※この作品はR-18です。

アリスダンジョン   作:uyr yama

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18話目

 

 

2階層目に入る。

1階層目と比べてみるが、空気の違いというか、雰囲気に変化はまったくない。

しょせんは初心者専用ダンジョンということだろう。

 

 

「前に出ますね」

 

 

と言った香を先頭にし、和馬は香の4~5歩分だけ後ろから、周囲を警戒しながら足を進める。

出てきたモンスターは、一階層目に比べ、確かに強いような感じがした。

まあ、気がするだけかもしれない。

落とすコインは1割ばかし増えている。

やっぱり強くはなってはいるのだろう。たぶん。

 

 

「せいっ!」

 

 

香が槍を一突きすればモンスターは死ぬ。

 

 

「はぁっ!」

 

 

香が槍をブンと旋回させれば複数のモンスターが吹き飛び砕け散る。

ごめん。やっぱり一階層で戦っていた時よりも弱いのでは……

 

今回は戦闘行為よりも2階層の攻略に主をおいているための一気呵成だからだろうか。

敵が出たら速抹殺。殺意高い行軍になっていた。

 

 

「やっ! やぁっ! えいっ! やぁっ!!」

 

 

香の威声がダンジョン内に反響するたび、るろんたなる肉の塊が倒されていく。

というか、2階層目に降りてからの香のやる気が凄かった。

もうなんていうか、和馬は何もしないで後ろにいるだけの方がいい。そんな気さえした。情けないけど……

 

なんだろう? このヒモ感……

 

バラまかれるコインやドロップアイテムを拾いながら和馬はそう思うが、適時マップを開いて現在位置を確認。

常に『危なくなったら』を想定し、逃走ルートを考えつつ、いつでも香を庇えるよう緊張は切らしていない。

この辺は和馬の持つ冒険者スキルのおかげなのだろう。

に、しても、今の和馬程度の糞雑魚能力で考えれば、十分以上の働きである。といいな。

などと自分を慰めていると、香がるろんたを一掃し、薄暗い通路の先の視界が開けた。

通路の先は、どうやらちょっとした広場になっているみたいだ。

ダンジョンにおいて、通路が広ければいいなどということはない。

そこには巨大なモンスターが常駐しているかもしれないし、そうでもなくても大群のモンスターに四方から引っ切り無しに襲われる可能性もある。

ここまで絶好調の香も、流石に慎重になった。

 

 

「警戒しながら進みましょう」

 

 

香の言葉に「分かった」とすぐさま短く答える和馬。

和馬の返答に頷くと、香はゆっくり、気を尖らせ足を進める。

少し遅れて和馬が後を追い、通路の先に入った。

 

視界が開ける。

 

やはり広間になっているようだ。

今までで一番広い空間でもあった。

見渡せば、生き物と思われる動きも数体ある。

るろんただ。しかも7体。

ここにきて最大の数である。

だが朗報もあった。

2階層目に良く出ると聞いたハニーがいない。

ハニーは遠距離攻撃があるから、いないのは本当にラッキーだ。

だがそのるろんた。なにか追い立てられるような必死の形相で、こちらにきた。

和馬が迎え撃とうとするよりも3瞬は速く、香が迎撃する。

 

 

「いかせないっ! せいっ! やあっ!」

 

 

香は瞬く間に3体、続いて2体を屠る。

和馬が動くまでもない。速いし強い。

元々強かったが、ここまでではなかった。

 

いったい急になんなんだろう?

ダンジョンで戦う行為に慣れたということなんだろうか?

 

まあいい。残り2体。ようやく出番だ。と和馬が思ったのも束の間。

和馬から見て奥のるろんたが袈裟懸けに斬られた。

次に手前の、今まさに剣を向ける寸前だったるろんたも同じように斬り裂かれた。

凄まじい斬れ方だった。

和馬だと、斬る───というよりは、叩き切るに近い。

が、目の前のるろんたは、文字通りに斬り裂かれた。

人────の技だろうか。

その技の冴えに、恐怖が走った。

和馬はひとであると断定し、恐怖を振り払うかのように声を上げる。

 

 

「誰だっ!」

 

「いらないお節介かな?って気はしたけど、ボクから逃げたやつだし」

 

 

切断されたるろんたの先に、ペロッと小さく舌を出して微笑む少女がいた。

なるほど。るろんたは、この少女から逃げていたのか。

 

