『アレックス、ここにいるダイスケに運転免許を取らせて貰えないかしら?』
エマさんの運転するステーションワゴンでしばらく北上し、一時間ほどが経った頃、僕らはかなり田舎びた町(と言ってもノースカロライナ州に入ってからずっと風景は田舎だが)にある、お世辞にも綺麗とは言えない平家の施設にたどり着いていた。
表にあるEric Driving Schoolという文字と、前回までのエマさんの話を綜合すると、彼女が僕に運転免許を取らせようとしているということはわかる。
しかし僕が想像する自動車学校というのは、敷地内にそれなりに大きな教習コースを備えており、文字通りの学校という言葉がしっくり来る場所だ。
件のEric Driving Schoolにはコースなるものは一つもなく、車種の統一感のまるでない車が何台か並ぶだけで、およそ僕の知る自動車教習所とはかけ離れている。
問題の平家建ても単なる事務所という感じで、教室や黒板などは全く存在しなかった。
そんな事務所に割と我が物顔で入り込み、目の前のアレックスと呼ばれる女性の前に立ったのがエマさんだった。
アレックスさんは二十代後半、三十歳手前ぐらいだろうか。健康的な日焼けが印象的な、黒髪ショートカットの女性。事務所の椅子に座ってはいるがアメリカ人というだけあって背は高いようで、手足の長さが座位でありながら際立っていた。アメリカのビジネスにおけるドレスコードは緩いのか、白のチノパンに黒のノースリーブという服装で、まさにアメリカンな谷間がありありと主張されている。
そんなアレックスさんの妖艶さにもちろん僕は目を丸くしていたが、突然事務所に入って来られたアレックスさんの方も、ただでさえ大きな目を丸くして驚きを露わにしていた。ちなみにアレックスというのは日本では男っぽい名前の感じがするが、アメリカが女性の愛称としても普通に使われる呼び名だ。おそらくアレクシアとか、アレクサンドラなんていうのが正式な名前だろう。
『……エマ、来るならちゃんと前もって連絡してって、アタシこの前も言わなかった?』
アレックスさんは多少怒りを露わにしつつ、エマさんに向かって溜息をついた。その空気で二人がそれなりに既知の仲であることは窺い知れたが、もちろん僕に対してはそうではない。彼女はエマさんに言葉をかける前、突然部屋に入って来た僕を一瞥し、「何、この冴えないアジア系」というアメリカでは至って普通な視線を向けて来た。もちろんアメリカ人の名誉のために言うけれど、アリシアさんやキャロルみたいに、最初から日本人に好意的な人たちもいる。好意的どころか、彼女たちは母娘揃って僕の子を孕み、出産までしてしまったけど。
『あら、そんなのべつにいいじゃない。相変わらず暇なんでしょ? だったらダイスケに免許を取らせて』
赤の他人から見ればかなり怖いタイプのアレックスさんに対して、エマさんは構わず自分の意見を押し通している雰囲気だった。あくまでなんとなくではあるが、二人が友達というより、先輩後輩の関係を結んでいるのは感じ取れた。もちろんエマさんが先輩で、アレックスさんが後輩だ。アレックスさんの方が明らかに若いし。
『知らないわよ。教習を受けたかったら外の窓口で手続きしてお金払いなさい。そしたら適当な教官が適当に運転を教えてくれるわ』
とはいえアレックスさんも一筋縄ではいかない感じだった。仮に僕の予想通り何らかの上下関係があるにしても、相手の思い通りにいかないという意志が感じられる。
『そんなこと言っていいのかしら?』
『な、なによ……?』
エマさんが割と大仰な態度で不敵に笑む。それまで威勢の良かったアレックスさんが、途端に尻込みするのがわかった。
『あなたにこの職場を斡旋したのも、もっと言えば底辺な生活から救い上げたのも私よね? その恩人の私に対してそんな態度取っていいのかしら?』
『そ、それは……』
会話の内容はハッキリとはわからないが、アレックスさんがエマさんに何か弱みを握られていることはなんとなく伝わってきた。明らかにバツが悪そうな顔をして、威勢を失っていく。
