※この作品はR-18です。

鈴木君 その後   作:大仁 裕

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空いた時間がもったいない

「な、何を言ってるんだ?」

僕は石井に問いただした。

「いや、本当に付き合うんじゃない。付き合うフリをしたら佐藤よけにならないか?って話だよ。」「確かに、伊藤さんに佐藤周辺の情報を知ってもらえば一安心だと思うけど、本気で佐藤から守るならリスクは元から断ちたいだろ?」

「確かにそうだけど...それに、い、伊藤さんはどう思う?」

「そうですね、そういうことでしたら私は構いませんよ。偽装カップル。」

意外にも、伊藤さんは乗り気のようだ。絶対に断ると思っていたのに。

「え? 伊藤さんは本当にそれでいいの? ねえ、本当に鈴木でいいの?」

山本も動揺しているようだ。

「でも、さっきの話だと僕が彼氏役だと佐藤よけにはならないんじゃないか?」

「ああ、それだがな、お前のバックには陸上部がついてる、って形を演出できればいいだろ。それで多分佐藤は寄ってこない。それに...」「今でも何もできなかったことを後悔してるんだろ? 今度は、いざとなれば佐藤を殴ってでも止めてみせろ、鈴木。」

「う...ん、考えとく...」

「ダメだ、今決めなきゃ。明日佐藤が動いたら間に合わないかも知れない。」

「俺じゃダメかな?」と山本が伊藤さんの彼氏役を立候補した。

「現時点では鈴木のほうが適任だ。というより、鈴木に彼女ができたって形にしたほうが、俺の作戦には都合がいい。」

と言って、石井が悪人面をしてみせる。

「なんだそれ?」と思わず突っ込んでしまった僕だが、それ以上に気になったのが伊藤さんの意思だ。そこで、石井を深追いせず、すぐに伊藤さんの方を向いて尋ねた。

「伊藤さんは本当にそれでいいの? 事が済んだらカップルは解消して、鈴木の元カノってありがたくない肩書がついちゃうけど...」

「私はそういうの気にしないので大丈夫ですよ。それに、そういうの気にする男子もちょっと、って感じしますし。」

伊藤さんにここまで言われてしまうと、僕も覚悟を決めざるを得ない。

「わかった、僕、伊藤さんの彼氏役やらせていただきます。伊藤さん、よろしくね。」

「こちらこそよろしくお願いします。なんだか楽しみです。」

伊藤さんの斜め上な反応に驚きながらも悪い気はしない。

「じゃあ、明日二人は一緒に登校すること。伊藤さんは電車通学?」

「はい」

「じゃ、明日は二人共駅で待ち合わせな。」「山本と俺は、後ろから周囲を監視するから。」「それと、明日の昼休みに陸上部の2年を何人か連れてくから、昼休みは教室で弁当食ってろ。」「伊藤さんは、図書委員は明日あるの?」

「はい」

「じゃ、鈴木は明日の放課後は図書室。」「伊藤さんは彼女っぽく、時々鈴木のところに行って軽くおしゃべり、って感じで。」

「はい」

そう返事をする伊藤さんがなぜか楽しそうに見えた。

 

「じゃ、この流れで順卒業作戦についてだが....」

「作戦名まで考えるなよ、っていうか、この作戦に関してはノリがいいよな。」

「その前に、佐藤のハーレムの適正規模ってのを考えてみたんだ。つまり、佐藤のハーレムを構成する女子の数はどのくらいが適正なのかってことだな。」

「石井先輩、それって計算か何かで出るものなんですか?」伊藤さんが食いつく。

「ざっくりだがこんな計算をしてみたんだ。まず一週間は168時間で、これが佐藤の持ち時間だ。そこから、平日9時から4時の7時間と、通学に往復1時間かかるとして8時間が消える、一週間で40時間だ。睡眠時間も消えるな、8時間睡眠だとして56時間。そうすると、佐藤が一週間に自由にできる時間ってのは、168-40-56=72時間ってことになる。これが、佐藤が一週間に女子と過ごせる時間の最大値だ。」

