目を覚ますと、見知らぬ白い天井が見えた。
少しずつ耳に入ってきたのは、どこか聞き覚えのある電子音。それが自らの心電図の音だと気付くまで十数分はかかり、ここが病院の集中治療室なのだと気が付くまで、さらに十数分を有した。
手足の感覚が鈍っている。久しく時間が経過していたので忘れていたが、これは僕が事故で入院していた当時の感覚だ。
半年以上前のあの日、公園でJSウォッチングをしていた僕は、トラックに轢かれそうになった黒髪の少女を助けるため、自らの身体を車道に投げ出した。
意識不明で生死の境を彷徨う最中、僕はとある女神に出会い、この世界からロリコンを消し去ってくれるようお願いした。
その願いは僕の思う形とはだいぶ違った形で叶い、結果僕は何十人もの女子小学生たちとセックスする日々を手に入れた。
目を閉じれば、今でも生々しい感覚が蘇ってくる。
花音ちゃんのEカップの弾力、普段は男勝りだが挿入すると途端に可愛らしくなるつかさちゃん、関西弁で誘惑してくる白人少女エリカ、意外と締め付けが得意なシアちゃんのおまんこの感触、繋がるだけで幸せになれる雪乃ちゃんの存在。
そのどれもが童貞が見る夢にしてはあまりにもリアルだったが、現にこうして僕が集中治療室にいる以上、あの日々の全てが意識混濁中に見た夢だったのだろう。
そりゃそうだ。
女子小学生たちとセックスし放題の世界なんて、あるわけない。
僕は一介のしがないサラリーマンだ。
ロリ巨乳小学生の美少女たちと、セックスはおろか出会う機会だって皆無なのだ。
長い長い、夢だった。
本当に丸半年を体験するような感覚だったが、実時間ではせいぜい三日か四日だろう。
ロリコンの僕にとっては夢のような時間だったが、やはり露と消える幻だったのである。
「本当にもう、なんとお礼を言っていいのか……」
とはいえ、僕が雪乃ちゃんを事故から救ったというところまでは紛れもない事実のようで、意識を取り戻した僕の元に、僕の記憶の通りのご両親が挨拶に来た。
はて、どうして夢で見ただけの雪乃ちゃんのご両親が現実も同じ姿をしているのか。そもそもどうして僕は、この時点では知らなかったはずの白瀬雪乃というフルネームを覚えているのか。
これもまた事故による記憶の混濁なのかもしれないが、強い違和感があるのは否定できなかった。
試しに「ご親戚に私立学校の関係者はいらっしゃいます?」と聞くと、「どうしてそれをご存知なんですか?」と怪しまれた。
偶然、なのかもしれないが、それにしては奇妙な一致が多すぎる。
「元はと言えば私が飛び出したせいでこうなったんだし、身の回りのお世話ぐらいしないと私の立つ瀬がない」
しかしその後の会話の流れは、僕がエスパーになったのかと思えるくらい、僕の予想と一致していた。
お母さんによる身の回りのお世話を断った僕に、「だったら私がやる」と雪乃ちゃん本人が名乗り出たのだ。
もしかして、僕はあの夢と同じ未来を辿るのか?
ここも実はロリコンのいない世界で、小学生たちは大人たちの視線を何一つ意識しない。そんな都合のいい展開が待っているのだろうか。
「とは言っても……ねえ。吉野さんにも迷惑でしょうし、やっぱり私がお世話します。雪乃も、たまにお見舞いに来てお手伝いをするくらいでしたら、どうか許してやってくれないでしょうか?」
ここで、僕の知る展開とは違う会話が訪れた。
夢の中では「それは名案ね」と雪乃ちゃん単独でのお世話を快諾したご両親だったが、やんわりとした表現だが、お母さんの顔には「いくら事故が原因の怪我とはいえ、年頃の娘が独身男性のお世話だなんて」という考えが滲んでいた。
ひどく、真っ当な反応。
僕がよく知る、小学五年生の女の子を持つ母親らしい考えである。
やはり、泡沫の夢だったか。
僕が女子小学生たちとセックスしまくるという予知夢は、僕が意識不明中に見た単なる淫夢ということで片付けられたのである。
「では、お洗濯物お預かりしますね。必要なものがあればいつでも買って参りますから」
それから、三日に一回は雪乃ちゃんのお母さんが来て、僕のお世話をするようになった。
お母さんもまた雪乃ちゃんに似て美人だが、ご存知の通り僕のストライクゾーンとは程遠い。
お世話の内容も洗濯物の回収と御用聞きがメインで、雪乃ちゃんがしてくれたようなお小水取りや性欲処理は当然ない。まああれに関しては僕自身もどうかと思ったけど。