『私の望みはただ一つ。彼が自分の運転でメイン州まで行けるようになることよ。それさえ叶えば、私は何も言わないわ』
満面の白人スマイルを作るエマさん。側から見れば美人が笑顔を作っているのに、背筋がゾッとするとは何故だろう。おそらくだけど、僕は知らなくていい内容なんだと思う。むしろ、知りたくない。
『わかったわよエマ。この猿に運転を教えればいいんでしょ。試験料含めた前金は全部払って貰うわよ。もちろん二割のチップ付きでね』
半ば開き直ったように代金を請求するアレックスさん。途中明らかな差別用語が聞こえたような気がするが、アメリカを旅行する黄色人種である以上、この手の扱いは避けては通れない。
『代金はダイスケが払うわ。彼のこの身体でね』
『なっ――』
絶句するアレックスさんをよそに、エマさんは帰り支度を始める。本当に僕をここに残してサウスカロライナの自宅に帰るつもりだ。
『ふざけないでよエマっ! このアタシがなんでこの猿相手にタダ働きなんか』
『猿じゃなくてダイスケよアレックス。それに彼、凄いわよ。あなたも彼氏と別れてご無沙汰なんでしょ?』
『はぁ!?』
怒りでワナワナと震えるアレックスさんをよそに、エマさんは本当に部屋を出て行こうとしている。しかし彼女は一度踵を返して、僕の元へ歩いて来たと思うと、
『愛してるわダイスケ。連絡くれたらいつでも会えるようにしておくから』
ハグというより抱擁、プラスキス。二児の母とは思えない瑞々しい唇の感触に、胸板に押し付けられる豊満な膨らみ。まさにアメリカンな感触に、僕の股間は思わず鎌首をもたぜそうになる。
『ダメよ。これはアレックスのためにとっておいて』
名残惜しそうに、ズボンの上から僕のイチモツを揉み上げるエマさん。正直その刺激だけで勃起しそうだが、アレックスさんの手前必死に堪える。このままエマさんが出て行ったら、僕はこのアレックスさんと二人きりになってしまうのだから。
『じゃあねアレックス。あなたからお礼の電話が来るのを待ってるわ』
颯爽を手を振り、扉の外に出て行くエマさん。
その友人、というか先輩?の姿を、呆気に取られた様子で見守るアレックスさん。エマさんが目の前で僕とキスをして、挙句の果てにペニスまで触って行った事実が俄には信じられないのだろう。
だってエマさんは人妻で、おまけに二児の母親だ。
僕も初めてショッピングモールで会ったときは「子供にそんなプラカード見せないで」と叱責されたくらいの教育ママで、そんな彼女が夫ですらない男とキスをして、あまつさえあられもない部分を触って行くなんて、おそらく既知の仲であるアレックスさんには信じられなかったのだろう。
だからこそ、エマさんを呼び止めることができなかった。
残されたのは先輩からの無理矢理な依頼と、見ず知らずのアジア人の男だけ。
言ったもの勝ちなところのあるアメリカにあって、アレックスさんは依頼を受けざるを得ない雰囲気である。
『アンタ、エマと不倫してたの?』
Adultery(不倫)という不穏な単語に思わずかぶりを振る僕。確かに僕はエマさんとSEXしたけれど、不倫なんて意識は毛頭ない。強いて言えばあれは、このフリーセックスの国における、ちょっとした不可抗力なのだ。
『そうよね。あんな理想的な亭主のいる女が不倫なんてするはずない。それにアンタみたいな冴えないアジア人がエマみたいな女とFuckできるはずないもの』
Dull Asian(冴えないアジア人)というあからさまな言葉を使われても、僕は言い返さない。だって実際僕みたいなアジア人の男が、エマさんのような白人美女(しかも巨乳)とSEXできるはずがないからだ。
僕のこの数奇な性生活は、単なる偶然。何かの間違いでしかないのだから。
『アンタ、私の恩人であるエマの頼みだから今回は引き受けるけど、代金は四割増しできっちり払って貰うわよ。身体で払うなんてエマの冗談、死んでも間に受けないでよね』
