再会①
四十六日ぶり。
約ひと月半。
僕が、再び生まれ故郷に降り立つのにかかった時間である。
当初の予定では、もう少し長く旅を続けるつもりだった。
正確に言えばフランスを出る手段として飛行機ではなく鉄道を使い、イタリアやスイスといった、ヨーロッパ旅行では王道の旅程を歩む予定だった。
しかしそもそも、アメリカの次がイギリスでなくコスタリカだった時点で、僕の旅程は破綻している。
それ以前に世界各国の美しい景色や街を見て、女の子たちに振られた心の傷を癒すことが目的だったのに、いつの間にか各国の美女たちとSEXをする旅行になってしまったこと自体が、初志貫徹という僕の志しからは遠く離れたものだった。
世界各国の女の子たちとしたのは、異文化交流ではなくゴム無しのSEX。
まあそれすらも異文化交流のひとつと言えなくもないが、日本ではあれだけ渇望しても二十年以上童貞だった僕が、欧米圏に来るとSEXし放題というのは、フリーセックスという彼らの文化と、奥ゆかしくシャイな日本文化との多大なる違いだと実感する。
彼女たちは皆、ほとんど面識のない僕とでも構わずにSEXする。
信じられないかもしれないが、実際にそうだったのだから仕方がない。
東方見聞録ならぬ西方見聞録が現代にあるとしたら、西方の女性たちは皆美しく巨乳で、アジア人が相手だろうと構わずSEXしてくれる心優しき女神たちであると、僕は臆面もなく記すことだろう。
閑話休題。
ある意味でもう一生童貞であることを覚悟した旅で、こうも豪勢に童貞を捨てられたのは、非モテの化身である僕からは代えるもののない僥倖だった。
しかし福転じて災い。
フリーセックスの文化にかまけて誰彼構わず中出しSEXしてしまったことで、僕は人生最大のピンチに直面してしている。
僕が行く先々でSEXした女性たちの多くが、親友である拓真の家に押しかけて来ているというのである。
まずはロサンゼルス郊外のレストランでウェイトレスをしていたリズ。
彼女とは三日三晩に渡って恋人同士のようなSEXをしたからよく覚えている。
最初は日本人である僕に対してツンケンというか敵意すら剥き出しにしていたが、最終的にはI love you, Daisuke.と、愛の言葉まで囁いて来るようになった。
そして次に現れたのは、ロサンゼルス郊外で僕がヒッチハイクした女性トラック運転手のアマンダさんだ。
フリーウェイの途中でタイヤがバーストし、救援を待つ間冗談めかして彼女の方がSEXに誘って来た。
小麦色の肌と、南米の血を彷彿とさせるソバージュの黒髪。
はちきれんばかりの巨乳と巨尻。
そんな彼女を見て、童貞を卒業したばかりの僕が耐えられるわけもなく、僕は気付けば荒野の空の下で、彼女と夢中で野外SEXしていた。
これぞまさに、アメリカンSEX。
途中、銃口を突きつけられた記憶もあるが、彼女の身体が凄すぎてよく覚えていない。
救援が来てからもトラックの中でSEXして、アマンダさんも色っぽくも可愛らしい喘ぎ声を聞いたことを覚えている。
その次は僕がロサンゼルスのゴミ箱で出会った娼婦さんだ。
僕が生まれて初めてSEXして、好き放題中出しした相手。
そのSEXは信じられないほど気持ちよく、後ろから揉んだ白人女性のとんでもない爆乳に、僕は腰を振りながら歓喜したことを覚えている。
実はキャサリン・マグブライトという名の元ハリウッド女優だというが、真相のほどは定かじゃない。
最終的にはコスタリカの地下室で僕を監禁したディアナさんまで来日しており、拓真の家は今大変らしい。
全員が、現地で僕とSEXした女性。
考えられる来日理由は、お腹に出来た子供の責任を取らせるため。それ以下にありえない。彼女たちが僕と再び会う理由など、それ以外にないのだから。
「はぁ……」
そう思うと、家に帰るのが陰鬱になる。
自分でしでかしたこととは言え、一度に四人もの女性に責任を取ることの非現実生を、わからない僕ではない。
お金はない。
まあ通帳を落として下ろせなかった口座の中の百万円はあるが、それはスタンレー農場のアリシアさんへの借金があるので使えない。
手持ちのお金の余りはあるが、そんな端金で四人もの女性への責任が果たせるとは思えない。
四人。
しかもそれは最小の人数で済んだ場合だ。
僕が旅先でSEXした女性はその十倍近くおり、僕がノロノロとシベリア鉄道で東進する間に、新たな女性が来日していてもなんらおかしくないのだ。
そうなるともう、経済的には破綻する。
破綻だけならまだいいが、慰謝料を請求する女性たちに殺される可能性だって見えなくもない。
何より、旅先で二桁人数の女性に無責任に中出しした最低野郎として、家族や拓真からの信用も失うだろう。
そうなるともう、実家にも拓真の家にも帰れない。
「どうしよう……」
僕は実家と拓真のアパートのちょうど中間にある公園のベンチで頭を抱えていた。
本当ならば数十日ぶりの日本。懐かしい景色や空気に思いを馳せていても不思議ではないが、残念ながらそんな余裕はカケラもない。
できるならもう一周世界を回って執行猶予を設けたいぐらいだ。いっそのこと本当にそうしようか。まだ旅の途中だと言えば、当面の問題は全て先送りに――。
“Привет, Дайсуке(Daisuke).”
