「改めて聞きますが、わたくし達の王になっていただけますか?」
「まぁ、待ちなって氷室。多分それ顔面にべっとり精子つけて言う事じゃないよ?」
「し、失礼しましたっ!」
慌ててベッドのシーツで顔を拭おうとする氷室。朱雀は彼女の両手を掴んで拘束すると、直刃に苦笑を見せた。
「すいませんマスター。とりあえずこれから大事な話するんで、一度シャワー浴びてきてもいいでしょうか?」
「あ、うん、大丈夫。それより、二人共歩ける?」
「あー……頑張ってみます」
そう言うと朱雀は、ベッドから這い出て、ズルズルと体を引きずりながら寝室を出た。氷室も立ち上がって後を追おうとするが、下半身がまるで言う事をきかず、その場に崩れ落ちた。
「て、手伝った方がいいよね?」
「い、いえ、マスターのお手をお借りする訳にはいきませんわ」
彼女にもプライドがあるのだろう。結局氷室はへっぴり腰のまま、何とか寝室を脱出した。
「……やり過ぎちゃったかな」
二人が居なくなった途端、直刃は罪悪感で押しつぶされそうになった。
あの後直刃は、都合十回以上も射精をくりかえした。気絶した氷室と朱雀に対して、容赦なくペニスを突き立てたのだ。
無論二人は意識が無い間に行われている膣の無断使用に何度か飛び起きた。だが、圧倒的な快楽の前に太刀打ち出来るハズもなく、二人の意識はすぐさま闇に落ちたのだ。
流石に初めてとはいえ盛りすぎた。直刃は二人に嫌われてしまったのではないかと、落ち込んだ。
「……とりあえず、着替えるか」
いつまでも裸でいる必要はない。直刃はのそのそとベッドから立ち上がると、気だるそうな動きで制服を手に取る。
氷室や朱雀と違い、特に腰に痛みを感じない直刃は、難なく制服に着替えるとさてどうしようかと頭を悩ませた。
今更になって、氷室が『重症患者』である事を思い出したのだ。
死神やら王がどうとか説明していた気もするが、イマイチ記憶があやふやだ。少なくとも、あっさりと信じられる様な話ではない事は記憶している。
肉体関係まで築いてしまった以上、そうした設定物のプレイだとして彼女に付き合うことも可能だが、はたしてそれは正解なのだろうか。色々と経験の少ない直刃には疑問に思った。
そうして解決策を探っていると、ベッドの傍に備え付けてあった電話が鳴った。受話器を取るべきか取らないべきか迷っていると、電話が自動でスピーカーとなる。
『マスター、準備が済みましたのでリビングにお越しください。階段を降りてもらえばお分かりになるかと』
内線、という奴だろうか。同じ家の中から電話が掛かってくるという、庶民からしてみれば異常な現象に直刃はカルチャーショックを受けた。
「これがセレブか……」
乾いた笑みを浮かべながら恐る恐る寝室から足を踏み出すと、直刃は目を剥いた。
廊下には、数え切れない程の扉が並んでいる。今まで直刃がいた寝室はベッドしか置かれていないとはいえそれなりの広さだった。それがこんなにも並んでいるとなると、一体この家はどれほどの面積なのだろうか。全く想像出来なかった。
反対方向を向くと、手前に階段があり、吹き抜けのようになっている。奥の壁は全面ガラス張りで、外の景色が一望できるようだ。
「あ、ここビルなのか」
どうやらかなり高いビルの中にいるらしい。窓から見えた光景は、それなりの高度から町中を見下ろすようになっていたからだ。もっとも、たとえそれが分かったところで拉致された事実は変わらないので不安は尽きないが。
今となっては別段無理やり連れてこられたことに憤りは感じていなかった。ただ、彼女達の言葉を思い出すに恐らく薬か何かで眠らされたのだろう。わざわざ母親の名前を出してまで逆レイプの用意をしてくるとなると、大企業の社長もかなりの闇を抱えていると見える。
もちろん、逆レイプはどちらかというと直刃が逆転した形になったため、前述したように怒りを感じる事はない。エッチなお姉さんが二人がかりで筆下ろししてくれたという事実だけをみれば、直刃にとってもプラスでしかなかった。
「階段って、これだよね……?」
