最寄駅から電車に揺られること一時間。
ぷしゅーと音を立てて左右に開いた扉から、未だ残暑の抜け切らない熱風が入り込んでくる。
「あっつ……」
直刃は思わず呻いた。
乗り換えもなく、ここまで涼しい中で座っていたからか、尋常じゃない暑さに思える。
立ち上がるのは至難の業だった。
それでも重い腰を上げて、凝り固まった身体を伸ばすと歩き出す。
電車内の冷房の効きすぎた心地よい空間から一転、息を吸うのも暑いような外気に、やれやれと首を振って外に出た。
「……うん、ここだよね」
メモ用紙に記した目的地と駅名を確認すると、それをポケットにねじ込み、直刃は見慣れぬ駅を進んで改札に向かう。
階段を降り、雑多な売店を抜けて、メモ通り北口に。スマートホンのケースに差し込んだICカードをかざし、改札を抜けた先の屋外へと出た。
暑い暑い直射日光に目を細める。アスファルトの照り返しに、何か焼け焦げるような匂いを感じながら、再びメモに目を下ろした。
「はぁ……はぁ……」
無意識にぎゅっと手を握りしめる。
直刃には手荷物は無く、服装もシャツに短パンと目立ったものではない。どこにでもいる普通の少年だ。
だが、よく見れば、手はぷるぷると震えさせ、顔色もあまり良くない。
側から見ても分かる緊張感。決して暑さのせいだけではない精神的疲労が自然と表に出ていた。
「王殺し……」
思い出すのは、雷歌と共に初代死神から逃げたあの日。『試練』から逃げるために、仲間を増やそうとしたあの日である。
王殺し。
死体を犯し、死肉を食らう。まるで暇つぶしのようにそれらを行いながら、彼女は直刃と対面した。
合わない。彼女とは絶対に合わない。
そう思ってしまうほど、彼女の成す事が恐ろしく見えた。
けれど同時に、彼女の美しさにも魅了されていた。
死神だから当然と言えるが、ネクロの美しさはこれまた素晴らしいモノだった。まるで人を食らう蛇のような瞳は妖艶であり、鼻梁や唇は退廃的な色香に満ち満ちていた。
おまけに身体つきも言わずもがなだ。殆ど紐のようなビキニ姿であったからか、より鮮明に記憶に残っている。朱雀や雷歌程なら余裕で超えるようなサイズ感の爆乳、それを保持しつつも全く肥えているように見えないウエスト、品良く肉付きしたお尻。凄まじいものだった。
彼女は、間違いなく死神だった。
そんな彼女から連絡が来たのは、生活リズムも整い始めた十月の頭頃だった。セックス漬けのちょっぴり延長した夏休みを終えて、ようやく高校生活に戻れた直刃の元に、見覚えのない電話番号から着信が入った、
会って話しがしたい。
それがネクロの言葉だった。
もはや初代死神──シロの試練は無事に済み、出来る事なら王殺しになど会いたくない直刃である。
が、近頃は更に悪魔達のレベルが上がっているのか、日毎に愛する死神達の怪我は増えていくし、魔力を補充してあげれば治ると言っても痛々しくて見ていられなかった。
戦力が欲しかった。ならば氷室達が手を焼くネクロという存在は、渡りに船ではなかろうか。そう判断したまでだ。
会う条件として、死神達は誰もお供に付けないというのがネクロの命令だった。直刃は承諾し──とはいえ氷室達に伝えれば説得に手間取ることは目に見えているので──紫羽とアリアにだけ伝えて、もしもの時は頼むと念押しした後にこっそりと家を出てきた次第だ。
今はネクロが伝えた住所に向かっている最中である。
「……大丈夫かな」
本音を言えば、行きたくはなかった。
ネクロは容易く人を殺すし、なんなら自分も手にかけられかけた。
そんな相手を訪ねるのは、とてつもない勇気が要る。
それでもこうして孤独に一人向かっているのは、愛する眷属達の為であり、同時に自分の為であった。
「ネクロさんのおっぱい……凄かったな……」
