メッツァー様がチート級能力を得て魔法戦士ヒロインたちを手籠めにして無理やりハーレム化する話~RPG式セクハラバトルZERO シナリオパート~ 作:ろむ1000/為五郎
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・ゲームの試作版 01-09話までが収録されてます。ゲーム内での話数とは別ですのでご注意ください。試作版とは、前作をひな形にイラストとテキストだけを入れ替えたものです。
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ココノを失ったあとのメッツァーは、ココノとの約束────王となり今よりも良い国を作る────を果たすため、そしてそれ以上に重要な、ある目的のため力を欲した。
そのためにクローンへの人格転写技術、その完成に心血を注いだ。
そうして完成直前までこぎつけた術式であったが、最後に一つの難題が残ってしまった。
それが「最初の一人に転写する際の、メッツァー自身の魔力不足」であった。
二人目からはオリジナル+クローン第一号の二人がかりで行えるので問題ない予定だが、最初の一人だけはオリジナル一人だけで術式を制御しなければならない。
その術式を制御するために必要な魔力が、オリジナル一人分では非常に危ういのだ。
自身の精神を肉体から分離し、クローンのまっさらな精神の奥底に侵入、精神操作魔法で人格を焼き付ける。その作業のための魔力に、あまりに余裕がない。
普通の精神操作ではありえないような奥底まで侵入する必要があるため、施術が完了し自身の精神地図と一致するようになるまではクローンの精神から離脱できない。
そして、精神だけの状態で魔力が尽きれば精神体は崩壊。肉体は精神を失い廃人となってしまう。
備蓄したマナなどでは代用できない。メッツァー個人の才覚に完全に依存した、非常に繊細な術式。
ほかに方法は見つからず、初めの一度だけは危険が避けられない。
というより、メッツァー自身の見立てでは成功率は精々3割。失敗する確率のほうが高い。
安全な手法がほかに存在しないかの検証を一通り済ませ、結論として「年単位の更なる研究」が最低限必要とわかると、メッツァーは迷わず賭けに出ることを決めた。
────本音をいえば、もう死にたかったのだ。
たとえ全てがうまくいったところで、別にそれでココノが戻ってくるわけではない。
単にココノの死を無駄にしないため。
死ぬような状況に追い込まれる原因となった、あの馬鹿げた約束を実現する義務が、メッツァーにはあった。
────そう、本当に馬鹿げている。
たかだが十代の若造が、名君と名高きクイーングロリアにもできなかったことを、なぜできると考えてしまったのか。
救われぬ者を救う国、家なき子のいない国────数千年続いているという聖なる王家トランシルヴェールですら成しえなかった偉業。
なぜ不可能ではないと、完全にはいかなくともある程度は成果を上げてみせるなどと、思いあがることができたのか。
卑賎なるこの身で。
教養もない、上流階級における社交のいろはもわからぬ。地位を得てから多少は学んだが、所詮は付け焼刃。
できることといえば、路地裏で他人を出し抜き生き延びること、戦場で他人を出し抜き生き延びること────それだけだ。
そのような者に実際の政治を動かせるはずもないというのに。
いや、理由はわかっている。わかりきっている。
ようするに、真面目に考えたことがなかったのだ。
上流階級には上流階級の事情があり、出来ることと出来ないがある────そんな当たり前のことすら思いいたらないほどに他人事だったのだ。
本心から願い、夢見て、そのために人生を賭けるつもりであるならばいいだろう。
自分はそうではなかった。
虐げられる自分に、理不尽な社会に不満を募らせ、「自分が王様ならこんな国にはしないのに」────そんなありふれた妄想を、頭の中で弄んでいただけだった。
そうして惨めな自分を一通り慰めたあとは、すっぱりと気分を切り替える。