手前にある階段に近づくと、広いリビングが待ち構えていた。
中心にはゴージャスなソファとオシャレなテーブル。それと笑えるほど大画面のテレビ。
絵に描いたようなお金持ちの家だった。
リビングの壁に沿うようにして造られた階段を降りながら、直刃は感嘆の声をあげる。
まるでハリウッド映画の富豪が住むようなマンションに、思わず圧倒される。
「お待ちしておりました」
「あ、うん……じゃなかった、はい」
「くす……マスター、先ほどのように喋っていただいて構いませんわ」
「えと……うん、分かった」
階段を降りきると、二人の美女が待機していた。初対面の時と同じスーツ姿だ。
とりあえず座ろうかと直刃が提案すると、二人は頷いた。ソファまで近づき、テーブルを挟んで二人と一人で腰掛ける。
「さて、マスター。改めてご説明いたします、よろしいですね?」
「その前にさ、二人共体は大丈夫? 今もひょこひょこ歩いてたけど」
「ご安心を。わたくし達死神は、身体的な強度も並の人間とは比べ物になりませんので」
「あ、まだその設定続くんだ」
直刃は半笑いで朱雀に視線を送る。まだ数えるほどしか会話をしたことが無いが、どうにも彼女の方がまだしっかりしているように感じたからだ。というかしっかりも何もこんな事を言い出す方がまともではないからだろう。
しかし、朱雀の方も真剣な表情そのもの。とても直刃の腕の中でよがり狂っていた女性とは思えない。
「よければお見せしましょうか?」
「な、何を?……まさか、死神だって証拠を?」
「はい」
不意に氷室が宙に手をかざすと、その手のひらからパキパキと音を立てて透明感のある丸い球体が出現する。りんご程の大きさだ。
同一のタイミングで、氷室の髪が青白く発光する。あまりに幻想的な光景に、直刃は息を呑んだ。
彼女の手にある球体はうねうねと形を変え、最終的には立体的なダイヤモンドの形となった。氷室に勧められるがままそれを手に取ってみると、氷のように冷たい。しかも少し触れただけでもかなりの硬度を誇っている事が分かる。
手の込んだマジックだ。
そう言って一蹴する事は簡単だが、直刃にはこれが手品の類たぐいには到底見えなかった。
念のため朱雀にも見せてもらうことにする。
彼女は立ち上がると、その長い髪を夕焼けのように輝かせて、氷室と同じく手のひらに球体を作り上げる。
むわりと部屋の温度が上がった。
氷室と違うところは、その色だ。球体はまるで燃え盛る火炎のようにメラメラとした赤色をしていた。
球体は意識を持つように体を変形させ、やがて羽が生えた。続けてファンタジーに出てくる不死鳥の如く鳥の形を形成すると、リビングの空中をクルクルと旋回する。
「これはマスターに触らせる訳にはいかないから♪」
朱雀は優雅に舞う火の鳥を呼び寄せると、茶目っ気たっぷりにパクリとそれを口の中に仕舞ってしまう。
「…………すごい」
直刃は言葉を失っていた。現代の技術であるCGなどでは決して表現しえない迫力が、そこにはあった。
氷室の言っていた言葉は冗談などでは無いのだ。直刃は緊張からか、無意識のうちに佇まいを直した。大企業の闇などと、馬鹿な事を考えていたものだ。
もっとスケールの大きいことに、直刃は巻き込まれてしまったのだ。
「そ、それで、僕は氷室さん達の『王』? なんだよね?」
「はい。ですがそれについては拒否することも出来ます。極端な言い方をすれば、我々に一生を捧げて頂くことになりますので」
「一生を……」
なんてこったと言わんばかりの声で、直刃は呟いた。こんなの断れる訳がないじゃないかと、彼は思ったのだ。彼女達を抱く前ならともかく、あのような気持ちのいい体験をした今では彼女達と離れるなんてまっぴらごめんだった。
それに、予想だが王の仕事というのは彼女達を抱く事なのだろう。直刃は朱雀と交わる前の会話をうっすらと思い出していた。ならば尚更、断るはずもない。
だが、彼女達も直刃の心が読める力を持っているのではないのだろう。彼が暗い声を出したので、断ると思ったらしい。