ともあれ、現実の世界は僕が見た夢とは程遠い、至極当たり前の道を進んでいく。
三ヶ月後の実質クビ宣告だけは夢の通りになりそうな気がしてひどく陰鬱だが、あれだけの事故を起こして五体満足である奇跡を感謝すべきなのかもしれない。
少なくともこの世界での僕はいまだ童貞のままだし、小学生の膨らみかけおっぱいを揉んだこともない。
その事実に一定程度の虚しさは覚えつつも、所詮僕のしがない人生なんてそんなもんだと開き直っている。
もしあのとき、女神に小学生セックスハーレムの継続を願っていたら――。
そんな風に思わずにはいられない。
あれだって実際はただの夢だったわけだけれど、ハーレムの継続を願えばあの夢の先を見続けることができたのかもしれない。
まあその場合僕はずっと意識不明状態ということになるが、僕が欲しいものは何一つないこの世界に留まるくらいなら、それもまた一つの選択肢だったかもしれない。
そんなこと、今さら考えても仕方ないけど。
「失礼します」
そんな折、病室のドアがノックされて誰かが中に入ってきた。
最初は雪乃ちゃんのお母さんが忘れ物でもしたのかと思ったが、ドアを開けて現れたのはその娘――夢の中では僕とセックスしていた白瀬雪乃ちゃんだった。
さらさらの長い黒髪に、透き通るように白い肌。端正な顔立ちは僕が夢の中で何度も対面したのと同じで、背の高さやスタイルもまた、僕が知るものと瓜二つだった。
懐かしい。
不思議とそういう感覚に捉われた。
この子が僕と生殖器を重ねることはまずないだろうけど、彼女の顔を見ることでホッとする僕がいることもまた事実だった。
「どうしたの? お母さんならさっき帰ったけど」
手足もロクに挙げられない状態の中、そんな気持ちを悟られないように平静を装う。
今君とセックスするところを想像していたんだ、なんてことを言ったら、この世界では問答無用でお縄だ。
「えっと、何かできることないかなって。こんな私でも、力になれることがあったら」
当然ながら雪乃ちゃんはよそよそしかった。夢の中では互いの身体の隅々までを知り尽くした関係だったが、この世界では全くの他人なのだから仕方がない。
それでも雪乃ちゃんの中身はさして変わっていないらしい。
どうやらこの子は、親に止められてもやっぱり恩人の世話するのが筋と、自らの信念に従って一人でこの病室を訪れたのだろう。
意外と聞かん坊で頑固なところは、この世界でも変わらないようだ。
「……失礼します」
それでも実際は手持ち無沙汰なのだろう。夢の世界でだってやることがなさ過ぎてエロいことに発展したようなものだったので、洗濯物もお母さんに回収されてしまった今、雪乃ちゃんのやることは何もない。
現にさっきからベット横のパイプ椅子に座ったまま、彼女は何もせず僕のことを見ているだけだ。
正直、この子と密室で二人きりだと息が詰まる。
夢の中でとはいえ、あれだけセックスし合った中なのだ。白いTシャツの中の膨らみの全容も、ホットパンツの中の綺麗なピンク色のスジも、僕は全て知っていると言っても過言ではない。実際はただの夢だけど。
「と、ところで、小学生の女の子が男湯に入れるのは何歳までだったかな?」
「は?」
重苦しい雰囲気を変えるため、僕はとっさに思いついた質問をしてみた。
この世界は、僕が前々から知っていたロリコンの存在する世界なのか、はたまたロリコンの存在しない世界なのか、実のところ僕はまだはっきりと確かめられたわけではなかった。
ロリコンのいない世界なら、彼女は「中学生になるまで」と答えるはず。しかしここが僕の知る元の世界なら、
「……せいぜい、小二までじゃないですか? 120センチ以上ある子は小二でもダメな気がしますし」
質問の意図を訝しみながらも、雪乃ちゃんが真面目に答える。
やはり、この世界は僕の知る元の世界のようだ。
本音を言えば僕の一縷の望みをかけて質問だったのだが、そう都合よく世界が進んでくれるわけがない。
よく見ると雪乃ちゃんのTシャツには黒のスポーツブラの色がうっすら透けている。僕が事故の前に見たのと同じものだ。
この世界の女の子は、小学生でも当たり前のようにブラをしているし、中学年や高学年は男湯には入らない。