ちょっぴりあの肉体に心惹かれていた直刃は、何だかんだと下心満載でネクロの元に向かうのであった。
もはや一年前まで冷静な直刃は完膚なきまでに肉欲の海に溺れて、あるのは下半身で物事を考える少年だけであった。
ーーーーーーー
「はい、どちら様ですか……?」
「ぇ……」
扉を開けて出てきたのは、緩くカールさせた髪を垂らした女性だった。
年頃としては直刃の何歳か上で、勝手に大学生くらいかとアタリをつけてみる。とにかくまだ若い女の人だった。
「……あ」
部屋を間違えたか、と一瞬思いもした。だが、次の瞬間、彼女を見て間違っていないと確信する。
彼女は美人だった。いや、美人すぎた。
翡翠色の瞳に、これまた翡翠色の頭髪。エメラルドグリーンとでも言えば良いのか、綺麗な色の髪だ。とても人とは思えない色素は、しかしこうして対面すると天然物としか思えない発色である。
形のいい眉も当然その色で、けれどその奇抜な色素を全く違和感なく人の形として抑えこまれていた。それどころかまるでおとぎ話の姫君のように可愛らしく、ふんわりとした顔立ちをしていて、胸がどきりとしてしまう。
氷室達とはタイプが違うが、これもまた完成された美だ。
直刃は悟った。彼女も死神だと。
「……何か用ですか?」
まだ眠そうな声を聞く限り、寝起きなのかもしれない。心なしか顔つきも眠たげだ。
申し訳なく思いながらも、要件を告げる。
「ネクロさんに用事があってきました」
「……ネクロに?」
首を傾げながら彼女は引っ込むと、とてとてと素足の音を鳴らして奥に歩いて行った。
直刃は緊張を紛らわすために辺りを見回した。
何処にでもありそうな集合住宅の、四階にネクロの部屋はあった。
入り口にセキュリティがあるわけでもない、いたって平凡なマンション。部屋の中をチラと見れば二、三人が住めるほどの広さはあるだろうが、それにしても直刃が今住んでいるような部屋と比べると息が詰まるような狭さだ。
別に自慢しているわけでもないが、死神であれば優れた容姿があるので金稼ぎは楽だと聞く。一体どういう理由でこんなところに住んでいるのか気になる直刃だった。
「……おいで。入っていいよ」
しばらくすると先ほどの女性が玄関向かってきた。
このまま彼女も話し合いに参加するのかとも思ったが、彼女は下駄箱から来客用のスリッパを出すと、あっさりと玄関近くの部屋に閉じこもってしまった。
「……え?」
てっきり案内してくれるものとばかり思っていたが、緑の彼女は我関せずと何事もなく消え去った。
再びどうすれば良いのかよく分からなくなった直刃は、なんだかよく分からないまま「お邪魔します?」と靴を揃えてそのスリッパに履き替えた。
「こっちよ」
リビングに入ると、敷居を跨いだ右の部屋にダイニングテーブルが置いてあった。簡素な家具を並べられた部屋の中、一つだけ視線を集めるのはネクロだけだった。
「座りなさいよ」
「あ、はい」
思わず声音を固くしながら、言われた通りに彼女の対面に座る。
相対するのは、質素な部屋の中で異彩を放つネクロ。ドス黒い長髪を腰に垂らし、直刃を獲物ような視線で見つめていた。
思わず身じろぎする。初対面の印象からか、どうあっても恐怖心は拭えなかった。
だが、同時に今の彼女を見て交渉の余地ありと判断出来たのも事実だった。
「今日は私服なんですね……」
以前着ていた水着のような際どい服装ではなく、彼女は白いオーバーサイズニットを羽織り、下は素足を露わにしていた。
もしアレが彼女の戦闘服だとするのなら、これはどう見ても部屋着、なのであろう。そう考えると、あながち話し合いというのも嘘ではないのかもしれない。
「ま、一応ね。貴方も約束は守ってくれたみたいだし」
そう言うとネクロは足を組み替えて、少しだけ身を乗り出した。ダボっとしたニットに、それでも隠しきれない大きな乳房が深い皺を生み出していた。