「はい、そうなりますね。」

「あとは、一人当たり何時間を当てるかで、一週間に相手をできる人数が決まる。」「それがハーレムの適正規模、ってことになるんじゃないかな?」

「なるほど~。簡単な計算だが大枠はつかめそうだな。」と山本。

僕も感心しながら、ふと思ったことを聞いてみた。

「ところで、一週間で一人当たり何時間って基準はあるのか?」

「ない! これに関しては佐藤とハーレムの女子達の考え方次第でどうにでもなるんだ。例えば山本。お前、恋人ができたらどのくらいの頻度で会いたい?いや、どのくらいの時間を彼女と共有したい? 直接会うってだけでなく電話、メッセージ、そんなのも含めて。」

「いいねぇ、彼女。そうだな、毎日1時間くらいは電話かメッセージ交換したいなあ。で、休日は直接会って...3時間か4時間位か?」

「つまり、山本の恋人観だと週に13時間くらいは恋人に時間を使いたい、ってことになるわな。逆に、そうだな、週に一回会ってやるだけやってハイさよなら、って関係なら週に2時間もあれば十分なわけだよ。」

「石井...表現が露骨」

山本がたしなめる。

「あ、スマン」

石井は伊藤さんに軽く謝ると話を続けた。

「佐藤と女子との関係が恋人に近ければ、一人あたり14時間、一方やるだけの関係なら2時間って7倍開きがあるんだな。一応数字を出しとくと、ハーレムの質によるが5~36人ってとこだな。」「ただ、あくまでもこれは最大値だ、目いっぱいまで人数を増やすと佐藤にとって過重労働の域まで負担がかかるから、実際はこの6~7割、つまり3~25か26人くらいが妥当な線だと思う。」

「ほぉぉぉぉ。」感心する山本。僕も心のなかで唸っている。

「でも、この72時間は食事の時間を含んでいるんだろ?」

と僕は確認の意味で聞いてみる。

「食事はその場にいる女子と取ればいい。その他、風呂、勉強の時間もその場の女子と一緒と考えていい。なんせざっくり計算なんだからそのくらいアバウトでいいんだよ。」「あとは、佐藤ハーレムのメンバー数だが...6人は確定としてあと何人くらいいるかってことだが...陸上部の2年と1年のマネージャーに佐藤に関する噂、というか佐藤としたっていう女子の噂について聞いてみた。」

「それって本人以外分からない話だよな。そんなのが噂になったりするのか? それに、信用できるのか?」と山本。

「元々1年のマネージャーに佐藤のことを知っているか聞いたときに、彼女の方からその噂のことを教えてくれたんだよ。」

「伊藤さんもそういう噂を聞いたことがあるって言ってたよね。」

僕は伊藤さんに以前聞いた話の確認をした。

「そうですね、私は直接誰かから聞いたのではなく、休み時間とか近くで女子がそういう噂話をしているのを聞いた、という感じなのですが。ただ、それが一度ではなかったので気になっていたんです。」

「田中さんと渡辺さん以外で、そういう噂は聞いたことあるの?」

「はい、別のクラスの知らない人についてでしたが、そういう噂話を3回位耳にしたことがあります。」

「仲のいい友達同士ではそっちの話も結構してる、ってことなのかな。その点は男子も女子も変わんねーな。」と山本。

「まあ、男子、女子と言っても結局はどちらも肉体のある人間だからな。」

「石井ぃ、言い方考えろよ、女子の前で。」たしなめる山本。

「あ、ごめん。悪かった。」「で、2年生の方は、はっきりしたことは分からないが名前が出ているだけで10人位はいるらしい、1年生の方は2人位の噂って話だけど、伊藤さんの話を加味すると手芸部の2人以外に3人位いそうって話だな。」

「その2年生の10人にみき達が入っているかって問題があるね。」

「そこだけど、鈴木の話を聞く限り、その3人が自分で話をするようなタイプではなさそうだから、3人+10人と考えていいと思う。だた、あくまでも噂だからな。手芸部の部長が噂の対象になってもおかしくないってことで、2年生は12ないし13人、1年生は5人で、合計17人か18人の規模って感じになるかな。って、これ結構大変な数だな。」「さっきの適正値が3~26人ってところだから、この人数はかなり多い。佐藤と女子の関係は、恋人というよりはただやるだけの関係に近いってことになるな。」

「石井ぃ...」

山本は石井の表現が伊藤さんの気に触りはしないか気が気じゃない。

「私なら大丈夫です、どうかお気になさらずに。」

伊藤さんがフォローを入れる。

 

