定期テスト最終日からしばらくしてテスト結果が発表された。
僕のクラス順位15位、一年生の時のベストがクラス順位18位だからクラスの学力レベルが同じくらいだとすれば少し上がったことになる。今回は少し手応えを感じていたこともあり、
「ま、こんなもんかな?」
そう思っていると、山本がニコニコしながら近づいてきた。山本も良い結果だったのだろう。
「クラス順位8位...山本が?」
「えへへ、意外だったか?」
クラスの人数が42人、山本の成績は上位2割くらいに入っていて、ウチの高校のレベルから考えると、国立大がギリ狙えるかどうか?といった成績だ。
山本によると、石井の成績も同じくらいだが
「あいつ、あんまり勉強しないからな。多分、本気でやったらもっといいトコ行くと思うよ」
とのこと。
うちの高校では、学年の成績上位者リストが廊下の壁に貼り出されるが、これまでリスト入りの常連だった委員長の名前が今回はなかった。
前回のゲーセンから2週間くらい経ったある日。山本からゲーセンへの誘いがあった、勿論石井も一緒だ。こないだのリベンジのつもりだろうが返り討ちにしてやる。しかし、山本の表情には自信に満ちあふれていた。
今日は陸上部の練習がないので、そのまま3人でゲーセンに向かった。案の定、山本と石井からのリベンジマッチの申込みがあった。
「受けて立つよ。どんな練習をしたのか知らないが、一週間や二週間の練習でどうにかなるほどこのゲームは甘くない」
ところが、山本も石井もこないだからの急成長を見せ、なかなかどうして簡単には勝たせてもらえない、それどころか一瞬のミスで敗北に追い込まれる事もあった。
「たった二週間でこの上達ぶり普通じゃない。」「一体どんな練習をしたんだ?」
僕は素直に降参し、二人に種明かしを求めた。
「へへん、実は優秀な先生の元で特訓をしたんだ。」と山本。
「だが、いくら練習したとはいえ二週間くらいじゃここまで上達はしないだろ?」
「そうだ、だから俺たちは対鈴木戦に有効な技を叩き込んでもらったというわけさ。」
「優秀な先生で、僕のプレイスタイルを熟知...ってまさか。」
「そう、俺たちは順を先生にして特訓したんだ。」
「順、て。いつの間に!」
「ま、その辺の話は場所を変えよう。」、石井はそう言ってゲーセンを出るよう外を指さした。
僕たち3人は、例の川縁に来た。僕たちにとってここは定例の成果発表の場となっていた。
石井は、先の言葉通り、順との経緯を説明してくれた。あの日、連絡先を交換してから、石井はすぐに順と連絡を取り、僕を打倒するための特訓の先生役をオファー、順もそれに応じたらしい。また、石井には、打倒鈴木の他に順と仲良くなって佐藤ハーレムの情報を仕入れるという狙いもあったようだ。順に感づかれないよう世間話を装って軽く話を聞いてみた程度らしいが、それなりに成果はあったようだ。
ここまでの話で、僕の中にあった一つの疑問が解けた。山本や石井がいつの間にか「石川さん」ではなく「順」と呼ぶようになっていたのは、そんな経緯からだったのだ。
「一つ、これだけは鈴木の耳に入れておきたいことがある。順が佐藤と付き合うことになった経緯だ。」
「順は、高校に入ったばかりの頃は、中学の頃仲の良かった友達と離れ離れになってしまい寂しかった、と言っていた。」「そこに佐藤が近づいてきて、声をかけてくれた。最初は順のことについて色々と話をしていたそうだが、ある日ゲーセンに付き合ってくれたそうだ。」「佐藤はゲームが全然得意ではなかったそうだが、それでも一緒に対戦したり、順のプレイ画面を楽しそうな表情で見てくれていたのがとても嬉しかった、と笑いながら言ってたよ。」「そして、中学の友人との距離感を引き合いに自分なら寂しい思いをさせない、みたいなことを言われて付き合うようになったそうだ。」
一通り、順が佐藤と付き合うまでの話を終え、少し間をおいて
「順にはその直後、結局自分は佐藤の恋人というよりセフレの一人なんだけどね、と言われてショックだったけどな。ま、佐藤のことはお前から聞いていて、分かってはいたことだけどさ。」
僕は、短期間にみき、委員長、さくらが佐藤に口説き落とされていたことを思い出しながら聞いていたが、僕の表情を観察するかのように石井は更に付け加えて言った。