「い、一生と言いましても、わたくし達がマスターを拘束する事は基本的にはありませんわっ」
「そうそう! ただ私達の魔力が足りなくなったらドピュッと一発してくれればいいだけだからっ」
「もちろんわたくしたちで誠心誠意マスターにお仕えさせていただきますっ! 欲しい物なども何でもお申し付けください!! わたくしたちはこれでもかなりの資産を所持していますので!」
「王国を作りたいとか言われたら流石にキビしいけど、お金で出来ることは大体してあげられるから!!」
理由は不明だが、二人の焦りっぷりは凄まじい。この分だと一日考えさせてくれなんて言われた日には、焦燥しきって死んでしまうのではないだろうか。
答えは早くした方がいいみたいだね。
そう思った直刃は、二人を落ち着かせる意味も込めて、決心を伝えた。
「うん、分かった。僕でいいのか分からないけど、頑張ってみるよ」
「ほ、本当ですかっ」
「よ、よかった……」
「あはは……うん、よろしくね。二人とも」
ーーーーーーー
雰囲気は一変し、氷室と朱雀は安堵のため息を吐いていた。直刃はそんな二人の様子を見て疑問を抱く。
「その、二人とも凄い慌ててたけど、拒否されるとマズイ事でもあるの? まさか、僕を……その、殺さなきゃいけないとか?」
「い、いえ、決してそのような事はありませんわ。拒否された場合も、記憶を消すだけでお命まで奪ったりいたしません」
そうは言うものの、何だか歯切れの悪い氷室だ。直刃は更に説明を求めた。
「でも、拒否出来るってことは、今までにも何人かいたんじゃないの? 良く分からないけど、長いんでしょ、これ」
「はい、有史以前から我々死神と人間は手を組んでいました。ただ、中には今までの生活に満足しておられる方も居ましたので、拒否というシステムが追加されたのでございます」
それはそうだろう。手を組むにもかかわらず一方的に条件を押し付けられ、挙句今までの生活を捨てろと言われて、良い顔をする人間はいないだろう。
直刃の場合は、手元には捨てるものなど何一つ無かった。それ故の即決であり、並の人間にはああして即座に首を縦に振ることは中々出来ない筈だ。
「じゃあなんで慌ててたの? 二人にペナルティでもあるの?」
追撃するように尋ねると、氷室は頬を染めて俯いた。それを見かねてか、隣にいる朱雀が助け舟を出すように口を開く。
「そのー、さ……マスターが良かったんだよ」
「えっと……僕にマスターになって欲しかったってこと?」
ぽりぽりと恥ずかしそうに頬をかいて、朱雀は頷いた。
「初めてだったよ、あんな肉便器みたいに犯されるの♡」
「に、肉便器って……」
はにかみながら、朱雀は彼女の容姿に似つかわしくない単語を使う。確かにその通りかもしれないが、もう少し他の言い方は無かったのだろうか。
「氷室が言った通り、私達は昔から色んなマスターに使えてたんだけどさ。何ていうか、皆あっさりだったんだよね……」
「あっさり……?」
「そう、小指みたいな大きさでさ、先端からピロって涎みたいに精液を出すんだよ。それが男だと思ってたからさ」
直刃はどう返答していいのか分からず、曖昧に「なるほど」と返した。正直、そんな話を聞かされるとは欠片も考えていなかった。
「えーと、つまり……あんな風に犯されるのは、嫌だったって事?」
とんでもないと、朱雀と氷室は揃って首を振った。
「ああ、これが男と女なんだ、って思ったよね♡」
「はい、何千年も生きてきて、初めて本当の男女の交わりを理解した気がします♡」
「そうそう、女の幸せってこれなのかなぁとか、何度も気絶しながら考えてたよ」
「え? 二人ともあんな事しちゃったのに、なんとも思ってないの」
「まさか」
「なんならもう一回戦?」とスーツを脱ごうとする朱雀を、直刃は慌てて引き止める。これ以上すれば、本当に彼女達が壊れてしまうかもしれない。
でも、二人とも気持ちよかったんだ。
直刃は思わずニヤけた。セックスをした相手に気持ちよかったと言われるのが、こんなに嬉しい事だとは思わなかった。
「……良かった、嫌われちゃったかと思ったよ」
