※この作品はR-18です。

鈴木君 その後   作:大仁 裕

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そんなの認められない

「キス...しちゃった...」

委員長こと川上やよいは、山本との勉強会の帰り道、全身が熱くなっているのを感じながら山本と抱き合ったときのこと、キスをしたときのことを思い返していた。突然山本に抱きしめられて驚いた、でも嬉しかった。そして、佐藤に抱かれている時とはまた違った、ガシッととした硬さ、守られているような安心感があった。何よりとても気持ち良かった。ただ抱きしめられているだけなのに、思わず声が出てしまうほどの快感だったのだ。

「佐藤君じゃないのに...、私...」

彼女にとって、ディープキスも初めてというわけではなかった。佐藤とは何度もキスをしている今となっては、もはや特別なものではないにも関わらず、山本とのキスは佐藤とのそれとは別種の気持ちいい感覚があった。

「...佐藤くんじゃないのに...」

 

最近の私はどうかしている...佐藤君と山本君と行ったり来たり。山本君は最近知り合ったばかり、親切で私の仕事を何度も手伝ったりしてくれた。一緒に仕事をしていて、一緒に勉強していてとても楽しい。佐藤君のことは好き、優しいし私のことを見ていてくれる、それに気持ちいいこと沢山してくれる。でも、山本君も...気持ちいいことしてくれた。あと、山本君の前では言えなかった、佐藤君と付き合ってる、って。

 

結局、私はどうしたいんだろう?

 

それとは別に気になる、というより妙に心に引っかかっていることがある。「状況証拠的なもので、事実を決めつけ、勝手に諦める」、山本が口にした言葉だ。それが、他人事でないような気がしているのだ。自分の過去にも、状況証拠から事実を決めつけて諦めてしまったことがあったんじゃないか? 山本は、実際に確かめるまで諦められない、と言っていたが、自分は、何も確かめることなく諦め、その場にあった安易な救済にすがりついた、そんなことがあったんじゃないだろうか、いや、あったような気がしてきた。

 

「ただいま。遅くなってごめんね。」

「あらおかえり。友達との勉強は捗った?」

「うん....」

考えがまとまらないまま家に着いてしまったこともあり、彼女は記憶の糸を手繰るのをやめた。

 

家族と夕食を取りながら、テレビのジョークに笑って、その後自室に戻り、今日の勉強のおさらいをした。そして、入浴時、洗い場で体を洗った泡をシャワーで流している時、どこかで浴びたシャワーの感覚が蘇った。その感覚からの連想、ドミノ倒しのように次々と蘇る記憶から今まで心に引っかかっていたモノの正体が見えてきた。

 

そうだ、思い出した。あの時だ。鈴木君と一緒にいるのが楽しくて、鈴木君の気を引きたくてアクセサリーを作ってあげたら喜ぶんじゃないかって、そんなことを考えるのが楽しくて。でも、そんな自分に佐藤君はこう言った「鈴木君の方は気がないみたい」「鈴木君は委員長のこと全く見ていないって事じゃないかな?」。私は、その言葉を真に受け、鈴木君の気持ちを確かめることもせずにその場にいた佐藤君にすがりついた。山本君の家からの帰り道、ずっと引っかかっていたのは、まさにそのことだった。

 

今から思えば、あの時の佐藤君の言葉を何の疑いもなく事実だと思いこんでしまったのは、思慮が足りなかったのではないか? もしそれが事実だったとしても、山本君のように、もう少し頑張っても良かったんじゃないか。でも現実には、私はあの時、鈴木君を追うのを諦め、それまで特に意識していなかった佐藤君の言うがまま気持ちが動いてしまった。所詮、鈴木君に対する私の気持ちはその程度のものだったのだ。

 

こう結論付けて、川上やよいは軽い自己嫌悪に陥った。彼女は真面目だとよく言われるし、自分自身を真面目な性格だと思っていた、そして特に根拠があったわけでは無いが恋愛に関しては一途だと思っていた。

ところが、教室で休み時間に自分に話しかけ、仕事を肩代わりしてくれた「優しい」鈴木を好きになり、その後、簡単に鈴木を諦め「優しい」言葉をかけてくれた佐藤に乗り換え、そして今、佐藤という恋人がいながら、学校で仕事を一緒にしてくれた「優しい」山本にも好意を持っている。結局、誰でも良かったのではないか?、その場その場で優しくしてくれた人に心が動いただけではないか?

