ゲーセンでの特訓の後、石井は鈴木達と別れ、順と一緒に夕食を食べに行くことにした。
いつもなら、山本や他のメンバーも一緒に反省会となるところ、鈴木が伊藤さんと居残って二人でゲームすると言い出したので、俺も居残り練習という形で順に付き合ってもらった結果、二人で食事という流れになった。俺としては好ましい展開だが、ゲーセン以外の場所だと何を話せばよいのか正直少し困っている。
「順は何食べたい?」
「今日は中華って気分かな?」
「ラーメンか?」
「ラーメンだけじゃなくて、中華」
「じゃああそこにするか...」
俺は、本格的な中華料理屋の場所を知らなかったので、定食も出してくれるラーメン屋に向かって歩き出した。
「今日は、ありがとな、順。それに、鈴木も協力してくれることになって、奴にも感謝だな。」
「そうだね、鈴木なら最終的には協力してくれると思っていたけど、最初はまあゴネてたよね。それも分かってたことだけど。」
「今日、鈴木の彼女に会ってみてどう思った? っていうか、鈴木に彼女ができたっていつ頃知った?」
「鈴木の彼女、初々しくてかわいかったー。あの娘1年生だよね。どうやって知り合ったんだろ?」「で、あれはねぇ、みきちゃんに聞いた時だったから、一週間くらい前かな、鈴木が知らない女の子と一緒に歩いていた、って。その後別の娘からも鈴木に彼女ができたって話を聞いて、それがその2、3日後だったかな?」
「その件について佐藤から何か聞いてる?」
「佐藤君からは特に...どうして?」
「そうか、じゃあ、佐藤があの伊藤さんにアプローチをかけて鈴木と言い合いになったって話は聞いてないか。」
「えっ? うん、それは聞いてないよ。」
順がわずかに動揺したように見えた。それが佐藤の行動に対してなのか、鈴木の行動に対してなのかまでは分からないが。
「正確には、佐藤が所属する手芸部に入らないか、と伊藤さんを勧誘したらしい。それを鈴木が止めに入って言い合いになって、結局伊藤さんは手芸部に入らないことになった、と。」「その場にいたわけじゃないんで、あくまでも聞いた話だけどな。」
「鈴木がねぇ...」
「そっちだったか。」
「ん?」
「いや、なんでもない。」「ところで...」
俺は慌てて話題を変えた
「ところで、順はいつまで佐藤のトコにいるんだ?」
「え? それ石井君に関係ある?」
「そりゃあるさ。二人で夕飯食うくらいには親しくなった友人だしな。まあ、ゲームプレイヤーとしてはファンでもあるし。その...」
「その?」
「まあそれはいいや。その、順だってずっと今のままの関係が続くとは思ってないんだろ? 佐藤にしたって、自分の元にいる女子たちとこれからずっと今と同じ関係を続けるのは無理だってことぐらい分かっているだろ。」
「.....」
ちょうど会話が途切れたタイミングで、店員が回鍋肉定食と麻婆豆腐定食を持ってきた。
「ごめん、つまらないこと言った。こんな話をするつもりじゃなかったんだ。」「今日は俺が奢るから、まあ食おうぜ。」
「...うん。」
「美味いな、これ。」
「今日は麻婆豆腐って気分だったんだ、美味しい。」「それで、さ」
「何?」
「鈴木って、今の彼女の事本気で好きなのかな?」
「えーと、そうなんじゃないか? 彼女なんだし。」
二人が偽装カップルで、それを提案したのが俺とか、そんなことは順には言えない。
「鈴木ってさ、昔からそういうのわからないんだよねー。すっごく仲良くなってるとこっちが思っても、あっちは友達のうちの一人、みたいな感じで。」
「あいつは基本的に誰にでも優しくて、特に女子にはな。だから、自分に対する優しさと他の女子に対する優しさを比較しちゃうと、どうしても自分が大勢の中の一人に思えてしまうんだろうな。でも、あいつにとっては、みんな大切だったんだよ。だから、一人を選んで残りを諦めることはできなかったんだろうな。」「ただ、それですべてを失ったから覚悟を決められた、ってのもあるんだろうけど。ってこれは俺の想像な。」「だから...」
「だから?」
「だから、大事なのは、自分に向けられた優しさと他人に向けられた優しさの比較じゃなくて、自分に向けられた優しさの絶対量なんだと思うよ。」「優しさ、でなくて思い、でもいいかもね。」「そして、もらった思い対してどうやって報いるか、って話だと思うよ。」
「へえ、石井君、そんな話もするんだね。」
「そりゃあね。でも、この話のネタバラシをすると、自分への優しさの絶対量が大事、って言ったのは今の鈴木の彼女、伊藤さんなんだよ。」
「へぇ、鈴木とあの娘、お似合いのカップルなんだね...」
石井は心のなかで、でも偽装なんだけどね、と思いながらも、いつかあの二人が本当のカップルになるかも知れないように思えてきた。
「ところでさー。」
順が急に表情を変えて俺の顔を見た。
「何で打倒鈴木なの? 私が言うことじゃないけどたかがゲームだよ?」
「それは、俺たちとゲームでつるんで遊ぶときに、あいつだけ手加減しないといけないって楽しくないだろうと思うんだよ。」「だから、俺たちも上手くなって、一緒に遊んでみんなで楽しめるようになりたいって思ってるんだ。」
「へぇー、そんなもんかね。私は、相手が自分と同じくらい強くなくても楽しいけどね。」
「それでも、やっぱり気兼ねなく本気出せるほうが楽しいだろ?」「俺はね、そうやって鈴木と普通にゲームを楽しめるレベルに達したら、その後は更にパワーアップして順とも楽しくゲームできるようになればいいと思っているよ。」
「じゃあ、その日が来るために明日からも特訓に付き合わなきゃね。」
「是非、お願いしますよ。石川センセ。」
「あははは、任せておいてよ。」
この時、石井は新しい作戦を発動すべく検討を始めていた。