※この作品はR-18です。

傷跡   作:モノクロさん

5 / 8
IF‐零余子生存ルート‐アフターストーリー

 月明かりを頼りに、森の中を歩き続ける。此処は以前と変わらない。人工的な光は一切なく、夜目が効かない体質ならば、数メートル先すら視認出来ないだろう。歩む道も、ほとんど整備されておらず、人がなんとか歩ける程度に手入れされているだけだ。

 

 それでも、彼女がこの道を間違える事は決してない。この道を進めば、あの場所に辿り着く事が出来る。そう確信しながら歩みを進める中で、ふと思い出した様に立ち止まり、自身が歩いた道を振り返った。この場所に戻る事が出来た経緯を思い出しながら、彼女は…零余子はふっと笑みを浮かべた。

 

 〇〇と出会い、別れ、そして、鬼殺隊の隊士であった竈門炭治郎と出会ったあの日、あの日から零余子の人生が大きく変わったと言って良いだろう。

 

 炭治郎に無惨の血を提供してから少しして、自分よりも遥かな高みに存在する上弦の陸が討たれた。下弦の鬼ならまだしも、十二鬼月の中で上弦に君臨する鬼が人に討たれた事実は、零余子に衝撃を与えた。

 

 更に、鬼殺隊にとっての生命線ともいえる、刀鍛冶の里を襲撃した上弦の伍と肆の討伐。上弦の月が、一年と経たずに半分も欠けたのだ。何かが変わろうとしている。そう実感した零余子に、更なる朗報が伝えられた。

 

 鬼を人に戻す薬が完成した。その報告に、零余子は炭治郎の願いが叶ったのだと、我が事の様に喜んだ。薬の開発者である鬼の協力者、珠世の元に訪れた炭治郎を見かけた時は、人目を憚らず(その場には珠世と愈史郎しかいなかったのだが)抱き寄せ、共に薬の完成を喜んだのだった。

 

 そんな零余子に、珠世は言った。貴女の分の薬も用意してあります…と。それを聞いた時、零余子は一瞬考えた。その薬を飲めば、自分は〇〇と同じ時を生きる事が出来る。そんな夢見たいな話を聞いた零余子だったが、零余子はその申し出を断った。

 

「私には必要ない。私の分は、もしもの時の為にとっておいて欲しい。その代わり、欲しいものがある」

 

 そして、零余子の要求を聞いた珠世は、一瞬目を見開き、暫し考えた後に、その要求を了承した。

 

 その後、無惨と鬼殺隊との長きに渡る戦いに終止符が打たれた後も、零余子は生きながらえていた。無惨が死ねば、無惨から生まれた鬼は死ぬ。しかし、無惨の呪いから解放された零余子は、その対象から除外され、彼の死後も、こうして生きながらえる事が出来たのだ。

 

 これは賭けに近かった。もしも、他の鬼の例に漏れず、無惨の死後、他の鬼と共に滅びるならば、それもやむなしと思った。〇〇と再会できないのは辛いが、それだけの事をしたと自負している。もしも、〇〇と再会出来るのであれば、これまでの事を精算した上で、会いに行こうと心に決めた零余子は、今、その思いに従い、こうして森の中を歩き続ける。

 

 もう少しだ。後少し、後少しで〇〇に会える。逸る気持ちを抑えようとするも、胸の鼓動が早く、そして強く高鳴る。覚えている。此処は初めて〇〇と出会った場所だ。柱から逃げ延び、流れ着いた場所だ。此処で彼と出会い、そこから始まったのだ。

 

 彼の腕に抱かれ、傷の手当てを受け、血を与えられ、無償の施しを与えられた。人は食糧か敵でしかない。いや、それ以前に、人であろうと、同じ鬼であろうと、分かり合える事はないと思っていた零余子にとって、僅か数日の出来事が、此処まで自分の運命を変えるとはかつての自分なら夢にも思わなかただろう。自分の運命を変えた人。いや、鬼の自分を変えた唯一の人。それが〇〇なのだ。

 

 そんな〇〇と過ごした時間を懐古しながら、零余子は月明かりを頼りに森を歩き続けた。月が雲に隠れ、一瞬周囲が真っ暗となった後、雲が晴れ再び月の明かりが周囲を照らした。その明かりの先に、漸く目的の家が見えて、零余子は心の底から安堵の息を吐いた。

 

 戸の前に立ち、再び深呼吸をする。この時間だ、きっと〇〇は寝ているだろう。戸を叩くべきか躊躇する。会いたい。だが、起こしては申し訳ない。しかし、あまり長く迷っていては日が登ってしまう。

 

(何をしているのだ私は。〇〇に会う為にこれまで頑張って来たではないか。何故この程度の事を躊躇する)

 

 戸に手が伸び、叩こうとする素振りを見せては躊躇する。その繰り返しを延々としながらも、最後は両頬を強く叩き、意を決して戸を叩いた。

 

 コンコンと、勇気を振り絞ったにしては、控えめ過ぎるその音に、家の中から反応があった。一瞬の静寂の後、戸に近付く足の音。一際心臓が高く鳴り響く中、その空気を破る様に、戸が開かれた。

 

「…零余子…か?」

 

 戸を開けた〇〇は、暗がりでありながらも零余子の顔を視認し、目を丸くした。

 

(…………あぁ)

 

零余子は思わず、目に涙を浮かべた。会いたかった人が目の前にいるという事実に、零余子は言葉を発せずにいた。夢みたいだと思った。夢なら覚めないで欲しいと思った。気が付けば、自然と身体が動き、〇〇の胸に飛び込んでいた。

 

「…零余子」

 

「すまない、少しだけ、少しだけこのままでいさせてくれ。本当に、本当にすまない」

 

 〇〇の胸の中で、零余子は涙を零した。彼の温もりを全身に感じながら、幸せでいっぱいになりながらも、溢れ出る涙を止める事が出来ず、小さく嗚咽を零した。そんな零余子を宥める様に、〇〇は優しく背中を撫でた。やがて、落ち着きを取り戻した零余子は彼から離れ、涙を腕で拭うと顔を上げた。

 

「すまなかった。少し取り乱した」

 

「気にするな。色々とあったのだろう?」

 

「あぁ、そうだな。色々だ。色々あったんだ」

 

 そう言って、零余子は〇〇に微笑みを向けた。その笑みを見て、〇〇は少し驚いた表情を浮かべた後、釣られて笑みを浮かべた。それは本当に幸せそうな笑顔だった。

 

「そうか。よかったら聞かせてほしい。零余子の話を、俺は聞きたい」

 

「あぁ、そうだな。話したい事があるんだ。沢山、あぁ、沢山あるんだ」

 

 そうして、〇〇と零余子は家の中に入っていった。これまでの事を話す為に。これまでに起きた色々な出来事を語り聞かせる為に。そして、何よりもこれからの事を話し合う為に……。

 

 それから二人は、夜が明けるまで話し込んだ。それは本当に楽しい時間で、零余子の心に空いた穴が、少しずつ埋まっていく様な気がしていた。




 これにて、零余子生存ルート、アフターストーリーを完結させて頂きます。内容的に補完するべき点も多々ありますので、完成次第、改めて更新させていただきます。

 もしも、この後のストーリーで此処が見てみたい。や、珠世さんから何を受け取ったのかなど、気になる所がありましたら、是非、感想欄に記入して頂けると幸いです。

 それでは、此処まで読んで頂き、本当にありがとうございました。感想、評価など頂けると、次の執筆の気力に繋がります。宜しくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。