※この作品はR-18です。

雌堕百舌鳥   作:紅緋

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続いてしまいました


弐:逃げ場のない洞窟で狼に貪られる百舌鳥

 

「んぅ、ぁ、はぁ……! リズ、リズぅっ、もう──ぅぁっ!!」

「ふふ、今日もいっぱい出したわね」

 

 深夜の鉄獣戦線(トライブリゲード)の倉庫。月明りが差し込む薄暗い闇夜の中、二人の影が蠢いていた。

 片や片翼の鳥族獣人──凶鳥ことシュライグ。

 片や桃髪の猫族獣人──徒花ことフェリジット。

 二人は先日の交わりから、暇(いとま)を見つけてはこうして行為に及んでいた。今日も今日とてフェリジットの細くしなやかな手でシュライグの愚息が弄ばれ、その手技により呆気なくその熱を放つ。床一面にコップの中身を溢したような量の白濁液をぶち撒け、濃い雄の臭いが充満。嗅覚が鋭い獣人にとっては悪臭とも取れるが、フェリジットには魅惑の香り。その芳醇な雄に匂いを堪能しながら、フェリジットは満足気にほっと一息。

 この行為──“躾”を続けるようになってから早一週間。慣れた──というよりも、虜になってしまったフェリジットにとっては禁断の果実そのもの。自分だけが知るシュライグの一面を独占できるのだから。

 満足気な笑みを浮かべながら、フェリジットは手にこびりついた獣の因子をゆっくりと舌で掬い拭うと、舌の上へちょこんと乗せる。それを一旦口に含み、ぜぇぜぇと肩で息を切らしているシュライグの顔を無理矢理自分の方へと向かせ、口付け。慣れたように彼の鼻を摘まんで空気の通り道を潰し、強引に口を開けさせる。長い舌の上に乗せた苦いゼリーを彼へ口移しすると、それだけでフェリジットもシュライグも顔が蕩けたものに。ちゅっちゅと幾度も唇を重ね合わせることで生まれる淫猥な水音が宵闇に響き、聴覚からも犯しているようにさえ覚える。

 

(ホント、バードキッス(これ)好きねぇシュライグ)

 

 終わりはいつもこれ。雛鳥が親鳥に求めるように何度も何度も口先を重ねる光景は見慣れたもの。しかし逆に言えば、それだけ甘え下手なシュライグが自分(フェリジット)にしかこの姿を見せていないということ。自分しか知りえない鉄獣戦線(トライブリゲード)のリーダーの姿というものは幾百もの金塊にも勝る価値があり、フェリジットはこの状況に心の底から喜んでいる。

 

「んっ、ちゅ、んぅ──ほら、今日はここまでよシュライグ」

「ぁ……あ、あぁ……」

 

 名残惜しそうな──おかわりをねだる幼子のようなシュライグの眼差しにフェリジットの庇護欲が掻き立てられるも、鉄の意志でぐっと我慢。本音を言えばもっと愉しみたいところではあるが、それこそ理性を失った野獣となってしまっては翌日以降に支障が出かねない。今のシュライグは新しい遊びを教えてもらった男児のようなもの。これはこれ、それはそれとしっかりと分別をつけるように教えるのは幼馴染である自分の使命、とフェリジットは猛る劣情を下唇を噛み締めながら必死に抑える。

 対してシュライグはすっかり項垂れてしまい、明らかに気落ちしている様子。そんな彼にハァ、とため息を吐きながらフェリジットは優しくシュライグの頭を自分の胸元へ。

 

「そんなガッカリしないの。頑張ったらもっとご褒美あげるから」

「……あぁ」

「でも、自分を省みないことしたらお仕置きだからね」

「──っ、あぁ……!」

 

 赤子をあやすように、愛おしくシュライグの頭を撫でながらそう耳元で囁く。戦果をあげればご褒美、失策を講じれば躾と、シュライグにとってもフェリジットにとってもどちらにせよ徳しかない話。最早建前にしかなく、盛る理由付けでしかない。

 お互いに悶々とした気持ちを抑えながら事後処理。鉄獣戦線(トライブリゲード)にはフェリジットを始め、犬や猫等の嗅覚が鋭い獣人も少なくない。こと倉庫でこんな情事にトップ二人が激しく励んでいましたとなれば秩序崩壊待ったなしだ。古く汚くなった衣類で淫液を拭い取り、それをさらに別の古着で包んで処理。そして倉庫内には消臭効果のある花や、濃い匂いの果実を後から置いて証拠隠滅。臭い物には蓋をする理論だ。

 この作業の手際も慣れたもの。ものの数十分で片付けは終わり、一緒に倉庫から退出。男女別となる宿舎の分かれ道まで共にし、そこでお決まりとなった口付けを交わしてから二人の一日の終了の合図。

