第11話 エロないから森繁さんの眼鏡で抜いて下さい
小学校の先生になる。
僕が唐突にそんなことを言い出したのは、流石に完全な無根拠ではない。
まず第一に、教員免許資格を持っていること。
子供の頃から既にロリコン癖を持っていた僕は、将来的に小学生女子と最も接しやすい場所はどこか考えていた。
当然ながら行き着く先は小学校という職場で、邪な想いを依代にしながらも、僕は教育系の大学に進学し、教員になるために必要な資格を全て取得した。
母校である小学校に教育実習にも行った。
でもその教育実習の現場で僕が自覚したことは、僕は小学校の先生になってはいけないという事実だった。
教育実習先に、一人胸の膨らんだ児童がいた。
顔もそこそこ可愛く、僕に対しても親密に接してくれたと思う。
僕はこの生徒に対し、明確に劣情していた。
授業中もその子の胸から目が離せず、どうすればその子の谷間が覗けるか、あわよくばエロいことができないか、そんなことばかりを考えていた。
正直、僕は自分をもっと制御できる人間だと思っていた。
教育者を目指したのだって、何も100パーセントが生徒たちへの性欲ではないし、子供たちが大人になっていく上で、何か手助けになるようなことができたらと、月並みな夢を持っていたのだ。
しかしその気持ちは、小学生のリアルな膨らみかけを見て吹き飛んだ。
この子のおっぱいを拝みたい。この子にエッチなことをさせたい。
そんな邪な感情が全体の三割以上を占めていると気付いたとき、僕は教員になることを辞めたのだ。
以来、一般企業に就職し、サラリーマンとして生きてきた。
それが間違いだったとは思わない。僕は幸か不幸か小学生には好かれやすい体質だったし、この体質が災いして、配属から五年以内に新聞沙汰の事件を引き起こすことは目に見えていたからだ。
でも、今は状況が異なる。
この世界では、大人が小学生に何をしても犯罪にならない。
その膨らみかけのおっぱいを触っても変質者と罵られることはないし、何ならセックスだってしていい。
むしろ当の女子小学生本人たちが、僕とそうなることを望んでいる。
先日、僕は街の銭湯で出会った明日香ちゃんという女の子と、あろうことかセックスをしてしまった。
小学六年生のきつきつおまんこにチンポを挿入し、好きなだけ腰を振って、あまつさえ中出しまで行った。
本来なら、取り返しのつかない事態。
己の欲望に流されてとんでもないことをしてしまったと、今頃部屋の隅で刑事さんが来ないかと怯えていてもいいくらいだ。
でもこの世界では、それが犯罪ではない。
あれほど気持ちよかった、小学生とのセックスが合法とされている世界。
本当のことを言えば、明日香ちゃんとはあれから五回もセックスしている。
少女の予定のない日に部屋に呼び出して、時間の許す限りセックス三昧だ。
最近ではちゃんと、明日香ちゃんの方もセックスでイけるようになっている。
そんな世界で、それだけのことを仕出かした僕が、今さら何を恐れる必要があるだろう。
もちろん僕は、教え子とセックスをしに小学校に行くのでない。
あくまで教師になるという夢を叶えるために小学校に行くのだ。
でも万が一、そこで教え子の膨らみかけの胸が見えることがあっても、あるいはそれを超えるような展開になっても、僕は処罰の対象にならないし、社会的制裁も受けない。
小学生の教員になるという夢を、そもそも諦める理由がない。
そうなると僕が長年の夢を再び追い求めることになっても、何らおかしなことはないのである。
そして、もう一つの大きな理由。
「何かお困りのことがあったら、いつでも頼ってきて下さいね」
退院間際、雪乃ちゃんのお母さんが何度もそう言ってくれた。
どうやら単なる社交辞令ではなく、娘の事故が原因で三ヶ月も仕事を休職することになった僕の身を、本当に案じてくれているようだった。
三ヶ月間の、唐突な休職。
当時の僕はそこまで問題に捉えていなかったのだけれど、実際事実上のクビ宣言をされたわけだし、雪乃ちゃんのお母さんが憂慮した通り、あの事故は僕の時間を三ヶ月どころか一生単位で奪おうとしているのだ。
そうなると、藁にも縋りたいのが三十三歳事実無職の本音である。
ついでに言うとその際に雪乃ちゃんのお母さんが渡してくれた一枚の名刺が、僕の背中を後押ししたのも事実だ。
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学校法人 聖ローレンス学園
理事長
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聖ローレンス学園と言えば、近隣では有名な幼小中高一貫の私立学校である。
僕はこの辺りが地元というわけではないけれど、そんな僕でも知る程度には有名。いやまあ僕はロリコンだからこの辺りの小学校の名前は全部知っているけれど、そういう特殊な人間でなくても名前ぐらいは聞いたことがある学校だ。