聞き覚えのある声に顔を上げた僕は、この時点で全てが遅かったのだと知る。
ゆるふわロングのブロンドヘアーを携えた、上品で清楚な高校生くらいの女の子。
ロシア人のそれを象徴するたわわな胸元を見たとき、僕はもう逃げることなど到底できない世界にいることを知る。
エミリヤ・リプニツキー。
それが彼女の名前だったはずだ。
シベリア鉄道の最終日に、僕とひたすら車窓SEXしていたロシア人の高校生。
時間にして、多分12時間も経っていない。12時間も前には、僕は彼女とSEXしていたのである。
そんなエミリヤが、今僕の目の前、しかも日本の公園にいる。
彼女に日本の住所は教えてないから、ウラジオストクの空港から、ずっとつけられていたということになる。
そこまでして、エミリヤが僕について来た理由。
慰謝料か?
妊娠しているかどうかなんてまだわかるわけない。予感はあっても医学的証拠はないはずだ。
だとしたらシベリア鉄道の車内でレイプされたことへの抗議なのか。
でも僕の記憶が正しいなら、彼女は僕とのSEXを拒みはしなかった。
だとしたら一体、なぜ?
同じような問いが、頭の中をぐるぐる回って離れない。
そんな僕に向かって、彼女が聖母のように優しい笑みでこう告げる。
“Ты бы женился на мне, Дайсуке?”
ロシア語なんて、わかるはずもない。
かろうじて最後の単語がダイスケなのはわかるが、それ以外は何一つとしてわからない。
でも彼女はそれも織り込み済みなのか、何やら手書きで書いたメモを取り出して、そのメモを見ながらこう言った。
「ワタシ、ト、ケッコン、シテ、クダサイ、ダイスケ」
もちろん、そのたどたどしい日本語を聞いて僕は目が点になった。
何言ってるのこの子。結婚って日本語の意味、履き違えてない?
その反応に、僕がその日本語をよく聞き取れなかったと判断したのだろう。
エミリヤは日本語よりはやや喋れる不確かな英語でこう言い直した。
“Would you marry me, Daisuke?”
碧眼少女の真剣な眼差しと、その単純明快な英文に、さすがの僕も英語がわからないとは言えなかった。
異国の少女からの、まさかのプロポーズ。
冗談で言っているようには到底見えない。
そもそも彼女がわざわざ日本に来る理由も他に思いつかない。
12時間前。シベリア鉄道の中で熱烈なSEXをしたロシア人少女からの逆プロポーズ。
その経緯や、彼女の中で心境の変化があった理由は定かでないが、日本ではまずお目にかかれないとびきりの東スラブ人の美少女が、僕にプロポーズの言葉を向けているというのは紛れもない事実だ。
惜しむらくは、その音声を録音する機器がなかったこと。
そして悲劇的でより皮肉的だったのは、彼女の三つ目のプロポーズが、おそらく万国共通で通じうる英語だったことだ。
“What?”
