※この作品はR-18です。

鈴木君 その後   作:大仁 裕

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過去も未来も捨てられない

石井が合宿中で暇を持て余していた石川順は、例のゲーセンで一人ゲームをしていた。

 

「はぁ、最近までは一人でゲームもそれなりに楽しめたんだけどな....」

順にとって、コンピュータキャラ相手のゲームは、ほとんどルーチンワークのようなものであった。以前はそのルーチンワークにある程度の楽しさを見いだせていたが、今は全く楽しくない。

「あー、つまんなー。帰って勉強したほうがマシかなぁ...」

そんなことを考えていると、対面の筐体に誰かが座り、コインを入れる音が聞こえた。乱入である。

「乱入かぁ、丁度一人でつまんなかったところだからいいタイミングだよ。ガッカリさせないでよね。」

ゲーム開始と同時に相手が猛攻を仕掛ける。相手の隙を突いて攻勢に入りたいところだが、その隙がなかなか見当たらない。

「このレベルのプレイヤーとなると、石井君をはじめとする陸上部のメンバーだが、彼らは現在合宿中、あとは鈴木だけど、ここに来るならあかねちゃんも同伴のはず。」

そんなことを考えながら、相手の僅かな隙を突いて大技を決め形勢を五分に戻した。そこから、少しずつ相手へのダメージを与え続け、辛うじて勝利した。

「やっと勝てたけど、どんな奴が相手だったんだろ。顔見とかなきゃ。」

席を立ったところで、その相手がやってきた

「さくら...」

「順だったのか。そりゃ強いわけだ。」

 

さくらの話によると、最近はさくらもここのゲーセンに通って陸上部のメンバー相手に対戦を繰り返していたらしい。夏休みに入って、ゲーセンで一人で遊んでいたところ、陸上部のメンバーが絡んできたので返り討ちにしてやったら、前田っていう背の高い奴が特訓に協力してくれというので、何度か一緒に遊んでいたようだ。

「私も陸上部のメンバーと遊んでたよ。遊んでた、っていうか特訓に付き合わされたって感じだけどね。」

「順が、陸上部のメンバーや鈴木と一緒に遊んでいるのを見かけたこともあったよ。なんか楽しそうだなって思ったよ。」

「だったら加わってくれば良かったのに、さくらなら大歓迎だよ。」

「いや私は...その...今、鈴木とちょっと...なんていうかあまり顔を合わせたくなくて...」

「あ、何かあったんだ。まあいいや。」「でさ、今日は陸上部が合宿でいなくて、対戦相手募集中なんだけど、さくら...どう?」

「いいね、私も丁度退屈してたところだし、順相手なら楽しめそうだよ。」

「そういえば、さくらとゲームするのは最初に会った時以来だねー。」

「そうだったな。」

 

私とさくらは夕方までゲームでの勝負を続けた。勝敗は、何回か落としたもののかなりの勝率ではあったが、内容的にはいつも僅差でなんとか紙一重で勝ったゲームばかりだったので、実力的に私とさくらとの差は僅かだと思う。多分、今の鈴木と戦っても互角に勝負出来ると思う。

 

「さくら強いね、これなら今の鈴木と勝負しても互角に戦えるよ。」

「私は鈴木より強かったんだよ。今更鈴木には負けないと思うよ。」

「今の鈴木は侮れないよ、今度勝負してみなよ。」「ところで、この後何か予定ある? 折角だから一緒に喫茶店でも行かない?」

「うん、特に予定もないし、いいよ。行く。」

 

