王殺し。
歴代の死神の王を数多く殺害したためにそう呼ばれている、最悪の死神。
性格も非常に残忍で、仮に死神同士であろうとも気に食わなければ殺してしまうほどだそうだ。
「うーん……聞けば聞くほど怖い人だね」
「そう、ですね。出来る事ならもう会いたくないです」
「付き合わせてごめんね?」
「い、いえっ、直刃様を一人で行かせる訳には行きませんよ! 来るなって言われてもついて行きますからね!!」
「あはは、ありがとう」
雷歌の手によって難なく部屋を脱出した二人は、繁華街を肩を並べて歩いていた。
初代死神には抜け出したことはとうにバレているだろう。正直、後が怖いが何もしないでじっと待つ選択肢も怖かった。
やらないで後悔するより、やって後悔したかった。
それに、上手くいけば後悔なんてする必要もなくなるはずだ。直刃はそう考えていた。
まずは王殺しを探す。見つけて仲間にする。初代死神に見つかる前に。
人混みの中を抜けながら、まだ残暑が続く都心を進む。平日ではあるがどうやら祝日のようで人気は多かった。
「それで直刃様、どこにいるのか検討はついてるんですか?」
「うん、まぁね」
すっかりやる気の雷歌だが、少し前まで危険だからやめてくれとゴネていた。絶対やめたほうがいいだの、他の死神を二人で探そうだのと、必死に騒いでいた。
それでは意味がないと直刃は思っていた。アリアを味方につけたという実績を、初代死神はそれなりに評価してくれているようにも感じたし、ならば問題児を従えたほうが試験にも良い影響があるのでは、と睨んでいる。
雷歌は尚も反対していたが、時間が無いので頷くまで膣内出し地獄を続けるとあっさり堕ちた。ほとんど二十四時間ぶっ続けで無遠慮にどっぷどっぷと種付けされた彼女は、今も歩き方が変だ。
それ以降は吹っ切れたのかやけに協力的だ。ご褒美におちんちんの一つでも舐めさせてあげたいが、今は時間が惜しいし、何より王殺しのために温存しておきたかった。
アリアのように本当の処女なのかもしれないが、なんとなく王殺しは違う気がした。
そもそも雷歌から聞いた王殺しの伝説の中には、ある時代の死神の王を逆レイプしながら、その場で魔力は余さず使って死神十人近くを殺めたというものもあった。
生半可な実力では無いだろうし、またとんでもなくエッチそうな女の人だと思った。
ムクっと股間が膨らんだ。最近、いよいよもって自分も変態になりつつあるのでは、と不安だ。
「あれ、消えた……? どこいったんだろう?」
そんな事を考えていると、目印にしていたモノが消えた。
思わず立ち止まる直刃に、雷歌は首をかしげる。
「直刃様、さっきから何を?」
「うん、紫羽さんから教わった魔力探知って奴。アリアを仲間にした時も、これを使って見つけたんだ」
「魔力探知……ですか?」
いまいちピンと来ていない雷歌に直刃もどう説明したものかと苦笑していた。
「それって字面通りの意味ですか?」
「多分。確か、紫羽さんが言うには、はぐれの死神は王の証と仮契約の状態だから、その繋がりを辿っていく……らしい」
「日本語でお願いします」
「あはは、実は僕もよくわかんないんだ。ただなんとなく、ここら辺にいそうかもっていう感覚を追いかけてるだけだよ」
「なるほど。言っちゃうと勘ですね?」
「ぶっちゃけちゃうとそうだね。でもこれって死神の王しか出来ないらしいし、結構神経使うんだよね」
感覚を選択し続けるのはとても難しい。直刃はそう感じていた。
特に、王殺しやアリアのようなタイプの死神は難しい。人間は無意識のうちに危険を避けたいと思うが、その危険な道をあえて選び続けなければならないのだ。
それが自分で死地に向かうような錯覚を覚えて余計に疲れる。
「でも、それが消えちゃったんだよね」
「そうなんですか?」
そう、確かに消えたはずだった。ぷつんと繋がりが断ち切られるのがはっきりと知覚できた。
そのはずだったのだが――
「うん――それで今話してるうちに気がついたんだけど、また出たんだよね。さっきよりも近いところに」
「……あからさまですね。誘われてます?」
「え、そうかな。死神には王の場所は探知できないって聞いたんだけど」
「私ももちろん魔力探知? っていうのは無理ですけど、結構やりようはあるんですよね」
そう言うと雷歌は直刃の肩に触れた。ピリリといつもの魔術の感覚が襲う。