背後から聞こえてきたのは、別の人物による英語だった。
しかもエミリヤの片言英語とは違う、流暢でネイティブな英語。
その短い言葉の内に怒気や怪訝が含まれていたことを、英語の成績が万年2である僕は不思議と感じ取っていた。
もっと言えばその声は、ロサンゼルス郊外のとあるレストランで聞いたものと同じだった。
来日していることはわかっている。僕が帰って来るまでに帰国している可能性も低いその少女の名を、僕はおそるおそるも口にすることができる。
エリザベス・カーター。
その人である。
“Daisuke!! Who is this bitch!?”
ロシア人にも平気で通じそうなスラングを叫んで、エリザベスことリズは強引に僕の腕を引き寄せた。
途端に、腕に当たるたわわで弾力のある感触。一ヶ月半ぶりに触れるリズのBoobsは、彼女との三日間を想起させるに容易に事足りた。
温かい胸の感触。
鮮やかな金髪によって設られたツインテール。
香水も何もない、無着色の女の子の匂い。
“He is my husband!”
あからさまにおっぱいを押し付けながら、占有権を主張するリズ。
言葉が通じなくても、何を主張しているかはエミリヤにも通じたようで、途端に両者の間にきな臭い空気が流れ始める。
奇しくも、ほとんど同じ年頃の二人。
おっぱいの大きさはロシア人であるエミリヤに軍配が上がるが、どちらも甲乙付けがたい美少女である。
“Daisuke is not your husband.”
「ア、アマンダさん!?」
その後ろで大人の余裕を漂わすのは、トラック運転手のアマンダ・トレイシーさんである。
日本にはまずいない爆乳を強調した白のチューブトップに、南国を思わせるヘソ出しルック。
身長の高さもさることながら、とんでもないスタイルを持つアマンダさんはあからさまに往来の人目を惹いていた。
こんな超絶スタイルのヒスパニック美女と、僕は本当にSEXしたのか?
そう思ってしまうほど、アマンダさんは艶やかで大人っぽい女性だった。
エミリヤを除けば、日本にいるのは織り込み済みの二人。
しかしいざ本人たちを前にして、僕は不思議と罪悪感より恥ずかしいという気持ちになった。
だってあれだぞ?
この人たちと僕はSEXしたんだぞ?
SEXってことは勃起したチンポを愛液まみれのおまんこに挿れて、獣みたく腰を振り合ったってことだ。
こんな美人や美少女と僕が。
ありえないにもほどがある。
“Daisuke. Your friend is waiting impatiently for you.”
リズとエミリヤの国籍を超えた歪み合いには参加せず、大人の余裕を見せるアマンダさん。僕を待っている友達とは拓真のことだ。拓真にも会ってちゃんと事情を話さないと、巻き込んでしまった全ての人への償いにはならない。
“Let's go home.”
アマンダさんの発案で、僕らはひとまず拓真にアパートに行くことになった。homeと言っても拓真のhomeであってアマンダさんたちのhomeではないはずだが、その口ぶりだけで拓真にどれだけの迷惑がかかっていたか推察できる。
「ア、アマンダさん?」
“What?”
僕の左腕は、当然のようにリズががっちりホールドしている。
しかし反対の右腕は、なぜかアマンダさんが同じようにがっちりホールドしていた。
リズを遥かに超える爆乳の感触。それが有無を言わさぬ力で右腕の肘に押し付けられている。
しかし当のアマンダさんは「何か問題でも?」という涼しげな顔で、ひたすら僕を当惑させた。
アメリカ組二人に僕の両腕を奪われたエミリヤは、余った背中に身を預けながら歩いている。あからさまに、そのロシア人バストを背中に押し付けながら。
(思いっきり見られてるよ……)
道行く人々が、僕らに明らかな視線を向けている。
そりゃそうだ。見るからに冴えない日本人の男に、白人の美女美少女が張り付いて歩いているのだ。
その密着具合は、両肘と背中におっぱいの感触を感じられる程。
注がれているのは羨望の眼差しではなく、奇異の視線だ。
あんな冴えない熊のような男が何故?
