「……きてよぉ……もう! そろそろ起きてくださいよ、オーナー……!」
水中で聞いたのかと思うほどに歪んでいた音にココロを揺られて、ゆっくりと目を覚ます。まるで、呑みすぎた夜の楽しさから醒めた後のような気分の悪さが全身に残っていた。
すりガラスを噛んだような視界をずらし、重たくてズキズキと痛む頭をさすりながら起き上がると――。
「あ、やっと起きたぁ……! オーナー、大丈夫ですかぁ?」
――そこには、眩しいばかりの肌色の絶佳が広がっていた。
一言で表すなら『ムッチリ』。文字数無制限で書くなら――それこそ、原稿用紙が何枚あっても足りないほどに魅力的な丘陵だ。
トップスの黒色に映えるのは、健康的に艶めく丸っこい肌色。見るだけでも重量が伝わるほどに美味しく実った二つの果実は、黒い生地をパンパンに張り詰めさせており、強調されているデコルテのラインから――ぼよん!と飛び出るような、夢が詰まった双丘の谷間が惜しげもなく晒されていた。
呼吸音とともに揺れる、あまりにも『たぷんっ♡』としすぎな膨らみ具合に驚き、視線を上向けると……そこでは、いつも画面越しに見ていた女の子の顔がこちらに向けられていた。
「……こんばんみぉーん、なんて。出勤したときにも挨拶したはずだけど……そのポケポケの反応、覚えてなさそうだな……?」
――大神ミオ。黒髪になじむ狼耳と脚に巻き付けたふさふさの尻尾が特徴的な、超人気アイドル系ストリーマー……のはずだが……どうして、そんな彼女が自分の顔を覗き込んでいるのだろうか。
しかも彼女はいつもの衣装ではなく、カジノのディーラーやバーテンダーが着ているようなフォーマルでエレガントな雰囲気――なのに、肌の露出が多い衣装に身を包んでいる。
上半身は、デコルテからなだらかに膨らむ乳肉を魅せるためのスーパークロップドな半袖のトップスに、乳房を窮屈そうに押し込めて節度を保つチューブトップが組み合わさっている。白襟に黒色の生地が映えており、首元のサスペンダーがチューブトップの内側で重たい双丘をくびるように持ち上げているようだ。
下半身は、後ろからお尻が見えそうなほどに短すぎるミニスカートがひらりと舞っている。腸骨に艶っぽい紐が引っ掛かっており、スカートの中まで続いている……もしかしなくても、アレはパンツの紐なのだろうか。下着を丸出しにしているようなものではないか!
「……ふく? いや、この制服は〝あなた〟が作ったものだし……着てるの、うちだけじゃないんだが……?」
…………『自分が作った』? 『ミオだけではない』? 理解できないワードがポロポロと飛んできて、霞がかかった頭を痛烈に悩ませる。
そもそも、〝これ〟はなんだ……夢なのか……? ライブを実地で見たときの〝越えられない壁〟を感じる状態ではなく、もはや〝現実そのもの〟としてミオと対面している現状こそが最も意味不明だ。
グラの継ぎ目などは見えない――というか、まったく存在せずに髪の一本一本までもが美しく映えている。ふわりと漂う少し甘めの香りも、加工なんかせずとも写真集が出せそうなきめ細かい艶肌も――ここにある全てが、現実としか思えない。
技術の発展が目覚ましい昨今のバーチャル事情だとしても、少なくともあと50年はこんな体験を創出することはできないだろう――まるでタイムスリップをしたか、夢の世界に入り込んだような浮遊感に包まれていた。
頭に?マークを大量に浮かべている自分を不思議に思ったのか、ミオは脚に巻き付けていた尻尾をこすりと触ってから辺りを見回す。
「ふむふむ……? あー、事務所の電灯を替えようとして、椅子からコロリと落ちちゃったのかな? オーナー、意外とポンなところがありますもんねぇ」
ミオは「気をつけなきゃダメですよ?」とたんこぶらしき違和感がある部分を触って、よしよしと撫でながら、治療が必要ないことを確認してくれた。
いかに優しいミオと言えども、この距離感はさすがにおかしい。ミオと自分を結ぶものは、〝アイドル〟と〝ファン〟のものではなく――もっと特別な――深い繋がりのような気がする。
