「アレックス、ここにいるダイスケに運転免許を取らせて貰えないかしら?」
久しぶりに顔を合わせた親友のエマが、野人みたいな見た目のアジア人を連れてきたの見たとき、私はエマがふざけているのだと本気で思った。
なぜならエマは、私がアジア人を好きではないと知っていたからだ。差別するわけではないけど昨今の風潮で「同じ人間」として扱われるのが癪というか、人類平等とはいえ私たち白人の方が見た目も中身も優れているというのは、当のエマも同意していた事柄のはずだ。
そんなエマが、アジア人の中でもとくにアジア人らしい男を私の生徒としてあてがう。
普通に考えて、あのときの復讐?と思ってしまう。
「……エマ、来るならちゃんと前もって連絡してって、アタシこの前も言わなかった?」
エマの意図が読めないので、私は当たり障りのない言葉を返す。エマは昔からいつも唐突に私の前に現れ、無理難題を言って去っていく。もちろんそれで救われたことは多々あるけれど、職域に踏み込んでくる事柄については勘弁願いたい。
それにエマが連れてきたこの男……見た目がひどい。ハリウッド映画のモブ原始人役の俳優としては重宝しそうだけど、顔は冴えないアジア顔だし、足も短く寸胴で、およそ私たちと同じ人間とは思えない。べつに男の見た目なんてどうでもいいのかもしれないけど、運転を教えるということは狭い車内で二人きりになるということ。せめて見た目の最低限くらいはクリアしてもらいたい。
「あら、そんなのべつにいいじゃない。相変わらず暇なんでしょ? だったらダイスケに免許を取らせて」
エマは私の嫌悪感など気にも留めない。ただひたすら自分の要求を押し通してくる。エマは昔からそういう女で、私もそれは重々承知している。
「知らないわよ。教習を受けたかったら外の窓口で手続きしてお金払いなさい。そしたら適当な教官が適当に運転を教えてくれるわ」
普通に考えて、私がわざわざこの男に運転を教える義務はない。運転を習いたいなら窓口で手続きしてお金払って、適当に割り振られた教官に教わればいい。
それをしないということは、何かしらの裏があるということ。
この男がよほどの問題児か、不法滞在者の類ということだ。
だからこそ私は、エマの要求を突っぱねる。
エマに協力して自らの職を危険に晒すような真似、したくない。
「そんなこと言っていいのかしら?」
「な、なによ……?」
しかしエマは引き下がらない。自信満々の笑みで私に要求を押し通そうとしてくる。
「あなたにこの職場を斡旋したのも、もっと言えば底辺な生活から救い上げたのも私よね? その恩人の私に対してそんな態度取っていいのかしら?」
「そ、それは……」
それを言われると、私は何も言い返せなくなる。サウスカロライナでのクソみたいな非行人生から私を引き上げてくれたのはエマだし、今の仕事を紹介してくれたのもエマだ。歳も離れたエマは親友というより恩師の側面が強いが、本人が親友でいいと言うので親友の立場を取らせてもらっている。
要するに、頭が上がらない。
普段のやり取りでは私の方がぞんざいな態度だけど、ここぞという場面で押し切られると私は弱い。私を更正させたときもそうだったけど、根本的なところでエマは押しが強いのだ。
「私の望みはただ一つ。彼が自分の運転でメイン州まで行けるようになることよ。それさえ叶えば、私は何も言わないわ」
こうなるともう、エマは絶対に聞かない。
更正や仕事のこともそうだけど、私はそれ以外でもエマにとんでもない借りがあるので、断るわけにはいかないのである。
「わかったわよエマ。この猿に運転を教えればいいんでしょ。試験料含めた前金は全部払って貰うわよ。もちろん二割のチップ付きでね」
とはいえこれは仕事だ。受けるのはいいが、私だけが損というのは納得ができない。少しぐらいチップをおまけしてもらわないと。ただでさえこんなアジア人と同じ時間を過ごすことになるんだから。
「代金はダイスケが払うわ。彼のこの身体でね」
「なっ――」
身体で払うって、事務所の掃除とかして働くってこと?