僕だってそう思う。なんで僕みたいな冴えない日本人に、こんな白人美女三人が密着して歩いているのか。
これだけ密着していても、道行く人たちはよもや僕たちがSEXをした関係だとは思はないかもしれない。
しかし現実は小説より奇なりで、時期は違えど、僕は彼女たち全員とSEXし、中出しまでしている。
それがどんなに畏れ多いことか、身の丈を超えた行為なのか、僕は今更になって自覚して、恐ろしくなる。
いったい何がどうなれば僕のような日本人が彼女たち白人とSEXできるのか。
しかもそこらで出会った一般的な白人ではなく、白人たちの中でも突出した美人である彼女たちと。
正直、お金か脅迫以外の正解が見つけられない。日本人とすらSEXできなかった僕が、なぜ彼女たちのような女性と全力のSEXができたのか。考えれば考えるほど、僕には事の真相がわからなくなる。
彼女たちはなぜ僕とSEXしたのか。
なぜ今もなお僕と一緒にいるのか、何が何だかわからない。
(胸はまずいって……)
両肘と背中にたわわなバストを感じながら、僕は勃起しそうになるのを必死に堪える。
おっぱいだけではない。彼女たちの吐息、温もり、香り、全てが僕の脳と本能に訴えかけてくる。
何より彼女たちと生ハメSEXした記憶が生々しく甦って来て、今すぐ暴発しそうな気分だ。
しかしもし勃てば、この場でSEXが始まるのは明らかだった。
根拠はないが、絶対にそうなる気がした。
だから僕はできるだけ“それ”について考えないようにして、ほとんど無我の境地で拓真のアパートへの道のりを歩いた。
“Oye japonés.”
拓真の部屋の前で待ち構えていたのは、コスタリカで僕を監禁・散弾銃を突きつけて来たディアナさんだった。
雰囲気や出立ちはアマンダさんによく似た女性。
黒髪のソバージュで、堀の深い中南米らしい顔立ちの美人。
しかし胸はひと回り大きく、何より只者でないオーラが半端ない。
アマンダさんがちょい悪トラック運転手なら、ディアナさんは極悪麻薬密売人。
実際に生計を立てているのが何かは知らないが、それぐらいやっていてもおかしくはない悪人オーラだ。現に僕も一度は身ぐるみを剥がされ、所持金を全て奪われた。
監禁され、絶体絶命の最中、僕は彼女とSEXすることで危機を乗り切った。そんな書き方をすると、改めて意味がまったくわからなくなる。どうして監禁者と被監禁者がSEXしてるのか。その結果どうして僕がことなきを得たのか、今となっては永遠の謎である。
しかしディアナさんとのSEXがこの旅でも屈指の情熱を持っていたのは事実で、彼女とSEXしながら僕は、これぞ僕の思い描くラテン系SEXであると、意味のわからないことを思ったことを覚えている。
“Gané la apuesta. Acepta casarte conmigo.”
アパート二階の外階段で、ディアナさんが何かを叫んでいる。
その内容はスペイン語なのでまったくわからなかったけど、
「まさか……」
彼女が意味深にさすった自らのお腹に、僕は全てを察した。
あの中に、ディアナさんと僕との子供がいる。
あのSEXの中で受精に至り、着床まで至った新たな命が、確実に宿っている。
正直、自分でも崩れ落ちると思った。
恐れていた事態が現実に起きて、その重さに耐えられないのではないかと。
しかし僕はその場に立ち続けた。
三人の女性が密着して、体を支えられる形になっているというのもある。
でもそれ以上に、お腹に子供がいると告げたディアナさんの表情が、明らかな慈愛を、女性としての幸せを含むものだったから、絶望は似つかわしくないと思ったのだ。
自身が父親になる。
その事実を前に、この感情をどう名状すればいいかなどわからない。
でも少なくとも言えるのは、こんなに可愛い、乙女のようなディアナさんの顔を見るのは、間違いなく初めてということだった。
まるで、銃や麻薬など全く関係ない、貴族のお嬢様が抱くような、優しい慈愛。
彼女の全てを救うような何かが、ディアナさんの胸に去来したのかもしれない。
その要因がなんであるか、わからないというほど僕も鈍感ではなかった。
“Ella se me adelantó.”
耳元で聞こえたのは、間違いなくスペイン語だった。
発したのはアマンダさん。やはり彼女はヒスパニックで、スペイン語が話せるらしい。だから彼女には今の会話の内容が筒抜けだった。
ディアナさんが僕との子を妊娠していることを、アマンダさんは確実に把握しただろう。
“I'm next.”
僕の真横で、アマンダさんが不敵にほくそ笑む。その言葉はかなり戦慄を感じるものだったが、少なくともアマンダさんは今妊娠していないという事実が、類推的ではあるが僕には把握できたのである。
リズもエミリヤも多分白。
この中で唯一ディアナさんだけが、僕との子供を妊娠した。
それ自体は多分、紛れもない事実だ。
“Hi, Daisuke.”
