夏休みの初日、俺は順とデートすることにしたが、デートプランが思いつかない。そこで、鈴木に頼んでいくつか候補をあげてもらった。
1. 水族館コース
2. 動物園コース
3. 遊園地コース
4. ショッピングコース
5. 博物館コース
6. 城コース
7. ゲーセンコース
鈴木は伊藤さんと水族館に行くらしいので、1.はない。4.は俺が楽しくないし、5.と6.は俺も順も多分楽しめない。7.はその点問題ないが、毎日のようにゲーセン通ってて、デートでまでゲーセン行きたくないということで却下。ということで、消去法的には2.か3.だが、順と相談して遊園地コースに決定、今日に至るというわけだ。
「石井君おはよう、待った?」
「おはよう、順。いま来たトコ。」
「えー、ホント? マニュアルの受け答えっぽい。」
「いや、ホントホント。いま来たばっかり。」「んじゃ、行こうか。」
「うん。」
今日の行き先は電車で数駅行ったところにある遊園地。駅前の繁華街を抜けた広い公園の中にある。
「結構並んでるな。」
「だねー。」
流石夏休み初日、ゲート前には入場を待つ親子連れが列をなしている。俺と順はその列に並んだ。
「石井君はさー、鈴木とはどうやって知り合ったの?」
順にとっては何気ない問いかけだが、俺にとっては中々答えるのが難しい。何せ、山本を介して佐藤のハーレム問題を相談されて、興味を持ったので首を突っ込んだのだ。いわば佐藤とは反対の陣営、出会い方によっては順とも敵同士だったかも知れない。
「ああ、山本を通じて知り合ったんだよ。鈴木と山本が同じクラス、俺と山本は同じ陸上部、で、今はゲーム仲間ってわけ。」「あいつ、最初にゲームに誘った時、初心者のフリしてさも偶然勝てたかのように俺たちをボコボコにしやがったんだよ。」
「あははは、鈴木も普段はいい奴なんだけど、時々意地の悪いところあるよね。」
「まあ、その鈴木をボコボコにしたのが順だったわけだけど。」
「あー、あの時がそうだったんだー。でもあの時は鈴木も油断してたよね、最初。」
そんな話をしている内に、いつの間にか園内に入っていた。
入場の列が解消されて、人の流れが不規則になった。一瞬順と離れそうになって慌てて手を握った、
「あ、これはその、離れ離れにならないように...」
とっさにそう言ったが、本心からの言葉とは言え我ながら言い訳っぽい。
「うん、ありがと。」
順も特に嫌がる風でもなくそのまま俺の手を握っていた。
「最初何乗ろうか?」
「順はジェットコースターとか平気?」
「うん、あんまり怖いやつでなければ大丈夫。」
「ここのはどうなのかなぁ?まあ乗ってみようか。」
「そうだね、乗ってみよう。」
いざジェットコースターに乗ってみると、全体的にパステルカラーでまとめられた柔らかい色合いからは想像できないほど本格派絶叫系で、俺は内心ビビりまくっていた。順は、乗り始めこそ話をする余裕があったものの、最初の急降下以降はずっと黙って俺の手をギュッと握りしめていた。
「いやー、これ怖かったねぇ。」
俺は正直に感想を漏らすと
「.....怖かった...」
順は心底怖かったらしい。
「これは舐めたらいけないやつだったね。」
「うん。」
「楽しかったらもう一回と思っていたけど...」と言いかけると
フルフルフルフル、と順は全力で首を振った。
順はよほど怖かったのか、暫くの間ずっと俺の腕にしがみついていた。その間俺は、想定外の事態にやや困惑しながらも、腕から伝わってくる順の体の凹凸や順の体温を感じながら幸せを噛み締めていた。
次は何にしようか、と周囲を物色していると、
「あれにしようよ。」
と順はティーカップを指さした。
「俺、友達と来ると結構気合い入れて回しちゃうけど大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。」
いざ、ティーカップに乗り込むと、順はアトラクションが開始されるや否や全力でハンドルを回し続け
「ギャハハハハハ!」
と笑い声を上げながら狂ったようにハンドルを回し続けた。俺も途中から本気でハンドルを回していたのでカップの回転は尋常ではなかったはずだ。
アトラクション終了後、二人共フラフラになりながらカップを降り、二人して近くのベンチに座り込んだ。
「楽しかったねー。」
「順、いくらなんでも回し過ぎだって。まだ景色がぐるぐるしてるよ。」「でも楽しかったー。」
午前中、歩きながら適当に見つけたいくつかのアトラクションを楽しんだ後。園内のレストランで食事をした後。腹ごなしのつもりでゲーセンに立ち寄った。
ゲーセンで順と十回以上対戦したが結局一回も勝つことができず、実力の差を思い知った。
「やっぱり強いな、順は。」
「石井君だって凄い上達してるよ。危ないシーン結構あったもん。」
結局俺達はゲームやっちゃうんだな、と呆れながらも、まあそれも俺達らしくていいかとも思える。
そろそろ日が暮れかけてきたので、最後に乗るアトラクションを決めようと順に希望を聞いたところ、彼女が指さしたのは観覧車。ここの観覧車は丘の上にあってかなり遠くまで見通せるらしい。
ゴンドラに乗り込むと、俺達は並んで座り、今まで楽しんだアトラクションを眼下に見下ろして午前中のアトラクションについて話をしていた。
その間、順は少しずつ俺との間合いを詰めてきたが、俺はこういう状況でどうするのが正解なのかわからず、状況を順に任せることにした。順はそのまま間合いを詰め続け、最終的にはほとんど密着状態になっていた。
観覧車のゴンドラが最高地点に近づいてくると夕焼けに光る海が見えてきた。
「海が見えるよー。」
と俺の方を振り返った順の顔が近い。驚きながら順の顔を見つめていると、順も俺の顔を見つめている。そして、どちらからともなく顔を近づけ唇を重ねた。女の子の唇ってこんなに柔らかいんだ。俺は、順の頭の後ろに手をやり、髪の毛をなでた。全てが俺にとっては初めての事で、その後の景色のことは全然覚えていない。ただ、唇の感触、お互いに舌を絡み合わせたときの気持ちよさ、密着した体から伝わってくる体温、髪の毛の感触と匂い、そんな感覚のみの時間が過ぎた。
「あ、もう少しで降りなきゃ」
ふと我に返った時は、目の前に木が見える高さまでゴンドラが降りてきたころだ。お互い見つめ合える距離まで顔を離し、
「もうそろそろだね。」
と降りる準備をはじめた。
ゴンドラを降りて、足に地面を感じたからか、俺は急に恥ずかしくなりしばらく何も言えなかった。順もしばらく無言だった。
「海見えたね。それに夕焼け、綺麗だったね。」
「うん、今日は楽しかった。」「ゲーセンもいいけど、たまにはこういうデートしよう。」
「そうだね、私もすごく楽しかった。ありがとう。」
俺にとって、夢のような時間だった。
遊園地を出た後、駅近くのファミレスで順と一緒に夕食を食べながら、くだらない話で盛り上がった後、順を家に送り届けてから家に帰った。