さて、ダンジョンで別の冒険者に出会う。

無限の広さを誇るわけでもないのだから、当然想定はしている。

特に一階層目にいる冒険者は、冒険者崩れと呼ぶ方が相応しいだろう、ただの社会不適合者だ。

隙を見せれば襲われるなんて当たり前、奪われ、犯され、殺されることだってあるだろう。

 

まあ、目の前の冒険者は女の子だ。

香が犯されたり等の性的な被害に遭うことはないだろう。たぶん。

 

で、あれば強盗や快楽殺人だろうが……

 

和馬は当然のように警戒し……すぐに解いた。

敵意はない。害意もない。

 

とかは、和馬には分からない。

が、香はある程度察知できるだろう。

その香が、だいじょうぶですと小声で和馬に囁いたから、まあ大丈夫だ。

 

無垢の信頼。

 

と言えば聞こえがいいが、冒険者などというヤクザな生き方をする以上、あまりよくはない。

ないのだが、香で察せられない物を、安全な世界で生きてきた和馬が察せられるわけもなし。

何かあったら何かあったで、たとえ手遅れ気味で酷い目に遭っても、それはもうどうにも防げないことだと割り切っているのだ。

 

 

さて、少女の風体は冒険者タイプなのは言うまでもない。

短く白く、ふわっとしたシルクのスカートと一体化してるのだろうか? 濃く深い蒼の冷たい金属の鎧……ちょっとしたビキニアーマーに見える。

もちろん、ビキニアーマーという字面で思い浮かぶ物ほど露出は多くないが、肌色成分は結構多い。

パッと見でも首周りから上乳までの辺りは露出してるし、何度も言うがスカートが短い。

しかもスカートから伸びる足は素足だ。細めの太腿がまぶしい。

これで飛んだり跳ねたり剣を振るったりすれば太腿の付け根の方……スカートの中身、下着が見えるに違いない。

いやいや、邪念は捨てろ。きっとこれがこの世界の女剣士のスタンダードなんだ。

異世界ファンタジーで守る部分の少ない鎧はスタンダードなのだし。

 

とは言え、女性というものは男の視線に敏感なものであると、漫画か何かで読んだ覚えがある。

わざわざ印象を悪くする必要はないしなと、和馬が視線を彼女の眼だけに固定すれば、ニコっと微笑まれた。

童貞だったら惚れていた。危ない……そう思う和馬をよそに、彼女は視線を外して後ろを向いた。

彼女の見る方向には、もう一人少女がいた。

こちらの少女は露出が少ない。見た目普通というか、なんというか。

白いルースローブの上に、可愛らしいカーディガンを羽織り、下は赤いフレアスカート。

剣士少女と違ってスカートは膝下辺りまであって、伸びる足に肌色は一切なく、黒っぽいパンストである。

 

素足もいいが、黒パンスト……これはこれで……いや、うん。

 

一応、胸周りに金属系の防具みたいなのが装着されているが、街中で歩いていても違和感はない、普通の少女に見えた。

武器として、小さいハンマーみたいなのがついた杖を持ってなければだが。

ああ、やっぱり冒険者なんだなぁ。

 

 

「は、葉月、走っていかないでよっ!」

 

 

はぁはぁと、息を切らせ。

後から来た少女が抗議口調でそういえば、

 

 

「ごめーん」

 

 

と、剣士風の少女は朗らかに返した。

 

葉月……もしかして瑞原葉月だろうか?

彼女がもう一人の方の少女を見てるのをいいことに、背中と横顔を少しだけしか見えないが、注視して見てみれば、なるほど。

確かに彼女は闘神都市Ⅱのヒロイン、瑞原葉月……かもしれない。

正直なところ、2次元をリアルに置き換えたこの世界の現状、少し見ただけでは誰が誰だかは分からない。

まあ、本人だと仮定するなら、これ以上見るのはやめておこう。

瑞原葉月は剣術道場の跡取り娘。

彼女自身も達人級というか凄腕で、闘神大会で優勝する強さである。

ボーダーさんを倒せると言えば強さを実感できるだろうか?

少なくても、後ろ向いていようが、和馬の視線など余裕で感じ取れているだろう。

ぶしつけな視線を向けるのはやめた方が無難だな。

 

ふむ。ボーダーさんに頼むよりもたやすく剣術道場を紹介してもらえるかもしれない。

まあ、期待はしない方がいいけれど。

初めて会ったばかりで紹介してなんて言えるわけもないからだ。

 

そしてもう一人の少女、この子も闘神都市Ⅱの登場人物なのだろうか?

