※この作品はR-18です。

鈴木君 その後   作:大仁 裕

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今日は行けない

委員長こと川上やよいは最近いくつかの悩みを抱えている。佐藤とのこと、自身の成績のこと、校内で流れている噂のこと、手芸部のこと。

 

噂が広まる発端となったのは、佐藤君が伊藤さんを勧誘した時に鈴木君と言い合いになったことらしい。元々、部員数を増やそうという佐藤君の提案で、勧誘活動を強化することが決まり、誰を勧誘するかで話し合いをしていた時のことだった。渡辺さんと田中さんから、家庭科の時間に細かい刺繍をしていたということで同学年の伊藤さんの名前が挙がり、そこから佐藤君を中心に勧誘活動を開始したのだが...結果としては、部員獲得どころか手芸部の悪い噂が広まる結果となった。こうなっては新入部員獲得はほぼ絶望的だ。

 

噂の内容は酷いもので、手芸部は佐藤君が女子を口説くための隠れ蓑だとか、手芸部員は全員佐藤君の女だとか、手芸部室は佐藤君と女子部員とのヤリ部屋になっているだとか、その他話に尾ひれがついて、今、手芸部員は校内で肩身が狭い思いをしている。しかも、噂の内容は酷いものだが、それらは全て事実を言い当てたものであったことで、自分たちは更に傷つくことになった。

 

手芸部に関しては、活動を休止するという声もあったが、大好きな手芸部をこんな形で終わらせるのは嫌だったこともあるし、今では教室に居づらい女子部員の居場所として手芸部を残したいこともあり活動は続行することにした。

ただし、噂をそのままにするわけにも行かないので、活動中は部室のドアを開け、廊下から中が見えるようにすること。活動中は工作部屋のドアも開放することをルール化し、少しずつではあるが信用を回復することにした。当然、部室内での行為は暗黙の了解として禁止にした。

その後、佐藤君は「当分僕は部活に出ない方がいい」と言い残して部室に顔を出さなくなった。手芸部としては妥当な行動ではあるが、自分としては寂しさを感じていた。

 

佐藤君との関係は、校内ではお互い距離をおいているが、放課後になると佐藤君の家に行って行為に及ぶのは変わっていない。佐藤君の家へは一人で行くことも、田中さんと渡辺さんといっしょに行くこともある、これも以前と変わらない。

出迎えてくれる佐藤君はいつもどおり優しく、佐藤君との一時は相変わらず楽しいし、佐藤君との行為はいつも頭の中が真っ白になるかのような快感を与えてくれる。それも以前と全く変わらない。

 

学業成績は下がった、前回の定期試験では点数と順位を大幅に下げてしまった。佐藤君と付き合うようになって、平日は、毎日でないにせよ佐藤君の家に行った日は疲れ切っていて帰宅後勉強する体力は残っておらず、また休日も佐藤君の家に行ったり泊まったりで勉強の時間は以前の半分以下という状態が続いている。次の定期試験で挽回できないと、大学への推薦は絶望的になる。

 

ある日の休み時間、クラスの席に座っているとみきちゃんが声をかけてくれた。みきちゃんも、佐藤君の噂の渦中にいる女子である。クラスメートはそんな私達に、噂なんて気にしなくていい、と言ってくれてはいるが、事実はほぼ噂通りであることを知っているだけに、やはりクラスに居づらい。

すぐに席を立ち、教室の外へと向かう。以前はさくらちゃんも誘っていたが、ある時からさくらちゃんにまで噂の火の粉が及ばないよう校内ではみきちゃんと二人で行動することが増えた。

「やよいちゃん、今日はどうする?」

「今日は一応部室に行って、少し作業をしてから行くよ。」

「じゃ、正門のところで待ってるよ。1年生の二人はどう?」

「一応誘ってみるけど、多分、今日は来ないと思う。」

「そっか、さくらちゃんは私から誘ってみるよ。」

「じゃ、お願い。」

佐藤君の噂の後も、結局みんな佐藤君とはつながっている。でも自分たちの知らない娘たちの中から、この噂を機に佐藤君から離れる娘が出ているかもしれない。佐藤君はそういう話をしないから、私達には詳しい状況は分からない。