護衛を付けないというのは向こうの要求だ。雷歌をやすやすと下した実力といい、ネクロであれば関係ないと思うが、しかし今直刃の手にはあのシロの力もあった。初代死神を連れてこられたらひとたまりもないとの判断なのだろう。
とはいえ初代死神である彼女の能力は空間を司るものだ。物理的な距離は無意味らしく、もっと言うと『時間的な距離』も関係ないそうだが、直刃はあまり理解出来なかった。シロの方が強い、それだけの認識だ。
「ていうか、坊やってそんな謙虚なキャラだったの? 敬語使う子だった?」
「え、いや……はい、一応仲間になってもらおうと思ってますから……ていうか、なんかそっちもキャラ違う気が……?」
「何?」
思わず後半は小声になって、聞き返されたので慌てて首を振った。
ぽりぽりと気まずそうに頭を掻きながら、言われてみるとあの時は言葉遣いなんて気にしてなかったなと冷や汗を垂らした。
首根っこを掴まれていた訳だし、もっと言うならば殺されかけた。そんなものに気を回せる状態ではなかったが、日本人的観点からら初対面にしては不適切だったと思う直刃だった。
「そういうの気持ち悪いからやめてほしいのだけど」
「あ、そう……ですか……えっと……う、うん、分かったよ」
すっぱりと言い切るネクロ。
直刃としても彼女に対するスタンスは決めかねていて、向こうから直接言ってくれるのは寧ろ助かったほどだ。
同時に、久しぶりだなこの感じ、となんだか新鮮な気分になる。
死神であれば、誰しも直刃を王と知ると自分の意思などまるでないように付き従うものである。故に、王からの命令はあっても、配下である死神から王に直接物申すなど、基本的にはあり得ないのだ。
それこそはぐれでもなければ。
その点アリアは従順な死神とは少し違う。直刃は別段彼女に命令を下すことはないが、彼女は彼女で直刃に不遜な物言いをしたりする。とはいえ最近の要望はもっぱら甘々なキスがしたいだの、一日中抱きしめたいだのと乙女全開なものばかりで、当初のツンとした態度は何処へやらであった。
「で、改めて聞くけど、貴方は私をどうしたいの?」
「分かってると思うけど、僕の仲間になって欲しい」
佇まいを直し、ネクロに頭を下げた。
「大転移が近づいてる。それに、悪魔の力は増すばかりで、氷室さん達は日毎に苦しそうなんだ……だから、君の力が欲しい」
隠すことなく、正直に話した。これがネクロを求める理由のそのままである。
当然、向こうもはいそうですかと頷きはしないだろう。なにせ彼女の目的は──
「──で、私の目的は坊やを殺すこと。理由は気に食わないからよ。はい、とりあえず双方の認識に食い違いはないわね?」
「……うん」
死神の王を殺す。それがネクロの目的。
本当は、今すぐにでも直刃に手を掛けようとしているのかもしれない。でもそうしない。ということは、直刃の提示する条件に何かしらメリットを見出しているに違いないのだ。
そのための話し合い……のはずだ。
それが勘違いなら、もしかしたら、今日帰れないかもしれない。直刃は自分がいつ切れるかも分からない命綱にしがみついていると自覚して、身震いした。
「まず、聞きてもいいかしら。貴方、大転移って口にしたけど、どこまで知ってるの?」
ネクロが長い髪をかき上げて、そう尋ねてきた。初対面の雰囲気とはまるで違う、落ち着いた姉のような雰囲気だ。
「……悪魔が、いっぱい出てくる?」
直刃はあの時のネクロとの印象を修正しながら、返答した。出まかせで言ったものの、その辺りの知識は直刃にはまるでない。
知っている事といえばこの程度で、ネクロはこれ見よがしに「はぁ」とため息を零し、こめかみを抑えた。
「初代死神を引き入れて尚、過保護なのね……馬鹿ばっかり。いいわ、分かった。なら最初から話してあげる」
「う、うん、お願い」