「あんなスゴイ事されて、嫌うわけ無いじゃないですか。むしろ逆にメロメロですよ♪」
「そっか。それならいいんだ」
話が一段落したからなのか、はたまた彼女達にいまだ嫌われていない事実を確認できた安心からか、直刃はなんの脈絡もなく空腹を感じた。
巨大な窓ガラスから外を見ると、暗闇の中で煌々としたビル群の光が目に入った。もう夜も遅いのだろう。
「今、何時かな?」
「今は……夜の十一時過ぎですわ」
氷室の目線を追うと、壁に掛けてある時計は確かに午後十一時を指している。学校から下校したのは確か四時くらいだったので、二人と出会ってから七時間も経っていることに直刃は驚いた。
それだけ彼女達の肉体に夢中だったのだろうが、細々としたロスタイムを抜いても、単純計算で五、六時間は飲まず食わずで腰を振っていた事になる。直刃は自分の事ながら呆れてしまった。
「まぁいいや……もうちょっと色々細かい話はあるんだろうけど、まずはご飯食べてからにしない?」
「分かりました、マスター」
「了解です、マスター」
直後、氷室の口から「あ」という声が漏れた。
「申し訳ありませんマスター。出来ることならわたくしたちの手料理でも召し上がって頂こうと思っていましたが、素材の確保を失念していました」
「そ、素材の確保って……」
大袈裟な表現に苦笑いを浮かべる。それともわざと「買い出し」という表現を使わなかったのだろうか。もしや食材はすべて業者に注文するようなセレブなのか。
彼女達とこれから過ごしていく際に一番の弊害になるのは、まず間違いなく価値観の違いだろう。直刃はなんとなくそう思った。
「食材一つもないの?」
「いえ、あるにはあるのですが、なにぶんこのビルは買い取ったばかりでして……」
氷室が視線を送ると、朱雀はぎこちない歩きでリビングの奥に向かった。そこにはカウンターらしきものがある。調理器具のような物も見受けられることから、このリビングにはキッチンも完備されているらしい。
「んー、お肉位しかありませんねぇ……」
カウンターの奥から朱雀の声が聞こえる。冷蔵庫の中を探っているのだろう。
しばらくして朱雀はカウンターテーブルにドンと、高価そうなワインボトルを置いた。
「お酒で空腹を紛らわそう!」
「朱雀、マスターは未成年よ」
「じょ、冗談だってば……」
たははと笑う朱雀に、ぐうと可愛い腹の音が応える。
「ご、ごめんなさい」
直刃は己の頬が赤くなるのを感じ取った。二人が微笑ましいような視線を送ってくる。
「と、とりあえず、冷蔵庫見せてくれる!?」
羞恥心をかき消すように、直刃はカウンターの裏に回り込み冷蔵庫に顔を突っ込んだ。見ると確かに入っているのは肉厚な牛肉だけだ。
ほかには何か無いのかと冷蔵庫の付近を見渡すと、豊富な調味料が視界に入った。先ほど買い取ったばかりのビルだと言っていたが、こんな所ばかり揃っているあたりどうなっているんだと思ってしまう。
とはいえ調味料があるならば、それはそれで問題解決だ。
「うーん、まぁこれだけあれば何とかなるかな?」
直刃は手早く調理器具を並べると、早くも料理に取り掛かった。
「朱雀さん、パンとかない?」
「一応食パンがあったはず、です……そう、そこです」
「ありがと──うわ、なにこれ。高そうな食パン。見たことないラベルだ。使っちゃっていいかな?」
「は、はい、もちろん」
朱雀は呆気にとられていた。代わりに氷室が、直刃に声を掛ける。
「あ、あの、マスター。つかぬことお聞きしますが……一体何を?」
「何って、料理だよ?」
「で、でしたら、朱雀にやらせますので、マスターは」
「いや、朱雀さんも腰ガクガクじゃん。そんな人に料理させるはずないでしょ。さ、二人とも座ってて」
「あ、ちょ、マスターってば」
「お、お待ちくださいっ」
あれよあれよと二人は直刃に押され、ソファに座らされる。彼はそれを見て満足げに頷くと、一人キッチンに戻り調理を続行した。
手慣れた様子の直刃に、氷室と朱雀は揃って唖然とした。
「なんか、今回のマスターは色々凄いね……」