そんな1ゴールドの得にもならない妄想のことは、きれいに忘れる。
路地裏では食料の確保、ゼーロウではノルマの達成、そういった目の前の課題に集中する────そういう人間だった。
それそのものは間違っていない。
社会制度の変更など、人生の全てを賭けても実現できるかどうか怪しい一大事業だ。
そんなあやふやなものに労力を費やすくらいなら、同じ労力を自分個人のためだけに使ったほうが、確実に幸福に近づける。
そんなふうに考える、ありふれた普通の人間だったはずなのだ、自分は。
だというのに、夢を見てしまった。
いや、正確には夢を見ているかのように装ってしまった。
愛した女の前で格好をつけるために。
「俺はこんな身分で終わる男じゃない」────そうぶち上げるために、彼女好みに味付けした、甘い理想を語ったのだ。
しかし、言い訳くらいはさせてほしい。自分だってそんな無責任な発言、したくてしたわけではないのだ。
彼女が────ココノが、あんなことを言わなければ。
自分の求婚を断らなければ。
「性奴隷と結婚などしては、メッツァー様の立場が悪くなる」
返す言葉がなかった。
「ココノを味見させろ」────上層部が暗に要求してきた性奉仕を全て無視した結果、自分の立場は悪くなっていた。ココノを寝返らせた功績で昇進したばかりだというのに。
もともと孤児出身で、貴族で固められているゼーロウ幹部の中ではコネというほどのコネもない。
一応は養父であるリヒャルト・ヨハン・ハインケルと同じ派閥ということにはなる。
しかし魔法の才能を見出され現場仕事のために拾われたわけで、情勢が悪化すれば切り捨てられる程度のコネだという自覚はあった。
しかし自分とてそのくらいはわかっていた。
わかったうえで求婚したのだ。
自分のために全てを────家族、仲間、主君、国、理想、正義────そういった全てを捨てた彼女に報いるために、そうしたかったのだ。
しかし彼女は頑なだった。
そして、「性奴隷と調教した男がすぐに結婚などしては、本当に調教はあったのか、ひいては内通すら疑われかねない」────そう言われてまだ粘れるほど、自分は強くなかった。
それでも指輪だけはなんとか押し付けた。はめてはくれなかったが、チェーンを通しネックレスのようにして身に着けてくれたのは、決して嫌がってはいないからだと信じたい。
ココノに全てを捨てさせたというのに、責任も取れない自分。
それがあまりに惨めで、情けなくて────つい、嘘をついてしまったのだ。
「自分のような浮浪児がいない国を作るのが夢なんだ。クイーングロリアにもできなかったことを、実現してみせる!」────そんな、調子のいい嘘を。
優しい彼女が好きそうな甘い理想を語ることで、信じさせてあげたかったのだ。
彼女が自分を選んだことは、決して間違いではなかったと。
メッツァー・ハインケルはココノ・アクアという魔法戦士が忠誠を捧げるに足る主君であると。
はたして、期待どおり彼女は心からの笑顔を見せてくれた。
それは出会ってからの困難が続く日々で見た中で、最高の笑顔だった。
────それが間違いの始まりだった。
今ならば言える。
自分はこのとき、ゼーロウに義理立てなどせず彼女を連れて逃げるべきだったのだ。
かつて彼女にすすめられたとおりに女神近衛団に投降し、クイーンの慈悲に縋るべきだったのだ。
いや、この時点ではまだ近衛団への猜疑心が強く、仕方がなかったともいえるが。
しかしこのあと近衛団第一騎士団長フェリセスを捕え、抱いたことで、「少なくとも聖涙石に選ばれた魔法戦士は信用できる。ココノだけがとびぬけてお人好しなわけではない」────そう考えを改め始めたのだ。
だというのにその決断ができなかったのは。
あのときの彼女の笑顔が、あまりに嬉しそうだったから。
この夢が叶えば、自分にも彼女をこんなふうに笑顔にできるのだと、そう夢を見てしまったのだ。
なぜ、そんな的外れな夢を見てしまったのか。
なぜ、素直に「おまえさえいればそれでいい、ほかに何もいらない」────そう言えなかったのか。