 

「それじゃ、おやすみシュライグ」

「あぁ、おやすみリズ」

 

 

 

 

 

「うにゃあ……おかえり、リズ姉ちゃん」

「ただいま。ごめんねキット起こしちゃって」

「大丈夫ー。丁度お水飲みたかったし」

 

 部屋に戻り、フェリジットは就寝準備。行為後は既に日付が変わる時刻であったため、妹のキットを起こさないようにと気を付けているがそこは自分の妹。僅かな物音でも起きてしまうほどに危機管理能力があることに嬉しいと思う反面、シュライグとの情事で励んできた帰りだと暴露する状況に気恥ずかしさがあったり。

 ふわぁ、と可愛らしい欠伸をしながらキットはサイドテーブルに置いてある水差しを一口。再びベッドへと向かい布団の中に潜ってスヤァと夢の中──

 

「気持ち良かったリズ姉ちゃん?」

「早く寝なさいっ」

 

 ──へ行く前にニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべての一言。髪を梳かしていたフェリジットは思考が発情期の妹をキッと睨んで返す。

 

「えぇー? これぐらい良いでしょ? それに女の子の初めては痛いって聞くし、リズ姉ちゃんはどうだったのかなって」

「……ぁ」

「……えっ? あっ、あぁー──はぁー」

 

 瞬間、呆けた声と共にフェリジットの手が止まる。石像のようにビタリと停止した姉にキットは頭上にクエスチョンマークを浮かばせるが、そこは鉄獣戦線(トライブリゲード)いちの頭脳派。姉の反応から即座に事情を察し、嘆きと呆れの長いため息を吐く。

 

「リズ姉には失望したよ」

「ちょ、だ、だだだ、だってぇ……!」

「折角、積年の想いが成就したと思っていたのに、まさかまだ“おぼこ”だったなんて……」

「お、おぼこ言うなっ!」

 

 カァーと首から上が茹でタコのように赤くなるフェリジット。あれだけ連日連夜濃厚な雄の臭いを相部屋に持ち帰っておきながら、その体は清いまま。恋愛小説を読んでいたと思ったら、その中身がコメディ小説だったような裏切りにキットは酷く落胆した。

 

「──あれ? じゃあシュライグはどうやって発散させてるの?」

「えっ、そ、それは……手でやってあげたり、シュライグに挿入(いれ)たり……」

「うわぁ……シュライグ処女(ヴァージン)散らしたのにまだ童貞(ドーテー)なんだ。カワイソ」

 

 やれやれ、とキットは未だに生娘記録更新中の姉に苦言してから今度こそ布団へ。折角、お膳立ての状況をあれこれと立てて姉の恋を成就させられたと思ったらこれだ。まるで自分は恋のキューピッドではなく道化師ピエロだ、と骨折り損のくたびれ儲け、とばかりにプイっと顔を壁に向ける。

 

「全くもう……このままじゃシュライグの初めてを誰かに奪われちゃうよ?」

「は? シュライグがアタシ以外に身体を許すと思ってるの? いくら妹でもその言葉は──」

「この間のクスリ。副作用で突発的に発情させるフェロモン出しちゃうみたいなんだよね。頼んだら断れないシュライグだと絶対に食べられちゃうよ」

「──は?」

「それじゃ、シュライグが他の誰かに食べられないように気を付けてねリズ姉ちゃん。おやすみー」

「……そういうことはもっと早く言いなさいっ!! お馬鹿ぁっ!!」

 

 深夜の女性宿舎。姉妹部屋から、フェリジットの怒声が夜の闇に響き渡った──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これは──マズいな)

 

 翌日。キットの言葉で焦燥感を抱いたフェリジットは即行動を起こそうとするも、生憎とそうは世界が許さない。

 斥候に出ていたナーベルから近隣の部落に教導(ドラグマ)が攻め入ったと急報があり、鉄獣戦線(トライブリゲード)は即座に出撃。襲撃を受けている同胞らの救援に向かうも、それは教導(ドラグマ)が仕掛けた罠。部落の中心部まで入った鉄獣戦線(トライブリゲード)を囲うように教導(ドラグマ)の一団が周りを包囲。絶体絶命の状況に陥ってしまった。

 

(──一角を、崩す)

 

 しかし、そんな状況になろうと決して諦めない鉄の意志を持つのが鉄獣戦線(トライブリゲード)。そして、そのリーダーである『凶鳥のシュライグ』だ。

 シュライグはその片翼と機械翼をはためかせ、一気に飛翔。敵が一瞬呆気に取られた隙を見逃さず、手持ちのリボルバー式グレネードを六連射。包囲の一角を爆風で吹き飛ばして穴を空け、すかさず空いた穴へと滑空。