アレックスさんの態度は、あくまでクールなビジネスライクなものが六割。残りの四割はアタシと師弟以上の関係になろうなんて死んでも思わないで、という敵意に満ちたものだった。
僕もできれば、運転を教わるならスタンレー農場のアリシアさんみたいに優しい女性がよかったけれど、こと見た目の綺麗さと胸のボリュームに関してはアレックスさんも全然負けてない。
というかこんな女性と運転教習なんてして本当に大丈夫かと、不安の方が大きいくらいだった。
もし、狭い車内でアレックスさんに欲情なんてしたら、シフトレバーと一緒に竿を叩き折られることは、誰の目にも明らかだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『あなた、SSNは持ってるの? まさか旅行ビザで免許取ろうとなんかしてないわよね』
車での教習に入る前に、窓口で軽く手続きが行われた。手続きというか、かなり雑な態度のアレックスさんに英語で問診を受けているだけだが、そこで僕は大いに躓くことになる。
「アイハブノー、SSN。ビザイズ、B-2」
そう答えた瞬間、アレックスさんががっくりと項垂れた。本気で言ってるの?と、彼女の引き攣った表情がそう伝えている。
SSNとはソーシャルセキュリティナンバーの略で、日本で言うマイナンバーのことだ。
アメリカ国民一人一人に割り振られた番号のことで、当然ながらアメリカに住んでいない僕には発行されない。
そしてB-2とは商用ビザよりも位の低い、いわゆる観光ビザのことで、当然ながらアメリカでの永住権保持者に比べて、できることはかなり制限される。
アレックスさんのこの反応を見るに、僕は運転免許を取得することはできないようだ。
いやまあ、エマさんが知り合いの自動車教習所を紹介すると言った時点で、薄々そうではないかと思っていたけど。
『エマ、こいつSSNすら持ってないわよ。運転免許なんか取れるわけないでしょ』
すかさず、アレックスさんはエマさんに電話した。法律的に無理なものは無理だから、さっさとこのお荷物を持ち帰って、的なことを言っているのだろう。
『ダメよ。何がなんでもダイスケに免許を取らせて。彼は自分の力でメイン州まで行かないといけないの』
スマホ越しにエマさんの声が聞こえる。予想外にエマさんは、アレックスさんに対して強弁な姿勢を取っているようだ。とはいえ無理なものは無理なのだから、一介の自動車教習所の職員である彼女にはどうしようもないことだと思うのだが、
『ここでダイスケを放り出したら、私あなたのこと絶対に許さないわ。あなたが私にしたこと、忘れたとは言わせないわよ』
スマホを持ったアレックスさんが、その瞬間に凍りつくのがわかった。確かにエマさんの口調は強弁な感じだったが、その口調とは関係なく、アレックスさんには凍りつく理由があるようだった。
『彼をメイン州まで連れて行きなさい。これは命令よ。免許が取得できないなら、仮免でも取らせてメイン州まで同乗したらどう?』
笑顔で発せられたようなトーンだが、そのくせ響きは冷徹だ。言葉がわからなくても背筋が凍るような余韻を残して、エマさんは容赦なく通話を切る。言葉を残されたアレックスさんが、またも頭を抱えるのがわかった。
『……これも身から出た錆ね』
しばらく頭を抱えていたアレックスさんだったが、やがて諦めたように吐息を漏らした。おそらくだが、僕に免許を取らせる、あるいはそれに類することをさせる決心がついたようだった。僕自身は、何を要求したつもりもないのだけれど。
『アンタには何の恩義もないけれど、エマの頼みだから今から仮免許を発行させる。もしバレたらアタシは無職だけど、背に腹はかえられないわ』
Cheating(不正)とかDissence(失職)とか、不穏な言葉が並んでいる気がするけれど、彼女の必死さは英語ネイティブでない僕には伝わってきた。それだけアレックスさんにとって、エマさんは“怖い”存在なのだろう。