そんなことされても私に一銭も入らないじゃない。
「ふざけないでよエマっ! このアタシがなんでこの猿相手にタダ働きなんか」
「猿じゃなくてダイスケよアレックス。それに彼、凄いわよ。あなたも彼氏と別れてご無沙汰なんでしょ?」
「はぁ!?」
突如別れた彼氏のことを持ち出され、さすがにキレそうになる。いくらエマでも、そこまでプライベートな事情に踏み込んでくる権利はない。
怒鳴りつけてアジア人ごと追い返そうと思ったけど、次の瞬間私は自分の目を疑うことになった。
「愛してるわダイスケ。連絡くれたらいつでも会えるようにしておくから」
エマがアジア人の男に強く抱きつき、キスをした。しかも今「愛してる」とか言わなかった?
あんたエリートでイケメン白人の旦那がいるわよね?
「ダメよ。これはアレックスのためにとっておいて」
しかも次の瞬間、あろうことかエマは男の股間をまさぐった。
あのエマが、旦那以外の、しかもアジア人のペニスを?
そんなこと絶対ありえないのに、私は事態がまったく理解できなかった。
「じゃあねアレックス。あなたからお礼の電話が来るのを待ってるわ」
呆気に取られる私をよそに、いつものママスマイルで去っていくエマ。
いやいや、とんでもない瞬間を見せられた責任ちゃんと取ってから帰ってよ。
てかせめて、状況を説明してから帰りなさいよ。
「アンタ、エマと不倫してたの?」
今のやりとりから考えて、それ以外に考えられない。
アジア人の男とエマ。
にわかには信じられないけど、この二人はそういう関係にあるのだ。
しかし男は小動物みたいに首を振る。身体は原人みたいなのに、こいつ私に怯えてるの?
「そうよね。あんな理想的な亭主のいる女が不倫なんてするはずない。それにアンタみたいな冴えないアジア人がエマみたいな女とFuckできるはずないもの」
こんな気弱な猿が、まさかエマとセックスなんてできるわけない。今のはエマの軽い冗談で、この前のことの仕返しも兼ねているのだ。
「アンタ、私の恩人であるエマの頼みだから今回は引き受けるけど、代金は四割増しできっちり払って貰うわよ。身体で払うなんてエマの冗談、死んでも間に受けないでよね」
この男に運転を教えて、しかもSEXされるなんて、悪い冗談。
きっちり働いた分以上のお金を貰わないと。
だって白人がアジア人に物を教えるんだから。それぐらいしてもらって、当然だ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「あなた、SSNは持ってるの? まさか旅行ビザで免許取ろうとなんかしてないわよね」
渋々ではあるが教習の手続きを始めた段階で、私には少し引っかかるものがあった。
この男、英語もカタコトで、身なりもどう考えたってアジア出身。グリーンカード(永住権)を持っているようにはとても見えなかったからだ。
“I have no SSN. Visa is B-2.”
案の定の答えに、私はがっくり来た。
まさかの観光ビザ。
SSNもなしに運転免許など取れるわけがない。
それなのにこのアジア人は、「どこかいけないことがあるのか?」ぐらいの呑気な表情で構えている。
今さらだけど、エマがこの男を押しつけてきた理由がわかる。
ただ免許を取らせるだけなら、サウスカロライナの教習所にこの男を通わせればいい。
しかしわざわざうちに来たってことは、そういう理由があるということ。エマは本来アメリカの運転免許が取れないはずの男に、なんとか免許を取らせろと言っているのだ。
「エマ、こいつSSNすら持ってないわよ。運転免許なんか取れるわけないでしょ」
もちろん、そこで「はいそうですか」と無理難題を引き受ける私じゃない。すぐさまエマに抗議の電話をかけた。
『ダメよ。何がなんでもダイスケに免許を取らせて。彼は自分の力でメイン州まで行かないといけないの』
しかしエマはダメの一点張り。法律を覆してでもアジア人に免許を取らせろと言ってくる。
さらにエマは、声のトーンをもう一段階厳しくし、