まず、と前置きして、ネクロは佇まいを直した。
「──悪魔の目的は、上位種になる事。細かい事をすっ飛ばして言うなら、魂の位をあげたいのよ」
「たましいのくらい?」
「そ。まぁ要するに、ゲームみたいにレベルアップして、それで──人間になりたいのよね」
ネクロは大きな乳房の下に腕を組むと、わざとらしく胸を強調して微笑んだ。
「……」
直刃は表情を変えずに、ネクロをじっと見つめた。それが面白いようで、彼女は口元を隠してくすくすと笑う。
「ふふ、意味がわからない?」
「うん。シロからも悪魔は人間になるのが目的って聞いたけど、それってどう言う事? 人間を食べると、人間になれるの?」
「そうねぇ……良いわ、とりあえずこの世界の魂のサイクルを教えるわ。本当に単純で、死んだ魂は狭間に落ちて、で、そこから紆余曲折あって復活して人になるの。それだけ」
「えっと……生まれ変わりとか、そういうやつ?」
「そうよ、輪廻転成。死んだら死んだ分蘇る。使い古しの魂が新しい衣を纏って出てくる訳ね」
直刃は眉根を寄せると、顔に「は?」と大きく文字を浮かべながらネクロを見た。
これだ。このオカルトが、今まで彼女達の知識から逃げている状態に拍車をかけていた。
まるでこの世界とは違う常識を、さも当然のように口にされると、脳が追いつかないのだ。何言ってんだこいつと思ってしまうのも無理からぬ事なのだ。
ネクロはつまらなそうに目を閉じると、「いいから」と理解をさせぬまま先に進んだ。
「理解して欲しいのは、この世の魂には絶対数があって、それ以上にも以下にもならないということよ」
「な、なるほど? ……で?」
「で、じゃあ死んだ魂がどうやって生き返るのかって話になるわけ」
「う、うーん……?」
そこで直刃は、唐突に悪魔が人を喰らうという知識が頭の中で結びついた。
生き返る魂、人を喰らう悪魔。
人に生き返る、悪魔。
まさか、と思う。
ネクロがニヤリと笑った。
「んー、そうそう。考えてるのであってるわよ。つまり、元々人の魂だった悪魔が、生きてる人を食べて、次に生まれる人間になるの」
「……な、なんで……そんな……?」
なんとなく言っている事がわかって、直刃は愕然とした。
ネクロが言っているのは、つまり人間が人間を食べていると言う事である。それも死んだ人間が、生きている人間を。
「だから言ったでしょ。この世には絶対数があるの。増えすぎも減りすぎもしない、魂の数は決まっている……だから、勝手に魂同士で数を調節しあう。そういうシステムなのよ」
「……」
直刃は何も言えなくなって、真顔で背もたれに寄りかかった。
「人の生き死には、全部そのバランス調整。数には限りがございます、ってね」
「で、でも、世界の人口は年々増加していってるって、授業で……」
「それは、表側では増えているだろうけれど、その割りを食って何処の誰が犠牲になってるやら。誰も全人類を見て暮らしていないのよ」
「知らない間に生まれて、知らない間に死んでいく子供なんていっぱい居るわ」と、ネクロは自分で見てきたかのように言った。
「……とはいえ、『カミサマ』も頻繁にアップデートが入るから、数の上限は変わる。けれど、悪魔の仕事は一貫して同じ。生まれ変わるお仕事なの。いなきゃとっくに人間様は絶滅してるわねぇ」
「今まで、悪魔って悪いやつだと思ってた……」
「ま、必要悪ってやつかしらね? 意味が違うかしら、ふふふ」
全然笑えない直刃は、なんだか急に死神達が恐ろしいものに感じてきて震えた。
氷室も、朱雀も、そして他の死神達も。
言うなれば悪魔も人間で、死神達はそれを狩って──
「……え、ちょっと待って、どういう事? じゃあ君たちの仕事は何?」
「簡単に言うなら調節マシーンね。悪魔が生きてる人を狩り過ぎる事を防ぐための防衛装置。さっきも言った通り上限が変わったりした際には頑張って働くのよ」