『言っておくけど、筆記試験は普通に受けてもらうわよ。落ちるたびに30ドルかかるから、受からなきゃアンタの負担が増えるだけよ』
「え? え?」
わけもわからぬまま、パソコンの前に連れていかれる。パソコンの画面には英文が並んでおり、YESかNOの解答欄が用意されている。英文の内容から察するに、これを自動車運転に関する筆記試験のようだった。
まさかの、いきなりテスト。
しかも全部英語でまともに頭に入ってこない。日本の交通ルールすらまともに知らない僕が、どうしてアメリカノースカロライナ州の運転に関する問題に答えられよう。
実質、確率50パーセントのコイントス。
問題は全部で25問あって、合計で18問正解しないといけないようだった。そんなの、一発で合格できるはずがない。
『アンタ、本当に免許取る気あるの……?』
当然ながら、結果はメタメタ。あまりの出来なさにアレックスさんも呆れ果てている。僕は自分の意思で免許を取りに来ているわけではないのだから、試験などできるはずがないのである。
『こんなんじゃいつまで経っても仮免すら取れないわよ? とりあえず今受けた試験代30ドル払って。次からは模試も一通り受けといた方がいいわね』
試験一回分の30ドルを、その場でアレックスさんに請求される。もちろん僕は払えない。なぜならここに来る前にコミッショナーであるサラに全財産を没収されてしまったからだ。
『アンタ、無一文で運転免許取ろうとかいい度胸してるわね。教習代まで踏み倒すつもりだったの?』
冷静な怒りを湛えて、アレックスさんが問いかけてくる。そりゃ僕がしたのは無一文で高級レストランのディナーを注文するに等しい行為なのだから、あからさまに敵意を向けられてもおかしくない。
『そもそもなんでアンタみたいなアジア人がエマとつるんでるのよ。そもそも家庭持ちのエマがどうしてわざわざサウスカロライナからアンタを送ってくるわけ? その時点で何もかもがおかしいわよ』
エマさんと僕の組み合わせをおかしいと主張するアレックスさん。僕だってそう思う。まさか僕みたいな冴えないアジア人と、あのエマさんに三日以上の肉体関係があるなどと誰も思わない。
しかし事実なのだから、僕には何も言えない。エマさんは僕とのSEXの対価として、車まで差し出してくれたのだから。
『まぁエマも昔からお人好しだから、惨めなアンタを見て手助けしたくなったのかもしれないけど、そのおかげでこっちはとんだとばっちりよ』
もはや投げやりな態度で、筆記試験を強制終了させたアレックスさん。元々免許の取れない人間が仮免を取得するのだから、途中で不正をしようが変わらないという判断だろう。
アレックスさんは代理で筆記試験の解答をし、当たり前だが全問正解で僕を合格させてしまった。
『次は路上教習よ。さっさと車に乗る支度をしろ』
鬼軍曹がごとく形相が僕を見下ろす。もはや免許を取らせるとか取らせないではなく、教習で僕をシゴくことが目的になっている節すらある。ていうか絶対にそうだ。目が明らかにそう言っている。あわよくば僕の方から音を上げれば、エマさんの命令に背いたことにはならない。そんな心の声がありありと聞こえるようだった。
改めて確認するが、僕は運転免許を持っていない。アメリカの、という意味ではなく、どこの国であろうと自動車運転免許を取得したことは一度もない。要するに根っからの運転素人だ。
そんな僕が今、エマさんから譲渡されたステーションワゴンの運転席に乗って、エンジンを掛けようとしている。隣には小麦色の肌の黒髪白人美女。クールな出立ちだがバストやヒップは色気がムンムンすぎてヤバい。
男の僕よりも背が高く、それだけでもう住む世界が違う人間だと伝わってくる。エマさんもそうであるようにこちらの女性はやはり顔立ちの整い方が尋常ではなく、車内という密室で同じ空気を呼吸することでさえ、僕に堪え難い畏れ多さだった。
“Turn the key.”
