久々の欧米圏に降り立つと、やはり白人の多さに驚嘆する。
驚嘆も何もここは欧米なのだから当たり前なのだが、日本では稀にしか見かけない白人がここでは当然ながら大多数で、僕らのような黄色人種やアラブ系、アフリカ系の人たちも見かけるけれど、やはり圧倒的比率を占めるのがアングロサクソン系の白人なのだ。
彼らを見ると、まだ少し緊張する自分がいるのは、道を歩く女性に美人が多いからか、はたまた自分が旅行者というforeignerだからなのか。
とはいえ中国系の人たちが世界各地に進出する昨今、アジア人の旅行者がイギリスの空港で突っ立っていたところで誰も気に留めない。
時折「なんか野暮そうな冴えないアジア人だな」という感じの冷めた視線を向けられることもあるが、基本的に彼らは僕・坂上大介という人間に対して無関心である。
「やっぱり、すごいな……」
道行く人たちの群れには、時折とんでもない巨乳美女が混じっている。
身長180センチ近くありそうなすらりとした美人が、アッシュブロンドのセミロングヘアーを風に揺らしながら闊歩している。
ピンク色のノースリーブとタイトジーンズはバストとお尻の部分がパツパツで、その中身の豊満さを物語っている。FカップだとかGカップだとか、多分そういうレベルじゃない。白人の女性にしかありえない豊満なスタイルで、当たり前のように空港内を歩いている。
ここが日本だったら多分、百人中百人の男が振り返る。
豊満すぎるバストに目が釘付けになり、迫力ある尻を姿が見えなくなるまで視線で追い続ける。
そのレベルのナイスバディ美女が、欧米にはそう少なくなく存在している。
白人だからと言って全員が全員スタイル抜群の爆乳というわけでは全然ない。ガリガリの女性もいればとんでもない肥満の女性もいる。ただやはり標準的なサイズが日本人女性とは違うし、日本で言う「爆乳」が、こちらでは単なる「巨乳」でしかないのである。
骨格の違い。遺伝子の違い。人種の違い。
彼らの方が身体が大きいのだから胸もお尻も大きくて当たり前なのだが、どうしてもあちらこちらに目移りしてしまう。そういえば、先程のジェシカさんも胸が大きかった。どうして彼女のような美人CAが僕のような冴えない日本人とSEXしてくれたのかは最後までわからなかったけど、彼女の上下左右に激しく揺れるど迫力のバストは、今でも僕の脳裏に焼き付いている。
“Excuse me.”
すると突然、背後から声をかけられた。
若いというより、どちらかと言えば「幼い」声質。
海外で他人から声をかけられて、あまり良いことがあった試しがない。
わかりやすいところで言えば、ロサンゼルスの同じく空港で声をかけられたサラだ。
彼女は渡米したてで何もわからない僕をひと気のない路地裏に呼び出し、僕にとって初めてのフェラチオを始めた。
相手がまだ幼い少女ということもあり、油断していた僕は、まったく無防備なイチモツを取り出され、あれよあれよという間に射精させられてしまった。
結局サラは美人局で、僕は柄の悪い外国人男性たちに取り囲まれ、辛くも脱出したのだけれど、以来向こうから声をかけてくる外国人は、その年齢に関わらず警戒の対象だ。
「は……はい」
恐る恐る、僕は背後を振り返る。
そこに百人のギャングを携えた少女が立っていても驚かない。海外というのは恐ろしいところだ。僕はコスタリカで実弾の入った散弾銃を突きつけられたのだ。
”What's your name?”
しかし、目の前に立っていた少女の姿に、僕は視線を奪われた。
不思議の国のアリス。
僕がそんな風に思ったのは、ここがイギリスだからとか、そんな単純な理由じゃない。
目の前の少女が、まさしく僕が思うアリスそのものだったからだ。
年の頃は目測で中学生ほど。実際のアリスは確か小学生くらいだったと思うけど、目の前の少女はやや大人びていて、均整の取れた顔立ちにある程度の幼さを残すのみだ。
僕を見つめる瞳は鮮やかなスカイブルーで、ブロンドのロングヘアーと相まって、さながら妖精の似姿を思わせる。
少女は別に、水色のエプロンドレスを着ているわけではない。
白いパーカーにジーンズという、どちらかと言えば簡素な格好で、にもかかわらずなぜ僕が彼女を「アリス」だと思ったかというと、少女がその小さな小脇に、『不思議の国のアリス』に登場する、白ウサギのぬいぐるみを抱えていたからだ。
未だに欧米圏の人間の正確な年齢はわからないが、少なくとも十三、四。日本で言えば中学校に通っている年頃の少女がぬいぐるみのマスコットを抱きしめながら歩いているというのは、いささか奇妙な感じがした。
もしこれが僕の目測が間違っていて、本当の年齢が小学校中学年くらいなら、まあなくはないだろうというレベルだ。
でもだとすると少女は歳の割に相当大人びていて、真っ白なパーカーの下の胸元も、少なからず膨らんでいることになるのだが。
”What's your name?”