「これで直刃様が地球の反対側にいても、座標までばっちり分かりますよ」
「へぇー、そんなのあるんだ……でも今のって触らなきゃ無理だよね?」
「そうですけど、相手はあの王殺しですし、なにかしら王に対して対策しててもおかしくないかと」
なるほど。何千年も王と対立している訳だし、そういう事も考えられるか。
直刃は良くやったぞと雷歌の頭を背伸びして撫でる。ポッと頰を赤くする雷歌にムラムラしてくるが、我慢して王殺しの方向へと向かう。
「……行くんですか?」
「うん。最悪エッチ出来る方向に話を持っていけば問題ないと思う。雷歌、例の魔術よろしくね」
「あのおちんちんがおっきくなる奴ですか? それは分かりましたけど、でも相手はあの王殺しですよ。そう簡単に股を開くかどうか……」
「でも、はぐれだし魔力は少ないよね? 欲求不満なら簡単だと思うけど」
五人も快楽堕ちさせて案外天狗気味の直刃に、雷歌は「ちょっと考えが甘いですね」と釘をさす。
「良いですか直刃様。私達五人はあらかじめショタコン気味で、尚且つ直刃様の勃起ちんちん見せられて即ノックアウトでした。でも王殺しもそうって可能性は結構低いですよ」
「ズボン脱いだら、よだれ垂らしてフェラしてくれたりしない?」
「どんだけ死神の事バカにしてるんですか」
「でも雷歌だったら舐めてくれるでしょ」
「それは当然……って、私は今は関係ありません!」
そもそも脱ぐ前に殺されたらどうするんですかとぐうの音も出ない正論に、直刃は唸るしかなかった。
そんな直刃の表情を見て、徐々に雷歌の顔が青ざめる。
「す、直刃様、もしかして何も作戦無かったり……?」
「うん、あんまり。とりあえずエッチすれば何とかなりそうじゃない?」
「な……」
絶句する雷歌に直刃はけらけらと笑い声をあげた。
「大丈夫、いざとなれば逃げよう? その時は任せたよ」
「それは……はい、任せてください。でも、大丈夫ですか……?」
「正直、僕の配下達が全員ワンパターンで堕ちちゃったしね、情報がないんだよ。時間もないし、臨機応変に行こう」
「わ、ワンパターン……」
がっくりと肩を落とす雷歌に再び笑い声をあげる直刃。
こうして無駄口でも叩いていないと直刃は倒れこんでしまいそうだった。
雷歌はまだ気がついてないようだが、明らかに見られている。
街のどこかから、舐め尽くすような視線がつきまとう。
試験の前に死んじゃうかもなぁ、とそんなことを考えつつ、直刃は前に進んだ。
今更後ろに退くことは出来ない、進むしか無かった。
「……でも雷歌の言う通りノープランはマズそうだ」
「ですです! やっぱりここは一旦退きましょう!!」
「いや、退いてどうするの。初代死神に捕まるだけだよ」
「直刃様が死ぬ危険性がある方が危険です!」
「それはどっちも変わらないよ」
直刃は目を細めると、近くの路地裏の先を睨みつける。
遅れて雷歌も何かに気がついたのか、同じ方向を見た。
「行くよ、雷歌」
「え、ちょっと待ってくださいよ!」
話は済んだと前に進む直刃を、面食らった顔で雷歌が追いかけた。
ーーーーーーー
初対面の相手と出会う際、どうしても顔色を伺ってしまうのは日本人として生きてきた以上仕方のないことなのかもしれない。相手がどんな性格なのか、共通の話題はどんなものがあるのか、友好関係はどういった人達が多いのか。人によって程度の差はあれど、何かしら相手の情報を集めようとするはずだ。
しかし、どうしても波長が合わない人というものはかならずいる。意見が全く合わず、会話してすらいないのに互いに相手の存在をうっとおしく思う存在。
そんな人間とは極力かかわらない様にするのが直刃だ。母を失ってから一人になった。大人たちの顔色ばかり窺っていた直刃は、言動や表情の雰囲気からそういった相手を見抜くのは得意だった。
「んっ、遅かったですね……♡」
「うっ……!!」
おぞましい光景と、醜悪な臭いに思わず顔をしかめる。目の前に存在した彼女は、どう表現すれば適切なのかわからないほど邪悪に満ち満ちていた。
路地裏にて仁王立ちしていたのは漆黒の美女だった。ドロリと粘性すら感じさせる黒さの長髪が伸びていて、衣服の色合いも加わっているからかまるでその髪で全身を覆っているように見えた。
そしてその衣服といえば、手足やへそを晒しているのは勿論のこと、水着のスリングショットに酷似したヒモは乳房や女性器すら少しでも布がズレれば覗いてしまうほど際どいモノだ。