 

「全員ここから撤退しろっ!」

 

 わぁ、と教導(ドラグマ)の攻勢で心身共に疲弊していた部落の獣人たちは我先にとシュライグが空けた一角へ駆け出す。元より抗う力のない彼らに共に戦えと言う方が無理な話なのだから、鉄獣戦線(トライブリゲード)の面々もこの行動は予測できた。

 

「他の者は彼らを安全な場所まで送れ! オレが殿(しんがり)を務める!」

「シュライグっ!!」

「あの馬鹿……っ!」

 

 喉がはち切れんばかりの大声でシュライグは指示を出しながら、慣れた手つきで弾倉補充(リロード)。その間、他から襲い来るであろう敵に猛禽類の如き射殺さんばかりの眼差しを向けていると、前方からフェリジットとルガルが駆け寄る。

 

「無茶しやがって! だがよくやった! これで時間を稼げる!」

「すまない。ルガルとリズは彼らを頼む。ここはオレが食い止める」

「馬鹿言わないでよ! アンタ一人残していける訳ないでしょ! アタシも残るわ!」

 

 三人で死角を補うように背中を合わせ、手持ちの獲物で斉射。

 遠くの敵はフェリジットの長銃(ライフル)で撃ち抜かれ。

 視界に入った敵はシュライグの榴弾で爆発四散。

 近づいてきた敵はルガルが露払い。

 長年過ごしてきた三人だからこそ息の合ったコンビネーション。

 

 しかし──

 

「チィ、数が多い……!」

「ホント、嫌になるぐらい多いわね……!」

 

 ──圧倒的な数の暴力の前では焼け石に水。

 幾度斃されようと仲間の屍を足蹴にしてまで迫ってくる姿は狂信者のそれ。血走った眼でシュライグ達に襲いかからんとする姿は狂気そのもの。

 それもそのはず──今回の教導(ドラグマ)の部隊は正規の騎士団とは非なるもの。彼らは教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)の直属精鋭部隊。教導(ドラグマ)の教え──ではなく、教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)に絶対の忠誠を誓う盲目的な狂信者。彼の為であれば命など惜しくもないとばかりに三人へ襲い掛かる。

 

「このままじゃ──っ!」

 

 何れ押し切られる──とフェリジットが焦燥した瞬間、ふわりと体に浮遊感。一体何が、と思ったのも束の間。彼女の体は後方──撤退した同胞たちの方へ、投げ飛ばされる。

 

「ちょ──」

「リズ!! 彼らを頼む!!」

「ヘマするんじゃねぇぞ!!」

 

 瞬間──轟音。部落の出入り口となる木組みの壁が爆発によって崩れ落ち、今まで三人が立っていた場所に瓦礫が山のように積み重なる。

 その内からシュライグとルガルの声が咆哮のようにフェリジットの耳へ。抗議の声を上げようとするも、内からは鬨の声と銃声のみ。

 

「──っ、絶対に帰ってきなさいよっ!!」

 

 これ以上はあの親友(バカ)二人に言っても無駄。フェリジットはこみ上げてくる感情を押し殺し、既に撤退した同胞らに合流すべく駆け出した──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とか撒けたか」

「みたいだな」

 

 ──そこから数刻後。全身泥塗れになりながら、シュライグとルガルは殿の務めを全うした。

 敵が一ヶ所に固まってからルガルの咆哮で一瞬足止め、シュライグが手持ちの榴弾全てを周囲に放ち大爆発。爆炎と黒煙が上がる中で二人は素早く反転し撤退、幸いに空が黒く染まり今はバケツをひっくり返したような大雨が降り注いでいる。個人ならともかく、部隊ほどの人数ともなればこの大雨で行軍は確実に鈍化。さらに慣れぬ土地となればその足はさらに鈍る。

 

 まさに恵みの雨──とは言い難い。疲弊した身体を冷やしてはいくら体毛に覆われている獣人と言えど、身体機能の低下は免れない。何度かこの周囲の調査に来たことがあった二人は付近に洞窟があったことを思い出し、大量の枝木を抱えながらその洞窟へ避難。出入口を枝葉で目視されにくいようにカモフラージュしてから奥へと進む。

 

「こうも濡れては敵わん。早く脱げ、シュライグ」

「あぁ」

 

 慣れた手つきで焚火を起こすと、二人はそのまま乱雑に衣服を脱ぎ始める。この場にフェリジットのような女性も居ないため、気兼ねなく下着まで脱いで共に全裸。濡れた衣服を一度雑巾のように力いっぱい絞って水気をなくす。それを焚火の近くで乾かそう──

 

「ルガル、一度拭こう」

「あぁ、すまんな」

 

 ──とする前に体を水に濡れたままにする訳にはいかない。気休め程度だが、身体にこびりついた水気を拭き取るだけでも大分違う。シュライグは濡れて力なく垂れ下がった毛に覆われたルガルの背中を拭き、その間にルガルは自分の体前面を。何度か拭いて絞ってを繰り返せば、多少は体から水の重さが抜ける。

 

「助かった。そら、交代だ」

「頼む」

 

 お返しにと、今度はルガルがシュライグの背を拭く。機械翼は既に外してあり、片翼に当たらないように気をつけながら拭こうとし──

 

(……ん?)

