ソフトウエアトーク乗っ取りもの詰め合わせ 作:そのやまよーく
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この作品では乗っ取り、人生強奪というテーマをクローズアップし、性的描写は最小限に抑えています。
朝の温かい日差しを顔に受けて、私、彩澄しゅおは目を覚ました。
窓越しの光が眩しくて、起き抜けのふわふわした気分の中、私はぎゅっと目を強く瞑ってから、開いた。
そうしている間に身体の感覚がだんだんとはっきりしてくる。
いつもの柔らかなベッド。お姉ちゃんのおさがりだけど、もうすっかり私のお気に入りでもある。
寝相で少しずり落ちた掛け布団。そこから露出した首筋に秋の朝の空気が少しだけひんやり感じられる。
部屋の角にはぴかぴかの通学鞄。机の上に出しっぱなしになっている教科書。きれいに畳んだお洋服。かすかに香るラベンダーのフレグランス。すべて昨日のまま、穏やかにそこにある。
ここは私の部屋。彩澄しゅおの部屋。
ああ、そうか。
私はしゅおちゃんになったんだな。
次第に記憶が浮かび上がってくる。それは昨日のことなのに、すでに十年も昔のように曖昧になりつつあった。
彼は一人のさえない中年男性だった。彼の毎日は苦痛の連続だった。蔑まれ、貶められ、無視されて、この世のありとあらゆる苦難を受けるべくして受けていたように感じられた。
ある日、私は困っていた彼にハンカチを渡した。接点はそれだけだった。それだけの筈だったのだけれども、私は彼の記憶に強く残ってしまったらしい。
彼はそのあと、ある薬を飲んだ。それは飲むと望んだ人間の人生を手に入れることができるという、正直に言って笑っちゃうようなばかばかしいものだった。彼もそんなに深くは信じていなかったかもしれない。
けれどもそれは本物だったらしい。
だから、私は今、彩澄しゅおだ。
私は布団を押しのけて、ベッドからはみ出した。捲れたパジャマの丈から覗く小さな手、細い足。パジャマが戻って、すとんと落ちてそれらを隠す。
特別なことは何もないのに、私の胸は高鳴っていた。
全てが彩澄しゅおのあたりまえ。彼が得ることのできなかった幸せがそこにあった。
私は彼のことを忘れることにした。もう二度と私の人生に現れることはないだろうから。
私は静かな興奮が頬を紅潮させるのを感じつつ、口を開いて「あ」の音を出してみた。
すこしけだるげな可愛らしい少女の声が朝の静寂にほどけて消えた。
自分の声なのにやけに耳に残って美しく感じられる。
「私は彩澄しゅおです」
続けて自己紹介をした。嬉しかった。これが私なのだと、世界に紹介したい気分になったからだ。
「私は十歳で、学校に通っていて」
「お姉ちゃんがいます」
脳裏に一人の女性の姿が思い浮かぶ。彩澄りりせ。たおやかで可憐な容姿で、優しくて、ちょっとだけ厳しい自慢の姉だ。
全部が私のあたりまえになる。なった。最初からそうなのだ。
「お姉ちゃん、大好き」
言葉と一緒に心が弾んだ。私はその余韻を楽しみながら、布団から完全に抜け出た。
ベッドの端に腰を下ろしながら、お姉ちゃんに用意してもらった今日のお洋服を手繰り寄せる。
パジャマのボタンをひとつずつ外す。そのたびに朝の空気がすーすーと肌に触れる。その感触を楽しみながら、私はパジャマの上着を脱ぎ終えた。
「うう……」
思ったより寒くて、身震いをした。急いでキャミソールをかぶる。ぐいぐいと頭を振って、身体を入れていく。
続けてパジャマのズボンを下ろし、足元に落とす。脚の間を包むお気に入りのパンツがあらわになる。お姉ちゃんとお洋服を買いに行ったときに目が留まって、おねだりして買ってもらったやつだ。
私は隠れてしまうそれを名残惜しみながら、スカートを穿いた。
残った上着に袖を通していく。その柔らかな布の滑る感触がたまらなく心地よかった。
靴下を履いていく。つま先をぐにぐにとよじらせて、長い靴下の中に足を通していく。
それらが終わったとき、鏡の前には外行きのお洋服に身を包んだ私がいた。
髪は後でお姉ちゃんに結んでもらおう。
これからは全部が私のものになったのだ。
不意に部屋のドアがノックされる。
「……しゅお、起きた?」
凛とした女性の声が耳に届く。お姉ちゃんだ。
「……うん」
私はいつも通りの調子で答え、ベッドから降りた。
彩澄しゅおの体重が軽やかに地面に触れ、脚を伝わって全身に拡散していく。それが圧倒的な実在として私の身を満たしていく。
軽やかに足音を立てて、私は部屋を出て行った。
お姉ちゃんと、部屋と、学校と、そのほかの彩澄しゅおの全てが新しい私の朝を祝福していた。