透き通るような声で、少女は再び僕の名を尋ねた。やはり、声質的にも中学生以上。そんな年頃の少女がウサギのぬいぐるみを持ち歩くというのは、やはり若干以上の違和感があった。あるいは僕が知らないだけで、イギリスの中学生はみんな何かしらのぬいぐるみを持ち歩く文化なのかもしれないが。
”WHAT IS YOUR NAME?”
彼女はやや苛立ったような声で、その端正な顔立ちをぐいと近づけてきた。
単語と単語を強調して、これぐらいの英語はわかりなさいよという意味なのか、ぼさっと突っ立ってるんじゃないわよという意味なのか。
いずれにせよその反応から、僕は彼女のやや高飛車っぽい性格を連想した。
アメリカのスタンレー農場にいたキャロルとは、多分真逆な性格の女の子だろう。
「ダ、ダイスケ、サカガミ」
久々の英語で、緊張する。
久々も何もアメリカにいた頃もロクに英語など喋っていなかった気もするが、少なくともほぼ意味のわからないスペイン語圏とは違って、最低限の意思の疎通は可能だ。
“Are you Chinese?“
多分これ、すでに百回近く聞いたセリフだ。彼らの中で黄色人種は十中八九中国人なのだろう。
「ジャ、ジャパニーズ」
同じく百回近く使った返答を繰り返す。白人からして見れば、アジア人は全員同じに見えるのだろう。僕はこれまでSEXした白人女性は、全員区別がつくけれど。
“Are you unmarried?”
続けざまに、少女は僕を見定めるように吟味しながら、質問を変えてくる。
アンマリー?
マリーが確か「結婚」だから、否定型で「結婚していない」、つまり独身という意味か。
「イ、イエス!」
ある程度の文法のわかる質問には、自信を持って答えるようにしている。でないと会話が成立する場面がほとんど存在しないからだ。
”Ummm.”
文字通り「ふーん」という感じのスタイルで、少女は僕を眇める。
この流れはまさかプロポーズか、と捉えるほど僕もお人好しじゃないけれど、それでもここまでの美少女に見つめられると、相手が未成年でもドギマギしてしまう。
”That big size is in...“
すると少女は、今度は品定めするように僕の股間をジロジロと見始めた。
たしかに相当ボロボロのジーンズだけど、場所が場所だけに見つめられると困ってしまう。
”Do you like white?“
「ホ、ホワイトって」
それはおそらく、文字通りの「白」を意味するのではなく、彼女のような「白人」のことを言っているのだろう。
白人が好きか?
そう改めて聞かれると返答に困ってしまう。
これまで出会ってSEXしてきた白人女性のことを、僕は全員好きだ。コスタリカで散弾銃を突きつけて来たディアナさんでさえ、その情熱的なSEXも相まって、そこまでの悪人には思えなかったほどだ。
でもそれは白人女性とのSEXが好きなだけであって、白人女性そのものを好きという意味には必ずしもならない。
なぜなら僕は彼女たちと言葉をもってわかり合ったのではなく、あくまでSEXを通じて快楽を共有、または一方的に享受したに過ぎない。
そんな彼女たちに対して、易々と好きという言葉を使うのはなんだか軽薄な気がした。
僕はまだ、彼女たちを好きという権利を有していない。
“Difficult?“
難しい?
と少女は尋ねる。僕は当然神妙な面持ちが考え込んでしまったので、少女は「厄介なやつを捕まえてしまった」という顔をしている。
少女はぶつぶつと何かを呟き、よりわかりやすい質問文を思案しているように見えた。
しかしやがて最適な答えを探すのを諦めたような表情で、彼女はばっさりと質問を言い換える。
“Do you like SEX with white?”
あなた、白人とのSEXは好き?
その程度の英語くらいは、僕にもすぐ理解できた。
意図が理解できるかどうかは、全くの別問題だけれど。