 

 ──無数の赤い花弁に気付く。今回の戦闘で多少の生傷があることはわかる。しかし、この赤い痕は何なんだろうかと一瞬首を傾げるルガル。

 

「どうしたルガル?」

「ちょっとな……シュライグ、この赤い痕はどうした?」

「あぁ、それはリズが付けたものだ」

「……ん?」

 

 はて、と一瞬ルガルの理解が遅れる。この赤い花弁のような痕をフェリジットがシュライグに付けた──ということは、つまりそういうこと。

 

(なるほど……)

 

 その一瞬の後にルガルは察した。『そうか』とだけ頷くと、それ以上は特に言及することなく無言でシュライグの背を拭く。

 

(成就したんだな、リズ)

 

 目を細め、感慨深げに浸る。昔からの付き合いだからこそ二人のことはわかっていた。だが少なくとも教導(ドラグマ)と争っている間は無理だろうと思っていたが、それがどうして。先日のフェリジットの激がとうとうこの朴念仁に届いたかと思うと、不思議と心の中で感涙が止めどなく溢れる。

 

 無事に体中の水気を拭き終えた二人は並び合って焚火の前へ。やや心許ない暖ではあるが、それでもこの冷えた空気の中では砂漠のオアシスのようなもの。有難くその柔らかい炎に当たりながら、二人は静かに身を寄せ合う。

 

「驚いたぞシュライグ。いつの間にリズとそんな関係になっていたんだ?」

「……そんな関係?」

「体の痕のことだ」

「あぁ、そのことか。大体一週間くらい前だったか? 大体あの頃からだ」

「ふむふむ」

 

 幸いこの場にフェリジットは居ない。どんな下世話ことでも根掘り葉掘り聞けばシュライグのことだから何でも答えてくれるだろうと、ルガルは鋭利な牙を覗かせながら不敵に微笑む。惜しむらくはこの場に酒がないことぐらいだろう。

 

「お前の性格のことだからな、リズに求められて応じた、といったところか?」

「うん? いや、どちらかと言えばオレが耐えられなくなった感じだ」

「お前からだと……!?」

 

 予想外の言葉にルガルの目が見開く。鉄獣戦線(トライブリゲード)では誰しもが朴念仁の塊、化身と半ば揶揄しているシュライグの方から求めたことは意外も意外。何でこの場に酒とツマミがないんだと、ルガルは内心歯軋りしながらシュライグの言を待つ。

 

「あぁ。先ずリズが倉庫で眠っているオレを縛り上げたんだ」

「……うん?」

「いつの間にか身体中をまさぐられていて、起きた途端に指を入れられた」

「ちょっと待ってくれシュライグ」

「そして何かを飲まされて、次にベタついた液体を──」

「待てぇいっ!!」

 

 これ違うやつだ。ルガルは期待していた展開とは異なる顛末に思わず声を荒げ、シュライグの言葉を遮る。一方のシュライグはキョトン、と何も知らぬ無知顔。

 

「なぁシュライグ、それはリズから求められたやつだぞ……それもアブノーマルな」

「何を言ってるんだルガル。オレが我慢できなくなったんだから、オレが求めたことになるだろう?」

「そうじゃない、そうじゃないんだシュライグ……!」

 

 ちげーよ馬鹿、と言いたくなる言葉をぐっと飲み込む。朴念仁であることには間違いないが、それ以上に似た何かではないかとさえ思い始めるルガル。それどころか一般的な流れではなく、強硬手段を取ったフェリジットの行為はもちろん、それに対して何の疑問も抱かないシュライグのズレた認識に頭を抱える。『教育を間違ってしまっただろうか?』と半ば親のような心境でシュライグに不安を覚える始末だ。

 

「──待て。今、倉庫って言ったか?」

「あぁ、倉庫だ。あれから毎日しているが……それがどうかしたか?」

「倉庫でヤってる馬鹿が居るとは思ったが、アレはお前らだったのか」

 