言われた通り、シリンダーに差した鍵を回すと、かなり大きなエンジン音が轟いた。タダで貰っておいてアレだが、エマさんのステーションワゴンはかなりの年代モノで、あちこちにガタが来ているのがわかる。この大きすぎるエンジン音もその一つだ。
『なんなのよこの音。それこそメイン州まで一回走ったら確実に壊れるわねこれ』
その異音に対してはアレックスさんも渋面していた。アレックスさんは運転教習のプロであって自動車整備のプロではないが、日々車に乗る経験でそれなりのことがわかるのだろう。改めて、車素人の僕とは大違いだ。
『まあいいわ。とりあえずこの辺りを適当に一周して。言っておくけど少しでも危険な運転したら殺すからね』
先生、というより鬼教官という態度でふんぞり返るアレックスさん。一周するも何も、僕はこの車がどうすれば前に進むかも知らない。そりゃゴーカートくらいは運転したことあるけど、あれはアクセルを踏んだだけで簡単に前に進む代物だ。
「……よし」
恐る恐る、アクセルを踏んでみる。エンジンの音は大きくなるが、車はまったく進まない。踏み込みが甘いのかと思い更にペダルを踏み込むと、壊れかけのエンジンの音がけたたましく車内に鳴り響いた。
『あんた、アタシに喧嘩売ってるの?』
明らかに苛立った様子のアレックスさんがこめかみをピクピクと震わせている。彼女は僕がふざけていると思ったのかもしれないが、断じて本気だ。アクセルを踏み込んでいるのに車が前に進まないのが何故なのかさっぱりわからない。
“Gearshift!!”
「え? え?」
突然の怒鳴り声に混乱した僕は、鬼のような形相の彼女が運転席と助手席の間にあるレバーのようなものを指差していることに気付く。慌ててそれを掴んだ僕は、わけがわからぬままそのレバーを引いてみようとする。
「う、動かない」
びくともしない。かなり力を入れて引っ張っているのにレバーはテコでも動かなかった。
その様子に呆れた様子の彼女は、
“Step on the brakes.”
「ブ、ブレーキ?」
前に進むためにブレーキが必要なのか?
ますますわけがわからぬまま、アクセスとは反対側のペダル(つまりブレーキのペダル)を踏んでみる。するとテコでも動かなかったはずのレバーが簡単に二、三段階下まで下がった。
そうか、これで車が前に進むのか。自動車の構造をようやく理解し始めた僕は、今度は思い切り良くアクセルを踏んでみる。
それがいけなかった。
“Stop!! Stop immediately!!”
物凄いGと共に急発進したステーションワゴンはすぐさま制御を失い、あっという間に暴走車と化す。想像の遥か上を行く速度で車道に飛び出したワゴンは、目の前の電柱に激突する角度で容赦なく前に突っ込んでいく。
「た、助けて――」
僕は己の死を覚悟して神に祈った。もとより神様など信じていないが、イエスキリストの国ですがるものと言えばもはや神くらいしかなかった。
“Take over!”
しかしそこはさすが自動車教習所の教官。車が電柱にぶつかるすんでのところでハンドルを掴んだアレックスさんが、絶妙なハンドルアシストで自動車事故を回避する。日本の自動車教習所だと助手席側にもブレーキが付いているイメージがあるが、自分の車(というかエマさんの車)にそんなものはなく、彼女は横からのハンドル操作のみで重大な危機を回避するしかなかった。
もちろん体勢的にはかなり無理があったのか、アレックスさんのその豊満なバストを僕の肩に押し付ける形になった。アメリカ人女性ならではの豊満な圧力に、ブラの奥の確かな弾力。自分自身九死に一生を得たとんでもないタイミングなのに、悲しいかな、突然のアレックスさんのおっぱいに下半身はしっかりと機能する。そもそも同じ車内に入った段階でかなりドキドキしていたので、突然の出来事で意表をつかれた感じだ。
“Take your step off the accelerator pedal!”