「でも、それは一度に多人数を相手にすることで規模を拡大できるんじゃないか?」

山本が疑問をぶつけると、すかさず石井が答えた

「佐藤との食事会とかであれば可能なんだが、やることを前提にした関係だと、佐藤のちんぽが一つしかないという制約が足枷になって、大体さっきの計算通りになるはずだよ。」

「だから石井ぃ」

「わ、私は大丈夫です。」

さすがの伊藤さんも少し照れていた。

 

「話を順に戻すと、彼女と話をしたりした印象では、今の状況に満たされないものを感じているんだと思うんだ。ただし、佐藤ハーレムでの快楽を捨てるほどではないんだろうけどね。」

「あ! そうか、」

僕は思わず声をあげた。全員の視線が僕に集中する。

「な、どうした鈴木」

驚きと、声の主にやや非難の気持ちを込めて石井が尋ねる。

「佐藤が転入してきたばかりの頃に順に会った時、それからこないだ石井達と一緒に順に会った時。順が同じことを言っていたんで違和感があったんだけど、あれって何か意味があったのかもしれない。」「覚えてるか? 佐藤と仲良くしてるのか?という問いに対して『でも、佐藤君はモテるから』みたいなこと言っていたの、あれ、その前に会ったときも同じことを言っていたんだ。」「で、その前後に『寂しい』とか『私はセフレの一人にすぎない』みたいな話があったように思う。ハッキリとは覚えてないけどね。」「仲良くしてるか? の質問に佐藤がモテるかどうかは関係ないはずだろ? ところが同じ質問に対して、どちらにも佐藤がモテるから、って。これ、何か順の本音が隠れているように思うんだ。」

「それはアレだろ。『みんなに優しいんじゃダメなの、私だけに優しくして欲しいの。』『私だけを見て欲しいの。』ってやつだろ。」「つまり、佐藤はどの女子にも優しいから、自分に対する優しさが足りてない、ってことじゃないか?」

山本が、途中、女性の声色を使ってセリフを再現したところで、僕と石井は大笑いした。伊藤さんもクスッと笑っていた。

「そういえば、以前同じようなことをみきに言われたことがある。『女の子は自分だけを見て欲しい』って。あれ本当なのかな?」「例えば僕の場合、そういうのってあんまりなくて、誰にでも優しい女子がいたら、いい娘だなぁとは思うことはあっても、それがその娘から離れる理由にはならないと思うんだ。」「逆に、自分にだけ優しい女子がいたら、ちょっと怪しいって思うな。」

「それは男女の差もあるし個人差もあるだろうな。」と、いかにも石井らしい物言いでこう続けた

「その辺、例えば伊藤さんはどう思う?」

「え? 私ですか? そうですね、私は、そういう経験がないので想像での話になりますが、誰にでも優しい人っていいと思いますし、自分だけ特別扱いして欲しいってことはないくて...何というか、他の人より自分を優しくしてくれる、というところはあまり重要ではなくて、自分に向けられる優しさがある一定量を満たしていればいいというか...」

「あはははは、伊藤さん面白いなあ。」

思わず僕は声を上げて笑ってしまった。そういえば、こんな笑い方をしたのは久しぶりな気がする。

「え? 今の面白かったですか?」

「いや、なんというか、その言い回しが、だよ。でも、いいと思うよ、そういうの。」

「つまり、優しさの相対量ではなく絶対量が大事、ってことね。」強引にまとめる石井。

「はい、そういうことです。」と伊藤さん。

 

「思いっきり話がそれてしまったけど、ハーレムで満たされない順の心の隙間を埋めるため、というか、一緒にゲームをしたりしたときのあの笑顔を増やすために、順の時間を我々が食うという方針で行こうと思う。」「以前、打倒鈴木の先生役を頼んだ時、順は俺たちのために週平均平日3日2時間ずつと休日4時間ずつの合計14時間を使ってくれた実績がある。これを、まずは休日の時間をプラス6時間し、合計週20時間、順の時間を食うことを目標にしたい。」「それには鈴木、お前の助けを借りることになるから、頼んだぜ。」

「うん、昨日約束したからな。僕で役に立てることがあったら言ってくれ。」

「ああ、まずは鈴木の名前を貸してくれ。順を呼び出す口実に、また打倒鈴木を使おうと思ってる。」

「それくらいならお安い御用だ。好きに使ってくれ。」

 




改定
手芸部の後輩の名前 旧「松本」 新「渡辺」 原作のチェックミスでした
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