ミオに説明を求めると、彼女はキョトンとした顔でこちらを見やり……ピン!とあることを閃いた。
「……もしかして……これは記憶喪失ってヤツでは? あなた……この『お店』のオーナーとして、これからムフフなお仕事をしなければいけないことを……忘れてしまっているのではーっ!?」
ややオーバーな……しかし何故だか最高にミオっぽいリアクションをとった彼女は、「うーん……」と悩ましげに腕を組む。むにゅっぷるん……♡と露出した乳果から色香を噴出させながら、むっつりと眉を困らせた。
「むむむ~……! これはねぇ、ちょっとだけ困りましたなぁ……そうだ! 『お店』の様子を見たら思い出すかな?」
ミオはこちらの戸惑う手を引いて、現在地――『オーナールーム』と書かれていた部屋と繋がる廊下を通り、大きな扉を抜けると――まばゆい夢想の光が広がり、視界を覆い尽くした。
「ここが、オーナーの……あなたの楽園である『ホロミルク』ですよ!」
目が眩むほどの光に慣れ始めた目が、重たい防音扉の奥の光景を少しずつ認識し始める。
いつも聴いていたホロメンのアレンジ楽曲が溢れる室内では大きなシャンデリアが列を成し、幻想的な雰囲気の照明が非日常を映し出す――とても煌びやかで豪奢な光景がそこに広がっていた。
艶めく床はどこまでも広がり、各エリアに数多くのテーブルや椅子が設置されている。遥か前方にはライブステージのようなものが見え、花道で結ばれたサブステージにはダンス用のポールまで立っていた。
高級バーのような、あるいは不夜のカジノのような――夜に映える華々しさと煌びやかさが、弾けるように咲き乱れる。豪華絢爛とはこのことだ――ライトが明るめなところは少し違うが、随分昔に見た最高級キャバレーのような栄華がそこにあった。
広々としたオープンスペースには、がやがやとご機嫌な喧騒が響いており……たくさんの客たちと、露出度の高い制服を着た女の子たちが入り乱れている。
お酒や軽食を運ぶウェイターも含めて、そこで接客をしている女の子たちはみんな、すぐ横でωみたいな口を見せてこちらの反応をうかがっている狼少女と同じバーチャルアイドル――いわゆるホロメンばかりだった。
ホールを行き交うウェイターは、レザーのテカリがエロティックなバニーガール風味の服で、場内に幻想的な雰囲気を醸し出す。専用ブースを構えているキャストたちは半円形のカウンターの中に立ち、ミオと同じく乳房の膨らみを強調するような制服で〝夜の店〟のような接客をしていた。
「――ぷはぁーっ! やっぱり団長の冷やしミルクは最高だなー……!!」
「うふふ……♡ まだおかわりあるから、団長のおっぱいでお腹も心もいっぱいにしてね♡」
「むほー! そのムギュムギュと胸を強調したポーズ、たまんねぇ……!! もう『どたぷんっ!!』って感じ……最高ッス……!!」
「団長! まだ生搾りイける?」
「えっ……? や、ミルクはまだ出ますけど……リス――団員さん、お金は大丈夫……? もう三杯目だよ?」
「いいよ。団長のために破産するなら後悔はないから」
「それは団長が困っちゃうんよなぁ……また来週も来てほしいから、今日はやめとこ? ねっ? ほら、特別に……ぎゅーってしてあげるから……♡」
「んむぁっ――――あ…………ぁ………………イくっ……」
「あーっ、抜け駆けなんてずりィぞ………………こいつ、イきながら死んでる……!?」
「なんてこった!団長の大胸筋がマッスルすぎたんだ……!! くっそぉ、なんて幸せそうな顔をして死んでやがんだ……!!」
「えっ!? 待って!死ぬなんてもっとダメだよ!? し、しっかりして……おーい……! じ、人工呼吸したら治るかな……?」
「団長、それオーバーキルになるからダメじゃな――――あっ、それはもっとダメ! おっぱい口に含ませたら何度でも死んじゃうよォ!!」
「ラミィちゃん、今夜VIPルーム行けないかな~? 俺さぁ、一昨日からめっちゃ溜まっててさ~、もうおっぱいのぷるんぷるん具合を見てるだけで勃起が止まらなくてさァ……」
