不可視の領域に踏み込んだ零余子の視界に映ったのは、所々に修繕の跡が見られる、そこそこ大きな屋敷だった。此処が件の鬼の根城か。そう思いながら、屋敷の方に意識を向けていた零余子だったが、屋敷の方から此方に向かってくる鬼の気配を察し、気を引き締め直した。
(もう気付いたのか。思ったより早いではないか)
屋敷の中からは、此方に近付く鬼の気配の他に2人分の気配。つまり、この屋敷には三人の鬼が隠れ住んでいる事になる。
おかしい。何故この屋敷から鬼の気配が三つもするのだ?
鬼は基本群れる事はない。例外もいたが、それはあくまでもほんの一部でしかない。零余子自身、鬼と群れる事は無かったが、同じ下弦だった鬼が他の鬼と群れていた事は覚えている。それ故に不思議に思ったのだ。此処に住む鬼には群れるには理由がある。その理由とは何なのか?
まさか、鬼同士で縄張り争いの最中だったのかもしれない。そして、自分が新たに訪れた事で、此処に不可視の結界を張っていた鬼が気付き、様子を見に来ているといった状況かもしれない。
これは一度中に入って確かめねばなるまい。そう思いながら、零余子は屋敷の中に入る為に足を進めようとするも、屋敷の中から現れた人物の姿を見て足を止めた。
(……人間?)
それはどう見ても人間だ。それも隊服を着ている。鬼殺隊だ。見た目はまだ若く、背中に大きな箱を背負っている。何故鬼殺隊がこの屋敷から出てくる。鬼は、此方に向かって来ていた鬼の姿が何処にもないではないか。
そこまで考え、鬼の気配が隊士の背に担いでいる箱から感じる事に気付いた零余子は、隊士の男に問い掛けた。
「どういう事だ。何故、お主の背に担いでいる箱の中から鬼の気配がする。答えよ」
零余子の言葉に、隊士の男がピクリと眉を動かした。返答はない。だが、間違いなく自分の問いが聞こえていると理解した零余子は再度問い掛けた。
「答えよ。此処には他にも鬼がいるようだが、お主は一体、此処で何をしている」
次の瞬間、隊士の背に担がれていた箱が開き、中から少女が姿を現した。見た目は隊士の男とそう変わらないか、少し若いくらいか。口は人を噛まない為の処置なのか、竹筒で塞がれている。
「鬼…だな。だが何故だ。何故鬼が鬼殺隊と共にいる。その口は…まさかお主、鬼を捕らえて使役しているのか? 鬼殺隊が鬼を使役しているなど、聞いた事がないぞ」
鬼を殺す手法として、彼等が持つ特別な刀で鬼の首を落とすのが主流だが、中には毒を用いた鬼殺隊も存在する。ならば、鬼を使役して鬼に戦わせる鬼殺隊がいてもおかしくない。おかしくないのだが、何かが妙だ。
あの少女からは鬼の気配はするが、その気配からは他の鬼とは違う気配を感じる。
(どういう事だ?)
