※この作品はR-18です。

傷跡   作:モノクロさん

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お久し振りです。
零余子生存ルートのアフターストーリーまで更新する事が出来ましたが、今回のその後の話となります。賛否別れるかもしれませんが、最後まで見て頂けると幸いです。
それでは、失礼します。


誤字報告、ありがとうございました。



IF‐零余子生存ルート‐ 死が二人を分かつとも 前編

 とある寂れた集落に、こんなうわさ話があった。曰く、集落近くの山に、鬼がいるらしい。夜な夜な集落を訪れては人を攫い、喰らうという。

 

 かつてその鬼は、人として集落で生活していたが、その見た目が他の者達と異なり、奇異の目で見られ続け、それに耐えきれず山へと逃げた。しかし、人の味を覚えていた鬼はその味を忘れる事が出来ず、活動できる夜の時間に山を降り、寝静まった集落を訪れては、夜更かしをする悪い子供を言葉巧みに山へ連れ出し、喰らってしまうのだと。

 

『分かったか。怖い鬼に喰われたくなければ、大人の言う事に従うんだぞ』

 

 そうして、この話は締め括られる。それは、何の変哲もないうわさ話…というより、親が夜更かしをする子供に言い聞かせる作り話の類だった。

 

 実際、そのうわさ話を真に受けた子供たちが、親の目を盗んで森の中に入り、真偽を確かめようとしたが、中腹辺りで険しい獣道に行く手を阻まれ、度胸試しや肝試しも兼ねた無茶な探索は、あえなく失敗に終わるまでが一通りの流れである。

 

 ある少年もまた、父親から聞かされた作り話を集落の友人に話し、ならば度胸試しと盛り上がり、夜の帳が訪れる頃に集合し、事の真偽を確かめようと息まいていた。

 

 だが、それが失敗だった。

 

 夜目が効いて尚、視界不良の中、山の中腹辺りで話に聞いた険しい獣道。まるで此処から先にはいかせまいと立ち塞がる生い茂った草木に、友人共々その場で立ち往生してしまった。

 

 どうしたものか、こんなに草木が生い茂っているなら、家から草刈りの鎌でも持参すればよかったかなど、そんな事を話す友人を他所に、少年は、なんとかこの先に行く方法はないかと模索し、周囲を一人で探索していると、足元の注意を厳かにして、それは起こってしまった。

 

 少年は足元を疎かにしていた為、突然ガクンと足を取られ態勢を崩してしまう。それだけなら特に問題はなかったのだが、少年の足元には崖があり、少年はその崖の下に転落してしまったのだ。幸いにも大怪我には至らなかったが、足の骨には罅が入り、少年はその場から動けなくなったのだ。

 

 幸いというべきか、一緒に山に登ってた友人達に無事を告げるも、子供の力では少年を助ける事も出来ない。大人の力が必要だ。少年は友人達に大人達に事の次第を伝えて助けてくれるようお願いすると、下山する友人達が戻って来るのを、1人で待つ羽目となったのだ。

 

 友人達が山を降りてから暫くして、辺りが静寂に包まれる中、少年は、1人で行動した事を悔やんでいた。月明かりで何とか視界が保たれてはいるが、此処は人喰いの鬼が出ると言われた山だ。せめて1人、誰かを残していれば多少は気が紛れたかもしれないが、誰もいない静まり返った山の中で、救助を待つ身としては心細くもあり、何より、恐怖が勝り始めていた。

 

 静かすぎると、僅かな音にさえ敏感になってしまう。草木の揺れ、風の音、虫の泣き声。自身の吐息や心臓の拍動すらも聞こえるのではと思う程に少年は周囲の変化に過剰に反応してしまい、心身共に疲弊させていった。

 

 それからどれ程の時間が過ぎただろうか。数分か、それとも数時間か。周囲に気を張りすぎたせいで疲弊し、気が付けば眠りについていた少年の鼻孔を、甘い香りがくすぐった。

 

 甘い香りに反応し、瞼を重たげに持ち上げる。最初に感じた甘い香りの次に、少年は自身の身体が揺れる感覚で完全に意識を覚醒させた。誰かが自分を背負っている。誰だろう…と。

 

 視界に映った人物は、見覚えのない相手だった。白髪に着物を着た、まだ成人してないであろう年頃の女性だ。自分よりは年上と思ったが、息も切らさず、ひと1人を背負って山を降る女性に、少年は疑問に思った。

 

 そんな疑問が浮かぶ中、女性は少年が起きた事に気付いて、優し気な声色で話しかけてきた。

 

「あぁ、良かった。目が覚めたみたいだね。足の調子はどうだ? 一応、応急処置は済ませているが、この手の処置は久方ぶりでね、痛い所はないかい?」

 

「え…あ、えっと…」

 

 足の事を聞かれ、少年は足に痛みを感じていない事に気付いた。足には簡単な応急処置が済ませてあり、添え木をひびの入った足にあて、包帯で固定された簡単なものだ。痛みを感じないのは、薬草か何かの効果だろうか。ひびが入っているであろう部位の添え木と包帯がやや湿っている。それのお陰で痛みを感じないといった所だろうか?

