ディランは母を犯すとき、決まって警護を部屋から遠ざける。房事に集中したいからだ。
とはいえカルテルのボス。
屋敷は厳重に警備されてるし、とくに屋敷内の近衛隊は、腹心中の腹心に限られている。
さすがのイグレシアスも夜の屋敷の中には入れない。いくら優秀であっても、元ソシアスの人間は何を考えているかわからないからだ。
「奴は奥方様と夜を共にするとき、無防備になります。いつもは部屋の前に張り付いている近衛隊も屋敷の離れた場所に待機します。奴を暗殺できるとしたら、そのタイミングしかありません」
そしてそのとき屋敷の中にいるのは、母と私だけ。
あいつが母を犯す部屋に乗り込めるのは、私しかいない。
「ディアナ様には酷であることはわかっております。しかしディランさえ仕留めてしまえば、組織は混乱に陥ります。その隙をついて我々ソシアスが実権を取り戻すのです。これは、ディアナお嬢様にしかできないことなのです」
私にしかできない。
それは物理的なこともあるだろうが、父の実娘である私が敵のトップを殺すことで、ソシアス派の士気を上げる意味合いがあるのだろう。
確かに、クーデターの火蓋を落とすにはこの上ない鬨だ。
憎きディランをこの手で殺すことができる。それはソシアスの娘である私にとっても、悲願と言えることだった。
とはいえ、私はまだ十七歳の女だ。
カルテルボスの娘とはいえ、人を殺めたことなど一度もないし、何より母があの男に犯される現場に押し入るということに、抵抗感を隠せない。
あの男は毎晩のように母を犯した。
最初は抵抗していた母の声も、近頃では女の色を含んで来て、それを間近で見ることへの恐怖もある。
今でも母に、ディランのことを拒んでいて欲しい。
でももし、母があの男に屈服していたら。言葉では抵抗しつつも、身体は夫の仇である男を受け入れていたとしたら。
それこそ私は、気が狂うような思いだろう。
あの優しく気高い母が、名実ともにディランに陥落させられていたとしたら、私は自分がどうなってしまうかわからない。
「……亡きお父様の使われていた銃です。この日のために、わたくしが隠し持っておりました」
イグレシアスが懐から取り出したのは、父が愛用していたトカレフだった。
父が殺されてから十二年。
あの惨劇から、もうそれだけの年月が経とうとしている。
しかし父の銃の存在感は失われることなく、イグレシアスを通じて娘の私へと受け継がれようとしている。
この銃はきっと、ソシアスの人間が十二年の間積み重ねてきた執念である。
この銃を守るために失われた命もあるかもしれない。
そして何より、このイグレシアスが仇敵であるディランに忠誠を誓ってまで新組織の上層まで上り詰めたのは、今この瞬間、私にこのトカレフを渡すためなのだと、私は理解してしまった。
カルテルの娘に生まれた、宿命。
父や、父よりももっと前にソシアスを治めてきた祖父や曽祖父に、あの男を殺せと命じられている気がした。
きっと普通の娘なら断るのだろう。
でも私はそうじゃない。
私は、ディアナ・ソシアスなのだ。
「……わかったわ。父の無念は、私が晴らす」
父の銃は、思ったよりずっと重かった。
父の想い。
イグレシアスたちの想いを受け継いで、私は忌まわしき部屋の前に立つことを決めたのだ。
(……大丈夫。私がディランを殺しさえすれば、全部上手くいく)
私の銃声を合図に、屋敷の外に控えたソシアス派のメンバーたちが蜂起することになっていた。
私がディランを殺し、イグレシアスたちが屋敷を制圧する。
そして各地に潜んでいるソシアス派たたが同時多発的に新組織の幹部らを暗殺し、ソシアスはコスタリカの雄に返り咲く。
この十二年は、きっとそのためだけに費やされた。
私がディランに抱かれる母の声に毎晩耐え続けたのも、私を将来的な性処理の道具として想定するディランの視線に耐え続けたのも、すべて今この瞬間、あの男を殺すためだったのだ。
(あっ……ディランっ……そこっ……!)