そもそもの話、鬼が人間側につく事はあり得ない。仮にあり得たとしても無惨様がそれを許すはずがない。なのに何故、鬼の少女は生きている。今すぐにでも問い正したかったが、まずは目の前の隊士の男の方が先だろう。そう思い、再び問い掛けると、隊士の男は少し考える素振りを見せ、口を開いた。
「この子は、禰豆子は…俺の妹だ」
「妹…か。そうか、では、先の発言を撤回しないといけないな。使役しているというのは私の誤解だったようだ。すまないな」
男の全ての言葉を鵜呑みにする必要は無かったが、男の言からは嘘偽りを感じられなかった。
「だが、だからこそ不思議だ。鬼殺隊は鬼を殺す為に組織された集団だ。彼等がその子を黙認する筈がない。お主は何を考えている。何故、その子を連れて行動している」
「禰豆子を…人に戻す為だ」
「…鬼を人に戻すか。それは不可能ではないのか? 少なくとも、私は鬼を人に戻す手立てを知らないゆえ…な」
鬼を人に戻す…か。もしそれが可能なら、それは良い事だな。もし、そんなものが存在するなら、私は…。
そんな事を考える零余子に、男は一瞬、困惑した表情を浮かべ、刀の柄に手を伸ばす。何かを言いたげだが、それを言葉にするのが、いや、それを私に言うことを憚っているのだろう。
「お主の言には興味はあるが、今はこの屋敷に隠れている二人にも用がある。流石に、同胞が襲われる可能性がある以上、放っておくわけにはいかぬからな」
「鬼が鬼を助けるのか?」
「…おかしな事か? 私からすれば、鬼と人が一緒にいる方が…いや、なんでもない。気にするな」
言って、自身の発言に呆れてしまう。鬼が鬼を助けるなど、本来あり得ない。そして、人が鬼と共にいることもまたあり得ない話だ。しかし、二人の関係を知り、改めて見直す事で、零余子は二人の事を、少し羨ましいと感じてしまった。全く、何処まで絆されているのだ私は…。
「此処で暴れるのも良いが、流石にこの狭い空間では自慢の刀も振り辛かろう。表にでよ。話はそれからだ」
隊士の男に背を見せないよう、注意を払いながら外に出る。その間に、屋敷内の鬼達が避難してくれればもうけもの。しかし、鬼がそこまで協調生があるとは思えない為、結局の所、鬼殺隊の隊士を外に誘導する案は、零余子が隊士と戦う上で不利益以外のなにものでもなかった。何故なら、彼女の血鬼術は密閉された空間にこそ力を発揮しやすいのだから。
外に出た零余子と対峙する隊士の男と禰豆子と呼ばれた鬼の少女。外に出たというのに、男は刀の柄に手をかけたまま抜こうとしない。元々そういう流派なのか、それとも、此処で刀を抜くべきなのかどうか、迷っているのだろうか?
刀を抜けば、後は戦うしかない。男にとって、こうして鬼と対峙して会話する機会など無かったのだろう。少しでも情報を得たいのか、それとも話し合いでもしたいのか、そんな事を考えながら、零余子は男に問い掛ける。
「そういえば、まだ互いに名乗りを上げていなかったな。私は零余子。お主の名は?」
「竈門炭治郎」
素直に応えてくれた。これは、会話を望んでいるのかもしれない。それなら構わない。零余子にとっても、人と鬼が一緒にいる所を初めて見たせいか、二人に興味を持ったからだ。
「ふむ、では、お主の妹は竈門禰豆子だな。まさか、鬼殺隊と鬼が共に行動している姿をお目にかかるとは夢にも思わなんだ。それが例え、兄妹であったとしてもな」
「俺も、貴女みたいな鬼は初めてかもしれない」
「ほぉ、それはどういう意味でだ?」
「さっき、鬼が鬼を助けるのかという質問に対して、貴女は『それの何がおかしい?』と言った。その言葉に、偽りがなかった」
「…続けてみよ」
「鬼は基本群れない。そして、鬼同士で助け合う事もない。そのように出来ていると聞いた事がある。でも、貴女は本心で、鬼を助けようと思って此処に来た」
「……」
