※この作品はR-18です。

鈴木君 その後   作:大仁 裕

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やっぱり諦められない

次の日、休み時間に山本と前田とでゲーム談義で盛り上がっていたところ、

「ヒャッハー!」

北斗の拳の敵モブキャラのような奇声をあげて石井が入ってきた。

「おはよう、どうしたんだ石井?」

「おう、石井、なにかいいことでもあったか?」

「おうよ、今度な、順とデートするんだ!」

「えっ?」「いつの間に順とそんな仲に。」

僕が驚いていると

「ようやくか、で?」

とそっけない対応の山本。

「で、いいデートコース教えてください、鈴木先生。」

「え?僕? どうして僕?」

「えー?」「伊藤さんとデートしたりしないの?」

「だって平日は図書室で、あとゲームだろ。」

「休日だよ、休日!」

「休日は特に...ないな。」

「ダメだろう、そんなの!」

山本のあまりの声の大きさに一瞬教室が静まり返る。

「だめだろう、そんなの。夏休みにちゃんと伊藤さんをデートに誘え!」

声のトーンを落として山本が言う。

「そうだ、これは業務命令だからな。夏休み初日、伊藤さんとのデート、絶対な。」

石井も追い打ちをかける。

「あと、順とのデートコースの設定もお願い。っていうかこっちが業務命令。」

「そんなの自分で考えろよ、石井。いつもみたいに色々考えればいいじゃん。」

「考えたけど思いつかないから聞いてるんだよ、な、」「あ、こういうのはどうだ?夏休みの初日にダブルデート、お前と伊藤さん、と俺と順。」

「えー? そのメンツだと山本と前田達がいないだけでいつもと変わらないよ。」「コースなんて適当でいいと思うよ。ゲーセンでゲームやって一緒に飯食って、でいいよ。」

「それこそいつも通りじゃないか!」

「だからそれでいいんじゃないか? 二人きりでってのがポイントなんだろ?」

「でもさぁ。」

「じゃ、分かった。伊藤さんとのデートのプランをいくつか考えるから、その中で気に入ったのを選んでよ。それでどう?」

「それでいい、恩に着るぜ、鈴木。」

「デートか、いいなぁ」

山本が呟いた。

「そうだねー。」

前田も同調した。

 

「そういえば。」珍しく前田が話題を振ってきた。

「昨日ゲーセンの入り口に、このクラスの子、山田さんだっけ?がいてこっち見てたね。」

「ああ、さくらがこっち見ていたのは知ってる。僕と目が合ったらすぐに走ってどこか行ってしまったけど。」

「彼女、ゲーム上手いんだよね。」

「うん、僕と同じくらいには強いよ。」

「彼女、僕たちの特訓に誘えないかな?」

「?! それは考えたことなかったけど...」「いいかもしれないね。」

始業のチャイムが鳴り、その話はそこで終わりになった。

 

昼休み、鈴木達と昼飯を食べながら盛り上がった後、山本はトイレで用を済ませ、教室に戻ろうと廊下を歩いていた。ちょうど階段の前を通りかかったそのとき、重そうな荷物を抱えて階段を登ってくる女子がいるのが目に入った。

「それ、重そうだね、委員長。手伝おうか?」

「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。」

「いや、すごく重そうだから手伝うよ。」

そう言ってやや強引に荷物を受け取って山本は教室に向かって歩き出した。

「ありがとう、山本君。助かったよ。」

「こちらこそ、いつもこんな仕事やってもらっていたのに気づかなかった、ごめん。」「力仕事が必要なら声をかけてよ、手伝うから。」

「ありがとう、優しいんだね、山本君。」

クラス替えの当時とは少し雰囲気が変わって色気のようなものが感じられる。これも佐藤と付き合うようになったからか? 山本は鈴木や石井の話を思い出して、複雑な気持ちを抱えながら、眼の前にいる委員長との何気ない会話を楽しんだ。何せ、これが委員長との初めての会話なのだ。

「よいしょっと。ここでいいかな? 委員長。」

「ありがとう、そこでいいよ。」「手伝ってくれてありがとう,山本君。」

「このくらいお安い御用だよ。それよりも、いつも俺たちのためにこんな仕事してくれていたんだね。ありがとう、委員長。」「じゃっ」

午後の授業が始まる直前に席についた山本は、高揚した気分の中にいた。

 

今日は伊藤さんの図書室当番がないので、一緒に喫茶店でも誘ってみようと思っていた。さっき山本や石井から話のあった伊藤さんとのデートの予行演習として、二人だけの時間を持つ機会を設けたいと思ったからだ。