「で、多分お前は今の話で気づいていないようだから言ってやるんだが...」「ここで、順が言っていた『中学の頃の友達』って多分お前のことだよ、鈴木。そして、佐藤はここでもお前をダシにして順をモノにしていたんだ。」
「えっ? 順が?。それはないだろ、いや、それはない。僕と順は、そんなんじゃないんだ。」
「多分、順もお前に対する恋愛感情をハッキリと自覚していたわけではないと思う。でも、好き、というか大切な人ではあったんだと思う。会えなくなって寂しいと思う程度にはな。」
「で、まあ今その話がしたいんじゃなくてだな」石井は軽く前置きをして
「順の話を聞いて、佐藤のやり口がなんとなく分かった気がしたんだ。」「まず、佐藤はいい奴だよ。少なくとも、順の話を聞いている間、俺はずっとそう感じていた。本当の佐藤がどうかは分からないけどな。ただ、それがたとえ演技だったとしても、今のところその点に関して奴はボロを出していない。」「何が言いたいかというと、奴はイケメンで性格もいい、女子とのファーストコンタクトで心理的なガードをほぼ無くすことができるんじゃないかと思う。」
「その上で奴は、女子の寂しいという気持ちや不安を言葉巧みに増幅し、そこに癒やしを与えることで相手の心の中にうまく入り込んで、最終的に相手の目を自分に向けるよう仕向ける。」「お前の周りにいた3人の女子も、お前に気づいてもらえない、お前と付き合えない、そんなことを言葉巧みに刷り込んでおいて、彼女たちの心の中にあった鈴木のポジションに自分自身をスルッと滑り込ませたのだろう。」「実はこのやり方は、完全にフリーだったり特定の彼氏がいる場合より、ハッキリ彼氏彼女になっていないあやふやで不安定な状況にある女子に対して効果的なんだと思う。」
「すると順も.....」「僕のせいだった?...そうなのか」、僕は驚きとともにそう口にしていた。
「いや、お前が優柔不断な態度が今の状況の温床になったとは言えるが、お前が誰か一人を選んで付き合ったとしても、そうでない二人は結局佐藤のモノになってしまっていたんだ、事態はあんまり変わらないよ。」
「それともう一つ。これは、鈴木から聞いた話の中でずっと違和感として残っていた部分だったんだが、」と石井が続ける、
「何らかの方法で女子の気持ちを自分に向けさせることに成功し、付き合うことになったとしてだ。そこに別の女子が現れたらどうなる?」「普通の感覚だと修羅場だよな。ところが佐藤は、修羅場どころか自分の周りの女子達を佐藤を巡るライバルではなく、友達どうしにしてしまっている。」
「そういえば、みき達やさくら、委員長はいつの間にか仲良くなっていたな。」記憶をたどりながら、裏付けとなる事実を僕は提供した。
「多分、その頃にはその3人は佐藤を交えて複数人プレイをする仲になっていたんだよ。」「つまり、佐藤は最初に女子の心をつかみ、次に早いタイミングで...嫌な言い方をすると、肉体に快楽を覚え込ませ動物の雌としての部分を開発、肉体的に離れがたい関係になる。」「そうした上で次に別の、同じような関係に持ち込んだ女子とを引き合わせる。この時点では嫉妬のような感情よりも快楽が勝る、そのため女子同士の争いにはならず、それどころか仲の良い友達のような関係になるというわけさ。あくまでも理屈の上での話だけどな。」「身も蓋もない言い方をすると、佐藤はちんぽの力で女子たちを繋ぎ止めているということだ。」
「あまり嫌な言い方をしないでくれ、ちょっと気分が悪くなった」あの晩の吐き気が蘇りそうになるのを抑えながら僕は言った。山本も顔色が悪い。
「悪い悪い。だけど、この推測はこれまでの事実をかなり説明できていると思う。」
僕は少し間をおいて
「うん、まだ完全に受け止めきれない部分はあるけど、石井の筋立て通りだと考えるとかなり納得が行く。それに、今までどうにも分からなかった部分もかなり見えてきた気がするよ」
「ただ...僕が守りたかったあの日常を佐藤に荒らされるのを防ぐには、僕は何をすれば良かったのか? そこはまだわからないな」「いや、そうじゃない。こないだ石井と山本と話したことを自分なりに考えてみたんだ。僕が大事にしていた日常、みき達3人と恋愛感情抜きで日常を楽しみたい、ってやつだな。これって、実は恋愛感情が持ち込まれることで簡単に崩壊する関係だって気づいたんだよ。」「つまり、佐藤がいてもいなくても、僕が大切にしていた日常は、ずっと続くものではなかった。」