 

 少年は足の痛みが消えている事を女性に告げると、女性は安心したような表情を浮かべて微笑んでいた。その優しげな笑顔に、少年の心臓が強く拍動する。

 

「あ、あの…えっと。ありがとうございました。貴女が助けてくれたんですか?」

 

 今まで感じる事のなかった感情に困惑しながらも、少年は女性に感謝の言葉を伝える。女性はその言葉に優し気な笑みで『あぁ、そうだよ』と返した後、続けて少年と話をつづけた。

 

「私は零余子。お前さんは近くの集落の子だね。この山には何しにきたんだい?」

 

「鬼が…この山に鬼がいるって聞いたから…」 

 

「あぁ、そうかい。肝試しか、度胸試しといった所かな? それで足を滑らせてあんな所に、それは怖かっただろう?」

 

 この山には怖い怖ーい鬼がいると言われてたんだ。1人で待っていた間は、凄く怖かっただろう…と、そう言う零余子に、少年は恥ずかしくて顔を真っ赤にするも、それを見られまいと、零余子の背中に顔を埋める。

 

 その様子に、零余子もクスクスと笑みを浮かべながら、子供に言い聞かせるような口調で話し始めた。

 

「確かに、この山には鬼がいる。でも、安心すると良い。その鬼はもう、人を喰べる事はないからね」

 

 かつてその鬼は、人を喰らう鬼だった。しかし、山に住むとある人物に出会い、それがきっかけで人を喰らう事が出来なくなった。孤独だった鬼は人の優しさに触れ、その人と別れてからもそれを忘れる事が出来ず、様々な困難に会いながらそれを乗り越え、再び再開した。

 

 人間は唯の食料だと思っていたその鬼は心から彼を慕い、人と鬼の垣根を越えて結ばれた。だからこそ、その鬼はもう人を襲わないし、喰らう事もない。だから、もし仮に、その鬼に出会ったとしても、安心して良いんだよと、零余子は△△に優しくそう言った。

 

「…本当に、本当にその鬼は人を?」

 

「あぁ、本当だよ。だから安心すると良い。この思い…その思いは今も変わらない。何年、何十年経って尚…な」

 

 そう言った後、零余子は遠くを指さした。△△はその先へ視線を向けると、無数の光が山に登ってくる光景が見て取れた。それは、大人達が松明を持って救助に来た光景だった。

 

 あぁ、助かったんだと安堵する中で、△△は思った。零余子は何故、大人達より早く自分を見つけ、助けてくれたのかと。改めてそう思い、問い掛けようとするも、零余子は△△を下ろすと、頭を優しく撫で、『私の事は内緒だよ』とだけ告げ、来た道を戻り始めた。

 

 この時、△△は気付いた。零余子の額にある角を。あぁ、成程。山の鬼とは、彼女の事だったのか。あのうわさ話も、尾ひれがついてはいたが本当の話だったのだと。

 

 零余子は真っ直ぐに山の中を進んでいく。険しかった獣道も、彼女が通ろうとすれば道を開け、通り過ぎた後は元の獣道へと戻っていく。彼女がいる限り、この山を登る事は出来ないのだろう。この山は、彼女と彼女が恋した男のいる大事な山なのだ。あれは彼女なりの、独占欲が働いた結果からなるものだったのかと、△△は、自然と笑みがこぼれて消えゆく彼女の背中を見送った。

 

 鬼が人に恋した物語。人を喰らう鬼が、人を喰らう事が出来なくなった物語。

 

 この物語に終局が訪れるのは、それから少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-???-

 ……○○、今戻ったぞ。

 

 ……あぁ、子供が1人、崖から滑り落ちたみたいでな。大丈夫だ。ちゃんと傷の手当てもした。安全な所まで送り届けたとも。

 

 ……ははは。あぁ、そうだな。肝試しか度胸試しのつもりで登ってきたらしい。

 

 ……そうだな。若気の至りと言うやつだろう。昔はよく、その手の輩が来たものだ。あぁ、全員追い返してやったがな。

 

 ……やりすぎ? むぅ、その通りかもしれないが…あぁ、そうだな。確かにやりすぎたもかもしれないな。

 

 ……あぁ、反省しているとも。気を付けるよ。大丈夫だ。大丈夫だから……

 

 ……お主は、自分の身体の事を気にかけておくれ。

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