「ここでダイスケを放り出したら、私あなたのこと絶対に許さないわ。あなたが私にしたこと、忘れたとは言わせないわよ」
一瞬にして、嫌な記憶が蘇る。
いや、本当に嫌な思いをしたのはエマ本人なのはわかってるけど、私はかつて犯した自分自身の罪を、改めて激しく後悔するのだった。
「彼をメイン州まで連れて行きなさい。これは命令よ。免許が取得できないなら、仮免でも取らせてメイン州まで同乗したらどう?」
エマはやはり、まだ怒っている。
当たり前だ。向こうから誘ってきたとはいえ、最愛の旦那と寝たんだから。しかも定期的に、十回以上。
若気の至りでは済まされない。
エマの旦那がエリートで、顔も身体も優れているというのも関係ない。
私はかつての恩人の旦那と情事を行い、その現場を本人に押さえられた。
忘れたい記憶。
忘れてもらいたい記憶。
今でもエマの旦那とのSEXは夢に見るけど、それはいつも至上の罪悪感と抱き合わせだ。この件について、何度教会の懺悔室に通ったかわからない。
「……これも身から出た錆ね」
もはや、諦めるしかない。
私がこの男に免許を取らせるというのは、避けることのできない使命なのだ。
「アンタには何の恩義もないけれど、エマの頼みだから今から仮免許を発行させる。もしバレたらアタシは無職だけど、背に腹はかえられないわ」
ノースカロライナの運転免許を取得するためには、いくつもの法律上のルールがある。
そのルールを、どう考えてもこの男は満たしてない。
それでも私には義務がある。背徳感を肴に恩師の旦那のアレで感じまくったツケを、今この場で払わなければならない。
「言っておくけど、筆記試験は普通に受けてもらうわよ。落ちるたびに30ドルかかるから、受からなきゃアンタの負担が増えるだけよ」
とはいえ、最低限の手続きは取らせる。
自動車の運転というのは人の命に関わることであり、技能・知識的な基準を満たさない人間に、路上を走らせるわけにはいかないからだ。
しかしその結果は、
「アンタ、本当に免許取る気あるの……?」
筆記試験の結果はほぼ全滅。
適当に回答しても50点は取れる仕組みなのに、それすらも届かない。
運転に対する知識が皆無なのか、それとも英語が読めないのか。
「こんなんじゃいつまで経っても仮免すら取れないわよ? とりあえず今受けた試験代30ドル払って。次からは模試も一通り受けといた方がいいわね」
とはいえ規則は規則なので、筆記試験の受験料30ドルを男に請求する。
すると男はあろうことか、I have no moneyを主張してきた。
「アンタ、無一文で運転免許取ろうとかいい度胸してるわね。教習代まで踏み倒すつもりだったの?」
寡黙で挙動不審のアジア男に、もはや殺意すら湧いてくる。この私にただ働きさせようなんて、命が惜しくないと言っているようなものだ。
「そもそもなんでアンタみたいなアジア人がエマとつるんでるのよ。そもそも家庭持ちのエマがどうしてわざわざサウスカロライナからアンタを送ってくるわけ? その時点で何もかもがおかしいわよ」
そもそもの話として、エマがこんなアジア人とつるんでいる理由が皆無だ。
困ってる旅行者へのボランティアだとしても博愛精神が過ぎるし、いくらシスターみたいな思想の持ち主のエマとはいえ、見ず知らずの異国人への施しとしては度が過ぎている。
(まさか、本当に不倫してるんじゃないでしょうね?)
アジア男の冴えない顔と、野人みたいな体つきを見てありえないことを再度考慮する。
そして迂闊にも、この男とエマがSEXしているところを想像してしまう。
(いや、絶対にありえない)
こんな冴えないアジア人とエマがSEXするはずないし、そもそもエマ自身、不倫に手を出すような人間じゃない。
「まぁエマも昔からお人好しだから、惨めなアンタを見て手助けしたくなったのかもしれないけど、そのおかげでこっちはとんだとばっちりよ」
自分もかつてそんなお節介焼きのエマに救われた一人だと自覚しつつも、やはり面倒なことは面倒だ。私は作戦を変更して、男の筆記試験をパスすることにした。代理で試験に回答し、男を合格させたことにしたのだ。
犯罪行為?
