「ほんと、あんたバカじゃないかしら」
結局私は、一晩中この男に犯されていた。
何度となくイかされ、何度となく中出しされて、私はただ素直に、こいつの奴隷としての役割を全うした。
このハポネセスは思った以上の性豪で、私は何度も失神させられた。
中出しされた回数は十数回を越え、私が絶頂させられた回数は、その三、四倍は下らなかった。
「住所教えなさい。ガキができたらあんたのとこに嫁に行ってやるわよ」
十数回イかされた後ぐらいから、私はそんな馬鹿げたことを考えていた。
あれだけ中で出されたのだ。私の子宮を下りて受精する気満々だったし、この男か私のどちらかが不能でない限り、確実に受精はしている。あとは着床するかどうかだが、それはもう神のみぞ知る世界だ。
もし私がこの男の子供を孕んでいたら、お母様が「この男に付いて行け」と言っているのだと、私は自分勝手に解釈した。
もし孕んでいなかったら、ソシアスの闇を背負ってひっそりと死ねと、お父様が言っているのだろう。
そんな賭け、馬鹿げてると思う。
そもそも自分の人生をそんな不確実なものに託すなんて、私らしくない。
でももうソシアスはないのだ。
ソシアスのボスだった私はもうおらず、これからは何もないまっさらな世界が広がっているだけ。
ならばせめて最初の一歩ぐらい、サイコロを振って決めるのもいいと思った。
私のソシアスという血筋自体が、生まれというサイコロの結果なのだから。
「ダイス、ケ……」
多分そう読むのだろう。
男から差し出されたパスポートには、そう記されていた。
自分より一回り近く若い日本人の男に、まさかに人生を託すことになるなんて思いもしなかった。
そもそも関わること自体がありえなかったのだ。それがソシアス解体の日に起きたこと自体、何かを示唆していると捉えても不思議じゃない。
「返すわよ。昨夜のセックス代には、これくらいじゃ足りないかもしれないけど」
私はダイスケから奪った札束をそっくりそのまま突き返した。
そもそも私の金じゃないし、仮にあの時点で私の金になっていたとしても、昨夜のセックスにはこれを全額支払うくらいの価値があった。
少なくとも私は、思いもしなかった臺子(ダイス)をひとつ、手に入れることができたのだから。
しかしダイスケは意味がわからないと言わんばかりに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
まるで自分自身のお金を返されるのが、不自然だと言いたげな顔だ。
「いいからさっさと受け取りなさい。このままここに残られちゃ色々と不都合なのよ」
私はダイスケに無理やり札束を握らせた。
まさかこのアジトで日本人の青年と新生活を送る気はない。
もしあるとしたら、まだ見ぬ東洋の島国。こいつの生まれ育ったハポンという国になる。
「ここでお別れよ。もしガキが出来てたら、違った未来も来るかもしれないけど」
私はショットガンとナイフを持って、外への階段を登り始めた。
受精はしたとしても、着床なんてそうそう起こらない。
多分、おそらく、きっと、私は妊娠なんてしていない。
「まあ、今更アタシに昼の世界が訪れるかはわからないけど――」
最後に一度だけダイスケの冴えない顔を見て、私は出口へと向き直った。
多分これで見納め。
でももし、これが見納めでなかったら――。
ディアナ・ソシアスは、日本という国で新たなファミリーを作ることになるかもしれない。