「俺と禰豆子の関係を話そうとした時も、貴女からは悲しい、寂しいといった匂いがした」
「……」
「何に対して、この感情に至ったかは分からない。分からないけど、ただ一つ、言える事は、貴女が他の鬼とは考え方が違うからだと、俺は思っている」
炭治郎の言葉に、零余子はそっと目を伏せた。参ったな。まさか、匂いで相手の感情を読み取る者がいるとは。全く、鬼殺隊にこの様な者がおるとは思わなかった。
「…そうか、私は他の鬼とは違う…か。まさか、鬼殺隊のお主にその様な事を言われるとはな」
零余子は一度呼吸を整え、再び炭治郎と真っ向から向き合った。
「だが、ならばどうする? 私とお主は敵同士だ。鬼殺隊は鬼を屠る為に存在する。そして私はお主らの敵である鬼だ。この事実は変わらぬぞ」
炭治郎が鬼殺隊に入隊した理由はなんとなくわかる。恐らく、禰豆子以外の家族は無惨様に殺されたのだろう。そして、唯一生き残った禰豆子は無惨様の手により鬼にされ、彼女を人間に戻す方法を探る為、最も鬼に関わる組織である鬼殺隊に白羽の矢を立てた。とはいえ、その成果は芳しくない様には思えるが。それでも、何もない手探りの状態よりはましといった所だろう。
「だとしても、貴女からは敵意を感じない。寧ろ、人を傷付ける事に抵抗を感じている様にも思えるんだ」
「…私が十二鬼月の一人だとしてもか?」
そう言って、十二鬼月だった頃の痕を見せるも、炭治郎は首を横に張って、それを否定する。
「確かに、少し前までそうだったのかもしれない。でも、今の貴女からは死臭すら感じない」
「……」
「俺は、鬼殺隊を襲撃する鬼を追って浅草まで来ました。襲われた隊士は皆、同じ匂いがした。貴女と同じ匂い。隊士を襲っていたのは、貴女ですよね?」
そこまで分かってしまうものなのかと、零余子は炭治郎の異常な嗅覚に感心した。
「あぁ、そうだな。確かに私は鬼殺隊の隊士を襲った事がある。恐らく、お主が言っている隊士達も私の仕業だ」
匂いで気付かれている以上、偽る事は出来ない。ならば、血鬼術の正体が、自身の血液である事も分かっている筈。ならば、隠す必要はない。そう判断した零余子は隊士達を襲った鬼が自分である事を素直に認めた。
「襲われたから返り討ちにした。確かに見逃したが、貰うものはしっかりと貰っている。私にとって、人間の身体を全て食すより、こうして小さな実にして食した方が効率が良いからな」
そこまで言って、零余子は懐から赤く熟れた実を取り出し、それを口に運ぶ。口内に広がる鉄の香り。それをゆっくりと飲み下し、一息ついて炭治郎と禰豆子を交互に見た後、改めて口を開いた。鬼とはこういうものだ。決して人と鬼は相入れぬ存在だと。
しかし、炭治郎は再び首を振ると、零余子の言葉を文字通り否定した。
「最後の言葉は嘘ですよね? わざと本音で語った後、最後の最後で自分を偽っている。本心では人と鬼が…」
「…よせ」
炭治郎の言葉を遮るように言い放つ。それ以上は言ってくれるなと。しかし、炭治郎はそれを無視し、言葉を続けた。
「人と鬼が仲良く暮らせるなら、それが良いと思っている」
「……やめろ」
「俺と禰豆子を見て、貴女はそんな、もしもの可能性があるかもと…」
「やめろと言っている」
怒気のこもった声を響かせる零余子に、禰豆子がビクッと肩を震わせ、不安そうに炭治郎の手を握る。だが、炭治郎はそんな禰豆子に優しく微笑むと頭を撫でてやり、再び視線を零余子に向けた。
「その可能性があるとしたら、貴女はどうしますか?」
「……」
炭治郎の言葉に零余子は返答を詰まらせる。炭治郎の問いに対する答えは分かりきっている。それが可能ならば、そうしたいとも思っている。だけれども、そんな未来などあり得るはずがないと分かっているが故に、彼女はそれを自らの口で言葉にする事が出来なかった。しかし…。
「…本当に」
止めろと、心の中でそう思いながらも、この感情を抑える事が出来ない。