そうではない。
私はそもそも、こんなアジア人に免許を取らせる気などない。
「次は路上教習よ。さっさと車に乗る支度をしろ」
私は男に、運転免許の取得を諦めさせることにしたのだ。
徹底的にスパルタでシゴき上げ、自分には運転の才能がないと、自分は運転してはいけない人種だと思わせる。
私は過去に、嫌いだと思った生徒に免許を取らせなかったことがある。もちろんそれは単なる好き嫌いが理由ではなくて、そいつが犯罪行為に車を使うということがわかりきっていたからだ。
私はそいつを徹底的にシゴき上げ、免許を取るのを諦めさせた。今回はその再現をしようというのだ。
「キーを回して」
男が乗ってきたというエマの車に乗り込み、エンジンをかけさせる。とんでもない始動音がした。そう遠くないうちに壊れる車の音だ。私には関係ないけど。
「とりあえずこの辺りを適当に一周して。言っておくけど少しでも危険な運転したら殺すから」
私は男に対して運転のいろはを何も教えずにこの辺りを一周するよう指示を出した。車に詳しい生徒ならシフトを切り替えてサイドブレーキを外して、ゆっくりとブレーキから足を離すことぐらいは理解している。
しかし初心者というのもピンキリで、そんな初歩的なことさえ知らない生徒はたくさんいる。男もまた、その後者に当てはまる人間のようだった。
案の定、音はギアを切り替えることもなく(要するにパーキングのまま)、アクセルを踏み始めた。
当然ながら、車は前に進まない。エンジンだけがただ回転数を上げるだけだ。
「あんた、アタシに喧嘩売ってるの?」
私はさも「使えないわね」という感じの演技をして、男を精神的に追い詰める。
これで男が音を上げてエマのところに帰ってくれれば御の字。後日エマからクレームが来ても、男の方が勝手に諦めた、で反論できる。
私はそもそも、この男に免許を取らせる気などないのだ。
「シフトチェンジ!!」
脅しとばかりに大声で叫ぶ。
シフトチェンジをしないと車は動かないの。
アンタそんなことも知らないの?
そんな高圧的な態度で、男を精神的に追い詰める。男は明らかにテンパりながら、ブレーキも踏まずにシフトレバーを動かそうとしてオタオタしている。
「ブレーキを踏むのよ」
そんなアジア人に呆れながらアドバイスをする。この男、仮に普通に教習を受けに来た生徒だったとしても、私は嫌いだっただろう。
“B, brake?”
人よりも二倍も三倍も遅い習得速度で、男は車の仕組みを覚えていく。ようやくブレーキペダルを踏むことに気付いた男は、見よう見まねでシフトをドライブへと転換させる。
その瞬間、
「え――?」
ものすごい勢いで、車が発進するのがわかった。
まず先に強いGが来て、そのことで車が動いたと気付くくらい、一瞬の出来事だった。
「すぐに止まりなさい!!」
そう怒鳴るように命じても、パニックに陥った男は急発進した車を制御できない。ものの一、二秒で目の前の電柱に激突する進路を選ぶ。
“Ta, Tasukete...”
「どいて!」
もはや神か何かに祈り出した男からハンドルを奪い、車を激突から救い出す。それでも馬鹿なアジア人はアクセルを目一杯踏んだままなので、私はほとんど男に密着した状態で、フルスロットルの車をただただハンドル制御だけで操作していた。
「いいからアクセルから足を離しなさい!!」
混乱する男を何度も怒鳴りつけ、なんとかアクセルから足を離させる。それからはブレーキを踏む指示すら逆に危険だと判断したので、私はエンジンブレーキだけで車を減速させ、路肩に無理やり車を停車させた。
正直、死ぬかと思った。
ぞんざいな指導をした私も私だけど、まさかいきなり目一杯にアクセルを踏むなんて思いもしなかった。
今さらながら、この乗り物は人の命も奪いかねない危険な鉄の箱であることを意識させられる。今私やこの男が死ななかったのは、結局のところただの運でしかない。
「……は?」
だからこそ、私は目の前の光景に唖然としていた。
男のズボンの股間が、明らかに盛り上がっている。
ジーンズのデニム生地を押し上げ、中のモノが正常ではないことを物語っていたのだ。
そこでようやく私は気付く。ハンドル操作に必死なあまり、自分の胸を男の肩や腕に押し付けていたことに。
でもそんなの、当たり前だ。
自分の命が掛かっているのに、胸が当たるとかそんなことを気にする人間がどこにいる。
結果として胸が当たることになっても、そんなの車が時速数十マイルの速度で壁や電柱に激突することに比べたら瑣末以外の何物でもない。
男の側だろうが女の側だろうが、そんなの気にも止めない。そもそも気付きもしないだろう。実際私は必死にハンドルを切る間、自分の胸がどこにあるかなんてことは考えもしなかった。
でもこの男は、違う。
私の命を危険に晒しながら、自分自身も九死に一生の経験をしながら、私の胸が肩やら腕やらに当たっていることに、少なくとも興奮できるくらいには下半身に集中していたのだ。
そんなのって、ある?