「ところで、昨日順ちゃんから聞いたんだけど、鈴木君の彼女の話。」

「えっ? あ、伊藤さんのこと?」

鈴木君は初恋の相手だ。結局片想いのまま、佐藤君と付き合うことになり、体育倉庫の一件以来話をすることは皆無になったが、それでも鈴木君のことは気になっているし、彼女の話となればなおさらだ。

「1年生の娘で、とても初々しくて可愛いみたいよ。ゲームセンターで鈴木君にゲームを教わりながら一緒にやったりしてたって。」

「そうなんだ。鈴木君と伊藤さんはどうやって知り合ったのかな?』

「それは聞いてないんだけど、またおせっかい焼いたりしたんじゃないかな? 鈴木君はそういうところ優しいから。」

「そうだね...」

「実はね、私、鈴木君をやよいちゃんにくっつけようとアシストしたことがあったんだよ。鈴木君に、手芸部室に行け、ってね。」

「もしかするとあの時かな、手芸部の工作部屋に鍵をかけて佐藤君といた時。部屋を出たところで鈴木君と鉢合わせして...ってことがあったんだけど。」

「あっちゃー、そうだとしたらごめん、タイミング悪かったね。」

「いいよ、もしあの時佐藤君に声をかけられていなかったとして、鈴木君が私を見てくれていたか分からないし。それに、今更だしね。」

 

放課後、手芸部で簡単な作業を終えてから佐藤君の家へ向かおうと昇降口で靴を履いていると、そこに鈴木君が通りかかった。

「や、やあ、委員長。」

鈴木君から声をかけてくるのは何ヶ月ぶりくらいだろうか?

「え? あ、す、鈴木君?」

体育倉庫で佐藤君との行為を見られたことを思い出し、鈴木君の目を見ることができない。

「あの...さ。」

「あのっ、かっ、彼女できたんだって? お、おめでとう。」

「あ、ありがとう。そのさ、彼女がね、佐藤から手芸部の勧誘を受けた時。僕は彼女に、手芸部に行って欲しくない、って言ったんだ。」「佐藤から言われたよ、それは僕の我儘にすぎないんじゃないか、って。」「そうなんだよ、それは僕の我儘なんだ。でも、僕はもう後悔したくなかったんだよ。」

「それは、何の話?」

「うん、僕は、佐藤が委員長やさくら、みきを狙っているのは知っていたんだ。だから、佐藤には警戒していたんだけど、委員長達に『佐藤のところに行って欲しくない』って言うことはできなかったんだ。だって、それは僕の我儘だから。」「でも、本当は、委員長達は僕にとって大切な友達だったから、佐藤のところには行かないで欲しかった、佐藤に近づいてほしくなかったんだ。でも、僕の我儘を押し付ける訳にはいかない、そう思って何も言えなかった、何もできなかった。」「で、そのことをずっと後悔していたんだ。」

「.....」

「委員長、今佐藤のところで元気にやってる?」

「う...ん」

「なら、委員長が元気で幸せにやっているならそれでいいや。」「でも、今だけじゃなくて将来も幸せでいられるかな? 例えば2年後とか。僕にはそうは思えないけど。」「とにかく、委員長自身で、自分の幸せ、将来まで続く幸せについて考えて欲しいと思ったんだよ。おせっかいだけどね。」「それで、もし困ったことになったら話してもらえたら一緒に考えるから...」「やっぱり後悔したくないんだ、僕は。」

「鈴木君...」

「...鈴木、先輩?」

そこには見たことのない女子が立っていた。状況からして、彼女が鈴木君の彼女である伊藤さん?

田中さんと渡辺さんから名前は聞いていたけど、実際に見るのは初めてだ。眼鏡の印象もあるんだろうけど、真面目そうな娘だ。

「あ、あかねちゃん。ごめんごめん待たせちゃったね。」

伊藤さんは、待ち合わせ場所に現れない鈴木君を探してここに来たようだった。

「あ、じゃ、委員長、一応考えてみなよ。」「それじゃ」

そう言ってから彼女の方に振り返り

「じゃ、帰ろうか」

「はい、鈴木先輩。」

二人は正門に向かって歩き出した。

「....今日は...」

その後、佐藤君には体調が悪いから行けなくなった、と連絡した。

 

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