終業式前日、山本はいつになく気合が入っていた。もう授業は殆どなく、夏休みに向けて他の生徒が浮かれている中、クラス委員長に仕事が振られるのをずっと待っていた。が、何事もなく一日が過ぎ、帰りのホームルームを残すのみとなった。
「えー、明日は終業式で明後日からは夏休みだ。休み明けには期末試験があるから、各自準備をしておくように。」「それから川上さん、明日みんなに配るプリント一式を印刷して、明日までに配れるようにしてくれるかな?」
「はい。」
「それじゃあ、今日はここまで。ハイ号令」
「起立、礼」
「ふぅ...」
委員長が軽くため息をついて教室を出る、行き先は職員室だろう。まずは原稿を受け取って、職員室の端にある印刷コーナーで印刷をするはずだ。結構な重労働だから男手があると助かるはず。あとは、どのタイミングで手伝いを申し出るか、だ。山本は作戦の脳内シミュレーションを完成させると委員長の後を追った。
職員室ドアの前で委員長を発見、作戦開始。
「委員長!」
「え? あ、山本君?」
「プリントの仕事、手伝うよ。」
「え? いいよ、これは私の仕事だから...」
「いやいや、こういうのは本当はできる人で分けてやる仕事だと思うよ。で、俺はできる人なんで手伝いに来ました、って。ま、手伝いたくて手伝うんだから遠慮しないで。」
「うん、わかった。ありがとう。」
「どういたしまして。じゃ、」
そう言って職員室のドアをノック、二人で職員室に入った。
「失礼しまぁす」
「じゃ、私は先生のところに原稿を取りに行くから、山本君は先に印刷コーナーに行っててくれる?」
「了解、何かやっておくことはない?」
「うん、とりあえず待っててくれればいいよ。」
ここが印刷コーナーか、始めてきたけどコピー機や印刷機が並んでいる。
タタタッ
「山本君、お待たせ。」「今日はクラス全員分を印刷するから、こっちの印刷機をつかうの。」
「コピー機なら使ったことあるけど、印刷機の使い方はわからないな。」
「これはね、」
と言いながら委員長は原稿を印刷機にセットして印刷枚数と、後いくつかの設定をしてからボタンを押した。
「凄いな委員長は。今何をしていたのか全然わからなかったよ。」
「あはは、慣れればすぐにできるようになるよ。そんなに難しくないから。」
しばらくして印刷機が停止した。
「じゃ、山本君。この印刷された紙をあそこのテーブルの上に運んでくれる?」
「オッケー」
紙を移動させる間に委員長は次の印刷の準備を終え、印刷ボタンを押していた。
これを何度か繰り返し、テーブルの上に原稿の山がいくつかできた。
「今度はこれを並べ替えてホチキスで止めるの。まず、並べ替えから初めましょ。」
「わかった。」
作業に入る二人だったが、山本は思っていた以上に大変だと実感した。
「委員長、こういうのいつも一人でやってるの?」
「うん、放課後は時間あるから。」
「でも、やっぱりこういうを全部委員長に押し付ける形になっているのはなんか申し訳ないよ。次もこういうのがあったら言ってよ。手伝うから。」
「ありがとう。じゃ次はお言葉に甘えちゃおうかな。」
1時間弱くらいの作業でクラス全員分の冊子+予備が完成した。
「ありがとう、いつもはもっと時間がかかるんだけど、山本君のお陰で早く終わったし、それに楽しかった。」
「こちらこそ、委員長と一緒に話ができて楽しかったよ。」「じゃ、これを教室に運べばいいんだよね。」
「うん、お願い。」
一枚だと軽い紙だが、これだけ数がまとまると紙は重い。俺でさえそう感じるのだから委員長にとっては相当な重労働のはずだ。
冊子を教室に運んで、明日の終業式後のホームルームで配れるよう机の上に置いて任務完了。
「お疲れ様でした。山本君、本当にありがとう。」
「どういたしまして、役に立てて何より。」
「私も、山本君がなにか困っていたら、私にできることがあったら何でも言って。手伝うから。」
「うん、ありがと。今のところ特に困ったことは....あ、じゃ一つお願いしてみていいかな?」
「私にできること?」
「うん...休み明けにテストあるでしょ? で夏休み勉強しようと思うんだけど、わからないところを教えてくれる人がいるといいなぁ、って思ってて。その、一緒に勉強しない? 夏休み...」
「え? うん、そうだね。私も勉強しなきゃいけないし、私も分からないところを教えてくれる人がいると助かる。それに、一緒に勉強すると楽しそうだし。」「毎日はちょっと無理だけど...」
「流石に毎日は勉強できないよ。そうだね、お互い連絡して都合のいい日に図書館かどこかで待ち合わせるのはどうかな?」
「そうだね、じゃ連絡先を交換しようよ。山本君の連絡先を教えてくれる?」
とりあえず、夏休みの初日、市営の図書館で委員長との勉強会が決まった。