喫茶店のテーブルを囲んで女子二人、こういうシチュエーションは今まで経験がない。

「そういえば、こうやってさくらと話をする機会ってなかったね。佐藤君のところだと、こういう雰囲気じゃないし。」

「そうだな。そういえば、最近佐藤のところで見かけなくなったけどどうしたの?」

「あー、佐藤君何か言ってる?」

「いや、私達と、その...シてるときに順も呼ぼうって話になって、佐藤が電話して、その時に順は都合が悪くて来られないって話があったくらい。」

「そっかー、私ね、もう佐藤君のところには行かないよ。佐藤君にはまだ何も言ってないけど、さくらには話しとく。もう佐藤君のところには行かない。」

「何で? 佐藤と何かあったとか?」

「佐藤君とは何もないけど、佐藤君以外と何かあったっていうか...」

「何それ? もしかして鈴木? ウチの学校の男子?」

「えー、どうしようかなぁ...鈴木じゃないけど...」

「隠さないで教えてよ! 私と鈴木のデート邪魔したくせに!」

「あー、それ言う? それに『もういいんだ』って言ったよね。」「でもいいや、うん、さくらには話すよ。」

さくらに対しては今でも負い目がある。あの日、鈴木とさくらのデートを邪魔してしまったという負い目が。別に悪気があったわけじゃない、ただちょっと鈴木を困らせたくていたずらをしたところ、さくらが機嫌を損ねて帰ってしまったのだ。それだけといえばそれだけのことだが、やはりさくらには申し訳なかったという気がしている。

そんなこともあり、さくらには今までの経緯を話しておかなければならない、そんな気がした。

 

私はさくらに、佐藤君と知り合った経緯、転校後の佐藤君から電話があって、それ以降さくら達と知り合ったっていう話をした。その中で、私はいつも寂しさを抱えていた事、ゲーセンで偶然鈴木と陸上部の連中と知り合ったこと、その後、陸上部の連中をゲームで鍛えるための先生役を頼まれて、彼らと仲良くなったこと。そして、その中の一人と付き合い始めたこと。

「佐藤君のところで、佐藤君とさくら達とするのは気持ちいいし楽しいよ。でも、みんなでした後、クタクタになって自分の部屋に帰ると、もう寂しいんだよ。」「どうせ今頃佐藤君は誰か別の女子としてるんだろうな、って。自分は佐藤君のセフレの一人にすぎないんだなって。もうそんなことばっかり考えてるんだよ。」

「.....」

「そんな時に、陸上部の一人に言われたんだ。佐藤君と私達がそのままずっとその関係を続けることはできないだろ?、って。」「そんなのみんな分かってる、でもその時は「今」じゃない、だから今はそのまま、ってそう思ってズルズルきてて。でもさ、佐藤君がいずれ選べるのは一人だけ、ってそう思ったら私気づいたんだよ。」「私だって、誰かに選ばれたいって。選んでくれる人と一緒がいいって。」

「で、その陸上部の一人が順を選んだ奴ってわけか...」

「結果から言うと、そうなるかなー。」

 

少し間をおいてさくらが話を始めた。

「私はさぁ....」「鈴木のことが少し気になっていたんだ、好き...だったのかな? よく分からないけど。」「そういえば、順と最初に会った時、順からみて私はどう見えた?」

「私は、あれはさくらと鈴木君のデートのように見えたし、さくらは鈴木君のことが好きなんだと思ってた。あの時のさくらは、自分の心を隠すかのように全然素直じゃなかったけどね。」

「あはは、恋愛とかガラじゃなくてつい...今となっては素直になればよかったって思わないでもないけど。」「で、次の日佐藤に言われたんだ、私を振るなんて鈴木君はもったいないことをした、って。」

「鈴木はさくらのことを振ったの?」

「いや、直接鈴木に告ったわけじゃないから、直接的には振られてないけど、でも鈴木の態度見てれば分かるよ。」「それに佐藤が、言ってたよ。順が、私と鈴木のデートのことを教えてくれた、って。順が、鈴木の気持ちを確かめるためにカマをかけてみたけど、鈴木の態度はそっけなかった、って。」