「え~、その誘い文句ナシだな~、ラミィもう性欲の捌け口じゃん。もっとこう、ロマンティックに言えんか? 言えんよな、雪民さんだもんな、期待したラミィがバカだったわぁ!」
「……一緒に寝よう。君の母乳で目覚めたい」
「うわっ、きしょ――せ、センスないなーっ!! でも、今度ならいいよ。溜まってるのかわいそうだもんね」
「ま、マジで!? ラミィちゃん好きすぎる……一生推せるわ……!」
「むしろヤることヤッてんのに推し変とか許さんが!? もうミルク没収してええか!?」
「あ!嘘!嘘だから! まだ酔い足りないから勘弁して!」
「そう言って、ラミィちゃんいっつもVIPから逃げるんだよなぁ。俺もずっと待ってるんだけどな~」
「ぎ、ぎくーっ……! そ、そんなことあらしまへんよ! みんな平等だから!ね!」
「みんな平等にエッチしてないのか……」
「ラミィちゃん、ジャンプして」
「急に何!? 空気読めんのか!? そんなだからモテ――そうな気配と未来しか感じないなぁ! はい!ぴょんぴょん!終わり!」
「またなにかごまかしてる」
「は、はぁ~!? 違うじゃん! そうじゃないじゃん!今の流れはさァ! ってこら!そこ!勝手におっぱい揉もうとするな!! おさわりのムードはさすがに読んで!?」
「あんっ、は、ぁっ……♡ んひ、ぃっ……ひぃっ……また、出ちゃう……ぅうっ……♡」
「んー、そろそろ僕のカップもいっぱいか。あくたん、今日はおっぱいの出が特にイイねえ……乳首コリコリされるの、そんなに気持ちいい?」
「は、はひぇっ……!?♡ い、いやっ♡あっ……♡ そ、そんなワケないし――うきゅっ!?♡くひぃんっ!?♡」
「ふーん、そっかぁ。こんなに乳首ビンビンでも気持ちよくないかー。それならさぁ、これぐらい強くコネても問題なさそうだね……それっ!!」
「んぎっ――んきゅうっ!?♡ くっ、んっ……ふぅうっ……あっ♡出るっ♡おっぱいもっと出ちゃうっ……♡ んぁっ♡ふぅ……ふぅっ……ん、ぐ、ぅううっ……♡」
「わはははは! 口は相変わらず素直じゃないのに、おっぱいと乳首は正直だねえ……予備のカップまでトックトクだ! それに、あくたんは……〝こっち〟も欲望に忠実だったよね?」
「は、はぁっ……♡んぁ――んひゃあっ!?♡ ちょ、っと……♡ し、下はっ……今日は、おさわり……ダメ、だってっ……♡ 気分じゃ、なっ♡あっ♡あっ♡あぁっ、ふあぁああっ……♡」
「ぬふふ……! おっぱいビュウ~って搾られて、パンツまでぐちょぐちょにしちゃって……あくたんはエッチだねえ!」
「あっ♡あっ♡はひっ、ぃいいっ……♡ ダメ……もう、止めてっ……おまんこ弄っちゃ、やぁっ……ひゃぅうっ……♡」
「そう言いつつ、トロトロおまんこが僕の指をどんどん奥に咥え込んでいっちゃうねえ。このままだと、あの厳しいオーナーさんに見つかっちゃうんじゃない?」
「っ……!?♡ そ、そうだよ……だから、もうっ……♡ あっ……はぁっ……はぁんっ……!♡ く、クリっ……♡クリ、なでない……にゃぁああっ……!?♡」
「うほっ!腰ガクガクでマン汁ぼとぼとじゃん……いいねえ! 今日はね、ブースを貸し切りにしてもらったお礼も兼ねて『赤いの』10枚を用意してあるんだ……これ、全部あくたんにあげちゃうよ」
「うっ……あ、ぁっ……♡ ちょ、っと……あ、んひぃっ……♡ そ、そういうの、ホントによくないっ……♡あくまで、善意ってコトなのにっ……♡」
「そうそう、善意だよ、善意……おじさん、あくたんの力になりたいだけだからさ……ね? わかるよね? チップなんて関係ないよね?」
「は、ぁっ……はぁああっ……♡ だ、だめっ……♡ ガチガチになってるの、お尻に擦りつけないで……あっ♡おまんこはもっとダメぇっ……♡ んっ、ぅうっ……っ……あ、あぁ~……♡」
「はは……『気持ちよくなるため』に、VIPルームへ一緒に行こうね。明日のライブまでに、おっぱいたくさん搾らないとだし……こっちもこんな、キュンキュンさせちゃってるしさ」