続いてアパートの中から顔を出したのは、ロサンゼルスのゴミ箱で出会った、娼婦さんだった。
金髪のセミロングで、背は高く、胸も大きい。何より美女美少女揃いの彼女たちの中にあって、彼女の見目麗しさは頭ひとつ抜けていた。
当時は白人の女性と間近で接するのがほとんど初めてだったので、やっぱり白人の女の人は綺麗だという認識程度しかなかったけど、改めて図抜けた美少女たちと並べてみると、彼女の異質さが際立ってくる。
まるで、スクリーンやテレビの中にいるような女性。
アマンダさんやリズやエミリヤも、銀幕の中にいても何ら違和感はないのだけれど、その姿が一番しっくり来るのは彼女だった。
人に見られるために生まれてきた女性。
彼女の容姿やスタイルを見ていると、自然とそう思えてくる。
それがロサンゼルスのゴミ捨て場で娼婦だなんて、今思えば違和感バリバリだ。
到底一般人には纏えないオーラ。
アパート二階の外階段と地上という位置関係とは関係なく、圧倒的に見上げる関係性に、僕は本当にこの人ともSEXしたのか?という疑問が沸々と湧いてくる。
しかも彼女は、人生で初めてSEXした相手。
直前にサラのフェラは挟むけれど、SEXをしたのは彼女が最初だ。
べつに女の子じゃないんだから初めての相手がどうとか気にするのは変かもしれないけど、少なくとも彼女は、在り場所のなかった僕のペニスを優しく咥え込んでくれた、特別な相手でもあった。
「ロ、ロングタイムノーシー……」
まさか、彼女とも再会するとは思わなかった。
なぜなら彼女には住所はおろか名前すらも教えていないからだ。
しかし彼女がここにいるということは、何らかの方法で僕の居場所を突き止めたということ。その方法はおそらく、
“Is this yours?”
「それ――僕の財布!」
彼女がポケットから取り出したのは見覚えのある黒革の財布だった。
あの財布をなくしてから、僕の旅は一気に苦しいものになった。旅の始まりにして、早くも無一文になってしまったからだ。
財布の中には僕の住所の記載されたものも入っている。そこから彼女がこの場所に辿り着いても何ら不思議ではなかった。
しかし問題は、どうしてわざわざ日本まで来たかということだ。SEXの代金を求めてなら、そのまま財布の中身から拝借すればいいだけだし、財布を届けるためなら、わざわざ本人が来なくても国際便で送ってくれればいい話。
やはり、ディアナさんと同じように妊娠したのか。
隣にいる彼女同様、僕が責任を取らなくてはならないのか。
(因果……応報か)
自らのしでかしたことの重さに、押しつぶされそうになる。
そうこうするうちに、彼女が外階段を降りてくる。
ある意味で、僕にとっては死刑宣告。あるいはディアナさんだけなら、責任という形も取れたかもしれないけど、二人相手となると色々な問題が生じてくる。
それこそ、ディアナさんにこの場で銃殺されかねない事態だけど、それを拒む権利は僕にはない。
“Long time no see, Daisuke.”
地上まで降りてきた彼女は、僕の挨拶をそのまま返した。名前で呼ばれるのはもちろん初めて。そうして見ると彼女は本当に美しく、顔の小ささやスタイルの良さに圧倒されてしまうほどだ。
“My name is Catherine McBride. I guess you don't know anything about me...except body.”
キャサリン・マクブライド。
確か拓真がハリウッド女優とかなんとか言ってた人の名前だけど、そんなことはありえない。だってこの人は、ロサンゼルスのゴミ捨て場で働く娼婦さんなんだから。
“Get out of my sight bitch!!”
そんなキャサリンさんに対して、リズが食ってかかる。ビッチなんて穏やかな言い方でないけど、娼婦だからあながち間違いではないし、二人の女性に挟まれた形の僕は何をすればいいのかわからない。背中に押しつけられるリズのおっぱいの感触だけが、戸惑う僕にとって唯一現実感のある感覚だ。
“Get away from Daisuke. You are still a child.”
対するキャサリンさんは笑顔で接しているが、言葉の内容はなんだか穏やかでない気がする。キャサリンさんもリズも間違いなく気が強い方で、仲良くしてと言っても到底無理であろうことはさすがの僕にもわかる。
“Daisuke...”
