ようこそ性教育至上主義の教室へ 作:ましゅまろバスターズ★
東京都高度育成高等学校。
今日から俺が、高校生活を送ることになる施設である。
バスが着いて早々、黒髪少女に絡まれるという災難に遭ったが、俺は気を取り直した。
今から俺は、夢見てきた高校生活を送るのだ。
学校行事、修学旅行、友達作りに部活に恋愛。
厳しい受験戦争を勝ち抜いた者だけに与えられる、甘酸っぱい青春である。
俺はこの学校で、新しい出会いをして、沢山の事を学ぶだろう。
まずは、友達作りだな。
友達作りには、第一印象が肝心である。
前提として、清潔感がないのは論外。
更に、会話を発展させなければ、友達は作れない。
そもそも、友達とは何なんだ。
俺は疑問を浮かべながら、教室の中へと入った。
俺の高校生活は、お先真っ暗かもしれない。
クラスに入って、席に着いて、俺は結局、誰にも話しかけることが出来なかった。
クラスの中では、ちらほらと会話が繋がって、徐々に友達の輪が作られ始めている。
先を越された。
俺は、後悔に打ちひしがれる。
何もしないまま、時間だけが過ぎていく。
「入学早々随分と重たいため息ね、私は貴方との再会にため息をつきたい気分よ」
そう言って、俺の隣席に腰を下ろしたのは、バスの停留場で、出会い頭に俺の信条を否定した少女だった。
まさか隣の席になるとはな。
「オレは綾小路清隆。よろしくな」
「いきなり自己紹介?」
「いきなりって言っても、会話をする二回目だしな。別に良いだろそれくらい」
「私は拒否しても構わないかしら?」
冷たい声で拒絶をされた。出会ったばかりだが、俺への好感度はマイナスのようだ。
「一年間、互いに名前も知らずに過ごすのは、居心地が悪いと思うけどな」
「……物好きね。私に話しかけても面白くないわよ」
「そうか、迷惑ならやめておく」
どうやら俺は、名前すら教えて貰えないらしい。
「私は堀北鈴音よ」
と思ったら、少女はぽつりと呟いた。
堀北鈴音か。
よく見るとかなりの美人だ。
俺は心の中でガッツポーズをした。
高校生活における、最初にして最大級の難関、自己紹介ミッションをクリアしたのだ。
まだ一人、されど一人。
ここから交友関係を広げていき、俺は青春まみれの学校生活を謳歌するのだ。
堀北鈴音。今はまだ不愛想だが、交友を重ねていく内に、親しい仲になるかもしれない。
ひょっとすると、恋人にだってなれるかもしれない。
あいにく俺は、交際経験ゼロの童貞だ。
この学校で、キスの一つや二つは、経験してみたいものだ。
なんて考えていると、教室の扉がガラリと開き、スーツを着た女性が入ってくる。
ポニーテールの、厳しそうな印象の女性だ。
年齢は、三十路前後といったところだろう。
オトナの色気と、若々しい未熟さの、両方を備えた雰囲気。
いかん、見惚れてしまいそうだ。
「えー。新入生諸君、私はDクラスを担当することになった
担任教師、茶柱佐枝は、教壇に立ち。いたって事務的に説明を進めた。
俺の手元には、詳しい資料がまわって来る。
漏れのないよう、長い文章でまとめられていたが。
要するに……
・この学校は、他と異なるシステムで動いている。
・入学から卒業まで、生徒は学校敷地内での寮生活を義務付けされる。
・外部との連絡は、卒業まで一切禁じられる。
・学校敷地内には、娯楽施設や公共施設などが設置され、不便の心配はない。
・金銭のやり取りは、現金ではなくポイントでのやり取りをする。
・ポイントは毎月一日に振り込まれる。
・10万ポイント、即ち10万円が、入学を果たした俺達の価値。
・そして、本校の最大の魅力は、進学率が100%という事だ。
整理してみたものの、これは余りにも優遇されすぎじゃないか?