 そこでふと思い起こす。ここ最近、犬種の獣人から倉庫で発情してヤっていつまでも臭いを残す馬鹿が居ると報告があったのだ。当初は情勢が情勢なので本能に従った故の発散行動、そして備品等に破損がないからと見て見ぬフリをしようと思っていたルガルだったが、それが鉄獣戦線(トライブリゲード)のトップ二人となれば話は別だ。というか叱ることができるのが自分しかいない。

 

「シュライグ、スマンがもう倉庫ではやめてくれ」

「うん? 何でだ?」

「残った臭いがキツいと報告があった」

「そうだったのか……すまない、次からはオレの部屋でやる」

「お前の部屋は会議で使うだろうが!!」

 

 俺も狼の獣人なんだぞ! という言葉と共にバチン! と、遂に手が出るルガル。思いっきりシュライグの背を引っ叩き、本当にこの鳥頭は……! と怒りでプルプルと震えるほど。

 

「んぅっ……!」

 

 それと同時にシュライグからそっと艶めかしい声が零れる。その反応にルガルは『はぁ?』と訝しげな顔になるが──

 

(──っ、なん、だ……これは……っ!?)

 

 ──一瞬にして身体が赤熱。

 まるで謀ったかのようなタイミングでシュライグが飲んだクスリの副作用が効力を発揮。シュライグの身体から発情を促すフェロモンがドッと爆風のように溢れ出し、洞窟内という狭所の中で放たれたフェロモンは大気中に薄まることはなく、それどころか空間内を循環するように漂う。

 そこに輪をかけてルガルの存在だ。狼獣人特有の嗅覚の鋭敏さは猫獣人を凌駕しており、このような狭い空間の中で媚薬に等しい臭いが充満すればどうなるか──その結果は火を見るよりも明らか。ルガルの愚息が己の意識とは無関係に激しく昂り、今まさに自己顕示しようと勃ち上がろうとする。不本意な起立に呻きつつ、シュライグから見えないように前屈みに。

 

「どうしたルガル?」

「い、いや何でもない……!」

 

 しかしそんなルガルを心配してシュライグがより身を寄せる──否、密着した。傷の絶えない身体でありながらシミ一つない美しい白磁の肌。十分な筋肉を備えつつ、程よい柔らかさも兼ねた胸筋をルガルの肩に当てながら接する様はさながら自覚のない水商売のキャストのよう。さらに嗅ぐわせてくるのは劣情を催す濃厚な雄のフェロモン──これを一重に耐えているのはルガルの強靭な鉄の意志あってのこそ。

 

「何でもないことはないだろう。どこか痛むのか? 見せてみろ」

「ち、違う! そうじゃないから気にするな! そ、それよりもう少し離れてくれ……! 今になって濡れた臭いで鼻が辛いんだ……!」

 

 そんなルガルの鋼鉄の意志を嘲笑うようにシュライグの無自覚が襲う。ムニムニと胸筋を押し当ててくる上に、鼻先にはフェロモンを発する根源である顔と首元。歯軋りしてまで耐えようとするルガルはある意味で戦士の模範──

 

「何を言ってるんだ。離れては暖を取れないだろう」

「それはそうだが、その──っ、」

 

 ──だった。

 しかし、シュライグがさらに身を寄せてきた時に、足に硬い“モノ”が当たる感触。今、シュライグはやや身体を傾けてルガルに身を寄せた姿勢だ。覗き込むように下からルガルの顔を覗き込もうとする恰好の都合で、足もほぼ大開脚に等しいほど広げている。その中で、ルガルの視線が何気なくシュライグの足の間へと移すと──雄々しく反り勃つシュライグのモノが。

 

 瞬間、プツンとルガルの中で何かが切れる。

 

「ぐぅううぅ……っ!」

「……ルガル?」

 

 突然唸り始めたルガルに不安げな表情を浮かべるシュライグだったが、ふと視線をズラすとその眼が大きく見開く。

 ルガルの『凶悪な牙』は雄々しく反り立っており、いつも挿入(いれ)られるフェリジットの長銃砲身(ライフルバレル)に長さは劣るものの、その太さは一回り以上はある。獲物を食らわんと肉食獣の如き威圧感を放つ『牙』を見て、思わずシュライグは後ずさるも──背後は壁。

 威嚇するように唸り声をあげるルガルは明らかに正常な状態ではない。ならば自分が抑えなければ──と、正常な状態であれば思ったであろう。しかし、いつも決まった時間にいつも決まったことをしていたシュライグの身体がそれを許さない。奇しくもこの時間はいつもフェリジットとの情事の時間──シュライグの中に存在し得ない雌の本能が、ヘソ下を熱くする。

 

「ルガ──」

 

 瞬間、シュライグの背中に鈍痛。一瞬でルガルはシュライグを押し倒し、獰猛な歯列の隙間から涎がシュライグの顔に滴り落ちる。

 

