※この作品はR-18です。

鈴木君 その後   作:大仁 裕

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僕がそんなにモテるはずがない

山本、石井と例の川縁での話を思い返しながら僕は家路についた。

「ただいま。」

「おかえりー、お兄ちゃん」

そう言って出迎えてくれた凛の顔を見て、石井の言葉を思い出す。まず、こいつを守らなきゃ。最初にできること、ここからだ。

 

凛との夕食の後、風呂後の自分の部屋で今日の山本と石井との会話を振り返る。今日は、色々な気づきがあった。

 

僕はみき達3人と付き合いたかったわけじゃない、とすると当然その3人は僕以外の誰かと付き合う可能性が常にあったにもかかわらず、そのことに考えが至っていなかった。これが、今日気づいたことの一つだ。つまり、佐藤がいなくても僕が望んだ日常が永続する可能性はなかったのかもしれない。

 

そもそも、僕が望んだ日常というのはかなり身勝手な前提の下でしか成り立たないのではないのか?という気がしてきた。 要するに、僕とみき達3人は恋愛感情はないお友達の関係、でも3人には常に僕の周りにいて欲しい。3人にはいつも僕の周りにいて欲しいから、僕以外の男子との恋愛はNG、でも僕は彼女たちと恋愛する気はない。「んふふん...」僕は自分の無自覚な身勝手さに思わず笑ってしまった。

それでは、僕と彼女たちは友情によって強く結びついている、と考えてみたらどうか? 僕と彼女たちの日常は相互の強い友情によって成立している、そしてそれは他者との恋愛よりも強い。例えば、僕とみきはお互いを大切な友達だと思っているが恋愛感情は抱いていない、ある日、みきは僕以外の彼氏を作ったが、みきは僕との友情を優先していつも僕と一緒にいる...って成り立つわけないじゃん。

結局、僕が望んだ日常というのは、恋愛という要素が絡んだ途端に崩壊してしまう程度のもの、極めて脆弱な地盤の上に作られたお花畑ということにならないだろうか? これを否定するのは難しい気がした。

 

もう一つの気づきは、みき達3人が佐藤の元に行ったことで僕は落ち込んだが、みき達の相手が佐藤でなければ、ここまで落ち込まなかったかもしれない、ということだ。でも、それは本当に「佐藤だったから」なのか? ある日、委員長と佐藤が手芸部の工作室から出てきた時、言い知れぬ気分に襲われた。が、佐藤がその後委員長と普通の彼氏彼女、つまり委員長を唯一の彼女として付き合った場合はどう思うんだろうか? 山本を彼氏設定したときとは違う感情だが、今の感情とも少し違う気がする...。

 

そして、僕はモテる?モテる側の人間だと? これに関してはどうにも実感がわかない。しかし、山本の話にあったように、自分から話しかけて女子に拒絶の言葉を浴びたことは今までにない。これまでも女子と友だちになることくらいは普通にあった。これもモテなのか? 普通の男子って、女子と友達になることも難しいのか?

 

更に、僕は他人への関心が薄いらしい。委員長が手芸部に入っていることをずっと知らなかったことを考えると、そうなのかも知れない。これも、今日の気づきの一つだ。もう少し他人、特にあの3人に対してもっと関心を持てていれば、あるいは佐藤の動きがもう少し見えたのかもしれない。

 

最後に、石井が言ってたお花畑のたとえ話。客観的に見れば、佐藤のしたことは誰のものでもない花を自分の庭に植え替えただけ。話として納得できるところもあるが、僕にとって完全に腑に落ちるものではない。

佐藤と6人の乱交を想像して吐くほど気持ち悪く感じられたのは何だったんだろう? あの時僕は何を見ていたのだろう? 僕の心の中に石井がいたら、間違いなく僕にそんな質問を投げかけるだろう。そして、僕の心の中の石井は、もう二度と再生されることのないはずだったあの日の記憶を再生し始めた。

 

あの日僕が見ていたもの、僕の中にある記憶、みき、さくら、委員長、順、手芸部の一年生二人との会話、僕の前にいた彼女達。そして、佐藤と体を重ねる彼女たち、想像の中での彼女達は佐藤を受け入れ、肉体をぶつけ合いながら喘いでいた。僕は、あの時と同じ嫌悪感をいだき口の中にあの酸っぱさを感じながらも吐くことなく分析を続けた、これも僕の中の石井がやったことなのかもしれない。

 