「え、ええ……こんな事は初めてだわ……」
二人は惚れ惚れするような直刃の手付きに見とれ、幾ばくかの時間を彼を眺めて過ごした。
ーーーーーーー
「さ、食べて食べて……って二人の食材だけど」
「い、いただきますわ……」
「い、いただきます……」
テーブルの上に置かれたのは、サンドイッチだった。
こんがりときつね色に焼かれたパンに挟まれているのは、冷蔵庫にあった黒毛和牛だ。これもまたいい焼き加減で、香ばしい匂いが二人の食欲を大いに刺激する。
「どう? 美味しい?」
「……はい、マスター。とっても美味しいです」
「す、凄いよマスター……料理、上手なんだね」
「そう、良かったぁ……って、まぁサンドイッチだけどね、ただの。それに、素材も高級なのだったし」
美人の二人が美味しそうに咀嚼する様子を見て、直刃も自分の分を口に運ぶ。
信じられないくらい柔らかくて、肉汁たっぷりの牛肉は直刃が目を見開くくらい美味しかった。
「うわ、美味しい……こんなの幾らでも食べれちゃうね……んー、でもちょっと塩っけ強かったかな? あんな高そうなお肉使ったことないから加減がよく分からなかったけど、今度から気を付けないと」
「こ、今度から、ですか?」
「うん? うん、今度から」
「あ、あのね、マスター。さっきは思わずご厚意に甘えちゃったけど、食事はこれから私が用意するよ?」
これでも料理は得意なのだと朱雀は急いで忠告したが、直刃はそれに首を振った。
「だって、二人とも、悪魔……だったっけ? それと戦うんでしょ? 僕は特殊能力なんて持ってないし、二人を支えられるとしたらこれくらいだよ?」
「マスターのお力を借りるときは、魔力補充の時だけですわ。基本的にわたくし達のことは召使いとでも思っていただければ」
「そうだよ。マスターはどっしりと構えて、私達をこき使っていいんだよ?」
「んー、なんかそれやだなぁ……」
あまり良い顔しない直刃に、氷室は首を傾げた。歴代の主はこんな事考えもしなかったのだ。ただアレが欲しいコレが欲しいと注文し、彼女達はせっせと貢ぐだけ。アレをやれコレをやれと命令され、彼女達はせっせと働く。
それが王と死神の関係性だ。
しかしそれは当然だと氷室は思っていた。悪魔と死神の戦いに、なんの力もないただの人間が間接的とはいえ巻き込まれるのだ。それくらい求めるのは、自然だと。
直刃は違った。積極的に彼女達の助けになろうと努力しようとしている。マスターとしてはあまりに違和感のあるその姿に、氷室は動揺を隠せなかった。
「あれ、朱雀さん? どうしたの? やっぱり、美味しくなかった?」
「ううん、美味しい。美味しいよ、マスター」
朱雀はそんな直刃の様子を見て、なんとなくだが理解してしまった。恐らく彼は、まだ幼い頃から環境に強制的に大人になる事を求め続けられたのだろう。
ましてや彼には両親がいない。必然的に、年相応以上に精神的に成長するしか無かったに違いない。
故に、彼は甘えられない。他人の厚意に素直に乗る事を良しと出来ないのだ。
それはつまり、純情そうな外見とは裏腹に、彼は自分に囁かれるすべての言葉を最初から疑っていることを意味する。心から信じられる人間など、きっと母親ぐらいしか居なかったのだろう。
その母親すらも失った今、彼は自分にだけメリットがある話など、疑うなという方が無理を言っているのかもしれない。
「辛かったよね……」
直刃の家で言ったその言葉は、白状するなら演技でしか無かった。直刃を手早く回収する為の、何の心も篭っていない言葉だった。だか、今回は違う。この短時間で心身ともに惚れた愛する少年の、その少年の必死の背伸びを間近に見て、朱雀は自然とそう言葉を漏らしたのだ。
「もっと甘えていいんだよ……」
食事を中断して、朱雀は対面に座っている直刃の隣に座る。
「え、なに? なんですか?」
いきなり頭を撫でられて、直刃はポカンとした。しかも何やらしっとりとしたご様子の朱雀。マスターとはいえ彼女の心情など一切読み取れない直刃は、混乱が増すばかりだった。