極め付けはその美貌。カラーコンタクトでもつけているのかと言うほど天然ではありえない発色の紫の眼に、絶世の美女と評しても名前負けしない整った顔形。
死神だ。これらの情報だけでも断言出来る。
「……え」
直刃がそう確信した瞬間、おぞましい雄雌の臭いに顔を歪めた。
直刃の寝床に常に充満しているような、濃厚なセックスの香り。それだけならまだしもここには鼻をつまみたくなるほどの血の臭いもする。
そんな臭いがこの路地裏で混じることがあるだろうか。
「こんな格好で失礼しますわ、今代の黄金様♡ 少しお食事の最中でしたの……」
そう言うと彼女はびくんびくんと身体を痙攣させた。
ぽたっと、遅れて彼女の股ぐらから白い液体が垂れる。
目線が下に向かい、直刃は息を飲んだ。
「こ、この人は……?」
「言ったでしょう? お食事中だと……♡」
彼女の足元には全裸の男の体があった。その股間には明らかに情事を物語る白い精液が付着していた。
だが何より目に飛び込むのは、その男の左胸だった。まるでえぐり取られたかのようにぽっかりと穴が空き、トマトジュースでもこぼしたのかと思うほど真っ赤に染まっている。
「はむ、んっ……ふふっ、これは気にしなくて結構ですよ、黄金様♡」
どくどくとわずかに脈打つ赤い肉塊を貪りながら、女はその男の身体を真後ろに蹴り飛ばした。
男性の身体を軽々蹴り飛ばすその脚力は、紛れもなく死神である。
どちゃっと肉の音がなった。奥を見るとどうやら同じような肉塊が何体も山になって重なっているようだ。
「――――」
――やばい人。
第一印象はその一言だった。
今まで五人も死神を配下にしてきた直刃だ、彼女達だって化け物じみた力こそあるものの基本は人間と変わらない。そう考えていた。
だけどこれは、あまりに、常識がなさすぎる。話し合いなんて、そんなこと無理だ。不覚にもそう思ってしまった。
「あらあら、大丈夫かしら、顔が真っ青よ?♡」
彼女はうっすらと微笑を浮かべ、ゆっくりと直刃に近づいて来た。直刃は恐怖のあまり足がすくんでしまっていた。
「直刃様っ!」
黄色い閃光を纏い、雷歌が直刃の前に立つ。これ以上近づかれるのは危険と判断したのだろう。
助かった。そう思った次の瞬間だった。
「ぐあっっ――!!?」
「ふふ、雷歌ちゃん、邪魔よ……」
雷歌の身体が真横に吹き飛ばされる。コンクリートの壁に鈍い音と共に激突し、くの字にめり込む。
後に立つのは足を上げた黒い死神だけ。直刃は目の前の結果から、大切な人が蹴り飛ばされた事を理解した。
とはいえ早すぎた。先ほど死体を蹴り飛ばしたのとはまるで違う、不可視の蹴りだった。
「げほっ、ぇっ……!」
「私の能力知ってるわよね? しばらく動けないわよ。そこで黄金様の死に様でも眺めてなさい♪」
「くそっ、動けなっ、い……!!」
バキバキと音を立てて雷歌が壁から剥がれる。膝をついてえずく様子を見て直刃は自分が死に直面している事を理解した。
あんな蹴り。自分が喰らえばまず助からないだろう。
「んふふ、ぷるぷる震えちゃって、可愛い……」
腰が抜けて動けないまま、ついに眼前まで近づかれてしまう。身長差はそれなりにあり、十センチ前後は彼女の方が高かった。
「殺す前に頂いちゃおうかしら♡」
死神はペロっと直刃の頰を舐め、ズボンの上からペニスを触り出す。縮み上がった男根が、さわさわと刺激される。
「ちょっと痛いわよ、我慢してね……♡」
「うぅ、何をっ……!」
ブスリと、ペニスの根元に何か刺さった気がした。遅れてピリリと電撃が身体に走る。
ドクンと心臓が脈打った。股間に血が集まってくる。
「あら、なかなかご立派ね。私のおまんこ、疼いてきちゃった♡♡」
「な、何で……!?」
グググとパンツの中でペニスが勃起した。今は興奮もムラムラもしていない。性欲とは程遠い気分にも関わらず、股間だけが熱く昂ぶっていた。気持ち悪い。
「ちょっと、やだ、本当に興奮してきちゃうじゃない♡ あんまり可愛い顔しないで♡♡」
さすさすとズボン越しに肉棒を撫でられる。勃起しているとあれば流石に感じざるを得なく、直刃は恐怖を感じながら次第に顔を緩ませていた。
「どうせ助けなんて来ないわ♡ ちょっとだけ食べさせてもら――」
「――た、助けなら来るよ」
直刃は震え声でいった。