自分が死にかけてるのにコイツは私の乳のことを考えてたの?
私を殺しかけてたのに、私の胸をどうこうすることを妄想して興奮してたっての?
コイツ私を犯すこと想像してたの?
そう考えると、私の中にふつふつと静かな怒りが湧き始めた。
怒りというか、明確な殺意。
そんなに気持ちよくして欲しいんなら、私が全力で“シゴいて”あげるわよ。
“Itai, itai, itai, itai!!”
私は全力で、男のブツを万力のごとく締め付けた。ズボンの上から股間を掴み、握力で捩じ切るような覚悟で、男のチンポを締め上げたのだ。
“S, stop!! Stop! Alex-san!!”
当然ながら男が助けを求める。私は女だからわからないけど、涙目になるくらいの激痛が走っているようだ。ざまあみろ。
『ふざけんじゃないわよ! アジア男の分際でアタシを殺す気!?』
『ご、ごめんなさいごめんなさいっ! お願いだから手を離して!』
『うるさい!! ジャップのくせにこんな生意気なdickして! 二度と生意気な態度取らないようにすりつぶしてやるわよ!!』
私は両手に男のチンポを持ち替えて、さらに強く締め付けた。
より強く締め付けるためもあるが、片手よりも両手の方が握りやすかったからだ。
(これ、太すぎない?)
男のズボンの中のモノは、これまでに経験がないくらい太かった。だからこそ両手で握るしかなかったのだ。
しかも比喩でも何でもなく石みたいに硬いし、想像より遥かに長い。これ、本当にコイツのチンポなの?
(全然、握りつぶせない……)
私は最初、本気で男のモノを握りつぶすつもりだった。
手加減なんて一切せずに締め付けたし、なんなら本気で捩じ切るつもりでいた。
でも、できなかった。
まず、太さ。
本気で握り潰そうと思ったら、片手で指が回り切るぐらいじゃないとまず無理。しかし男のモノは片手では一周できず、せいぜい両手で一周半という太さだった。
そんなものを必死に握り潰そうとしたところで、力など上手く入るわけがない。
そして次に、硬さ。
男のモノは、文字通り石のように硬かった。
人体なのだから力を込めればある程度弾力を発揮するはずだが、そんなものは微塵もない。それこそ無機物の塊を握り締めるみたいに、弾力の類が一切ない。
むしろ本当に石を入れているんじゃないのと思ったけど、ズボン越しに伝わってくる火傷しそうなくらいの熱が、これが紛れもなくこの男の人体の一部であるのとを物語っている。
そんなものを必死に握り潰そうとしたところで、無理なのは目に見えている。
むしろ私の方に限界が来て、少しずつ握力が衰えるのがわかる。
途中からはむしろ、潰すよりも揉むという方に感覚が近くなる。
こっちは必死に潰そうとしてるのに、男が徐々に鼻息を荒くしているのを見て、ふざけんじゃないわよという気持ちが湧いてくる。
アジア人のくせに。
コイツ、私で気持ちよくなろうとしてる。
この生意気なペニスで、私を屈服させようとしてるんだわ。
(そんなこと、させるわけないでしょ)
アジア人に負ける。そんなことは絶対許されない。
これまで散々見下して来たのに、こんな状態で支配されるなんて、アメリカ人として、アングロサクソンとしてあってはならない。
「白人とそれ以外の上下関係、はっきりとわからせてやるわ」
私は、この男を屈服させるという道を選んだ。
物理的に握りつぶすのが無理なら、他の方法で屈服させる。
白人が全てにおいて優秀な人種なら、こういうことでも負けるわけがないのだ。
私は男のジッパーを下ろし、はち切れんばかりのトランクスから汚らしい竿を露出させる。
その瞬間、私は自分がいかに危険な行為をしているか理解させられた。
(なんなのよ、これ……)
外界に晒された、男の竿。ペニス。
太さも長さも、黒人以上なのはわかってた。
石みたいに硬いから反り返っているのも予想できたし、第一印象に“Strong”という単語が飛び込んで来るのも覚悟してた。
