクリと食べてしまった。

 

「え、は……えっ?」

 

「はむ、ちゅる、ちゅ……れる、れぉ……」

 

 直刃の目の前で半信半疑の治療行為が開始された。直刃の人差し指が、雷歌の口の中でくちゅくちゅと揉みくちゃにされる。

 一体何が彼女の口内で行われているのか。いやなんとなく感触で分かるし、チラチラと唇の間から舌でレロレロされてるのが見える。

 舐められてる。そう、傷口を人差し指ごと舐められているのだ。

 っていうかコイツ僕の指舐めたいだけなんじゃないか。

 そう思ってしまうのも仕方なかった。

 

「れる、れるぅ……はぅ、ちゅぅ……♡♡♡」

 

 だってどう見ても発情してらっしゃるのだ。

 目がハートマークだし、息もすごく荒い。これぞいつものセックスしてる雷歌って感じだ。

 治すとかなんとか言っていたが、眉唾物もいいとこだ。さっきだってこっそり乳首を触られていた。あの触り方は、早く抱いて欲しいという意思表示だ。

 治して差し上げますなんて嘘なんだろう。後でたっぷり愛してあげるから、今はよしてくれ。

 そう言おうかと思ったが、痛みを感じなくなっているのも事実だった。

 なんだろうこれ。

 好きな人に舐められてると痛くなくなる心理効果でも働いているのだろうか。

 

「ら、雷歌、これ、何してるの……?」

 

「んふっ、ちゅむっ、れる……♡♡」

 

「ごめん、一回離してもらえる?」

 

「ふぁい……♡」

 

 レロォと銀の糸を引いて、直刃の人差し指が口の中から救出された。雷歌の顔は既に雌の顔だった。股間に血が集まってくる。

 邪念を払うように首を振り、睨みつけるようにして自分の人差し指を眺める。そしてやはりと自分の予感が正しいことを理解した。

 既に血は止まっていて、しかもなんと傷口まで塞がっていた。痛みすらそもそも無かったかのように感じる。

 

「な、何したの……?」

 

「少し魔術を。まだ痛みますか?」

 

 ブンブンと首を振る。

 この僅か数秒で完治したのだ。それがはっきりと分かる。本当に自分は怪我をしたのかと思うほど綺麗に治っていた。

 

「良かったです。本来ならお怪我をなさる前に止められた筈なのに……」

 

「え、そうなの?」

 

「すいません、直刃様の乳首感じやすいから愉しくなっちゃって……」

 

 アホの子だなぁ。

 そんな事を思いながら、確かにと直刃は納得した。僕の乳首は紫羽さんに開発され尽くしていてとても敏感に――ではなく、怪我をする前に止められたという話だ。

 死神の身体能力の高さは知っているし、雷歌はそんな死神であり現状氷室に注ぐ第二位の過保護だ。故に反射神経にモノを言わせて直刃の指が怪我をする前に止めることも出来ただろう。

 そうしなかったのは単純に直刃の乳首に夢中になっていたからか、それともワザと見逃したか、だ。後者ではザ・過保護の雷歌ではまずありえないだろうという推測が成り立つし、となれば気を抜いた自分の自業自得という事か。

 

「いや、おかげで痛くなくなったよ。ありがとう、雷歌」

 

「そ、そんな! 私の不注意でこんなことになってしまったんですから、そのようなお言葉はもったいないです!」

 

「え、いや、不注意はどっちかっていうと僕の方かなー……?」

 

 

 

「……君たち、何をさっきから乳繰り合ってるかねー?」

 

 

 

 そんな事をしていると、僕達は揃ってこのみに追い出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

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