みき、さくら、委員長、順、手芸部の一年生達。彼女達は、僕と話をしている時、僕と時間を共有している時は確かに花だった。しかし、あの時、僕の想像した彼女達、佐藤との乱交に興じる彼女達は、もう花ではなかった。体育倉庫でチラッと見えた彼女達に感じたあの質感。何だろう? 動物の雌? いや、「肉」だ。僕があの日に想像の中で見たのは、花である彼女達が、肉に堕ちたその様だった、いや、僕が勝手に花だと思っていたものが、実は肉だったというものだったのかも知れない。僕が、あの日吐くほどに汚らわしさを感じたのは、肉としての彼女達、そして佐藤だったのだ。

石井の言葉を手がかりにそんなことを考え、あの時の口の中の酸っぱい感覚が再度蘇るのを我慢しながらそのまま寝てしまった。

 

その数日後、この日から一週間は定期考査前ということで部活動が休みになる。そんなこともあり、休み時間だけでなく放課後も山本と話をすることが増えた。昼休みには時々石井も来て、3人で何気ない話をすることもあった。だが言うまでもなく、佐藤のハーレムについて話をする時は必ず校外だ。

 

あれから山本は佐藤周辺の観察を続けていたようだ。クラス内で佐藤に接触する女子の変化を見ていたらしい。山本は見かけによらずねちっこいところがある。彼によると、佐藤のそばにいるメンバーはここ数日間はほぼ固定されていて、朝はクラスの女子2人、昼休みはクラスの外で他クラスの女子3人と昼食、放課後はみき達3人と過ごしているようだった。

 

石井は、自分のクラスで佐藤の出没頻度を観察するつもりだったようだが、観察を始めてから佐藤はA組には現れていないらしい。ただ、女子の会話から、佐藤のことは少し話題になっているが、一方で男子の間では全く話題になっていないようだ。石井が軽く話題を振っても「誰それ」という反応しか得られなかったらしい。

 

折角なので、僕も観察に加わろうか?と話をしたところ、鈴木は面が割れているから佐藤の目のつくところではしばらく動かないでくれ、と石井に釘をさされた。

「僕のことなのに二人にばかり色々やってもらって自分はなにもしないというのも気がひけるなあ。」と言うと

「いや、これはもうお前だけの問題じゃないよ」と山本。委員長の一件なのか、恋の恨みは恐ろしい。

「そうそう、気にすることないって。これは俺たちの問題でもあるんだ。」「佐藤のハーレムが今のままで済むとは思えないんだよ。佐藤のハーレムは、鈴木にとっては過去の出来事かも知れないが、現在進行形の事案で、誰かにとっては未来の悲劇の種なんだよ。」石井の話を聞くと、ますます何もしないわけには行かないが、とにかく足を引っ張らないよう自重する必要があることは理解した。

何にせよ、僕の注意が佐藤周辺に向いていると悟られるのはまずい、というのが石井の主張で、何かするなら、佐藤以外のところに気が向いているように見える行動をしてくれ、できれば学内で、できれば広い範囲で、と注文が多い。

 

それにしても、と今更ながらに思うが、友人の存在というのはありがたい。山本がいなければ、今頃もみき達のことを考え、佐藤を恨みながらずっと落ち込んだままだったろう。いや、今も完全に吹っ切れたわけではないが、少なくとも山本と石井のお陰で、今度の中間考査を頑張ろう、と思えるくらいには気分が前向きになれた。

 

放課後、例の川縁での作戦会議を終えて、家のドアを開ける。

「ただいまー」

「おかえりー、お兄ちゃん」

凛は、僕の顔を見て少しホッとした表情をしてみせた。凛にこれ以上心配かける訳にはいかないな、と思いながらも佐藤の手が再び凛に伸びてないか心配にもなる。

 

凛との夕食時、何かのついでのような形で、あの後佐藤から連絡があったかを聞いてみる。

「あ、佐藤さん? あれから特に何の連絡もないよ。」「みきちゃんとラブラブで忙しいのかな?」

「うん、まあそうなんだろうな」と、少しホッとする僕。

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」「佐藤さんから何か誘われても行かないから」

僕の心を見透かしたかのように凛はそう言って少し笑った。

 

テスト週間は、みき達との時間がなくなった分今まで以上に暇になったこともあり、試験勉強に時間を割くことができた、というより気を紛らわせるために勉強したといった方が近い。だが、そのおかげもあり試験本番は今までよりもできたであろう手応えがあった。

 




改定
凛のセリフ、佐藤の呼び方 旧「佐藤君」 新「佐藤さん」
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