でも大きさとか、形とか、角度とか。
そういったものを全部引っくるめて私が抱いた印象は、美術品みたい――だった。
たかだかチンポへの感想。
しかも相手はアジア人。
しかし男のペニスの威容というか存在感は、もはや彫刻や美術画のそれだった。
竿の長さ、根元から先端への太さ、張り出したカリの無駄のなさ、艶を帯びた亀頭、浮き出た血管の形に至るまで、全てがこれまでに見た最上の芸術だった。
白人はアジア人よりも優れている。
その考えを変えるつもりはない。
しかしこの男のペニスは、そんな括りを遥かに超越した芸術だ。
もちろんそれだけでこの男に屈服する気なんてない。
この男は私を殺しかけただけに飽き足らず、バストの感触で妄想プレイをした大罪がある。
だから私は、この男に刑を執行しなければならない。
どんなペニスを持ってようが白人には勝てないという事実を、身をもって体験してもらう必要がある。
「この金玉、空っぽになるまで射精させてやる。泣きながら後悔しても遅いわよ」
“Ah! Alex-san!?”
私は男のカウパーを使って、男の竿全体をシゴき始めた。
これまで私が射精させてきた男たち。
そいつらとの経験を総動員して、本気でこの男を射精させにかかる。
「まだ出すんじゃないわよ。アンタの生意気なdick、しっかりと躾けてから射精させてやる」
「あっ、アレックスさんっ――」
男に余裕がないのはよくわかった。私の手コキでがっつり気持ちよくなっている。
ただだからと言って、私に余裕があるわけじゃない。
太く熱い、アジア人の竿。
長さも十分で、逞しすぎる男のモノが視覚の面からも私の脳内に訴えかけてくる。
ぬるぬるのカウパーは臭いを嗅ぐだけでくらくらするし、感触も信じられないくらいいやらしい。
でも私は鼻を塞ぐわけでもなく、カウパーを拭き取るわけでもなく、ただただ粘着液まみれの手コキを継続していた。
男の竿をさすりながら、亀頭の先の臭いを嗅ぐ。途端に強烈な臭気と共に、頭のどこかが麻痺するのがわかった。なぜかわからないけど、男の亀頭から目が離せない。このまま続けていたら顔面にザーメンを浴びることになるのに、不思議と避けようという気にはならない。
「まるで野生動物ね」
無意識に、男の毛むくじゃらの金玉を取り出す。それもまたカウパーまみれの手で揉みながら、袋のずっしりとしたボリュームと信じられない弾力に溜息を漏らす。
「ダメよ、まだ我慢して。どうせこの玉の中にとんでもない量溜め込んでるんでしょ?」
男が射精しそうなのを汲み取って、それでも絶頂を我慢させる。
それは多分、私自身、もう少し長くこの男の竿と袋へのマッサージを続けたかったからだと思う。
べつに、この男のモノがいいとか、そんなことはないけれど、不思議といつまでも触っていたい気持ちが、私の胸に去来していた。
「アタシ、顔に出されぬのが死ぬほど嫌いなの。ここで出したらどうなるか、わかってるわよね?」
男の鈴口をあえて顔面の位置にロックオンしながら、男を挑発するように手コキする。
暴発寸前の竿と金玉をさらに激しくマッサージして、まるで男からの顔射をせがむように誘惑する。
これは、調教。
私は自分にそう言い聞かせる。
このアジア猿の射精管理をすることによって、主導権が全て私にあることを思い知らせる。
そのための手コキ。
そのための金玉袋マッサージなんだ。
“Ah! Alex-san! Moudemasu!!”
男の必死の叫びに、もう射精が近いことを察知する。元々太かった竿もさらに太くなり、金玉も膨れて、射精が目前であることは手のひら越しにも伝わってきた。
でもその状況にも関わらず、私は男の鈴口から目を離せずにいた。
このままだと男の射精を、アジア人のザーメンをモロに受けることになるのに、その逞しい竿から目が離せない。むしろ射精を顔面で受け止めるような形で、がっちりと準備を整えてすらいる。
出したいんでしょ?
