エミリーとの一晩中のセックスが終わり、朝を迎えた頃、僕らはどこからか差し込んだ朝日でようやく互いの体を視認し、面映い思いで互いの視線を反らした。
エミリーの体はやはりとんでもなく綺麗で、予想外にふくよかな乳房は中央にとんでもなく美しい薄桃色の乳輪と乳首を備えていた。
下腹部のピンク色のスジも、柔らかそうなお尻も、すべて互いの汗まみれで、もっと言えば彼女は僕の精液まみれだった。
その精液に対して、エミリーはちっとも嫌そうな顔をせず、しまいには指でひと救い取って舐め取ってしまった。
男の精液を飲み込むという行為はとても卑猥なものなのに、その後のエミリーの笑顔があまりに天使で、僕は彼女こそが正真正銘神の使いだと確信していた。
「これ……日本での僕の連絡先」
“Merci”
水のシャワーで一緒に体を洗った後、僕は朝日が眩しい地上で、パスポートの切れ端に書いたメモを手渡した。
僕の日本での住所と電話番号の記されたメモ。それをエミリーは笑顔で受け取った。僕が付け焼き刃で発した「メルシー」とは違い、彼女の発音はどちらかというと「メクシー」で、昨夜彼女が怪訝な顔をした意味が少し理解できた。知ったつもりになっていても、僕らは互いの国の言葉をちゃんと知らない。しかし言葉を知らなくとも、僕らはなぜかセックスでこうして友人になってしまう。
ちなみに旅先で僕とセックスした女の子たちはほとんどが僕に連絡先を聞いてくるけど、いったいそこにどんな意味があるんだろうか。みんなペンフレンドに飢えているんだろうか。
“À bientôt.”
広場で軽くキスをして、僕らは別れた。普通に考えれば今生の別れだが、彼女の挨拶はやけにあっさりしていて、また一ヶ月後くらいに会えるかのような態度だった。
「……さて」
一晩中セックスしていたので眠いが、僕にはまだ旅がある。昨日の今日でホテルに行っても断られることは目に見えているので、それならば次の旅路を急いだ方がいい。
フランスから鉄道で行ける次の国は、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ、スイス、イタリア、モナコ。
ぜひとも行きたい国はあるが、正直言うとここからのルートは未定だ。アメリカと、予想外に訪れてしまった中南米でのロスがあり、僕に残された夏休みは一ヶ月もない。少なくとも逆走してスペイン、ポルトガルというルートはまずない中、行き先を決める前に僕がすべきことがある。
「あれから完全放置だしなぁ」
コロンビアから写真付きのハガキを送ってから、実家や拓真への連絡は一切ない。そもそも母さんや拓真にはアメリカを横断してイギリスに渡り、以後は陸路で日本に帰ってくるという大雑把なルートしか説明しておらず、突然コロンビアからハガキを送って向こうを心配させていること請け合いだ。
「せめて電話でもしとくか――」
僕は駅で国際公衆電話を見つけ、実家に電話を掛けた。しかしあいにく留守電になってしまったので、現在地とこれからの予定だけを残して、僕はもう一つの連絡先に電話を掛ける。すると、
『お前、大介か!?』
「あ、拓真か、久しぶり」
久しぶりの親友の声に僕は表情をほころばせたが、向こうはなぜだが慌ただしい。何かのっぴきならないタイミングで電話してしまったのかと焦ったが、
『何言ってんだ! 全部お前が原因だぞ!!』
拓真の家はアパートの一人暮らしのはずだが、なんだか部屋が騒がしい。よく聞くと複数の女性の声のようだった。しかもそれは、言語が明らかに日本語ではない。
『Daisuke!! I miss you so much!!』
「その声は――リズ!?」
電話越しに聞こえた女性の声は、ロサンゼルスで会ったウェイトレス、エリザベスの声だった。どうしてリズが日本にいるんだ?
『Daisuke. Come back soon.』
「アマンダさん!?」
その大人っぽく色っぽい声は、間違いなくトラック運転手のアマンダさんだった。どうしてリズとアマンダさんが拓真の家に。
『どうなってるんだ大介! お前を訪ねてハリウッド女優のキャサリン・マクブライドまで来てるんだぞ!?』
「キャサリン・マクブライド?」
僕はハリウッド映画には詳しくないので、その名前には全然ピンと来なかった。
『Hi, boy.』
「え!?」
しかし声を聞いた瞬間、それが誰だが一瞬で理解した。ロサンゼルスで、僕の童貞を奪ったブロンドヘアーの娼婦さん。
その娼婦さんがなんでハリウッド女優なのかまったくわからないけれど、僕がアメリカでセックスした女性たちが、軒並み拓真の家に集まっていることは理解できた。
それだけではない。
『¡Hola! Japonés.』
「ディアナさん!?」
そのスペイン語を聞いた瞬間、彼女が誰だが理解できた。コスタリカで僕に散弾銃を突きつけたディアナさんだ。
いったい全体、意味がわからない。
僕が旅先でセックスした女性たちの、半分近くが拓真の家に集まっている。しかも最近セックスした相手はまだだから、これからも増えていく可能性すらある。
「どうして……」
思い至ったのは、僕が彼女たち全員を妊娠させてしまった可能性だ。
僕に責任を取らせるため、慰謝料や養育費を請求するために彼女たちは日本にやってきた。彼女たちがわざわざ僕の住所を聞いたのは、後々で慰謝料を請求するためだったのか?!
『旅行なんてやってないで早く帰ってこい!! こっちのアパートはもう女性陣で埋め尽くされてるぞ!!』
拓真の叫びは真に迫っていた。ほとんど寝ていないようにも聞こえる。僕の代わりに拓真が慰謝料を請求されて、日々眠れない日々を過ごしているのかもしれない。
「わ、わかった! できるだけ早く帰るからっ!!」
『Wait!! I love you Daisuke!!』
怖くなった僕は急いで国際電話を切っていた。最後にリズの声が聞こえた気がしたが、本当にあの子も妊娠してしまったのだろうか。
「ゴムなしでしたのは、やっぱまずかったかな……」
童貞を捨てられた感動で、所構わず中出しセックスをしまくってしまった。そのツケをまさか、親友の拓真が払わされているなんて、思ってもみないことだ。
今朝別れたエミリーも、その天使の笑みを悪魔に変えて、妊娠の慰謝料を請求してくるのだろうか。なんとも身につまされる話だが、自分で仕出かしたことだ。男として責任を取らねばならない。
「どうやって責任取るんだよ……」
電話越しで聞いただけでも、四人。
四人の女性と生まれてくる四人の子供を、大学生の僕がどうやって養うって言うんだ。
「考えていても、仕方ないか……」
おぼつかない足取りで、僕は次の目的地へと歩き出す。目指すはパリの国際空港だ。こんな事態だ。傷心旅行も何もない。
しかし――、
「まだ、やり残したことがあるんだ……」
僕が世界一周旅行に来た理由。それは百人の日本人女性に振られて傷ついた心を癒やす目的もあるが、その他にもう二つ目的があった。
「せめて、あと二カ国だけ……」
おぼろげな思考で、僕は航空券のチケットを予約する。
行き先は日本ではなく――。