皮肉にも母の自決の銃声は、ソシアス蜂起の導となった。
周辺で待ち構えていたイグレシアスたちが屋敷に乗り込み、何人かの死者は出しながらも、組織の制圧に成功した。
イグレシアスの目論見通り、トップを失った組織は脆く、各地におけるソシアスの蜂起もほとんどが成功に終わったようだった。
目の前で母親を失った私一人を残して、ソシアスは復興する。
お母様の葬儀のことも、新しくリーダーになった私自身の任命式のことも、私はほとんど覚えていない。
ファミリーの運営はイグレシアスたちに任せていたし、私自身は単なる旗印でしかない。
何より父も母も失ったこの私に、ソシアスを守ることの意味を見出すのは、不可能に近かった。
あれから十二年。
ソシアスはかつてのように復権したが、やがて摂政であるイグレシアスの病気を境に、衰退した。
父の遺志を受け継いだ古株たちは、確かな誇りと覚悟を持って、ソシアスを復権させた。
しかし父の威光を知らない若い世代が実権を握ると、たちまちのように腐敗する。
私自身、麻薬にもお金にも興味はなかったし、ソシアスのトップという立場自体、重荷以外の何物でもなかった。
私は父ではない。
あのディランを撃てなかった人間に、
母を守れなかった娘に、組織を束ねる能力などない。
そこにもうかつてのソシアスはなかった。
男どもは当たり前のように女を犯し、麻薬を広め、街ごと腐らせていった。
堕落した組織に未来はなく、かつてのディランのような新興カルテルに盟主の座を奪われ、次第に縮小していった。
そんな私が、組織の復興などには目もくれず、やっていたことと言えば、
「ほら、さっきまでの威勢はどうしたんだ!? その剛直で私を昇天させてみせな!」
男の上に跨って、一心不乱に腰を振ることだった。
イグレシアスが死んで最も堕落したのは、他でもないこの私だ。
私は敵対組織の適当な男を拉致させ、頻繁に蹂躙した。
手足を縛り、銃口を突きつけ、怒張した男性器に跨って、セックスの快楽に溺れた。
たとえ相手が射精しようと、私が満足するまでは決してやめない。
私は、私とのセックスに蹂躙され、悲鳴をあげる男の声が、この世の何よりも好きだった。
レイプは男だけがするものじゃない。
環境さえ揃えば、女にもできる。
ソシアスのリーダーという立場を利用して、私は男たちを蹂躙し続けた。
新たにソシアスの一員になった新人を、扱きの意味で犯し続けることもあった。
私が処女でなければ、あの日ディランを撃つことができたかとしれない。
お母様も死なずに済んだかもしれない。
そんな後悔を埋めるように、男を犯し続けた。
そしてあの日母を犯したディランのように、他の男たちを犯すことで、もう二度と男には負けないという虚栄心を積み上げた。
私は今も、後悔している。
あの日ディランを撃たなかったことじゃない。
ディランに犯されなかったことに。
今でも夢に出てくるディランは、獣のような獰猛さで、処女の私を犯し続ける。
どんなに抵抗しようとも、ディランはセックスを辞めず、私はやがて抵抗する気力を失い、奴の愛人へと成り下がる。
そんな悪夢を繰り返し見続けるのは、もう存在しないあの男への妄執のせいだ。
あの日ディランに犯されていたら、私はきっと母のように屈服していた。
でももし、そうじゃなかったら。
ディランとのセックスに屈せず、逆に私が犯す側に立っていたら――。
そんな妄執が、私の頭にこびりついて離れない。
そんな未来は存在しないとわかってる。
でも私は、セックスでディランを屈服させたかった。
ディランの上で腰を振り、何度も何度も射精させ、もう許してくれと懇願するディランに向かって、ざまあみろと言ってやりたかった。
それはトラウマの一つだと、最近学んだ。
私はあの日の夜を追体験することで、そしてありもしなかったディランを犯すというシチュエーションを擬似体験することで、母を失った傷を払拭したいようだった。
でも犯すべきディランはもういない。
救うべき母もいないし、守りたかった父もいない。
そんなリーダーが束ねる組織に未来などあるわけがなく、私は自らの意思で、ソシアスを終わらせることを決めたのだった。
解散、と言えば簡単だが、悪事を満喫する男たちを市中に開放することは、決して好ましいことじゃない。
だから私は敵対組織に麻薬の販売ルートを構成員ごと引き渡し、悪党どもの管理を依頼した。
早い話が身売りで、かつて母がディランにしたことと何も変わらない。
ソシアスは再び敵対組織の傘下に下り、その誇りと伝統を失う。
私はようやくソシアスという重荷から解放され、自由の身となる、はずだった。
「ほんと、下衆野郎ね」
かつての部下たちに、私はたまらず言い放った。
私が余生を送るだけの金は、当然ながら確保していた。しかしその金を、部下たちは口座ごと奪い去ったのだ。
「下衆の姉御には言われたくないっスよ。今この場でレイプされて殺されないだけでも、感謝してもらいたいもんです」
トップが腐れば、部下だって腐る。
そんなことはわかりきっていた。惜しむらくは少なからず自分が部下の信用を得ていると思っていた驕り。
いくら私が父の血統を引いていても、その父の威光を知る者はもういない。
「あなたへの中出しは最高でした。その後の十二時間レイプは頂けませんでしたが、元ボスの気持ちいいCoñoに免じて、丸腰で解放してあげます」
私の目の前で下卑た笑いを浮かべるのは、私が新人の頃に犯し倒した男だった。
コイツに限らず、ここにいる男たちは私が一人残らずレイプした。
当時、コイツらは私に泣いて許しを懇願していたが、今となっては女を性欲処理の道具としか見ないディランと何も変わらない。
一人残らず殺してやりたいと思った。
でもできなかった。
多勢に無勢だから?
コイツらが男だから?
もう私に、男どもを犯す意志が残っていなかったからだ。
今更ディランの妄執に取り憑かれても仕方ない。
もうお母様もお父様もどこにもいない。
信頼していたイグレシアスでさえ、私を置いた逝ってしまったのだから。
「他でもないソシアスのボスが丸腰じゃ顔が立たないんで、一発だけ弾を詰めておきます。どう使うかはボスの自由なんで。あ、元ボスでしたね。すみません」
元部下たちは私の愛用のショットガンに、一発だけ弾を詰めて出て行った。
私たちの組織において、それは自殺用を意味していた。
自分を殺すためだけの、弾丸。
部下たちは私に死ねという。
かつての母のように、自ら引いた引き金で。
「馬鹿馬鹿しい。なんで私が」
仮にこの場で自殺するなら、母が自裁したときにとっくにそうしている。
それでも私が生き長らえてきたのは、男には負けないという気概を、体現したかったからだ。
もちろん、その虚栄を張る相手ももういない。
ディランは死んでしまったし、ソシアスも存在せず、部下たちももういない。
父やイグレシアスが守ってきたソシアスを、私は売り払ったのだ。
私には何もない。
あるとすれば、男を蹂躙したいという悪弊だけ。
でも銃弾一発じゃ、部下たちを脅すこともできない。
敵対組織の人間ならなおさらだ。
脅せるとしたらせいぜい、愚にもつかない一般人か、何と知らない旅行者しかいない。
「待て!!」
すると地上から、男たちの声が響いた。誰か追われているのだろうか。足音が近づいてくる。何かから逃げるような足取りで、慌てて私の元アジトの前に走ってきたのは、
朴訥で、見るからにトロそうな、アジア人の旅行者だった。