ネクロは立ち上がると壁沿いの食器棚からグラスを取り出した。シンクで水を注ぎ、直刃の目の前に比較するように二つを並べる。
「魂の数はこんな感じなの。こっちが生きてる魂で、こっちが死んでる方。それで、その中の水が──魂が行ったり来たりを繰り返して、それに通行規制を掛けるのが死神……理解した?」
「……大体は」
今まで一切が不透明だった死神という存在。
それがこんなにも非現実的な仕組みの一部であるという事実が、直刃を混乱させていた。
本当に理解できているのかなんて、分からない。足元から崩れていくような錯覚に陥る。直刃が勝手に思い描いていたヒーローのような存在でない事だけは分かってしまったが。
「やっと本題に入れるわね。で、問題の大転移だけど、これってつまりそのアップデートなのよ。魂の上限を増やす」
そうだった、大転移の話をしようとしていたんだ。
直刃は慌てて身構えた。
「魂の上限が増えると、えっと、世界の人口が増える?」
「そ、あんた達が馬鹿みたいにちんぽで種付けしまくるから、キャパシティ増加をするわけ。その時に起こるのが大転移なの」
「一気に狭間から魂を出すって事? ……あれ、待って、絶対数は決まってるのに、どうやって増えるの? 悪魔が人間として生まれ変わるなら、増えなくない?」
「そこはカミサマが勝手に追加するわよ。馬鹿な悪魔達はその反動で大量に狭間の外に追い出される訳」
「……なんでもありじゃん」
神様なんだからもちろん、とネクロは笑い、それから目を細めた。
「嫌になった?」
何か含むような視線に、直刃は答える事が出来ず項垂れた。
頭の中では、なんだか知りたくもなかった知識が徐々に形取られていった。
結局、人間が増え続けて、それの尻拭いをしているのが死神という事だ。悪魔が人を喰らうなど、もはやどうでも良くなった。
直刃はもう、アリアを配下に加えた辺りから俗世についての関心を失っていた。彼女達さえいれば、何もいらないと本気で思い始めていた。
だから、この事実を聞かされて思った事は、単純に何故自分達がやらねばならないのかという事だけだった。
「なんで氷室さん達はあんなに傷ついてまで……」
「それが死神の仕事だからよ。そうする事が使命なの……私は御免だけど」
ネクロは肩を竦ませて、それからグラスの一方を手に取ると、中の水を飲み干した。それはあたかもこの世に蔓延る人間達は全て滅びてしまえと言っているようで、直刃はなんとも言えなくなった。
「じゃあ、ネクロはそれが嫌で配下になったの? アリアみたいに王様が嫌いとかじゃなくて?」
「ま、簡単に言うとそうね。なんで私がそんな馬鹿馬鹿しい仕事しなきゃいけないのよ。絶滅するならどうぞご勝手に。ついでに馬鹿な仲間達の目を覚まさせるために──王様を殺すの」
瞬きする間に、ネクロの髪が淡く発光していた。昏い紫の光を彷徨わせて、不気味に輝く瞳が直刃を射抜く。
思わず生唾を飲み込みながら、それでも直刃は言葉を続けた。
「じゃあ、なんで僕の話し合いに応じてくれたの?」
「……」
だが、彼女の勢いはすぐに霧散した。
途端に気まずそうに目を逸らすネクロ。つい今までの殺気は有耶無耶になり、美女は親指の爪を噛んで黙ってしまう。
「教えてよ。何か考えがあったんでしょ?」
「それは……秘密よ。教えられないわ」
「なにそれ。じゃあ僕何のために来たの?」
思わず立ち上がる直刃に、ネクロもネクロで居心地悪そうに肩を抱く。
かと思うと、突然目を釣り上げて、
「もう帰って、用事は済んだわよ!」
「え!? ちょ、ちょっと待って、仲間になってくれるんじゃないの!?」
「そんな事誰が言ったのよ、さぁ出て行きなさい!!」
「え、ええ……?」
と、言われるがままリビングから追い出されてしまった。