「え?」
目の前に差し出された札束を見て、僕は目を剥いていた。
約束の日程を終え、僕が旅を再開するという日に、アリシアさんが“給料”として差し出して来たお金がそれである。
百ドル札ばかりで、おそらく百枚近くある。たかだが十日間農場で働いただけで、こんな大金を貰えるわけがない。
“You need money.”
あなたにはお金が必要でしょ?
僕が夏休みを利用して世界を一周するつもりであることを、彼女は知っている。しかしながら、さすがにこんな不当な金額をもらうわけにはいかない。
そもそもこんな個人農場に、それだけの余裕があるとは思えなかった。
“We are all right.”
私たちは大丈夫よ。そんな風にアリシアさんは言うが、とてもそうには見えなかった。僕の方も、こんな大金を会ったばかりの親子にもらうわけにはいかない。
“Daisuke, You are the Savior.”
あなたは救世主なの――ますます言っている意味がわからなかった。
僕はただ農場でアルバイトをして、しこたまこの母娘を犯しただけだ。
そう。残りの日数、日中はそれなりに働いたが、夕方以降、僕はアリシアさんとキャロルと激しいセックスを続けていた。
あるときは夫婦のベッドでアリシアさんを犯し、あるときは馬小屋でキャロルを犯し、あるときは家のリビングで二人を同時に犯しもした。
むしろ労働時間より、セックスの時間の方が長いくらいだった。
それを考えれば、むしろ僕の方がお金を払うべきなのに、アリシアさんは僕はこのお金をもらうだけの権利があるという。
アリシアさんもキャロルも、ボランティアで僕とセックスをしていただけではないのか?
失恋で傷心した僕を慰めるために、親切な母娘が哀れな日本人を身体を差し出しただけ。
それこそ、隣人愛の精神。
二人は自分自身を愛するがごとく、見ず知らずの日本人である僕を愛してくれたのだ。
“Well...please sign yours name.”
じゃあ、これにサインして。
僕が頑なにお金を受け取ろうとしないので、アリシアさんは仕方なく二枚の書類を差し出した。
書かれている英語は小難しくて全然わからなかったけど、それぞれに書類にアリシアさんのフルネームとキャロルのフルネームが書かれていることだけは見て取れた。
きっとこれは借用書だ。
この大金は僕への先行投資みたいなもので、旅が終わったらそのうちちゃんと返しに来いという意味なのだろう。
しかしこれは大金である。借りることにかなりのためらいはあったが、今現在の僕は日本に帰るどころか数日暮らすだけのお金もなく、背に腹は代えられないというのが実情だった。
「オーケー、アイサイン」
僕は二枚の書類それぞれに、Daisuke Sakagamiというフルネームをサインした。
その瞬間、アリシアさんとキャロルは互いに顔を見合わせ、その綺麗な双眸を大きく見開いていた。
もしかして僕は何かをやらかしたのだろうか。
そう思って不安になっていると、二人の美女が楽しそうに笑い出したので、僕は安心できたのだった。
その後、アリシアさんが僕を街のセントラルまで送ってくれた。
また馬かと思ったが、予想外に車だった。しかもアメ車の高そうなやつだ。
もしかして彼女たちはとんでもないお金持ちだったのでは?という仮説を抱きつつ、今さら考えても仕方がないと、僕は頭を振って打ち消した。
僕が見据えるべきは、次の街、次の国だ。
次の街では、いったいどんな出会いが待っているだろう。
どこまでも澄んだ青い空が、広い砂漠に広がっている。
さすがに今回のような僥倖はもうないと思うし、これからの旅路で、僕が白人女性を抱けるような機会はないだろうけど、それこそがまあ本来の旅の目的だと思い直して、僕は地図を片手に、アメリカの広大な地平線を見据えたのだった。
19日目 フラッグスタッフ→ホルブルック
【移動距離】128km(通算882km)
【手段】ヒッチハイク+馬+キャデラック
【所持金】$110
【支出】
STANLEY FARMでのアルバイト代 +$10,000
【残金】$10,110
【これまでの経験相手】5人
Catherine McBride(27)
Elizabeth Carter(18)
Amanda Tracy(26)
Alicia Stanley(34)
Carol Stanley(15)