 

……分からん!

 

闘神都市Ⅱは葉月が絶対正義過ぎて他のヒロインの印象がとても薄い。

あえていうならクライア・カラーだが、クライアは名前で分かる通りカラーだ。

どう見てもカラーではない以上、彼女はクライアではない。

 

はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……

 

それにしても彼女、息切れが酷い。

顔色も少し悪いし、とんでもなく疲労してるのではなかろうか?

横目で彼女の様子を見ながら、床にバラまってるGOLDを拾っていく。

どうやらドロップアイテムはないようだが、さて、このGOLD、こっちで全取りしていいものだろうか?

別に山分けになっても全然かまわない。

と思っていたら、葉月と呼ばれた少女が、どうぞどうぞと手振りしていた。

まあ、大した金額ではないし、倒したの2匹だけだし、ってことか。

ならありがたく頂戴いたします。と、数馬はぺこっと頭を下げた。

 

いいえいいえ いやいや、ありがとうくらいは いいえいいえ

 

なんてことを手振り素振りでやりあっていると、

 

 

「和馬さん」

 

 

香ちゃんに声をかけられた。

 

 

「ここで少し休憩しましょう」

 

 

そう言って指を示す先は、この広場の中央だった。

今立っている場所自体は、るろんたの死体が散乱してる。

そうでなくても広場の中央だと、モンスターが湧いて出ても対処がしやすい妥当な場所。

いや、でも、逆に言えば包囲されてしまわないだろうか?

という疑問は、推定瑞原葉月を誘えば大丈夫。

 

一見からしてレベルの隔絶差はひしひしと感じる。

多分だが、ここのモンスターは葉月には近づかない。むしろ逃げる。

だからこそ葉月はモンスターを追いかけていたのだろう。

その、追いかけるのに付き合ってたと思われる、もう一人の少女の疲労困憊っぷりも分かるというモノだ。

 

 

「おふたりもどうですか?」

 

 

香が息を切らせている少女を心配して誘っているのだと気づいたのか。

葉月はうれしそうに、本当にうれしそうな顔で、

 

 

「お誘い受けよっか?」

 

「う、うん、おねが……い……やすま……ないと、しぬ、しんじゃう……」

 

 

本当に今にも死にそうだ……

とりあえず、朝出るときに円さんからお弁当と一緒に貰った竹でできた水筒を手渡した。

少女はすんごく嬉しそうに受け取り、

 

ごくっ、ごくっ、ごくっ……

 

唇の端から水が零れ、あごを伝って床にぽたり、ぽたりと落ちる。

う~ん、美少女が一心不乱に水を飲む姿って、なんというか、艶めかしくエロく見える。

そんなスケベ心を読み取られたのか、香ちゃんに軽くぺしっと背中を叩かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は水筒の水を全部飲み干すと、力尽きましたとばかりに床に座り込んだ。

もう一歩も動けそうにない。

確かにスパルタだと言ってはいたが、もう少し手心を加えて欲しい。

だいたい私のレベルは1なのだ。

戦闘はしておらず、葉月が倒すモンスターの経験値をただ貰ってるだけの寄生状態。

だけども!! 今日初めてダンジョンアタックするレベル1には辛いものがある。あるでしょ?

一階層目だけならなんとかなったけど、パワーレベリングいっくよー! と2階層目に特攻した時は、ほんと、ほんと……

 

レベルが低ければ低いほど入手経験値は増えるらしい。

 

だからレベル1のまま据え置いて、ひたすら敵を倒していったのだろうけど、なんにでも限度ってものがある。

 

これだから脳筋は……

 

声に出さずに罵ると、葉月はこちらを見てにこっと可愛く笑うと、行軍速度上げた。

 

速い、早い、どこまで速い。

どんどん、どんどんと進んでいく。

置いて行かれないように頑張るも、背中をようやく見える距離を保つのが精一杯。

 

もう無理だ。死ぬ。疲れた。つらい。

ああ、帰りたい。帰りたいけど、帰るのに歩く気力がもうなかった。

帰り木を使えば一瞬でダンジョンから出られはするけど、その手のアイテムは全部葉月のアイテム袋の中である。

葉月は使ってなんてくれはしまい。絶望である。明日は絶対に筋肉痛だろう。もう泣きそう。ってか泣きたい。

 

そんな少女に、大丈夫? と声をかけてくれた男の子。

 

 