「え?」
不意を突かれ、キャサリンさんに顔を引き寄せられる。両腕はリズとアマンダさんにがっちりホールドされていたが、彼女の方から身を乗り出してくれば容易に接近はできる状況だった。
でも、
「んっ――」
次の瞬間、まさか唇を奪われるとは、僕は夢にも思わなかった。
彼女の柔らかな唇が、僕の唇に重なる。それだけでは飽き足らず、不意打ちで侵入してきた彼女の舌が、僕の舌に絡みついてくる。
「ん、んっ――」
まさかのキス、唾液交換に、アマンダさんもリズも目を丸くしていた。
もちろん一番驚いたのは僕で、あまりに柔らかで湿り気を帯びた感触に、僕はほとんど放心状態だった。
“I missed you, Daisuke...I want to make love to you tonight.”
大人の女性に、まさかの夜の誘いを受ける。私を買ってという意味ならいざ知らず、彼女の表情も舌の動きも、そういったビジネスライク的なものからは遠く離れていた。
“Get away bitch!!”
“Oh!”
そんなキャサリンさんを、リズが無理やり突き飛ばす。リズとキャサリンさんは今にも殺し合いが始まりそうな剣幕だ。
いったい全体、何が起きているかわからない。
白人の女性四人に取り囲まれ、後ろのエミリヤも、上から見ているディアナさんも、決して穏やかな表情じゃない。
唯一の共通点は、彼女たちが全員僕とSEXした人物だということだけど、それがどうしてこんな事態に繋がるのか、僕には何一つわからない。
「ダイスケ! お前今までいったい何してたんだ!!」
そしてアパートの玄関から這うようにして現れたのは、この部屋の家主にして僕の幼馴染でもある拓真だった。
普段は身綺麗にしている拓真だが、なんだかボロボロだし、目の下に隈もできている。
それこそ、拓真のファンの女の子たちが見たら悲鳴を上げるような状態だ。
拓真の身にいったい何が。そんなことを考える前に、事態は更なるカオスを迎える。
“It’s great to see you! Daisuke!!”
突然、アパートの一階の部屋から、一人の白人少女が飛び出してきた。
発育の良い不思議の国のアリス。
そう表現するのがぴったりな、中学生くらいの白人少女。
スカイブルーの瞳を輝かせ、ブロンドのロングヘアーを揺らしながら走ってきた彼女は、そのままの勢いで僕に飛びついた。
“I’ve missed you so much, daddy!!”
「シ、シルビア!?」
僕のことをダディなんて言う少女は一人しかいない。イギリスのロンドンで会ったシルビア・スタントンだけである。
しかしどうしてシルビアまで日本にいるのか。というかアパートの一階の部屋から出てきたのはどういうわけなのか。僕を訪ねてきた女の子たちが拓真の家に居候するのはまだわかるが、当然ながら拓真の部屋は二階の部屋一つだけのはずだ。
“Hello, Daiske.”
同じ部屋から遅れて出てきたのは、シルビアの母親、ステイシーさんだった。
ブロンドのセミロングヘアーを持った、クールな感じの美人CA。
ロンドンで三日間、彼女たちの家に居候した僕は、シングルマザーであるステイシーさんと娘であるシルビア二人と三日三晩SEXをした。
いわゆる、母娘丼。スタンレー農場でアリシアさんとキャロル母娘とも経験していたけど、美人ママと娘を同時に犯す背徳感は、何物にも代え難い興奮をもたらしたことを覚えている。
でも、どうして二人がここに。
どうして、アパートの下の部屋から出てきたのか。
あまりにも状況が謎すぎて、僕にはまったくついていけない。
「とりあえず……あとは当人同士で話し合ってくれ……僕はもう、体力の限界だ……」
「た、拓真――」
一階まで這ってきた拓真が、僕の足元で力尽きる。ほとんど丸三日寝ていない。そのレベルの衰弱ぶりだ。
できれば親友の介抱を優先したいけど、知りたいことも山程ある。僕はとりあえず拓真を部屋のベットに運んで、それから“彼女たち”の話を聞くことにしたのだった。
エミリヤ。
リズ。
アマンダさん。
ディアナさん。
キャサリンさん。
シルビア。
ステイシーさん。
総勢七人の白人美女に囲まれて、話が穏便に進むとは到底思えないけど。