「まっ、やめ……っ! んぅっ……っ!」

 

 地面に背中の羽根が当たり窮屈な姿勢となってしまったシュライグは起き上がろうとルガルの胸を押すも、元より筋力はルガルの方が圧倒的に上。ビクともしない上に、顔についた涎を掬うようにルガルの幅広く長い舌がシュライグを弄ぶ。頬を下から上へと舐め取っていたかと思えば、口から鼻、眉間と眉など、顔を部分的に舐め回していく。

 

 舐め遊ぶことに満足したのか、ルガルの鼻先はシュライグの首元へ。スンスンと臭いを嗅ぐ姿は犬そのものだが、首元にかかる鼻息と口周りの体毛がシュライグを刺激。続けて首元や鎖骨、脇の下など特に強い匂いを発しているところを、皿に残ったソースを舐め取るように下品に舌を這わせられる。

 

 ピチャピチャ、というフェリジットのような軽やかな水音とは異なる、ビチャビチャと本能のままに舐め上げるルガルの姿は理性のない獣(けだもの)そのもの。狭い洞窟内に反響する淫らな音にシュライグはもちろん、ルガルの昂りもより一層強くする。ベロベロと品のなく、それでいて激しい舌使いにシュライグの体は小さく跳ねてしまう。

 

「る、ルガ──っ、痛ぅ……!」

 

 跳ねた弾みかルガルの歯牙がシュライグの鎖骨に当たる。鋭利な牙が軽く刺さっただけではあるものの、シュライグの身体にフェリジットとは別の痕が残る形に。

 狂暴な獣に堕ちながらも、ルガルはそのことに気付くや否や、今度は大口を開けてシュライグの肩を食む。本気を出してしまえば食い破ってしまうため、慎重に慎重に──ゆっくりと力を加えていき、シュライグの左肩へ大きな歯形を。

 これでフェリジットだけのものではない──今は自分のものだ、と所有痕を残したことに征服感を覚える。

 

「んっ、うぅっ……!」

 

 そこで一旦満足したルガルの歯牙と大きな舌は徐々に下へ。胸や脇腹、フェリジットが桜吹雪のように付けた痕を上書きするように無数の歯形を残していく。薄っすらと血が滲み、本来であれば痛覚の方が勝るハズだが──

 

「あっ、はぁ──んぅ……」

 

 ──今は快楽に軍配。シュライグは拒否するどころか、ルガルが次にどこを食むのかと期待した眼差し。それに応えるようにルガルは全身余すことなく──それこそ、ヘソの上。臀部、腿、脹脛(ふくらはぎ)などシュライグの身体全てが自分のモノだとマーキングしていく。

 

「ほら、乗れ」

「あっ……」

 

 マーキングに満足したルガルは胡坐の姿勢になると、その上にシュライグを座らせる。背面座位の恰好になり、ルガルの毛むくじゃらの手が背後からシュライグの身体へ。左手で胸筋を優しくフェザータッチしつつ、右手はグリップを握るようにシュライグの愚息を。

 

「んっ、あっ、んあっ!」

 

 そして背後からシュライグの翼の根元に舌を這わせた。今まで他人はおろか、フェリジットすら触れたことのない場所をルガルは躊躇なく攻める。これまで触れられたことのない場所を執拗に攻められ、シュライグは小刻みに震えるのみ。

 

「ぁ、そ、こはぁっ……!」

「ここも辛いだろう?」

 

 続けてルガルの意識は右手──シュライグの握るモノに集中。既に膨張しているそれはルガルの大きな手で竿全体を握られており、上下に激しく擦られる度に体毛の部分が裏側にチクチクと刺激。これも本来であれば痛みなりくすぐったさを覚えるハズだが、今のシュライグは全身の感覚全てが性的快楽へと変換されている。

 フェリジットの白魚のような指先も極楽のそれだったが、ルガルの荒々しく岩のような手もまた違った良さ。部分的な快楽か、全体的なそれかの違いだが、シュライグの愚息は見境なくどちらも受け入れる。

 

「──そら、これはどうだ?」

「ぉごぉっ!?」

 

 瞬間、愚息への意識が一瞬で左胸の頂に。今までさわさわと優しく柔らかく触っていたのから一転、指の先で胸の頂を摘ままれる。翼の根元や愚息に匹敵するほどの激しい悦楽にシュライグは悲鳴のような嬌声。

 

「あ、がっ──る、るが、もう……!」

「何だもう出るのか。せっかちな奴だ」

 