 

「誰でも良かったわけじゃない...」

 

そうつぶやくと、「誰でも良かった」わけじゃない証拠を見つけようと自分の記憶を遡った。やはり自分が惚れっぽい女だとは認めたくない。

 

私は、鈴木君のことは好き、だったんだと思う。彼は優しかったし一緒にいて楽しかった。だから佐藤君と関係を持つようになってからもよく喋っていたし、鈴木君と過ごす時間は変わらず楽しかった。

あの時、鈴木君とどうなりたかった、という強い気持ちはあまりなかったかも知れない。付き合いたい、彼女になりたい、そこまでの想いがあったかは自信がない。もっと素朴な、手作りのキーホルダーを作ってあげたら喜んでくれるかな?とか、喜ぶ顔を見たい、ずっと一緒に楽しい時間を過ごしたい、そんなものだったのかもしれない。

でも、鈴木君のことは大切に思っていた。

 

佐藤君はどうか? 鈴木君は私を見ていない、そう言ってから、きっと私にもいい人がいる、と優しい言葉をかけてくれた。そのとき、私はこの人なら、と感じて彼の言うがままに体の関係になったのだが、この時点で佐藤君が好きだったかはあまり自信がない。佐藤君のことが好きで離れられないと思うようになったのは、もっと後のことだったと思う。だとすると、私は結局、好きかどうか自身のない相手にすら体を許してしまう軽い女だ、ということになる。

 

山本君は...ずっと私のことを見ていてくれた。仕事を手伝ってくれる優しさもある。一緒に仕事したり勉強したり、参考書を探したりするのは楽しい。そして、ギュッと抱きしめられた時、気持ちよかった。体の関係を持ってもいい、と思える。多分、彼のことは好きになっているんだと思う。

 

「やっぱり、優しい人なら誰でも良かったのかな...」

「私って、惚れっぽい軽い女なのかな?」

 

認めたくはないが、認めざるを得ない。私は軽い女なのだと。

その上で、最初の問いに戻った。

 

私はこれからどうしたいんだろう...

 

そういえば、こないだ鈴木君に言われた言葉がある。「将来まで続く幸せを考えて欲しい」と。私は優しい人にはすぐに惹かれてしまうところがある、そこは認めて、その上で、今だけじゃなくこれから先も優しい人、優しいままでいてくれる人を選んで好きになろう。割と誰でも好きになれるのなら、その中でずっと優しいと思う人を一人選ぼう、そう思えてきた。

 

それで考えると、現在進行形で好きなのは佐藤君と山本君。

佐藤君の言葉はいつも優しいけど、教室で仕事を手伝ってくれたりそういう実際の行動で示してくれることはなかったし、これからもそういうのはないだろうと思う。それに、佐藤君は私を見てくれる、最初はそう思ったけど、佐藤君が見ているのは私だけじゃない、みきちゃんやさくらちゃん、他の女の子のことも同じように見ている。今、佐藤君と一緒にいるのは、結局エッチが気持ちいいから、それだけなのかも知れない。

山本君は、言葉だけでなくクラスの仕事を手伝ってくれたり、そういう優しさもある。一緒に仕事とか勉強とかしていて楽しいし、ギュッとされたとき気持ちよかったし幸せを感じられた。山本君は、私だけを見ていてくれるのかな? 他の女の子を同じように見ていたりはしないのかな?

鈴木君はどうだったかな? 鈴木君は言葉だけでなく行動で優しさを示してくれた。だから最初に好きになったんだけど、でもそこから先には進まなかった。あの時、佐藤君の言葉を鵜呑みにしないだけの知恵と少しの勇気があれば。でも、鈴木君は優しいから、きっと私だけを見ていてくれたわけじゃないんだろうな。

 

そう考えると、答えはもう決まっているんじゃないかな?佐藤君がいるのに山本君を好きになって、でも私はそういう軽い女だと認めてしまえば、それもいいか、という気になってくる。

 

少なくとも、山本君の合宿中は佐藤君のところに行くのはやめよう。次に山本君と会う時には、そういう後ろめたい気持ちがないようにしたい。そう思った。

 

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