「っ……ぅ、ううっ……♡ 待って……ま、って、まだっ……あっ♡あっ♡うひっ♡くっ♡クリ裏ぁっ……♡ぉっ♡んぉっ……ぉおおっ……♡ ご、ゴシゴシしちゃっ――はぁああんっ……♡」
「ぬふふ……うふふふ……! たっぷり、しっぽり楽しもうね……!」
……道徳的には最悪で、官能的には最高の淫夢を見ているようだった。
鋭い光が舞い踊るホールの中で――ホロメンたちが、給仕の合間で声をかけられてフリーのソファーで談笑したり、専用ブースでおっぱいを振る舞ったりして、自分のファンと思わしき客との交流を楽しんでいる。
どこもかしこも、こぼれそうな乳房が『これでもか!』というほどにぷるんぷるんと跳ね回っており、うねる肉波がオトナな空気を掻き混ぜるように揺れていた。
瑞々しい弾力が、音と光になって弾けるように魅力を散らし――紳士たちの心を異国気分に誘い、滾る股間をラブホテル気分に高めているようだ。
「……とまあ、あなたの経営しているお店は、こんな感じのオトナのミルクバーでして……。アイドルのおっぱいを……瑞々しくて華々しいカラダを、五感でたっぷりと味わえるんですねぇ」
自分が箱推ししていたアイドルたちが――おっぱいや何もかもをさらけ出して、ファンたちとスケベな交流をしている。
社交界のような別次元の敷居の高さと、普段の配信時と変わらぬアットホームな身近さ……そして、悪いと思いながらも感じてしまうエロスを全て同時に感じる、危険な幽世の奇跡がそこにあった。
そんな、頭がクラクラとするほどに眩しい光景を見て……自分は呆然とするしかなかった。あり得ない事実が無慈悲に溢れ、視界を通って感情と脳をパンクさせてくる。
――『ミオは、この店をどう思っているのか』。そう尋ねると、ミオは赤くなった頬を掻いて、迷いながら苦笑する。
「うちは、まあ……や、恥ずかしいのはもちろんだけども……。ミオファのみんなが喜んで、楽しんでくれてるなら……仕方ないかなぁ、と……あは、は……♡」
そう答えたミオの表情は、いつも配信で見ていた照れ顔そのものだった――自分が一番好きだった表情を見てしまい、この夢のような光景と、ホール全体を包む甘ったるいミルク臭が、間違いなく現実のものであることを悟ってしまった。
それに加えて……ミオがキャストたちと同じ制服を着ていることから、彼女も〝そういうこと〟をシながらここで働いているのだと気づいてしまう。ピュアな愛情と股間をくすぐるインモラルな香りがココロで混ざり合い、推しているはずの彼女を直視できないほどに気まずくなって、再びホールに視線を戻した。
各ブースで特に目立っているのは……テーブルの上まで突き出したおっぱいを男の手によって掴まれ、母乳をジョッキに注がれているノエル。ミルクが入った酒ビンを差し出されたワイングラスに傾けつつ談笑するラミィ。そして、おじさんにスカートの中へと手を突っ込まれながら、『VIPルーム』と書かれた個室に入っていくあくあだった。
ホール全体を見回すと、トレイを持って忙しそうにしながら愛想を振り撒くあやめや、ファンと仲良さそうにビールグラスを傾けて笑っているアキ、接客するノエルのぺぇに遠目で垂涎しているわためなどなど、こんな場所でも個性的すぎる面々が目に映る。
「ウェイターをしている子も、たまに予備ブースに立つんですよ。お手伝いだけは協力してくれる子とか、おっぱいの出がよくない子とか……ここにいる理由も、協力の仕方も、まさしく『十人十色』って感じなの。うちの事務所っぽいよねぇ?」
……『夢が現実になってしまった』と思った。悪い意味でも……そして、とても申し訳ないが……良い意味でも……。
その許されざる理想郷は、時代にそぐわなくなったオトナの世界の遺産のように輝き、搾りたてのミルクの香りと、肉肉しいおっぱいのぷるぷる感で満ちている。
ここはまさしく、おっぱい好きな人間にとっての〝夢〟そのものだ。古びた時計が止まったまま生き残り、かつてなくなってしまったはずのものが今も残されている――そんな、激しく浮世離れした場所だった。