「それはどうかな? それに案外難しくなかったのかも知れないよ、佐藤対策。」今度は山本が口を開いた。「お前さ、誰も守れなかった、みたいなこと言ってるけど、妹さんは守ったんだろ?」「行かないでくれ、って言ったんだろ?」「その気持ちを伝えることさえできていれば、違った今になったんじゃないかな?」「今更だけどな」
「そうそう」今度は自分の番だと言わんばかりに石井が話しだした。「鈴木は、女子との関係について聞かれると、殆ど決まって『あいつとはそういうのじゃない』みたいな言い方をするだろ?」「あれ、実際本心はどうなんだ? 本当に恋愛感情的なものがなかったとしても、やっぱり大切なんだろ?」「お前の周りにいる女子からすればさ、そこが良くわからない、大切に思われているのかも良くわからない、そんな状況なわけよ。そこにイケメン転校生が優しい言葉かけてくるわけさ。『鈴木君も見る目ないよね、君みたいな可愛い子を、僕は違うよ』みたいな、こと言ったんだと思うよ。そりゃなびくなって方が酷ってもんだよ。」「まあ、佐藤の場合、そこから先がアレだけどな。」
「それに」少し間をあけて石井は続けた。「恋愛感情ですぐに崩壊する日常、って言ったけどさ、恋愛感情なんてそんな流行病みたいに簡単に持てるものなのか?」「お前はあれだけ可愛い女子に囲まれながら、結局誰にも恋愛感情を抱いていなかったんだろ? であれば、女子だって同じことが言えるんじゃないか?」「あの3人がお前に恋愛感情を抱いたとして、それは相手が鈴木、お前だったからなんだよ。そして、途中で割って入ったのが佐藤だったからなんだと思う。もしお前と彼女との間に割って入ったのが俺や山本だったら、何ヶ月も地道にアタックを繰り返して、やっと一人、自分に対して恋愛感情を持ってもらえるかどうか、ってトコなんじゃないか?」
「で、まあそれはともかく」と、一段と真面目な表情で石井は僕の顔を見た。
「お前はこれからどうしたい?」
「まだわからない。」「少なくとも、僕の気持ちの問題として、みき達3人が佐藤から離れたとしても、今までのように接するのは無理だと思う。」「もう、あんな日々は帰っては来ない、それはわかっているんだ。」「ただ、もうあんなことは二度と起こって欲しくない、とは思う。」考えがまとまらないまま、思ったことを口にした。
「ところで...僕も石井に聞きたいことがあるんだけど。」「佐藤の件について、大体のことは見えてきたと思うんだけど、石井はこれからどうしたいとかあるの?」
「俺は、最近になって思ったことなんだが、順を佐藤のもとから連れ出したいと思っている。」
「?!」予想外の答えに頭が追いつかない僕。山本はニヤリとした。
「あー、そうだな。順ってさ、俺たちが初めて会った時、鈴木と話をしていたとき、ゲーム特訓に付き合ってもらっている時とかに比べて、佐藤との出会いの話とか、佐藤に関係する話をしている時は幸せそうに見えなかったんだよ。というより少し寂しそうな、諦めているかのような表情をしていたんだ。それがなんか辛くてな。」「こう、今幸せじゃないのかなぁ、って。」
「まあ、石井はほとんど順に一目惚れだったからな。」と山本。「うるせー」
「順はさ、まあ、佐藤のちんぽにやられてしまっていると思うと正直複雑な気持ちだが、俺たちと話をしている時の、一人の女の子としての順もまた彼女の本当の姿ではあると思うんだ。」「それに、佐藤のところでこれから一生あのままってわけにも行かないだろ? 全員が佐藤を好きでも、全員が佐藤と結婚できるわけでもなし。」「であれば、適当なところで早めに佐藤から卒業させてもう少しマシな未来を見せてあげたいって思うわけよ。」
「石井....お前大人だな。惚れるわ。」と山本。僕も全く同感だ、少なくとも今の僕にはやっぱり気まずい感情があるし、この先何年後なんて先のことを考えることもできていなかった。
「石井、いつも助けてもらっているばかりでこんな事言うのはおこがましいのはわかっているけど。今、僕は石井の応援がしたくなったよ。僕に手伝えることがあったら言ってくれ。できる範囲で協力するよ。」とりあえず、こう言うのが精一杯だった。