その事実を改めて理解して、ようやく自分が見ていた夢への諦めがつく。
僕はもう、小学生とはセックスできないのだ。
「ところで、あなたはあの日公園で何してたんですか?」
「へ?」
今度は雪乃ちゃんからのまさかの質問に、僕は文字通り目が点になった。
おそらく彼女もこの重苦しい空気を打開しようとどうでもいい質問を振っただけなのだろうが、一転僕は窮地に立たされた。
僕はあの日、小学生の成長途中の身体をウォッチングするためにあの公園にいた。
かれこれ十年間それを趣味にしている。
そんなこと口が裂けても言えるわけない。
少なくとも僕のことを「命の恩人」と思ってくれている雪乃ちゃんの黒く綺麗な瞳を、穢れた大人への目線で曇らせるわけにはいかないのだ。
「そ、それはだね、ええと――」
あまりあたふたしていては僕がロリコンであるとバレてしまう。しかし言い訳しようにも何も思いつかないし、休日の公園のベンチで何もせずに座っている僕の姿は、小学生である雪乃ちゃんの目からも少し怪しく見えていたのかもしれない。
まさに、万事休す。
真っ直ぐに僕を見つめる雪乃ちゃんの視線に、僕は全てを諦める決心をした。
本当は、もうやけっぱちだったのかもしれない。
あくまで予想だが僕は三ヶ月後にクビになるし、聖ローレンス学園の臨時教諭として雇われるなんて都合の良い未来も訪れない。
ここまで欲望のままに作り上げてきた教え子ハーレムも全て失って、僕に残されたものは一つだけしかなかった。
たとえ世界の改変が終わっても、僕に唯一残されていた感情。
夢の中で目の前の少女とセックスしているときに抱き、今さっき彼女がドアを開けて病室に入って来たときも、少しも色褪せなかったこの感情は、
「……もし、君のことが好きだなんて言ったら、さすがに引くよね。いや、わかってるんだいい歳した大人としておかしいって。三十超えの大人が小学生の女の子相手になんて、な、何言ってるんだろう俺、頭おかしいよね」
言っていて、顔中が一気に熱くなった。
頭がボーッとして、喉がカラカラに乾いて、必死に取り繕おうとして心臓がバクバクになっているのがわかる。
僕は今、何をした?
小学五年生の女の子に告白したのか?
いやいやいや、ヤバすぎるだろそれ。
何考えてんだいったいそんなの通報一直線だろ――。
もはや動揺を通り越してパニック状態の僕。
今すぐこの場から全速力で走り去りたいのに、手足がまるで動かない。
ありえないありえないありえない。
死にたい死にたい死にたい。
あらゆる負の感情が頭の中を駆け巡って、その最中で僕は、今のが僕の人生における初めての告白であると気付いてさらに赤面する。
あの夢のせいで完全に自分の制御を見失った。
まさか小学五年生の雪乃ちゃん相手に、愛の告白をするなんて。
「え?」
件の雪乃ちゃんは、案の定目を丸くして固まっていた。
当たり前だ。まさか小学生の自分が三十オーバーの大人に告白されるなんて思いもしない。
変態。この人ロリコンだ。
彼女が僕の手元からナースコールボタンを奪い取って、今すぐナースステーションに通報する未来が見えた。
「えっと、雪乃ちゃん?」
しかし彼女は固まったまま微動だにしない。それだけショッキングな出来事だったんだろう。命をかけて自分を助けてくれた親切な大人が、まさか小学生の身体に興奮する変態鬼畜野郎だったのだ。その反応も無理はない。
やってしまった。
いたいけな少女の心に深い傷を残した。
これはロリコンとして、絶対にやってはいけないことのはずだったのに。
「ご、ごめんなさい。あまりに唐突すぎて固まってました。まさかあなたにそんなこと言われると思わなかったから」
雪乃ちゃんはパイプ椅子に座ったまま動かない。逃げる素振りも見せず、ナースコールボタンを押す様子もなく、むしろ心なしか頬を少しだけ赤らめて、困ったように視線を泳がせている。
しかしやがて決心したように深呼吸して、雪乃ちゃんの端正な顔が僕を見つめる。
「……本当言うと、公園で見たときから気になってたから、本当なら嬉しい……です」
「え?」
顔を真っ赤にして“返事”をする雪乃ちゃんに、今度は別の意味で頭が真っ白になる。
雪乃ちゃんが、僕のことを気になってた?
ロリコンのいない改変世界ではなく、小児性愛が変態として迫害される世界なのに?
