※この作品はR-18です。

鈴木君 その後   作:大仁 裕

20 / 28
一緒に勉強しない?

夏休み初日、山本は市営図書館に向かって歩いていた。図書館の開館前にもかかわらず、既に何人か正面入口の側に並んでいる。待ち合わせには少し早かったかもしれない。そう思った瞬間、山本は自転車置き場の脇に立っている少女に向かって走り出した。

「おはよう、委員長。待たせてごめん。」

「おはよう、ううん、私もさっき着いたところ。」

山本にとって、私服の委員長を見るのは初めてだ。制服を着ている委員長は、「委員長」というより「やよいちゃん」という雰囲気だ。

「じゃあ列に並ぼうか。教科とか決めてなかったけど何から始める?」「俺は、数学と世界史、あと英語、それから化学を持ってきてる。」

「私は...今日は世界史と、英語と...あと現代文と古典を持ってるから。」

「それじゃあ世界史から始めようか?」

「うん、じゃ世界史からね。」

 

図書館の2階にある学習室に席をとり、教科書とノートを広げる。最初机に向かい合う形で座ったが、机が広すぎて相談ができないので隣同士になるよう座り直した。委員長との距離が近い、山本は胸の高鳴りを抑えられなかった。

「世界史って難しいよね。こないだのテストは教科書を無理やり暗記して乗り切ったんだけど、このやり方だと受験には通用しない気がしていて。委員長はどうやって勉強しているの?」

「私はこないだの試験はあんまり取れなくて。だから頑張らないといけないんだけど、1年生の時は歴史をストーリーだてて覚えるようにしてたよ。ただ、世界史ってあっちこっちに話が飛ぶからストーリーにするのが難しくてあんまり上手くいかなかったの。」

「そうだよね、ヨーロッパはヨーロッパ、アジアはアジアってまとめると話としては分かりやすくはなるんだけど、お互いの時間的な関係がわかりにくくなるんだよね。」

「それなら...ストーリーじゃなくて同じ時代の地域間の関係を簡単にまとめてみるってどうかな? 二人で分担決めてお互いに説明し合うって。」

「それ、面白そうだね。ちょっとやってみようか。試験範囲だと中世から近代のちょっと前くらいまでか。ちょっと分量が多いかな。どうしよう?」

「時代の古い方からと新しい方からでそれぞれまとめてみない? 古い方からの人は、一通りまとめ終えたら少し新しい時代。逆に新しい時代の担当は、終わり次第時代を遡るって感じで。」

「いいね、じゃ、二人が時代の何処かでぶつかったらお互いに教えっこしよう。」

「うんっ!」

 

俺は、教科書を読みながら、国や集団を単位として抜き出し、それらの関係が分かりやすくなるよう矢印で指し示すような図を作っていた。一方、委員長は、教科書を文章でなく箇条書きや表にして分かりやすくするよう工夫しているようだった。

俺は、作業中10分おきくらいに隣りに座っている委員長の横顔を見てエネルギーを補充しつつ資料作成を進めた。

2時間くらいして

「ねぇ山本君、今どの辺の時代?」

そう言って委員長は俺のノートを覗き込んだ。

「あ、もうそこまで来てるんだ。ぶつかったね、時代。」

「お、もう終わったのか。いやー、始めた時はいつ終わるんだ、って思ったけど意外と早かったね。」

「そうだね。」「ところでなんだけど、ここで教えあうと結構うるさくなっちゃうよね。もうお昼の時間でもあるし、レストランかどこかに場所移して、そこで教え合おうよ。」

「そっかぁ、そうだね。確かにここで教えっこは無理か。うん、じゃ近くのファミレスかファストフードで続きにしよう。」

 

俺と委員長は図書館を出て、最初に見かけたファミレスで食事をすることにした。委員長との他愛のないおしゃべりをしながらの食事は楽しかった。委員長は見かけによらず、ジョークが好きでいくつか持ちネタを披露してくれた。食後、ドリンクバーで調達したドリンクを飲みながら、交互に時代ごとの解説をすることになった。俺の考えた図で表す方法だと、ざっくりとした構造は分かり易いが、情報を追加していくに従ってわかりにくくなる。一方、委員長の箇条書きや表だと、情報量は増えるが相互の関係は見えにくい。

「うーん、一長一短だな。あとは俺達にはどの辺りがわかりやすいかってことかな。」

「そうだね、私は山本君の図の考え方はいいと思う。特に、苦手な時代って本当にわからないけど、これなら大体の流れというか関係がわかるし、覚えやすいのがいいよ。」

「俺は逆に委員長の表が上手く出来てるって思ったよ。ある程度構造が分かってる時代だと、細かい事柄同士を綺麗にまとめたほうが理解しやすいし。あと、委員長って字きれいだよね、とても読みやすいよ。」

「あ、ありがとう。そういう風に言ってくれる人いなかったから...嬉しいよ。」

そう言って委員長は笑った。

「じゃあ、後でノートのコピーを取ってお互いに交換しようよ。」

「うん、いいね。なんか勉強会っぽい。」

「で、まだ時間あるけどどうしよ? 他の教科に行ってみようか。」

「そうだね、次は英語とかどう?」

「あー、俺英語苦手だから助かる~。」

「私もそんなに得意ってわけじゃないよー。」

そう言っていた委員長だったが、彼女のノートを見せてもらって愕然とした。授業中に先生が指摘したことがびっしり書かれていて、意味の取りにくい文章に関する解説もメモ書きしてあった。しかも読みやすいきれいな字で。

「あー、ここはこういう意味だったのか。どうしてもここよくわからなかったんだよ。ありがとう、助かったよ。」

「いえいえ、私のノートが役に立って嬉しい。」

 

英語の勉強が一段落したところで、もういい時間だったので俺達はファミレスを出た。折角なので、駅前の書店で参考書を二人で物色することにした。

「山本君、数学の参考書って何使ってる? 私そろそろ数学も参考書買った方がいいかなって思ってるんだけど、なかなか選べなくて。」

「俺はねぇ、これ使ってるかな?」「数学の参考書って、演習問題の解答を見たときに、式変形とか端折っててわからないことがあるんだよ。でも、この参考書は途中の式変形とか全部端折らずに書かれているからとてもいいよ。レベルは少し高めだと思うけどね。」

「そっかー、そういう選び方もあるんだね。ちょっと考えてみる。」

委員長と一緒だと、参考書選ぶだけでも楽しい。本当にいい娘だよなぁ、委員長、俺は改めてそう思った。

 

書店を出た後、委員長を家まで送るよと言ったが、まだ明るいし大丈夫と言われ、ここで解散となった。まだ夏休みは長いし、これからも勉強会で委員長に会えるのが楽しみだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。