私の顔にぶっかけたいんでしょ?
だったら全部出しなさいよ。
あんたの汚らしい金玉袋の中身、白人の顔に思い切りぶちまければいいでしょ?
“Ah!!”
男が限界の声を叫ぶ。ただでさえ逞しい金玉がさらに逞しく膨らんで、ザーメンを放出する予備動作を開始する。
その瞬間、私は胸がキュンとするのがわかった。
アジア人にチンポ汁をぶっかけられる瞬間なのに、まるで待ち望んだ瞬間みたいに、心をドキドキさせる自分がいた。
そして、
「すご……」
チンポから躊躇いなく放出された白濁液の量に、私はしばらく放心していた。
勢いよく放たれた白濁液が、私の鼻梁や唇を直撃する。熱く巨大な塊が、あっという間に私の顔面を覆い尽くした。
まさに、浴びるような精子。
サーモンの生殖みたいに、白濁の子種を顔と胸の谷間にぶちまけられる。
まるでライオンの射精でも見てるみたいだった。
百獣の王によるオスとして頂点の射精。
カウパーとは比べ物にならない強烈な臭いを全身にマーキングされる。にもかかわらず私は、この男の精液を浴びることに一切の嫌な感情を持たなかった。
出させた、というより、出してもらえた。
そんな感謝にすら似た感情が、私の胸の奥には湧き上がっていた。
「なんて量出してんのよ、この猿……」
心に思ってもいない嫌味。
猿と言いつつ、私は男の射精の最後の一滴までをも待って胸で浴び続けた。
なんて凄い射精。
こんなもの浴びて、どうやってこの男を調教しろって?
「……今日は、ここまでよ」
多分、これ以上ここにいるとおかしくなる。
そう確信した私は、男の精液もそのままに、強烈なオスの臭いを放つ車内から脱出していた。
なんてもんぶっかけんのよ。
SEXなんてしばらくお預けだったのに。
マスターベーションなんて数年以来してないのに。
こんなの帰宅即、この射精を思い出してオナニーするに決まってる。
今日はこのまま直帰だ。
顔も洗わないし、胸についたザーメンも取らない。
帰ったらベッドの上で全身にこのザーメンを塗りたくって、激しくオナニーする以外の選択肢が思い浮かばない。
エマのやつ、とんでもない男を紹介してくれたわね。
旦那との不倫の仕返しに、旦那を遥かに上回る男の紹介?
しかもアジア人なんて趣味が悪い。
こんな男とSEXするなんて絶対にありえないのに――もはや私には、あの“生徒”がFuckの対象にしか見えなくなっていた。
あんなモノに貫かれたら絶対自分が自分じゃなくなる。そんなこと絶対あってはいけないのに。
「なんなのよあのチンポ! あんなの挿れないわけないでしょ!」
道端のバケツを蹴り倒して、誰に対してでもない悪態を叫ぶ。
もはや今すぐとんぼ返りしてあの男の上に跨りたい気分だった。
でもそんなこと白人のプライドが許さないし、教官と生徒という立場の壁もある。
だから私は、できるだけ自然に、あの男とSEXする必要があった。
もはや、プライドなんかない。
何が何でも、あのダイスケ・サカガミとかいうアジア人とSEXする。
私から誘うんじゃなくて、向こうからはっきり「したい」と言わせて、その上であの凄いので貫かれてやる。
貫かれた先にあるのは、きっと――。
(想像だけで留めなさいアレックス……)
頭に思い浮かぶ理想のSEXを想像して、眩暈がする。
何の根拠もないけどあの男はそれが実現できる気がする。
あの野生動物みたいなペニスと金玉なら、白人の女を屈服させることだってできるはず。
(私、あいつに屈服させられたいの?)
沸騰する頭を押さえながら、なんとか冷静さを取り戻す。
下半身が疼いているのは事実。
あの男のペニスを美しいと思ったのも事実。
でもあいつはアジア人なのだ。
白人の私がアジア人なんかとSEXするのか?
答えのない自問を延々と繰り返して、私は煮え切らないまま夜を明かした。
その間、オナニーで五回絶頂したことは今さら隠さない。
自分自身を慰めている間、私の頭の中にあったのは、逞しすぎる、あのアジア人のペニス、それだけだった。