この決断の遅れは、すぐに致命的な結果となって現れた。
ココノが、捕えていたフェリセスを殺そうとしたのだ。
すんでのところで止めることはできたが。
「こんな辱めで魔法戦士の心を折ることはできません。中途半端なことをすれば、後々メッツァー様の仇となりましょう」
────そう、甘い甘いと笑ってきた彼女のほうが、自分などよりずっと覚悟を決めていたのだ。ゼーロウで生きていく覚悟を。
自分にはできなかった。
彼女のかつての仲間を殺めることが。
彼女に手を汚させたくなかったのだ。
だから性魔術を用いた調教で寝返らせるなどという、ココノのときに用いた与太話をそのまま続けたのだ。
この頃は、成功しないかと密かに期待していた部分もないではない。
しかし今なら言える。こんな心構えの甘い調教では、絶対に魔法戦士の心が折れることはない。
それこそ廃人にする覚悟で、人格を根こそぎ塗り替えるようなレベルの拷問的調教ならば、不可能ではないのかもしれないが。
上層部には快楽調教で奪ったマナを手土産に、「魔法戦士を篭絡する汎用化可能な手法を研究中」とでも言っておけばしばらくは大丈夫だろう。その間にフェリセスの心が折れることもありえるのではないか────
そんな、現実から目を逸らした愚策で問題を先送りしようとしていた自分と、彼女は違った。
捕虜としてのフェリセスを管理していたのはココノだったので、止めることができたのは幸運でしかない。────いや、結果的には不運だったか。
ココノの様子がおかしかったので跡をつけたところ、ナイフでフェリセスを殺害しようとした現場に出くわしたわけだ。
ココノは震えていた。
当然だ。魔法戦士の剣は罪なき人を守るためにあるのだ。
決して無力な捕虜を、それも独断で殺害するためのものではない。
まして相手が敬愛していた第一騎士団長であればなおさらだ。
当然のことながら好きでやっているわけではない、必要だから手を汚す覚悟を固めたのだ。
どうしようもなく甘い、お人好しの理想主義者だと思っていた魔法戦士ココノ・アクアが。
メッツァー・ハインケルとかいう、どこの馬の骨とも知れないくだらぬ男の未来を守るためには、避けて通れぬと覚悟を固めたのだ。
だというのに、この期に及んでも自分は甘く、どっち付かずの判断しかできなかった。
鬼気迫る顔に涙を浮かべてナイフを構える彼女を抱きしめ、必死に叫んだ。
「頼むから、これ以上俺のために大切なものを捨てないでくれ」
────なんて偽善。
何も報いてやれないのに、自分の大切にしてきたものを切り捨て続ける彼女を、見ていられなかったのだ。
結局は自分のため。男のプライドが許さなかっただけだ。
ココノも、やはり散々に迷った末の決断だったのだろう。
ここまでされて貫き通すことは難しかったようで、やがて腕の中でゆっくりと力が抜け、ナイフが床に落ちる甲高い音が響いた。
力なく涙を流す、諦観に沈んだ瞳。
────今にして思う。
もしかしてココノはこのとき────自分たちの結末まで、見えていたのかもしれない。
◇◇◇
自分の判断が誤りであったことは、すぐに思い知らされることとなった。
フェリセスが脱走してしまったのだ。
聖涙石の加護が発動し、捕縛結界を破られたことで転移魔法の使用を止められなかった。
この頃は聖涙石の加護について、ゼーロウ側では一切信じられていなかった。
いや、それどころか魔法戦士当人たちですら「信じればご利益がきっとある」くらいの扱いだったのだ。
女性としての尊厳を守る加護が実在することを証明してしまったのは、皮肉にも自身の一連の行動だ。
だがココノは少し違った。
ほかでもない、自分に辱めを受けたからだ。
監禁調教されている間にも、聖涙石に暖かな力が少しずつ溜まっているように感じたという。
もっとも、弱った心が感じさせる幻覚かも、と思えてしまう程度のものだったとのこと。
それでも、伝え聞く聖涙石の加護かもしれないと思えば、調教に耐える一助にはなっていたという。
ココノのときは結局無意味になったわけだが、フェリセスの監禁調教が長期に及べば何か悪いことが起きるかもしれないと諫言はしてくれていたのだ。