いったい全体どうしてこんなことになっているのか、僕にはさっぱりわからない。
「だって、あなた公園で私のことチラチラ見てたし、もしかしたらそうなのかなって。顔は結構タイプだし、同世代の子供より全然大人の方がいいから、もしそうならいいなって」
そんなこと思いながらよそ見して鬼ごっこしてたら、車道に向かって躓いてました――。
そう申し訳なさそうに雪乃ちゃんは謝罪した。
次々と明るみになる真実に正直僕はついていけないが、少なくともあの事故の原因が僕であったと知り、僕自身としては複雑だ。
実感としては半年ぶりに明らかになった事実に、僕は動揺が隠せない。
しかし、これだけは聞いておきたいことがある。
「ロ、ロリコンでもいいの?」
「ロリコンっていうか、私の身体が良いって言ってくれてるってことでしょ? 好きな男の人に、逆にそう思ってもらえないことの方が嫌なんですけど」
よもやの正論に僕は何一つ言い返せなくなる。好きな男の人――そのフレーズに僕の心臓が数センチ跳ねたことは言うまでもない。
「孝太郎さんは、私のこと好きなの?」
突然の名前呼びにさらにドキリとする僕。
この少女からは、逃れられない。
こんな風に真っ直ぐ見つめられたら、自分を取り繕うことなどできやしようか。
「好きだよ。僕は雪乃ちゃんのことを一人の女の子として意識してる」
「……っ」
その臆面のないフレーズに流石の雪乃ちゃんも赤面する。出会ったばかりの女の子なのに、とそっちは思うかもしれないけど、僕からしてみれば君は半年以上連れ添ったセックスパートナーなんだ。
「……私も多分、あなたのこと意識してると思う。好きだって、はっきり言えるような感情ではまだないけど、多分このままなら、近いうちにそうなる自信がある」
意中の人にそんな風に言われて、天に昇らない人間がいようか。
愛の告白なのにずいぶん大人っぽい言い回しだなと思うけれど、それもまた白瀬雪乃ちゃんらしいと思った。
「……キス、してもいい?」
まだ好きだという気持ちが確定してないと言っているのに、雪乃ちゃんが控えめなおねだりをしてくる。
まあ改変世界でのステップがまずおかしかったのだ。お小水取り手コキフェラから始まる恋なんてあまりに特殊過ぎている。
「いいよ」
僕からはまだ何もしてあげることができないから、目の前の小学生に身を委ねることにする。許可されてからもしばらく躊躇している様子の雪乃ちゃんだったが、面会終了時間が近いこともあり、やがて決心を固めて、
「ん――」
その柔らかで瑞々しい唇を、僕の唇に重ね合わせた。
雪乃ちゃんはらしくもなく顔を真っ赤にしていたが、むしろこれが小学生として普通だと思い直す。
「もう一回してもいい?」
「いいよ」
今度は少し長めのキス。
瑞々しい花唇が先ほどよりも強く押し付けられる。
こっそりと薄目を開けると、だらりと垂れ下がったシャツの胸元から、雪乃ちゃんの黒いスポーツブラが見えた。
この角度でも谷間すら見えない鉄壁の代物。
むしろ膨らみかけの胸でもちゃんとガードする“普通の”小学生にキスされているという事実が、この事態のありえなさを物語る。
女神という人智を超えた存在の力も借りていないのに、僕が小学五年生の女の子と付き合う未来が来るだなんて。
「明日も、来るから」
そう言って、そそくさと雪乃ちゃんは病室を出て行く。
僕もしばらくは現実感が持てず、その場で呆然とするだけだったが、先程の唇の感触を思い出して、初めて彼女ができた中学生みたいに身悶える。
この世界は、成人男性と女子小学生の交際が許されているわけではない。
ロリコンだってこれまで通り弾圧されている。
それでも僕は雪乃ちゃん――雪乃との交際を密かに続けた。
退院後も定期的に外で会って、予想通りクビになった後は学校とはまったく関係ない職に就いて働いた。
相手は小学生。
最低限のことは守って交際しよう。
そんなことは思っていても、やはり欲望には敵わないもので、雪乃が小六になった春にお互いにとって初めてのセックスをした。
もちろん節度を守って、最初にセックスした日以外はゴムありを貫いた。
やがて雪乃が中学生になり、高校生になり、大学に入学して、二十歳になったタイミングを見計らって僕らは結婚した。
初めてご両親に挨拶に行ったとき、僕の年齢を知ってご両親はかなり驚いていたが、僕がかつて雪乃を助けた吉野孝太郎だと知って更に驚いていた。
一応体裁を保つため、大人になった雪乃が偶然僕に再会し、彼女の方が僕を攻め倒したということになっている。
雪乃もかなりのおじさん好きということになるし、僕もかなりのロリコンということになるが、四十数歳の男と二十歳の女の子のカップルなど世の中に溢れているので、思ったほど反対されることはなかった。
もちろん裏でこっそり付き合っていた僕らが、雪乃が小学生の時点で既にセックスしていたなんてことは、口が裂けてもいけないけど。
ともあれ、これで僕の物語は終わり。
女神も改変もない世界で、僕は幼妻となった雪乃とこれからも生きていくのである。
めでたしめでたし。