 執拗な三点攻め──しかも一際激しい刺激を与えられてはシュライグのモノが耐えられるハズがない。肥大化した精巣をビタンビタンと揺らしつつ、涙で濡れた顔をルガルに向けながら懇願。ルガルもそんなシュライグの顔を見て、ニヤリと牙を覗かせる。

 ぎゅっとモノを握る右手の握力が強くなり、左手の指先は親指と人差し指でぎりっと抓られ、背から翼の根元に顔を埋められて舌で蹂躙。三点全てに波のような刺激が襲い──

 

「あっ! あっ! ──んぁあああぁぁっ!!」

 

 ──シュライグの熱が放たれる。欲は洪水のように激しく解き放たれ、白く濁った河川を作らんと暴れ狂う。途中、ルガルがその先端に掌をかざしてシュライグの迸る熱を受け止め、その手を淫らに汚す。

 一分ほど経ち、シュライグの解放が治まる。ハァハァと肩で息をし、愚息は一度解き放ったお陰か、萎びた野菜のようにだらんと力なく垂れた状態。

 そして、ルガルの掌には溢れんばかりのシュライグの欲望が乗せられている。それを鼻先までもってきて濃厚な雄の匂いを堪能すると──

 

「んぎっ!? る、ルガル……!?」

「お前が満足しても、俺が満足してないからな」

 

 ──それを何の躊躇もなくシュライグの秘穴に押し込む。放たれた直後の熱い白濁液を秘穴はおろか、その引き締まった尻全体に塗りたぐっていくルガル。シュライグは絶頂に達したばかりであり、未だに身体は敏感。ルガルに少し秘穴を触られただけで愚息が忘れ物、とばかりにぴゅっぴゅと白濁液を放つほど。

 

「ま、待ってルガル……! い、今、はぁっ!?」

「んぅっ!」

 

 そして、容赦なくルガルは自身の『凶悪な牙』をシュライグの中へ突き立てる。フェリジットの長銃砲身(ライフルバレル)を凌ぐルガルの『牙』はミチミチとシュライグの秘穴を侵略し、挿入(いれ)られた瞬間にもまた半勃ち状態のシュライグの愚息から白い涙が溢れ出す。

 

「ま、はげ、うぅっ……!」

 

 フェリジットとはまた違った強引さにシュライグの目尻から涙が零れる。それを見てルガルは申し訳なさそうに目を伏せる──ような考えはない。むしろ普段は瀟洒に振舞っているシュライグの別の一面に胸と『牙』が熱くなるほどだ。

 シュライグのくびれのある腰を両手でガッシリと掴み、上下に激しく揺さぶる。引き締まった尻がヘソ下に当たり、パンパンと肉と肉が激しくぶつかる音が洞窟内に反響。シュライグの囀(さえず)り、ぐちょぐちょと鳴る水音、肉を叩く音が淫靡の交響曲を奏でる。

 

「あっ、るが、る……!」

 

 快楽で意識が飛びそうになりつつ、シュライグは首から上だけを反転させてルガルに向く。後ろ手でルガルの首元へ手を回しなけなしの力で引っ張ると、ルガルもそれに応えるようにやや前傾へ。

 

「んっ、うぅ、ぢゅぅ」

 

 ルガルの鼻先が届く範囲に来た途端、シュライグは口を開いてその鼻先を啄(ついば)む。何度も何度も愛おしそうに──無意識の内に好むようになったバードキッス。それをヒクヒクと興奮で震えているルガルの鼻先へ幾度も幾度も重ねていく様は雛鳥の如く。

 

「──っ、ったく……!」

「あっ──んぐぅっ!?」

 

 そんなシュライグの可愛らしい面を見て我慢できるハズがない。ルガルはシュライグの両太腿をその巨腕で抱え上げて立ち上がる。正面から見るとM字開脚で支えられた姿勢──所謂、背面駅弁のポーズ。その状態のままルガルはシュライグの首元、翼の根元に鼻先を押し付けて匂いを堪能。そして暴発しないようにと両手に力が入り、シュライグの両腿に爪が食い込み、幾重にも赤い点が滲む。

 

 焚火の僅かな灯りに照らされ、百舌鳥と狼の汗が飛沫をあげる。ほんの数刻前までは冷えていた身体は赤熱した鉄のように熱く暑い。

 今まで味わったことのない力強い激しいピストンにより、先ほどまで垂れていたシュライグの愚息もいつの間にか雄々しく起立。

 

 自身の白濁液を注入されたシュライグの秘穴はジュポジュポと淫猥な水音を立て続け、その間隔が次第に短くなっていく。ルガルが抱える腿にもより一層の力が入り、パンパンと肉を叩く音も段々と大きく──限界が近づいてきた証だ。

 息を切らしながらルガルはシュライグの鎖骨辺りを食み、ぎゅっと彼の身体を強く抱きしめ──

 