だがこの頃の自分は、聖涙石もあくまでただのマジックアイテムの一つでしかないと高を括っていた。
魔力の増幅に関して破格の能力を持っているのは間違いないが、伝説にある奇跡としか呼べないような力は近衛団のプロパガンダだろうと。
その結果がこれだ。
これでココノが本心から近衛団を裏切っていることが、向こうにも伝わってしまった。
ココノに仲介してもらって投降するという選択肢が、これで潰えたことになる。
全ては、自分の中途半端な態度が招いた窮状。
ゼーロウへの義理。
たしかに、路地裏から這い上がる機会をくれたのはゼーロウだ。
しかしそれはあくまで手駒としての価値があったからだ。手駒以上のものにはなれない。
ゼーロウには近衛団に対抗するため実力主義的な面があるのはたしかだ。しかしキュストリン騎兵団を前身としているため、本当の中核メンバーは高位貴族で独占されており、微動だにしていない。
そんな組織への義理立てなどただの感傷だ。取り立ててくれた養父には悪いが、愛する女と比べられるものではない。
実際、このあと切り捨てられている。
魔法戦士への甘さ。
「近衛団はただの偽善者集団、信用できない」────そう言って、涙ながらに投降を訴えたココノを退けておきながら。
だからこそココノは自分と運命を共にするため、ゼーロウを選択してくれたというのに。
ココノに罪を犯させたくない────そんな独りよがりなこだわりを最後まで捨てられず、魔法戦士への対処に甘さが残ってしまった。
あるいは────この頃からすでに自分は、ほかの魔法戦士にもココノを重ねて見ていたのかもしれない。
こうして自分はフェリセスの管理責任を問われ左遷されることとなった。
捕えたのも自分なのだから差し引きゼロ、とならないのは少々理不尽を感じるが、そういうものといわれれば仕方がない。
出向先は地上世界。魔法中心社会のゼーロウにとっては僻地である。
ただ本部での内部政治的には左遷だが、地上世界は新たなマナの供給地として重要視もされていた。養父あたりがまだ自分に期待していた向きもあったのだろう。
当面の敵はスイートナイツ。女神近衛団が現地人の中から選出した新たな魔法戦士たち。13番目の騎士団。
そこで自分は、今度こそ自分たちの窮状を正確に認識し、着実に地歩を固めなければならなかった。
もう失敗は許されない。手段など選んでいる場合ではない。
────だというのに、自分は。
またしても中途半端な策に逃げ、決定的な決断を下すことを先送りにした。
もちろん全ては結果論であり、後からだからいえるという面もある。
上層部は魔法戦士の調教篭絡を望んでいた。それは確かだ。
聖涙石の加護への対策もある程度は考案していた。
一度ではなく何度も敗北させることで勝てないことを理解させる。誇り高い彼女らの心を折るため公衆の面前で辱める。内部で暴れられるのを防ぐため、ある程度調教の効果が見えるまで監禁はしない────などだ。迂遠なことではあるが。
それによって、今度こそうまくいくかもしれない────そんな甘い期待を抱いたとしても、無理からぬ部分もなくはないのかもしれない。
────いや、取り繕っても仕方がないか。
自分が甘い判断に終始してしまった原因────そんなものは、もうわかりきっている。
戦いを有利に展開するための情報収集として、自ら学生に扮し彼女らに接触した。
彼女らの学友として、ごく近い距離で過ごした日々。
スイートリップではなく、七瀬凛々子。
スイートキッスではなく、柚木香那葉。
そしてのちに、プリンセスティアではなく、ティアナ。
彼女らとのあの日々が、判断を鈍らせたのだろう。
その結果がこれだ。
全てを失い、遠い異国の地で、人目を避けて潜伏する日々。
サキュバスが用意してくれたセーフハウスはそれなりに快適だったが、むしろそれが意識を自身の罪へと集中させた。
贖いを求め、そのための力を求め、研究に没頭する日々。
集中が途切れると、ふとした瞬間に思い出す。