「…本当に、お主が言う未来があるというのか? 人と鬼が…否、鬼が人に戻る事が可能だとでもいうのか?」
零余子の言葉に、炭治郎は力強く頷く。そして、その未来を夢見て生きる炭治郎と禰豆子の後ろ姿を思い描いた瞬間、零余子は自身の中で何かが弾けるのを感じた。それは理性の限界か、はたまたかつて人であった己の本能か。
「あぁ…そうか。そんな未来、考えもしなかった。あぁ、そうか。私には見えもしなかったぞ。鬼が人に戻るなど、そんな夢物語…いや、違うな。鬼である私が、人と共に共存する世界など」
人に戻らずとも、鬼のままでも構わない。〇〇と共にいたい。それが叶わぬ願いだからと諦め、〇〇の元を去った。
死を覚悟した。このまま無惨様の命により生き続けても、いずれは鬼殺隊に討たれて死ぬ未来しかない。
それ以前に、下弦の伍が討たれたあの時、下弦の鬼達は粛清された。その中に、自分がいてもおかしくなかった。だが、生き残った。生きる為に必死に考え、そして、生きながらえた。
全てはあの日から変わった。柱に追われ、逃げ延び、〇〇と出会ったあの日から。
「ならば…あぁ、そうだな。会いたいな。もう一度会いたい。それが叶うなら、許されるなら、会いたいな」
覚悟は決めた。もう迷いはない。
「竈門殿、お主に聞きたい事がある。お主の口振からして、あるのだろう。鬼を人に戻す方法が、その可能性に心当たりがあるのだろう」
炭治郎との話をする中で、鬼を人に戻す方法、もしくは、それに類する可能性を知っている素振りがあった。しかし、それを言わなかったのは、零余子がまだ、無惨の配下ゆえに、情報を提示する事が出来なかったのが原因だろう。正直者なのか嘘が苦手なのか、わかりやすい彼の性格に苦笑を浮かべつつ、零余子は炭治郎にそう尋ねた。
案の定、炭治郎は知っていた。鬼を人に戻す方法を。その可能性の一端を。必要なのは無惨の血。正確には、無惨によって生み出された鬼達の血。それも、十二鬼月の様な、無惨により近しい血を持つ者達が望ましいとの事。
零余子はそれに該当する。元下弦の鬼である零余子であれば、他の鬼と比べて無惨に近しい血を持っている。
だが、一つだけ問題があった。炭治郎が言うには、回収できる血は多ければ多いと望ましい。しかし、現存する十二鬼月は零余子を除けば上弦の鬼しか残っていない。
入れ替わりの激しい下弦に比べ上弦が入れ替わる事はほとんどない。それだけ多くの人を喰らい、多くの鬼殺隊を屠ってきた鬼の中の頂点に君臨する存在。
彼等から血を回収する事は難しい。かと言って、自身の血を多く集めたからとて、それが有用になるかどうか…。
そこまで考え、零余子は目を瞑り、改めて覚悟を決めた。
「あのお方の血がより濃い状態ならば、竈門殿の目的が叶うやもしれぬのだな?」
静かに、気持ちを落ち着かせて、零余子は自身の血鬼術を発動させる。本来ならば体外に霧状の血を散布し、それを吸った者の体内に侵入し、内側から植物の芽を息吹かせるその能力を、自身の体内で発動させたのだ。
「これは賭けだ。お主の語る夢と私の願いを叶える為の賭けをする」
零余子の身体から、無数の植物が絡み合いながら皮膚を突き破り、足元が血溜まりとなってゆく。その光景に炭治郎は顔色を強張らせ、彼女に近付こうとしたが、零余子はそれを片手を前に出して制した。
「竈門殿、確かに私は、ある日を境に人を殺さぬ身となった。いや、殺せぬ身となったが正しいな。しかし、それも僅か一年にも満たぬ時の中だ。それより前の私は数え切れぬ程に人を喰らい。殺してきた」
その罪から逃れる事は出来ないと、炭治郎に告げ、視線をちらりと禰豆子に移し、ふっと笑みを浮かべた。
「だから、これで死んでもそれは仕方の無い事だ。それだけの事をした。その罪からは逃れられぬ。これから逃げたら、私は彼に顔向け出来ぬ。それだけは…あぁ、そうだな。それだけは嫌だな」