「ここは肉片とか血で汚いから、あそこまで頑張れる?」

 

 

そう言って彼は手を取り、持ち上げる様に立たせてくれた。

足が疲労でぷるぷる震えた。ついでに言えば、羞恥心で顔が熱くなった。

ナクト以外でここまで接近した男の子は彼が初めてかもしれない。

そう思ったら急にとても恥ずかしくなって、体が逃げる様に仰け反って。

もちろん足はがくがくで、だからバランスを崩して転んだ。

いや、転びそうと思った時には、彼が腕を引っ張って抱き寄せて。

だから転びはしなかったのだけど、小さな体は彼の腕の中に納まってしまった。

 

 

「ふわわわっ!?」

 

 

羞恥と混乱で、変な声が漏れ出てしまう。

そんな彼女を呆れるような声色で、

 

 

「羽純、なにしてるの」

 

 

と、葉月。見ていたんなら分かるよね?

見知らぬ男の子に抱きしめられれば誰でもこうなる。

まあ、抱きしめられてるって感じは、外から見たらあんましないのかもしれないけれど。

実際問題、少女……羽純がバランス崩したところを受け止められた、ただの事故。

男の子……和馬も内心やっちまった!? と思っているが顔には出さず、混乱著しい羽純の両肩を掴んですぐに体を離すように押しやった。

もちろん足腰立たなそうな羽純である。

倒れないように十分に近い距離のままだし、肩から手も離してはいない。

 

 

「んっと、もう大丈夫だからっ! その……」

 

 

恥ずかしいから手を離して欲しい。って、はっきり言えれば良かったのだけれど。

この状態、完全に彼の好意からくるもので、しかもこちらの失敗からこうなったわけで。

とても言いずらい。だから察して欲しい。

彼は上目遣いで少し涙目な羽純を見て、すぐに分かったのか。

 

 

「手を離すよ」

 

 

と言いおいて、羽純を支えるをやめる。

トンと軽く跳ねる様にして2~3歩分だけ彼女から距離を取ってくれた。

 

紳士だな、って思った。

優しい人だな、とも思った。

 

羽純にとって異性とはナクトであって、特別な異性でもあったナクトは別の女性の手を取って去ってしまった。

心は今もナクトに囚われたまま、停滞してしまっている。

だから好意とか恋愛とかの感情ではまったくない。

 

けど、でも、ナクト以外で初めての異性を感じた……かもしれない。

 

はふぅっと羽純は羞恥心に熱くなった息を吐き出す。

 

顔、紅くなってないよね?

だいじょぶ、このぐらい、ふつうだよね?

 

自分に言い聞かせながら、ふらふら歩きだし。よたよたとした足取り。

その足取りの先から、葉月と年下のまだ名前も知らない少女の何か楽しそうな声が聞こえた。

どうも槍だの剣だのの話をしてるっぽい。

 

あの子、遠目から見ても凄かった。

 

さすがに葉月程ではないけれど、素人目でもはっきりわかる槍の技量と気迫。

貫かれ、凪払われるモンスター。そして少女の鬼気迫る気迫。

武人なら魅せられる。羽純は武人でないから、すごいなぁっで終わったけれど。

でも剣士の葉月は違う。類友を見つけたとでも思ったのか、とても楽しそうで、それはとてもいいことだと思った。

 

男の子と2人置いてけぼり気分にされなかったらだけども。

 

その男の子をチラっと横目で見た。

とても心配そうに、数歩分離れてこちらを見ていた。

倒れそうになったら支えてくれるつもりなんだろう。それがなんか嬉しかった。

さっきも言ったが、羽純にとって異性……男とはナクトだった。

 

でも、世界はきっと広くて、男の子もいっぱいいて。

ナクトへの想いに負けないくらいの想いを、別の男の子に感じる日も、きっとくるのだ。

だから少し……ほんの少しだけ大胆になってみようか。

 

ダンジョンアタックなどという命かかった行為をしている最中なせいか、精神が少し高揚してるのかもしれない。

普段の羽純ならけして思わないだろうし、思ったとしても行動には移さなかったはずだ。だけども。

 

 

「あの、やっぱり支えてくれないかな? 足がもう限界なの」

 

 

一世一代だろう。見知ったばかりの男の子に、こんなことを頼むなんて。

失恋からの鬱状態。そこから親友の葉月に連れられ命がけのダンジョンアタック(withパワーレベリング)。

産まれて初めての命掛かった強行軍の最中だったからこそ出来た大胆な行動。

胸がどくん! どくん! と緊張で激しく鼓動する。はずかしい、やっぱりはずかしい。

そう思いながら上目遣いで男の子をチラっと見ると、やや戸惑いながらも、

 

 

「はい、いいですよ」

 

 

そう言ってくれた。

男の子の顔が赤くなった。

女の子慣れしてないのかな?