「??、私は鈴木にカマをかける気はなかったし、佐藤君に『カマかけた』なんて言ってないよ。まあ、邪魔しちゃった悪いことした、とは言ったけど。」「久しぶりに鈴木に会って、テンション上がってちょっと困らせてやろうと思って腕に抱きついたりしたけど、あんなことあれが最初で最後だよ。」

「じゃあ、私が振られた、って...」

「多分、佐藤君とさくらの勘違い...」「でも、鈴木に、さくらとみきちゃんとやよいちゃんと、それに私も加えてこの中から誰か選べ、って言っても誰も選べなかったと思うけどね。鈴木ってそういう奴だから。」

「あはは、勘違いか...でもそうだね、鈴木はそういう奴だよね...」「勘違い...勘違いで私はあんなことを...」

「あんなこと?」

「.....まぁ、いいか。」「佐藤が、私が鈴木に振られたって話をした直後、『僕の部屋に来ないか』って。それで...」

「あー、佐藤君そういうとこあるよね~、わかる。」「なんかね、スルッと心の中に入ってくるよね、佐藤君。」

「順は他人事だからいいけど、私はそんなことで、勘違いで私の初めてを....」

「そりゃ初めては大事だし、結局私の初めても佐藤君だったわけだけど、でもさ、さくらは誰が初めてだったら満足だったの? 鈴木? でも鈴木は、少なくともあの時の鈴木は誰も選べなかったと思うよ。」

「でも....」

「それよりも、さくら。」「これからどうする気? ずっと佐藤君のところに通うの?」「鈴木は、誰も選べなくて、さくら、みきちゃん、やよいちゃんの全員が、佐藤君のところに来たわけだけど、佐藤君だって、今は誰も選ばないよ。いつか選ぶかもしれないけど、そこで選べるのは一人。さくらはその一人になりたい?」

「...私はまだ、そんな先のことは...」

「そう、私もそうだったんだよ、いつか来る「その時」は今じゃないってね。でも、その時になって後悔しないために今何するか、って考えは持っておいた方がいいと思うよ。」

「...そうだね...ところで、順ってそんな理屈っぽい物言いする人だったっけ?」

「あー、これは...彼の影響かな?」「石井君、理屈っぽいから。」

「石井って、その陸上部の一人か。最近鈴木のところに陸上部のメンツが押しかけてくるから、多分その内の一人だな。新学期始まったらチェックしとくよ。奴が順の彼氏ね、って。」

「そういう見方やめてー。」

「...あと、その...佐藤のところに行かなくなって...その...体が疼いたりしない?...」「私は、...その...忘れられなくて。...感覚が...」

「あー、分かる。私もそうだったけど、石井君達にゲーム特訓してて佐藤君のところに行けるのが週1回くらいになったことがあったけど割と平気だったよ。」「あと、今は、...今の彼氏の方がいい、っていうか。」

「えっ? もう、今の彼氏と...その...あの...したの?」

「あ、うん。」「そりゃ佐藤君は経験豊富で上手だけど、自分を選んでくれた人とするのって、何っていうか自分だけを愛してくれてるっていう安心感というか幸福感というかそういう気持ちよさがあるんだよ。だから、佐藤君でなきゃいけないってことはないんじゃないかなぁ。これは、佐藤君以外と経験してみて初めて知ったことだけどね。」

「ふーん...なるほど。順は今、幸せなんだね。なんというか、今日は...いい話を聞かせてもらえて良かったよ。確かに私は佐藤の一人にはなれそうにないし、それを望んでもいないからな、多分。後悔のないように、ってのはその通りだし、よく考えてみるよ。」

「うん、折角こうして話ができたんだから、なにか相談事があったら聞かせてよ。」

「じゃ、そろそろ帰ろうか。」

「そうだね、じゃ、また。」

 

私とさくら、初めてガールズトーク(?)に花を咲かせ、今まで以上に仲良くなれた気がした。私達は喫茶店を出てから駅まで一緒に歩き、そこで別れた。

 

 

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