作戦決行当日、私はディランの寝室の前に立っていた。
予想通り、近衛隊たちは一人もいない。この広い屋敷の中で、自由に動き回れるのは私だけだ。
ベッドの軋む音がする。
ドアの向こうからくぐもった女の声が聞こえた。
大好きだった母が、あの男に犯されている。
絶対に見たくない光景が、この部屋の中で繰り広げられている。
でも私は逃げない。
ソシアスの娘として、家を守ると決めたんだ。
(…………行くわよ)
私は父のトカレフを強く握りしめて、寝室のドアを開けた。
「ああんっ! そこダメぇっ♡♡」
想像はしていたが、直視したくない光景が、目の前に広がっていた。
母は当然のように全裸にされ、動物のような格好でディランに犯されていた。
ディランのモノに突かれるたび、母の剥き出しの胸や臀部が激しく揺れる。
肉と肉とがぶつかり合う激しく音が部屋に響いていた。
寝室に充満する熱気と、男と女の強烈な臭い。
無防備な体勢でディランの剛直に犯される母は、完全に女として屈服しているように見えた。
奥を突かれるたびメスの声を上げ、抵抗のそぶりも言葉もなく、ディランの男根を堪能している。
上気した頰。
よだれを垂らすメスの顔は、あの優しく気高い母親とは、程遠いものだった。
「激しく突かないでぇっ!」
突くなと言いつつ、完全に母はディランの剛直を堪能していた。
あの優しかった母が、父の妻が、私がドアを開けたのにも気付かないほど、旦那の仇である男とのセックスに集中しているのだ。
「なんだディアナ! お前の番はまだ先だぞ!!」
「あっっっ!」
私の存在に気付いたのにも関わらず、ディランはピストンをやめない。むしろ乾いた音を加速させて、母の奥を蹂躙している。
「ディアナっ――どうしてっ――」
ようやく私の存在に気付いた母が、信じられないという顔でこちらを見ている。
しかし身体はディランに差し出したままで、抵抗するそぶりは微塵もない。
抵抗したくてもできないという感じだった。そんなにも、父を殺した男とのセックスが気持ちいいっていうの?
「お母様も解放して。さもなくばこの場で撃ち殺す」
安全装置を外し、私は父のトカレフをディランの方へ突きつけた。
「おや、珍しいなそんなものを持ち出して。生まれながらのお嬢様が、ちゃんと引き金を引けるのかな?」
ディランは顔色ひとつ変えなかった。悔しいかな。くぐってきた修羅場の数が違うのだろう。
引き金を掛けた私の指が震えていることも、人を撃つという行為に私が恐怖心を抱いていることも、この男にはお見通しなのだ。
「それにどうだ? お前の母親はとても嫌がっているようには見えないぞ?」
「あっ……! やめてディランっ――これ以上はっ――」
実の娘が銃を構えていてもなお、母は喘ぎ続けていた。
一度火のついてしまった身体は、拳銃ひとつでは収まらないということだろうか。
「心配しなくても次はお前の番だ。本当は俺の逞しいコレを見て、股ぐらを濡らしてるんだろう?」
自慢気に母の秘部から男根を出し入れするディランを見て、私は心底怖気が走った。
こんな状況でも汗ひとつかかず、娘の前で母親を犯し続ける男を見て、父の命を奪ったのはこういう男なのだと痛感する。
狂気。
一言で言えばこうだろう。
人を殺すことにも、娘の前で親を犯すことにも何の抵抗も覚えない下衆。
相手が十七の小娘とはいえ、拳銃を突きつけられてもなお、ディランは母とのセックスを満喫している。
「……そんなわけないでしょ」
ありったけの恨みを込めて、指先に力を入れる。
銃など撃ったことがない私が、母ではなくディランだけを確実に狙える保証などどこにもない。二人は激しく動いている。もし弾丸が逸れて母に当たったら――。