余りにも合理性に欠ける、違和感のような何かが、頭の中で引っ掛かる。
「…ということで、諸君も知っていることと思うが、前年度に日本政府が定めた性教育基本法に基づき、我が校では独自の「性教育カリキュラム」を試験的に導入する事となった。
もちろんこれは世界初の試みだ。戸惑いや不安、恥じらいを感じる者もいるだろう。
安心しろ、名義上は必須科目だが、我々は生徒の気持ちに寄り添いながら、慎重に授業を執り行うつもりだ。
来週月までに、「性教育授業についてのアンケート」を、携帯端末から回答して貰いたい。」
教卓の隣で、我がクラスの担任、茶柱佐枝が、性教育実習の説明を始めた。
「うわぁああ………」
「すげぇ、マジな話だったのかよ……」
「性教育実習とか、うちらが子供の頃は、考えられないよねぇーー。」
クラス内から、ちらほらと呟く声がする。
入学前から明言されていた事とはいえ、いざ耳にすると、クラスの誰もが不安と緊張の表情を浮かべた。
性教育基本法。とは、
昨年度、国会で閣議決定された、少子化対策基本法に基づく法律である。
深刻な少子高齢化と、若者の貧困を打破するべく、出生率改善の為、性教育を必修化するという対策である。
俺は支給されたばかりの端末を開いた。そして着信欄から、アンケートを開く。
質問項目には、・授業参加の有無、・実技授業の参加の有無、・本番行為の有無などの質問項目がある。
なるほど、参加を嫌がる生徒のための配慮か。
だが、こんな事をすれば、女子全員が参加を拒否することもあり得るだろう。
そうなれば、茶柱佐枝が一人で、複数の男子に対して性教育を施すのだろうか。
それはそれで、思春期の男子にとっては夢のような授業だな。
と思ったが、アンケートに注意書きがあった。
授業不参加を選択する場合は、代わりとして、筆記課題やレポートを提出する必要がある。
性教育の授業時間は、学習室での自習時間となる。
なるほど、授業の不参加を選んだ場合、授業外でのレポートや宿題で成績がつけられるという事か。
それは面倒くさいな。
保健体育というのは、身体を動かすのは楽しいが、勉強をするのはつまらないものだ。
俺は、実技指導を強く希望する。
「う、うぇぇ、マジかよ………」
「な、なんか不安だよっ……実技なんてっ」
「日本政府、頭おかしいんじゃねぇの??」
「やべぇよな……」
教室は、困惑や緊張に包まれて、ザワザワとしている。
女子達は、不安そうに俯くものが多く、男子達は、期待に胸を膨らませている。
ただ、真っ当な義務教育を受けてきた俺たちにとって、実践形式の性教育など未知の世界である。
担任である茶柱佐江も含めて、皆、緊張の色を隠せずにいた。
当然だ。
初めての試みというものは、いつも不安や緊張が伴うものだ。
俺だってそうだ、初めての高校生活、見知らぬ人達、果たして俺は、このクラスで友達を作れるのだろうか、と。
この性教育も同じだ、経験した事のない非日常、はじめは不安も多いだろう。
しかし、毎日何度も、非日常を繰り返していけば、それはいつの間にか、日常になるはずだ。
この性教育だって半年も経てば、俺の日常になっているのだろう。
まあ俺も、友達のいない日常が続かないように、早いうちに友達を作っておかなければ、と思う。
願わくば、女性との恋愛関係を持ち、身体の関係を持ちたいものだ。
俺は、手元のアンケートの回答を打ち込んだ。
ふと顔を上げると、隣の席の
「嫌にあっさりと決めるんだな。迷わないのか?男子はともかく、女の子なら、こういう事には不安や戸惑いがあるんじゃないか?」
「余計なお世話よ。こんな授業なんて反吐が出るほど嫌だけれど、卒業資格の為には目を瞑るわ。課題が増えるのも面倒くさいしね」
「卒業資格のためか……。希望したい進路でもあるのか?」
俺が会話を繋げていると、隣の堀北が、嫌悪の視線をぶつけてきた。
「なにニヤけてるのよ。心底気持ち悪いわ。貴方の相手だけは死んでもお断りね。私に話しかけないでもらえるかしら」
「はぁ、俺は至って真顔のつもりだが?」
「心の中がニヤけているわ。不快だから、前を向いてくれる?」
「うっ……」
心の中だなんて、理不尽だろう。
かと言って、言い逃れは出来ないが。
心底嫌われてしまったな。
堀北と彼女になるという世界線は、今途絶えた気がする。
「こっちこそ、お前の相手なんてお断りだな」
俺も流石にいい気分はせず、負け惜しみのセリフを吐いた。
俺は童貞だ。
堀北は確かに美少女だが、こんな不愛想な女に初めてを捧げるなど、死んでもごめんだ。
欲を言えば。可愛くて明るくて優しくて、胸がでかい女の子がいい。
例えば、前の方の席に座っている、バスの中で老婆を助けた女の子だ。
彼女は優しくて、よく笑い、誰とでもよく話す。
同じ美少女でも、堀北とはえらい違いだ。
茶柱先生の説明が終わった。
そして一週間はすぐに過ぎ去り、第一回 性教育実習授業が膜を開けた。