しかし教官として必死にアレックスさんは、僕におっぱいが直撃していることなど気にも止めない。なおも僕の肩にAmerican Bustyを押し付けながら、道路の脇へとエマさんのステーションワゴンを停車させる。
ちなみに路肩に停車する際もアレックスさんからは逐一指示を受け、停車する際のレバーに関してはアレックスさん自身が引いている形だった。
彼女にとってももはやこれは教習ではなく、命のかかった緊急事態だったということだろう。
その証拠に、クールなはずのアレックスさんの額に、紛れもなく汗が滲んでいる。さすがに彼女も焦ったということだろう。もちろんそれ以上に焦ったのは僕であるが、肩に当たるおっぱいの感触で途中からはわけがわからなくなっていた。
だからだと、僕は弁明したい。
でないとこのあと僕は、アレックスさんに撲殺されること請け合いだからだ。
『は?』
この状況において、しっかりと屹立した僕の下半身を見て、アレックスさんは絶対零度の表情を浮かべていた。
それはそうだ。自分は目の前の男のせいで死の直前まで行ったのに、その男は何の影響かチンポをビンビンにおっ立てていたのだから。
普通なら、
普通でなくても、殺したいと思うだろう。
アレックスさんのような口より手が先に出そうなタイプならなおさらだ。僕はさすがにこの場で自分が殺されることを覚悟した。
覚悟した、なんて言い方をすると、実際は殺されなかったなんて思われる方もいるかもしれない。しかしアレックスさんはそんな生優しく心の持ち主ではなかった。彼女はそう。この状況における男がもっとも苦しむ方法で、僕を“処刑”しようと考えたのだ。
『そう……アンタ本当に殺されたいのね』
「え? え?」
アレックスさんは鬼の形相で僕の股間のモノを掴んだ。この時点ではまだエロい想像をしている方もいるかもしれないが、とんでもない。
僕は今、アレックスさんの行為を処刑だと言った。
処刑なのだから手コキだとフェラだと男の願望通りの展開になどなるわけがない。
彼女はその手のひらで全力で、それこそぎちぎちの万力のごとく、僕のチンポを締め付けたのだ。
「い、痛い痛い痛いっ!!」
当然ながら、僕の股間には快楽ではなく激痛が走る。ガチガチに勃起したイチモツを黒髪美人の手のひらで握られて、この世のものとは思えない激痛を男の人体で最も敏感な部位に受けている。
小麦色肌の黒髪クールビューティーに、勃起したイチモツを握られる。
ご褒美のように思えるかもしれないが、下半身は地獄だ。海綿体が充血し切ったペニスには握る力の逃げ場などなく、締め付ける力がストレートに僕の男根を直撃している。
激痛を超えた、激痛。
痛みを遥かに凌駕した悶絶。
これ以上握られたら、再起不能になる。
そう思い子犬のような視線を彼女に向けるが、アレックスさんは血走った目で僕のイチモツを握り潰そうとしてきる。
「す、ストップ! ストップアレックスさんっ――」
激痛の中、声なき声で訴える。しかし彼女は僕への拷問をやめず、殺意満々と目で僕の男根を今度は両手で締め付けようとしている。
『ふざけんじゃないわよ! アジア男の分際でアタシを殺す気!?』
『ご、ごめんなさいごめんなさいっ! お願いだから手を離して!』
『うるさい!! ジャップのくせにこんな生意気なdickして! 二度と生意気な態度取らないようにすりつぶしてやるわよ!!』
チンポをすり潰すとか、それどこの国の拷問。
もはや僕の下半身を再起不能にすることにしか頭にないアレックスさんは、何度と何度も僕のイチモツを握り潰そうとする。そのたびにとんでもない激痛が僕を襲うが、いくら全力とはいえ女性の握力。硬く勃起したチンポを握りつぶすまでには至らない。
もちろん激痛は走り続けるが、どんな痛みにもやがて慣れ始めるのが人間というもの。次第にアレックスさんの握力も衰えてきて、少し強いチン揉みぐらいの刺激になるから、僕のペニスはさらに硬さを帯びる。
やがて手の刺激はマッサージとほとんど変わらないものになり、僕の下半身は痛みよりも快楽の方を強く感じ始める。
『アンタ……完全にアタシをなめてるわね』
そんな余裕に満ちた態度が癪に障ったのか、アレックスさんはさらに殺意に満ちた視線を向けてくる。僕の下半身はカウパー満載で、テントの先端がシミを作るくらいヤバい状況だった。
今度こそ、殺される。
そう思った僕の直感は決して間違っていなかった。アレックスさんはそう。本当に僕を殺そうとしたのだ。
『白人とそれ以外の上下関係、はっきりとわからせてやるわ』