多分こんな迷いは、ディランにはお見落としなのだろう。ディランがなおも母を犯しているのは、私に銃は撃てないという確信があるからだ。
悔しかった。
こんな男に父を殺されたことが。
母親を奪われたこたが。
ソシアスを、壊滅させられたことが。
でも私の指は震えていた。
目の前に父を殺した男がいる。
相手は文字通りの丸腰で、私は銃を持っている。
千載一遇のチャンスだ。
すべてをひっくり返す、これ以上ない機会なのに。
「待ってろ。コイツをイかせたらお前の処女を奪ってやる」
「あ、ディランっ――やめてっ」
ディランがラストスパートを始めると、明らかに母の声が変わった。これまでは少なからず抵抗の色を含んでいた声音は、純然たる艶を帯び始める。
ディランが怒張した剛直で突き上げるたび、母は若い娘のように喜悦を上げた。
「ああっ♡♡ それダメぇっ♡♡♡」
ディランがさらに高速のピストンを開始すると、母が悲鳴にも似た喘ぎ声を上げる。
普段は衣服の中に隠された豊満な乳房が、激しく上下に揺れている。
男に腰を打ち付けられるたびに揺れる母の尻肉は、普段の清楚な姿からは考えられないくらい卑猥に見えた。
ファミリーから聖母とまで崇められた母の姿は、どこにもない。
父が愛した、私が愛した母は、もはやディラン虜になっていた。
「あああっ♡♡♡ ダメぇっ♡♡♡」
その瞬間、セックスというのは未経験でも、母が果てたということはわかった。
これまでとは違う、抜けるような嬌声。
ぐったりと力の抜けた母の肢体。
そして結合部から零れ落ちる、淫靡な白濁液。
母は、ディランに射精されたのだ。
そして同時にイかされた。
ある意味、目の前で父を惨殺されたとき以上の衝撃が襲いかかる。
絶対に見たくなかった光景が今、私の前で現実になっている。
「待たせたなディアナ。次はお前だ」
ディランが母の股ぐらから剛直を引き抜くと、生まれて初めて嗅ぐツンとした臭気が私を襲った。
ひどく不快で、鼻をつく精液の臭い。
生まれて初めて間近で見る怒張した男性器は、母の愛液と本人の精液でまみれていた。
「どうだ俺のは。見惚れて何も言えないのか?」
「そ、そんなわけ――」
こちらに近づいてくるディランに、私は後ずさった。
ディランの剛直は射精してもなお逞しさを保っており、続けざまに私の処女を奪う気がありありと見て取れた。
反り返った、キノコのような男性器。
こんなものを中に入れるなんて、大人はやっぱりどうかしてる。
「きゃ――」
壁際まで追い詰められた私は、弾みで銃を落としてしまう。
ディランが母の身体から離れた今が絶好のチャンスだったのに、よりにもよって男性器に圧倒されて機会を失うなんて。
「しばらく見ないうちにずいぶん育ったな。これで男を誘惑する準備をしていたのか?」
「や、やめてっ――」
丸腰になった私の胸を、ディランが強引に揉みしだく。
最悪の事態。最悪の感触だった。
このまま私は、ディランに犯されてしまうのだろうか。
そんなことは、たとえ死んでも嫌だった。
「嫌がる振りをするな。どうせお前にもこの母親と同じ血が流れてるんだ」
「――っ!!」
嫌がる私の手を掴んで、ディランは自分の剛直を触らせる。
想像よりも硬く、熱い感触が、私の手のひらを通じて伝わってくる。
「ほら、ずっと触りたかっんだろ? ドア越しに母親の喘ぎ声を聴きながら、お前は自分をそうなる未来を期待してたはずだ」
「口から出まかせを――んっ!」
一瞬の隙を突かれ、股ぐらに手を伸ばされる。これまで誰も触れさせたことのない場所に憎き男の指が触れると、意思と反して身体がびくんと跳ねた。