超お嬢様学校というわけではないが、入学にはかなり難関な試験に合格する必要があり、定員も多くはない。そもそも十年くらい前に共学化したはずで、今では男の子たちも普通に通っているのを見かける。
制服も小学校までは私服だし、そこまで格調高いわけではないが、それでも近隣の公立小学校とは明らかに雰囲気が異なる。
単純に、選ばれた家庭の子供だけが通っている学校という印象だ。
名刺の肩書きは理事長。
僕の理解が正しければ、学校で一番偉い人間のことである。
「このお名刺は?」
「これは私の父――つまりこの子の祖父の名刺なんです。吉野さん、前に教員免許をお持ちだと仰っていたので」
入院中の会話の中で、確かに僕は教育大学を出て教員免許を持っていることを話していた。
つまり雪乃ちゃんのお母さんは、今後もし職に困るようなことがあれば、遠慮のなくこの祖父を頼って欲しいというのだ。
私立学校の理事長なら、確かに職にある程度は融通が利くだろうが、とはいえ教員採用試験の申し込み〆切は通常六月で、七月に入った今それらの募集は全て終了している。
どう逆立ちしたところで、僕が今年度中に教師の職を得る方法はない。そう思っていたのだが、
「おお、君が吉野くんか! 入院中は見舞いにも行けなくてすまなかったね。長期の海外出張とかぶってしまって。しかし君は私の大事な孫娘の恩人だ。遠慮なく頼ってくれたまえ」
雪乃ちゃんのおじいさんは、聖ローレンス学園というネーミングにも関わらず和服姿の、豪放磊落な初老人だった。
長い白髪髭をたっぷり蓄え、威風堂々とした姿は昭和男児を通り越して明治時代の偉人のようですらあった。
どうやら槇原理事長は孫の雪乃ちゃんのことを溺愛しているらしく、その雪乃ちゃんの命を救った僕のことを高く評価してくれているらしい。
もちろん、その陰で雪乃ちゃんに精飲フェラさせていたことなど言うわけもないが、とにかく理事長は僕のために叶えられることは何でも叶えてくれるという。
「そうか! 君は教育者になりたいのか! 私としても是非とも君のような人間に教員職を頼みたいが、はてさて困った。今年度の教員募集は全て終了してしまった」
ややわざとらしく長い白髪髭に手をやる理事長。
いかに理事長とはいえ、教育機関の長。不正まがいの行為で僕を教職にねじ込むことはできないようだ。まあ僕もダメ元で声をかけただけで、まさか本当にこの聖ローレンス学園の教師になれるなどとは思っていない。
あくまで、束の間の夢。そう思っていたのだが、
「だが教員補佐ならいくらでもねじ込めるんじゃないのか。給与に関してはアルバイト程度だが、一年弱勤務して問題なしということなら、理事会で来年度の教職員に君を推薦することもできる。なあ森繁?」
理事長が側に控えていた秘書っぽい女性を軽く一瞥する。僕は興味ないが、レディスーツを着たナイスバディの大人な女性だった。輝かんばかりの厚底眼鏡に、ひっくめ髪をした三十歳前後の美人は、雇い主の言葉にこめかみを震わせながらも、
「な、なんとか致します」
不承不承、理事長の指示を承諾してしまった。
分厚い眼鏡の奥の目は「そんな強引なことできるわけねぇだろこのクソジジイ」と言っているが、多分日頃から無理偏に拳骨の人なのだろう。この森繁さんという女性の苦労が推察できる。
「のようだ吉野くん。うちとしては明日からでも構わない。教員見習いとしてうちの学校で働きなさい。給与はそんなに出せないが、君は孫の恩人だ。それ以外の福利厚生は全て保証しよう」
とんとん拍子に決まってしまった僕の再就職に、当の本人である僕も現実感が湧かない。面接も書類選考も履歴書の提出もなく、この聖ローレンス学園での仕事が決定してしまった。
「ちなみに、どこの職場で働きたい。幼稚舎は流石に無理だが、初等部、中等部、高等部にならどこでも空きがある。なあ森繁」
「お、仰る通りです」
女性のわななく声と共に、眼鏡の柄か何かが折れる音が聞こえた。大丈夫かこの雇用関係。
「しょ、初等部、できれば高学年を希望したいんですが……」
ロリコンという概念はなくとも、何だかこのおじいさんには全てを見透かされているようで、自分の要望を明けすけに話すことは憚られてしまう。
しかしここまで来たら、希望は叶える。僕は小学校高学年の女の子たちに囲まれて生活したいんだ。
「初等部高学年というと、うちの雪乃が所属している場所だが」
眼光鋭い視線に、一瞬で僕の背筋が凍りつく。まさか、お孫さんに何をしていたかバレたのか?
だとしたら再就職どころではなく、殺される。そう思ったのだが、
「退院後もうちの孫を気にかけてくれるとは、何と見上げ果てた青年だ! ぜひとも将来はうちの雪乃を嫁に貰って欲しいものだな!」
豪快にガハハ笑いをする和服初老人。冗談なのか本気なのか全くわからないので僕は答えに窮してしまう。
この人と四六時中付き合っている森繁さんの凄さが、この数分間の会話で垣間見えた気がした。
ともあれ、これで僕の再就職が決定した。
奇しくも、それはあの雪乃ちゃんが通う学校。
何事もなければいいと思うのは、本末転倒な考えだろうか。