そこに、急に山本から相談事があると連絡が来た。夏休み前になんとかしたいらしいが、終業式は明後日、一刻も無駄にできない状況だ。しかも、校内の人に話を聞かれたくないからと、待ち合わせ場所にゲーセンを指定してきた。それから、僕宛に伊藤さんを連れてきて欲しいというリクエストがあった。一体何の用なのか皆目見当がつかない。

 

僕は、山本の指定通り伊藤さんを連れてゲーセンに赴いたが、待ち合わせ場所には山本の他に、石井がいた。

「オッス鈴木、遅かったな。」

「時間通りだろ。で、何の用? ずいぶん急ぎの案件みたいだけど。」

「それはこれから話す、喫茶店でいいか?」

「俺たちはオッケーだが、伊藤さんは大丈夫?」

「ええ、大丈夫です。」

はからずも、伊藤さんと喫茶店で過ごす計画は実現したものの当初の意図とは別の形になってしまった。山本の相談事そのものはシンプルで、要するに委員長と仲良くなりたい、というものだった。

「今日、山本は委員長の仕事を手伝ってたよな。あれがきっかけなのか?」

「ああ、鈴木の話を聞いて一度は諦めたんだけど、今日苦労して荷物を運んでいる委員長を見ていたら放っておけなくなったっていうか、こんな仕事やってもらって申し訳ないっていうか、そんな気持ちになったんだよ。で、荷物を運ぶのを手伝ったときに少し話をして、それで再燃したというか、やっぱり委員長いいなぁ、って。」

「しかしなぁ...」

石井が頭を抱えながら続けた、

「校内で接点を作りたいにも時間がない、終業式まであと2日しかないんだ。」「夏休みに入ったら、佐藤のトコから引っ張り出すチャンスがない。」「順と違ってゲーセンとか決まった出没ポイントがないからなぁ。」

「順に頼むのは?」

「順から連絡取ってもらうにしても、山本ってやつに会ってよ、じゃあ話通らないだろ?」「いずれにせよ、終業日までに山本と委員長との間に接点を作って、夏休みも一緒にいられる口実を作らないと。」

「鈴木は何かない?」

山本が僕に話を振る。

「具体的な策は今のところ思いつかないけど、先日委員長には『佐藤のところに行くな、って言えなかったことを後悔している。』『大事な友だちだと思っている』『今だけじゃなくて未来のことも考えて』みたいなことを伝えたよ。どこまで受け止めてもらえたかは分からないけど。」

「私は後半その場に居合わせましたけど、鈴木先輩の思いはある程度伝わったと思います。あの時の、川上先輩の表情から...」

伊藤さんは、少し複雑な表情でそう言い、続けてこう提案した

「あの...勉強会、っていうのはいかがでしょう?」

「勉強会?」「その手があったか。」

山本が何かひらめいたようだ。そして、こう続けた

「夏休み明けに期末テストがある、委員長は中間テストで成績を落としているからここは踏ん張りどころのはず。連日佐藤のところに入り浸っていれば勉強どころではないので、強制的に勉強できる環境を提供できれば話に乗ってくると思うんだ。」

「ふむ、その基本的な考え方は良いとして...どうやって委員長を引っ張り出すかだな。ちなみに川上さんは成績いいのか?」

石井も勉強会自体には賛成のようだ。

「こないだの中間での成績は分からないけど、それ以前は成績上位者リストの常連だって聞いたから...クラス順位6位か7位以内って感じだろうな。」「推薦枠を狙っているならクラス順位は3位以内かな。」

「いずれにせよ、俺たちじゃあ先生役は無理そうだな。」

「逆に先生役をお願いしてしまうのはどうだろう。順の時みたいに」

僕は、思いつきでそう言った。

「先生役かぁ。それって委員長にメリットあるか?」

「いや、メリットなくても付き合わせる方法はあるぞ、山本。彼女に借りを返したい、と思えるくらい大きい貸しを作ってしまうことだよ。終業日までに。」

石井の提案は魅力的だが

「大きな貸し...ねぇ。」

「終業式後のクラスでは夏休みに向けて色んなプリント配るよな。あれ準備するのって各クラス委員だろ。これを手伝っちゃうってのはどうだろう?」「ウチのクラスは、委員長の性格から全部自分で引き受けちゃうと思うから、作戦としては成立すると思うんだ。しかも委員長の性格から言って勉強会の申し出も断らないと思う。まずは、委員長の仕事をできるだけ手伝って、話をする機会をなんとしても作ることだよ。」

「分かった、じゃ俺は明日委員長をマークして、いつでも手助けできるようスタンバイしとく。鈴木はバックアップお願い、ただ、できるだけ俺が手伝いたいから鈴木はギリギリまで我慢してくれ。」

「わかった、僕は山本のバックアップに徹すればいいんだな。」

「頼む。」

山本は、作戦が決まって満足な様子だ。

 

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