「ほら、ずいぶんほぐれてるぞ。処女のくせに俺のセックスを見て興奮してたんじゃないか?」
「んっ――」
ディランは服の上から私の乳首を摘み、秘部の敏感な部分を刺激してきた。
途端に生まれて初めての感覚が背筋から脳天にかけて駆け上る。
私は、この男に犯される。
そう思った。
抵抗できないのは直視したくない現実に思考を奪われていたから。
でも一割程度、ディランの剛直を見て圧倒されていた部分もあった。
それが私の隙。私の後悔。
もし私が処女でなかったら、ディランを撃てたかもしれない。
しかしそれは仮定で終わり、私は父の仇に処女を散らされようとしている。
最悪の事態。
最悪の展開。
屋敷の外では、イグレシアスが私の発砲を待っているのに。
イグレシアスだけでなく、何十人ものソシアスたちが、今日という日のために耐えがたきを耐えてきたのに。
こんな形で、私の復讐が終わるだなんて――。
「ほら、すっかり濡れているぞ。そんなに俺のペネが欲しいか」
「あ、あ――」
下着を剥がされ、私の秘部が晒される。ディランの言うようにしっとり濡れた割れ目は、まるでこの男の剛直を待ち構えていたかのように、淫靡にテカっていた。
ソシアスは終わりだ。
私は母のようにディランの愛人の一人となり、やがて自らセックスの快楽を求めるようになる。
(ごめんなさい、お父様――)
全てを覚悟し、私は強く瞼を閉じた。
もう全て終わってしまえばいいと思った。
ソシアスも。
私の命も。
そうすればもう、家を背負って苦しむようなこともなくなる。
ソシアスという枷から解放され、自由になる。
もし生まれ変わったら、もっと平和に国に生まれたいと思った。
銃も麻薬もない街に生まれて、争いも諍いもない世界で恋をして、幸せな家庭を作る。
それが私、ディアナ・ソシアスの、次の人生での夢だった。
(え――?)
しかしいつまで経っても、破瓜の痛みも、憎き男に押し倒される未来も訪れなかった。
代わりに耳に響くのは、何かを殴る、鈍器のように鈍い音。
そして誰かが床に倒れる、ドサリという音だった。
「お母様……?」
目を開けると、頭から血を流したディランが、床の上に倒れ込んでいた。
そして目の前には、大理石の置物を両手に抱えた母が、決死の表情で床に横たわる愛人を見つめていた。
「ごめんね、ディアナ……」
そこにいたのは、私のよく知る優しい母だった。
父と三人で暮らしていた、ソシアスが幸せだった頃。
あの幸せだった日々が、目の前で蘇ったかのようだった。
「ディランはもういない。私たちのソシアスをめちゃくちゃにした悪魔のような男は、私が地獄に突き落としたから」
ディランの返り血に染まる母の姿は、決して聖母からは程遠い。
悪魔とか地獄とか、決して普段は使わない言葉を用いても、笑っているのは聖母マリアのような母の姿だ。
「……お父様のトカレフね」
床に落ちた父の銃を拾い上げ、愛おしそうに見つめる母がそこにいた。
人を殺すための道具。
私なんかより、お母様の方がずっとずっと似合わない殺人機具。
しかしそれでも、父との思い出が詰まった銃だ。
お父様が私たちの前でその銃を抜くことはなかったけど、この銃には確かに、私たち家族とソシアスを守ろうという誇りに満ちていた。
その銃は、私たち家族を、ソシアスを象徴する誇り高き銃だ。
「お母様……?」
その銃を、母は悲しそうに持ち上げ、
「こんなお母さんだったけど、許してちょうだいね」
涙を浮かべながら、慈母のように優しい笑みを作り、
自らの指で、そのこめかみを撃ち抜いた。