川縁から帰宅しドアを開ける
「ただいま」
家に帰ると心配そうな凛の顔
「おかえりなさい、お兄ちゃん。」
そう言いながら、凛も少し前までの明るさはない。
凛は自分の兄のことを考えていた。
あの日、なにがあったのだろう? あの日、顔面蒼白で帰宅したお兄ちゃん。「佐藤さんの家に行く」と言った直後、いきなり泣き出し「おまえだけはアイツのところに行かないでくれ」と懇願したお兄ちゃん。大好きな麻婆豆腐も食べずに部屋に閉じこもったお兄ちゃん。トイレでずっと吐いていたお兄ちゃん。
「佐藤さんと何があったんだろう?」「みきちゃんを佐藤さんに取られたのがそんなにショックだったのかな?」「でもそのことであんなに吐いたりするのかな?」。
今にして思えば、トイレのドアの向こう側で、お兄ちゃんは泣いていたようだった。
「お兄ちゃん...」
今日、学校から帰ってきたお兄ちゃんは、少しだけ元気になったように見えた。相変わらず落ち込んでいるようではあったが、それでも表情が少し和らいでいるように思える。
「凛、心配かけてごめんな」「お兄ちゃんはもう大丈夫」
自分の心の中を見透かしているかのような兄の言葉を聞いて少しだけ安心した。
「うん、よかった」「今日はお兄ちゃんの好きな麻婆豆腐だよ、一緒に食べよ」
「ああ、うん。」
あの日からいくらも経っていないが、なんとなく今日は一緒に麻婆豆腐を食べてくれそうな気がしていた。今日は麻婆豆腐を作ってよかった。
「うん、やっぱり凛の麻婆豆腐は美味しいよ。」
「お兄ちゃんも少し元気が戻ったみたいで良かった」
「......」
「お兄ちゃん。。。少し聞いていいかな?」「あの日、何があったの?」
一瞬お兄ちゃんが戸惑ったように見えた
「ごめん。ちょっと今は全部話すことはできないんだ。まだ自分の中でもモヤモヤしているし、何より凛に今していいようなことじゃないと思うから。」
「でも... 今後、佐藤君に誘われても絶対に行かないで欲しい」「彼にはみきがいるから。いや、みきだけじゃないが...」「みきに誘われても、それでも絶対に行かないでくれ。」
「よくわからないけど、分かったよ」「あの日のお兄ちゃんを思い出したら。そんな顔で言われたらもう断れないよ。」
「うん、そうして欲しい。ありがとう」「今は詳しく話せないけど、話ができるその時が来たら。その時、凛がまだ話を聞いてくれるようなら、そのときに話をするよ。」
ちょっとだけ、お兄ちゃんがホッとしたように見えた。うん、なんかちょっとだけ安心した。
凛との夕食の後。僕は、自分の部屋で考えてみた。
なぜこんなことになってしまったのだろう? 正直分からない。何が起きたかわからない内に結果だけを見せつけられた感じだ。
なぜだか分からない内に、委員長が手芸部の工作部屋で佐藤と一緒にいた。今にして思えばあの時委員長は既に...。
ある日突然、みきは佐藤と付き合い始めていた。
さくらは、おそらく佐藤が「山田さん」ではなく「さくらちゃん」と呼びかけたあのときにはすでに佐藤のモノになってしまっていたのだろう。
全てがほんの1週間くらいの間の出来事だ。佐藤が何をしてそんな事になったのかすら見当もつかない。
僕は何を望んでいたのだろう? 平穏な日常、みきが家まで僕を起こしに来てくれて、クラスではさくらとゲームの話をし、委員長とジョークの話をする。特に誰かを彼女にしたいとかそういうことを望んでいたわけではないが、彼女たちは僕にとって大切だった。僕が求めていたのは、大切に思っている彼女たちと、今までと変わらない毎日を送ることだったはずなのに。
これからどうすればよいのだろう? 僕はどうしたいのだろう? わからない。ただ一つ確かなことは、僕が望んでいたあの日常はもう戻ってこない、ということだけだ。これからどうすれば、これからどうしたいのか、わからない。わからない。
そんなことを思いながら布団の中でいつの間にか寝てしまっていた。
改定
凛のセリフ、佐藤の呼び方 旧「佐藤君」 新「佐藤さん」