「ああ――」
突然、アレックスさんの手の動きが、握りつぶすためのそれから、快楽だけを追い求めたいやらしいそれに変わる。
『この金玉、空っぽになるまで射精させてやる。泣きながら後悔しても遅いわよ』
「あっ、アレックスさんっ?!」
車の中で僕のイチモツを露出させた彼女は、最初は何か驚いたような顔をしていたものの、すぐに第二の“処刑”モードに変わって僕のイチモツをシゴき始める。
先程とは打って変わって、搾り取るようないやらしい手つき。まさにフリーセックスの国アメリカという手つきに、僕の股間はたまらず暴発寸前になる。
『まだ出すんじゃないわよ。アンタの生意気なdick、しっかりと躾けてから射精させてやる』
「あっ、アレックスさんっ――』
彼女は竿を揉むようにさすりながら、金玉を絶妙な力加減でマッサージしてくる。毛むくじゃらの股間を“野生動物みたいね”と軽蔑しながらも、僕のペニスを刺激する彼女の手つきは優しい。
『ダメよ、まだ我慢して。どうせこの玉の中にとんでもない量溜め込んでるんでしょ?』
射精寸前で僕への刺激を寸止めして、絶頂に至らせないアレックスさん。もはや完全に主導権は彼女の手の中にあった。これだけの美人でナイスバディなのだ。SEXの経験だって豊富だろうし、根が童貞の僕を躾けるなど彼女にはお手のものだろう。それを証明するかのように、彼女の手は何度も僕のチンポを射精寸前まで追い込んでは、快楽の波をすんでのところで食い止めて行く。
『アタシ、顔に出されぬのが死ぬほど嫌いなの。ここで出したらどうなるか、わかってるわよね?』
見た目通りのドSっ気を晒しながら、彼女は言ってることとは真逆の、僕の鈴口から至近距離のところに自身の顔面を置くという行為で僕を挑発してくる。
手コキはなおも続いている。
緩急をつけた金玉へのマッサージも継続中だ。
このまま射精したら、彼女の顔面にザーメンをぶっかけることになる。
そんなことをしたら絶対に殺される。
でも、それができたらとんでもなく気持ちいいに決まっている。
地獄のような手コキと金玉マッサージを受けながら、アレックスさんの吐息を亀頭に直に感じる。
本当は彼女も顔射して欲しいのではないか。だからこんな挑発的に行為をするのでは?
そんな自分に都合のいいことを考えながら、頭の中で何度もアレックスさんの綺麗な相好にザーメンをぶっかける。
想像上の彼女はそのたびに僕をはっ倒したが、それでも極上のメスに子種をぶっかけたいという僕の本能は、そんな僕の理性を容易く凌駕してしまった。
「ああっ! アレックスさんっ!! もう出ますっ!!」
ここが車内であること。
鈴口の目の前にアレックスさんの顔があること。
そんなことも全て忘れて――いや、忘れるどころか殊更意識して、僕はアレックスさんの顔面に、ありったけのザーメンをぶちまけたのだ。
「ああっ!!!」
止まらない、ザーメン。
寸止めされ続けた分とんでもない量の精液が凄い勢いで放出される。
それはさながら精液のピストルで、受け止めるアレックスさんが痛みを感じるのではないかと思えるくらいの勢いで、僕は何度も何度も、彼女の顔面にザーメンを叩きつけ続けた。
『なんて量出してんのよ、この猿……』
なんて気持ちいい射精。
でも射精が気持ちよければ気持ちいい分、後悔もまたひとしおだ。顔射は大嫌いだと公言されてからの射精。しかも待ったなしの顔面。握り潰されるどころか、噛みちぎられかねない。そんな凄惨な未来すら予期した僕だったが、待っていたのは怒鳴り声でも静謐な殺意でもなく、
『……今日は、ここまでよ』
という、クールな教官の一言だった。
「え?」
わけがわからぬまま、車内に一人残される。そのままアレックスさんは車のドアを開け、車外に出て行ってしまった。
顔面どころか胸元までザーメンまみれなのに、それを拭うこともなく、事務所の中へと戻っていく。
今日はここまで――ということは、明日もあるということだろうか。
車の運転としては人を殺しかねないレベル。
挙句の果てにチンポを勃起させて教官に顔射までしておいて、何のお咎めもなし。
残されたのは精液まみれの運転席。
法律上は運転すらできない車の中に取り残された男が一人。
一回の射精でなおさまらないと思いつつも、こんな場所でオナニーをするわけにもいかないので、僕はそそくさとチンポをズボンの中に仕舞う。
明日、アレックスさんの運転教習はあるのだろうか。
そんな疑問を胸に抱きながら、自分が今無一文であることを思い出し、僕は軽く絶望するのであった。