自分だって男慣れしてないくせに、そう思った。

かわいいなぁって、くすっと笑いが漏れそうになったけど、これは堪えた。

 

彼は「失礼します」と言って、羽純の腰に腕を回した。

 

ひゃんっ、って思わず叫びそうになるのを堪える。

腕とか肩じゃないのっ!? 腰? 腰なのっ!?

 

ふわわわ……ふわわわわ……

 

しかも少しだけ密着度が高いような……そんな支え方。

腰に感じる手が、指が、とてもリアルに感じる。

別にいやらしい触り方はしていない。特に変な動きもしていない。

ただ支えてくれてるだけなのに、手のひらが……指が……指の一本一本が、とても、熱く感じられて。

 

男の子を見る。

 

いやらしいことを考えてこうしたのなら、ひっぱたいた。

でもそうじゃないのは彼を見たら分かる。

単に女の子の扱いをよくわかってないだけだ、これ……

 

ど、どどどうしよう……どうしたら……

え、えと……支えてもらうんだから、彼に、寄り添う感じで……

 

と、体を……体重を預けると、彼も驚いたのかもビクっとした。

焦った様子で、

 

「辛い? 歩けそう?」

 

「う、うん、なんとか……」

 

 

そうして、ゆっくり、ゆっくりと、羽純を気遣いながら歩きだし。

 

なんか違う。やっぱり違う。

これ、恋人みたい……って! ちがうちがうちがうもん!

支える手が、強く、強くなって……少しづつ、少しづつ、気遣うように、無理させないようにと……

 

体の密着率が上がってく。

 

そういえば汗いっぱいしてた……汗臭いって思われないかな。

大丈夫だよね……でも、汗でべたべたもしてる。

 

ああ、どうしよう。どうしたら……

取り合えず離れて……でも自分からお願いしたのに、変に誤解されたらどうしよう?

別に彼に触られるのが嫌じゃないんだから、素直にそう言って……ってやっぱなんか変だっ!?

 

羽純は頭が混乱したまま、なんて言って体勢変えてもらったらいいのか分からなくて。

そうしていたら、彼は、少しどもりながら、

 

 

「あっ、と……山本和馬……俺の名前……」

 

 

私の名前を聞いてるんだ。

照れてるのか、言葉足らずの話し方。なんだかかわいいなぁ。

と、2度目の可愛いが入りました。

そう思ったら、余計な力が抜け落ちた。

緊張してるのは自分だけじゃないんだ。

彼も同じように、緊張してる。

 

羽純はふわっと自然に浮かんだ笑みをこぼした。

 

 

「わたし、羽純。羽純・フラメルっていいます」

 

 

ただの自己紹介。なのに、なんかとてもドキドキした。

失恋したあの日から、ずっと停滞していた何かが、少しだけ、ほんの少しだけ。

 

 

「えっと、フラメルさん……でいいかな?」

 

「羽純でいいよ、和馬くんっ」

 

 

ほんの少しだけ進んだ。

そんな気がして、跳ねるような口調で、彼の名前を呼んで。

寄りかかる体重をもう少し……ほんの少しだけ、さらに増やした。

 

 

「あ、あのさ……」

 

「なぁに?」

 

「あ、あたってる……」

 

「うん? なにが?」

 

 

初めて感じる異性の体温に、ドキマギしながら悪女ムーブか。

胸をさらに押し付けてみる暴挙。

和馬が目に見えて狼狽えるのがたのしい。すごくたのしいって思えた。

 

羽純は、ナクトが去ってから、初めてほんとに楽しかったのだ。

 

ほんの少しの冒険で、ほんの少しの気晴らしのはずだったのに。

羽純はそのつもりで、誘った葉月だってそのつもりだったのに。

 

 

寝る前に思い出し、自分のやったことが恥ずかしくて。

恥ずかしさのあまりに布団の中で暴れたおす確定された未来があるのだと、今は知らない羽純だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────たぶん

 

それがしたいことだった。

『織田』の香ではなく、兄の妹の香でもなく。

 

ただひとりの、女の子の香として。

 