「はぁ、はぁ──シュライグ、出すぞ……!」

「あっ、んぅ、るが、ルガルぅっ!!」

「くっ──おぉっ……!!」

 

 ──その劣情を中へ放つ。ドクドクと心臓の鼓動と協奏するように、ルガルの熱がシュライグの中を侵食。今までに感じ得たことのない快楽にシュライグの意識は一瞬飛び、同時に自分も快楽の頂きへ。

 肥大化した精巣に貯蔵された白濁液はルガルに擦られシゴかれた時以上の熱を放ち、放物線を描いてシュライグ自身へ降り注ぐ。

 その端正な顔も。逞しい胸筋も。六つに割れた腹筋も──全てが、白く濁った体液で彩られる。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 絶頂により足がピンと伸びたままのシュライグを、繋がったままゆっくりと地面へ降ろすルガル。ピクピクと痙攣しているシュライグを一瞥しつつ、ゆっくりと自分の『牙』を引き抜いた途端、ドロリと白い熱が樹液のように垂れていく。

 だらりと秘穴から地面と垂れ流れていく白い河川を一見すると、自ずとその光景で再び身体と『牙』に熱が籠る。

 無言のまま息も絶え絶えなシュライグに秘穴にルガルは『牙』をそっと突き立て──

 

「おごぉっ!?」

 

 ──間髪入れずに奥まで突き挿す。

 うつ伏せの体勢のまま貫かれたシュライグは下品な声で啼くも、その声はルガルの興奮を高める材料でしかない。

 

「まっ、まっれ、りゅがりゅ……も、もう──」

「何言ってんだ。身体を暖めるにはもっと中に入れた方が良いだろ?」

 

 既に限界を迎えたシュライグの懇願は虚しく、悪魔のような笑みを浮かべるルガルは一蹴。

 ジュプジュプと水と空気が混じった音が洞窟内に響き渡る。

 その卑猥な音は、百舌鳥の囀り啼く声と共に夜が明けても途切れることはなかった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──翌日。鉄獣戦線(トライブリゲード)の隠れ家にて。

 

「シュライグ!! ルガル!!」

 

 何とか追手を撒いた鉄獣戦線(トライブリゲード)のトップ二人は無事に帰還。二人の帰りを今か今かと待ちわびていた団員達は諸手を挙げて歓喜した。

 真っ先に迎え入れたフェリジットは薄っすらを目尻に涙を浮かべたまま、両手を目いっぱいに広げて二人を力強く抱擁。一目も憚らず、二人の上着を涙で濡らしていく。

 

「すまないリズ、帰って来るのが遅れた」

「馬鹿よアンタ達、ホント馬鹿!! アタシ達がどれだけ心配したと思ってんのよ!」

「すまんすまん。だが今回ばかりは俺達にも非はあるからな……迷惑をかけた」

 

 うぅ、と泣き喚くフェリジットを二人は泣きじゃくる幼子をあやすように頭をポンポンと撫でる。泣き顔をあまり余人に見せたくないと、フェリジットはシュライグの上着を“強く”引っ張ってその涙を拭おうとし──

 

「……は?」

 

 ──その涙が止まる。

 引っ張ったシュライグの服から素肌が露出し、そこにあるのはフェリジットが付けた赤い花弁──と、大きな歯形。

 瞬間、フェリジットは他の団員に見られないようにガバっとシュライグの服を広げると、その目に映るのは自分が付けた赤い桜吹雪と無数の歯形。

 わなわなと震える手でシュライグの服を掴みながら、フェリジットはキッと二人を睨む。

 

「アンタ達──何してたの?」

「何ってそりゃ──ナニだが」

「うん? あの行為は『ナニ』と言うのか?」

 

 怒りで瞳孔が開く山猫。

 呆気らかんと微笑む狼。

 無知で首傾げの百舌鳥。

 

「まぁ急に盛(サカ)ることは俺達獣人の生理現象だ、許せリズ」

「る、ルガルっ……! アンタねぇ……!」

「倉庫のことは黙っていてやるから、おあいこだ」

「なっ──」

 

 カァー、っとフェリジットの顔が赤くなる。本当なら問い詰めてビンタの一発や二発を食らわせてやろうと思った矢先、先手を打たれては何もすることはできない。

 ガハハハハ、と何事もなかったかのように大笑いしながらフラクトールらの方へ向かうルガルを見て、怒りで拳を震えさせ──

 

「どうしたリズ? どこか具合が悪いのか?」

「──っ、アンタの所為でしょうがぁっ!!」

 

 ──シュライグの左頬に、真っ赤な紅葉を描くのであった。

 

 





次回はシュライグが堕ちます(3回目)
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