彼女の一言が決め手だった。そうだ、自分にはまだ助けはいる。必ず直刃を助けてくれる。
そう考えると不思議と勇気がもりもり湧いてきた。
「何を言っているの……」
彼女もまた動きを止め、直刃の真意を探ろうと目を合わせて来る。
「馬鹿ね、助けなんて」
「ほ、ほんとにそう思う?」
王殺しは反論を口に出そうとして、そしてそのまま沈黙した。
「雷歌!」
直刃はここぞとばかりに名前を呼んだ。
雷歌はボロボロの身体で小さな電撃を王殺しに放った。
「ッ……」
油断なく身構えるが、雷撃はそれよりも早く彼女の身体に命中した。
雷歌は力尽きたように目を閉じた。
油断なく雷歌を見つめる王殺し。その隙に直刃は彼女の後ろに立ち、そっと乳房に触れた。
「……助けなんて嘘なのね?」
生身の人間には大したことは出来ないとふんでいるのか、彼女はわざとそのほとんどむき出しの豊乳を触らせてくれた。
「ううん、助けはいるよ。呼んだら来るけど、どうする」
「嘘ね」
ぽよんぽよんとおっぱいの感触を味わっていると、と首を掴まれ近くの壁に叩きつけられる。
決して殺そうとはしていない、さっきの雷歌の時とは違う。明らかに手加減されていた。
この時点で会話できると直刃は判断した。会話するつもりがないなら今ので殺してる。
「もういい。可愛いけど、ムカつくから殺すわ」
「げほっ、ごほっ……よ、呼んでもいいの……?」
早く呼べばいい。
顔ではそう言いつつも、王殺しは難しい顔で直刃を睨んでいた。
本当にいるのか。居たとしてそれは自分に勝てる相手なのか。
そんな事を考えているんだろう。直刃としては話す時間が出来ればそれで良かった。
もっとも、呼べば来るのは本当だが。
さて、本題だ。
小さく深呼吸をすると、震えた声で直刃はこう言った。
「ねぇ、僕とエッチしたくない……?」
王殺しは心底意味が分からないと眉根を寄せた。直刃の真意が読めず、困惑しているようだ。
「……何を、言っているの?」
直刃は首を掴まれた状態で両手を伸ばし、目の前にある豊乳に触れた。ふにゅふにゅと柔らかく、それでいてハリがあるおっぱい。これは氷室や紫羽タイプのドスケベおっぱいだ。
「ふざけてるの?」
「うえっ……!!!?」
グッと、首の気道を軽く絞められる。直刃はおっぱいから手を離さなかった。
「魔力切れで欲求不満なんでしょ……? 僕なら満足させてあげられるよ……」
「……」
訳がわからないと、彼女の顔には疑問符がいっぱいだった。
直刃は紐のような服のトップの部分に指を差し込み、クリクリと乳首を摘んだ。ぷっくりと膨らんだ乳首はコリコリで、今すぐにでもしゃぶりつきたかった。
「……何を考えているの。殺されたいの?」
「ふふ、僕のポケット、探ってみて」
首を傾げながら彼女は直刃のポケットを弄った。そして四つに折られた紙を取り出す。
開くとそれは電話番号が書いてある紙片だった。
「気が向いたら電話してね。絶対満足させてあげれる」
「――はぁ。もういい、殺す」
周囲の温度が冷えた。殺気が直刃に真っ直ぐ向かっていた。
もはや絶対絶命。腕を振りかぶる王殺しは、その髪を濁った深紅に輝かせていた。魔力が目の前で自らを殺そうとしていた。
死ぬかもしれない。直刃があれほど恐怖していた死が目前に迫っていた。
なのに直刃はほっとした笑みを浮かべた。
遅れて王殺しは苦い顔をした。
「……なるほどね。そういう事」
「ふふ、こっちは時間切れのお助けの方だよ」
「ふーん、なんでもいいけど……ひとまずお別れね。流石にアレには勝てないわ」
直刃から離れると一目散に逃げようとする彼女。直刃は慌てて呼び止めた。
「待って、名前教えて……」
「私の? 変なこと聞くのね坊や。名前はネクロよ……また逢いましょう♡」
そう言うと王殺し――ネクロはべちゃりと溶けた。
後に残ったのは地面に残った赤いドロドロ。それも近くの排水口にヌメヌメと消えていった。
直刃はその場に尻餅をつくと、大きく息を吐いた。
「な、なんとかなった……」
直刃が一息つこうとすると、彼女は目の前に表れた。突然、ひび割れたように空間が歪んだ。
「柊直刃、貴様まさか逃げ切れると思っておったか?」
本当になんとかなったのだろうか。
目の前に立つ白い幼女、初代死神を虚ろな目で見ながら、直刃は重いまぶたに逆らわず目を閉じた。
吸い込まれるように意識が消えていく。恐怖心が今頃になって――