朝、彼の腕からすり抜けて、身だしなみを整えて、朝餉を一緒に食べて。

 

昼、戦場で、彼を背中に前に出て、ただひたすらに敵を討ち。

 

夕、浴びた血を落として、身だしなみを整えて、夕餉を一緒に食べて。

 

夜、彼の腕の中で、互いの熱を感じながら、唇を貪り合い。

 

そして、体を重ねて。嬌声を上げて。感じて。達して。啼いて。彼の精を躰の奥で受け止めて。

 

最後は彼の腕の中で朝まで眠り。

 

繰り返す。繰り返し続ける、なんでもない日常。

 

 

ただ、それだけでいい。

 

 

そして今は、昼だ。

 

ただ、ただ、倒す。

 

彼を守護するために。

彼のために、敵を───討つ。

 

彼のためだけの守護の姫(牝)だから、ガードプリンセス(牝)として、それが、それが……

 

じわり、じわりと、何かが心を侵していく。

それが嫌なのではないのが……不快でもないのが、恐ろしい。

いや、恐ろしくなんてない。むしろ快感だった。

 

 

それががががががががががっががががが

 

彼に害なす敵を討ち、彼の欲望の全てを叶えてみせる。

 

だからこれは正しいことで。もっと、もっと殺さなければならないのだろう。

 

あははははははははははははははははは

 

うふふ、くすくすくす

 

 

嗤う。声に出さず、表情に見せず。

 

笑い、嗤い、哂い。

 

彼に見せるわけにはいかない狂気。

見せてしまえば彼が壊れる。

だから心の内で笑って、楽しみ、ケタケタと、けたけたと……

 

 

────スパン、と斬れた。

 

不敬にも、彼の前に立ち、彼の手を煩わそうとして敵を、私が、わたしが、ワタシが討とうと。

肉体の限界を超えて、腰を、腕を、手の、筋肉を捻り、引き絞り、千切ってでも。

 

そうして敵を討とうとした瞬間、斬れた。

 

 

 

 

 

敵が

 

そして、視界を縦に斬る、剣閃

 

 

────瑞原 天の剣

 

 

微かに耳が捕らえた女性の声。

 

聞えたと同時、心を犯そうとした狂気が、斬られた。

 

 

視界が、ぱぁっとなった。

 

かはっ、と息を吐く。

脂汗が止め処なく。

目がチカチカして。

 

 

「いらないお節介かな?って気はしたけど、ボクから逃げたやつだし」

 

 

見知らぬ女性は、彼にそう言って、そして、私を見て、安堵した。

大丈夫? 声に出さず、唇の動きだけでそういって。

 

だいじょうぶです、ありがとうございます。

 

同じように唇の動きだけで、そう返した。

 

 

心臓が、バクバクする。

 

今のは、なんだったんだろう……

 

微かに震える手を、動揺を抑え込むのに、心の臓の上に。

 

とくとくとくとく、激しい鼓動。

疲労からでなく、恐怖で速なる鼓動。

 

でも、彼には平然として見せて。

 

 

 

────和馬さん。

 

 

男の名前を言祝いだ。

 

口にした。声に出した。

どれも、ピンとこない。

 

そう、言祝ぐ。

 

感じる。高揚する。体の芯に熱が灯る。

名を言祝ぐだけで、まるで抱かれてるような……

 

 

なるほど。香は顔には出さず苦く思った。

これが……この感覚がガードプリンセス。

確かに強くはなった。でも……

振り回されている。獲得し、再臨されたクラスが、暴走している。

 

いけない。だめです。このままでは、彼を傷つける。

 

それは嫌だ。いやだと思う。

 

ガードプリンセスだからではなく、織田香として、いやなのだ。

織田香として……ほんとうに、そう?

彼と共にあるのは、彼と約束してるからで、だから、だから、ずっといっしょに……

 

 

「ここで少し休憩しましょう」

 

 

混乱する頭を、疲労困憊している心を休ませたい。

 

 

「おふたりもどうですか?」

 

 

ちょうどいい言い訳がそこにあったから、利用する。

ついで、エッチな目でもう一人の女性を見ていた和馬の背中をぺしっと叩いた。

 

それはただの衝動で、発作的な物で。だから、だから────

織田の姫として教育された織田香ですらなく、ただの少女としての……きっと嫉妬だった。

 

 

 

 

 

 





試験ダンジョン攻略完了を今年中には終わらせる決意(出来るとはいってない
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