その言葉に、炭治郎は零余子の次なる行動に気付いたのだろう。炭治郎が彼女を止めるよりも先に、零余子はその言葉を紡いだ。
「鬼舞辻 無惨」
刹那、零余子の身体が内側から膨張した。無惨の呪い。彼の細胞が零余子の体内で暴走し、肉体を破壊し始めたのだ。
だが、これこそが零余子の目的だったのだ。自身の肉体を破壊する無惨の細胞を血鬼術によって芽吹いた植物が絡み合い、飲み込んでいく。飲み込まれた細胞は零余子の血と共に濃縮され、体外へと解き放たれた植物の先端へと運ばれて、赤い実となって地面に落ちていく。
瞬く間に、零余子の周りには無惨の細胞が濃縮された実で溢れ返り、彼女の体内に収められた無惨の細胞の数がどれだけ膨大だったかを物語っていた。
目的は達成された。自身の体内を流れる無惨の細胞。それが濃縮された赤い実を実らせ、それを排出する事に成功した零余子だったが、血鬼術によって芽吹いた植物が彼の細胞を取り込むよりも早く、呪いによる暴走が彼女の体内で暴れ回り、耐えられずその場に膝をつき、崩れ落ちる様に倒れた。
全身を蝕む激痛と苦しみ。声を上げる事もままならず、意識を刈り取られるギリギリの所でなんとか堪えてはいたが、その延々とも感じる地獄の様な苦しみに、零余子は顔を歪め、口から血反吐を吐き出した。
覚悟はしていたが、これ程とは。無惨の細胞が内側から抑える事が出来なくなり、無数の腕となって身体を突き破り、零余子の身体に追撃をかけようとする。それをなんとか体外に伸びた蔦で絡め取り、それを未然に防ぐが、その抵抗すらも、徐々に押され始め、為す術もなく蹂躙されてゆく。
私は此処で死ぬのか?
炭治郎と禰豆子に感化され、無謀にも無惨に挑んだ結果がこれとは。気持ちに余裕があったら、自身の甘さに苦笑を浮かべていただろう。
元々夢物語だったのだ。鬼と人が共存出来る筈が無かったのだ。そんな事分かりきっていた筈なのに…全く、絆されすぎたな。
零余子の脳裏に浮かぶのは、〇〇と出会ったあの日の事。そこから始まった出会いと別れの記憶。その全てが零余子とってはかけがえのない物だった。だからこそ再び彼に会いたいと願い、今に至るのだ。
(…あぁ、そうだな。そうだったな。わたしは会いたい。会いたいのだ。だからこそ、こんな夢物語に縋り付いたのだ)
零余子は血反吐を吐きながら己を鼓舞し、歯を食いしばった。内外問わず、植物は数を増し、無惨の細胞に対抗する。
肉体も臓腑も、自身の血鬼術と無惨の細胞によって既にボロボロだ。意識が残っているだけでも奇跡と言えるだろう。まだだ、まだ頑張れる。まだ死んでたまるか。私の夢は、まだ終わっていない。
(〇〇…私は、私は…)
意識が途切れる寸前だった。最後に彼の名を心の中で呟き、零余子の身体が一度大きく痙攣したその時、零余子は身体の内側から温かいものを感じた。
人の温もり。内側から感じたそれは、全身を包み込んでいく。その感覚に、零余子は先程までの苦しみから解き放たれた様な心地となり、思わず笑みを浮かべた。
あぁ、この感覚。忘れるものか。そうか、そうだったな。〇〇、お主はいつもわたしの事を気遣ってくれたな。また、私を助けてくれたのだな。
それはかつて、零余子の為にと〇〇が与えた稀血の名残り。消化し、零余子の血肉となったそれが、最後の最後で零余子に力を与えたのだ。
無惨の細胞の勢いが弱まっていく。体外に飛び出た無数の腕が植物によって完全に身動きが取れなくなり消化されていく。痛みが、苦しみが、徐々に薄らいでいくのを感じながら、零余子は静かに目を瞑った。その目尻から流れ落ちる涙は、悲しみではなく嬉しさによって流れた物だった。
そうして、零余子の身体から無惨の細胞が消え失せた頃、植物達が地面に落ちた大量の実を取り込み、無惨の細胞を高濃度に圧縮した実を実らせ、ゆっくりと地面に落とした。
生存ルートからアフターストーリーとなります。
ご了承下さい。