全てがうまくいったとしても、ココノが生き返るわけではないと。
その現実から目を逸らすため、必死に集中しようとする。
ココノのクローンを作ってみようか────そう考えたこともあった。
だが熟慮の結果、やめておいた。
自分が会いたいのは────幸せにしたかったのは、自分が全てを奪ってしまった、あのココノだ。
姿だけ似せたクローンを侍らせ、それで無聊を慰め己の罪を忘れるなど、自分には無理だった。
そうして続く贖罪のための日々は、徐々に自身の精神を疲弊させていったようで。
研究の成果を結実させるための最後の難関が立ちふさがったとき────すでに自分には、着実な回り道を選択する気力は失われていた。
これで死んだら仕方がない。自殺ではなく二人の夢のためなら、ココノへの言い訳も立つのではないか────そんなことすら考えた。
「────アンタ、死ぬわよ」
実験の内容を知ったサキュバスが言う。
どうでもよさそうな、かつ不機嫌そうな、そんな声音。
成功の目もあるだろう────そう言い訳するのだが、
「失敗の確率のほうがずっと高いじゃない。こんなことやろうとしておいて自殺願望がないとは言わせないわよ。なに? ココノちゃんの犠牲を無駄にする気?」
────二人の夢のためだ、ココノもわかってくれる。
「そんなわけないでしょうが。きれいさっぱり忘れて────とまでは思ってないかもしれないけど、楽しく生きるのが第一目的でいいに決まってるじゃない。ほかに押し付けたい目的があって、だから庇ったなんていうなら、そんなもの愛でもなんでもないわよ?」
────愛ではない、か…………
「……なによ、ひっかかるのそこなわけ?」
────ココノは、本当に俺を愛していたのか?
「…………はぁ……?」
────愛してくれていたなら、なぜ俺を残して死んだ? こんな状態で生かされても苦しいだけだ。今回にかぎったことじゃない、あいつはいつも、俺のためと言って勝手に大事なものを切り捨てていく。こちらの気持ちも知らずに…………
「………………………………」
────本当は、愛ではないのではないか? 魔法戦士お得意の「慈愛」というヤツで、俺を憐れんでいただけなのではないか……?
「…………はぁ…………こりゃ重症だわ…………死にたがってるくらいだから当たり前だけど」
────おまえに俺の何がわかる。化け物でしかないおまえに。「人が自分の業で自滅するのを眺めるのが趣味」────そう言っていたではないか。なら今回も傍から眺めていればいい。いまさら母性に目覚めたとかいう柄でもあるまい。
「…………そうね、まったくその通りだわ。でもね、それをいうならアンタだって半分は化け物なのよ。アンタも開き直って化け物になれば、そんな七面倒くさい悩みとも無縁になれるんじゃない?」
────なれるのならそうかもしれん。だがそんな気になれんということは向いてないのだろうよ。片親が魔族だからといって体の半分が魔族などという、単純なものでもあるまい。
…………これまで世話になったな。おまえが何を考えて俺に味方したのかはわからぬが、多大な恩を受けたのは間違いない。返せるものも特にないが、残したものは好きに処分してくれ。幾らかの足しにはなろう。
「やっぱり死ぬ気なんじゃない。母を遺して先に死のうだなんて、薄情な息子だこと。…………そうね、悪いと思ってるんなら、『お母さん、大好き♡』って言ってみて。感情を込めてね?」
────「お母さん大好き」…………これでいいか?
「感情を込めてって言ったでしょうがっ」
────だから「呆れ」という感情を込めて言ったが。
「…………やれやれ、まあいいわ。そんな感情でもないよりはマシだしね」
────…………?
サキュバスはそれ以上何も言わなかった。自分も特に語ることはなかった。
母親とはいえ、人の心を弄ぶことを娯楽とする化け物。それと心が通じ合うなどという甘い幻想は持っていなかった。
信用はしても信頼はしない。義理は忘れず何かの折には無理のない範囲で返す。裏切られたらそこまで。
そういう関係のつもりだった。