魔王と魔人と呼ばれる超越存在がいる。
時は最凶最悪の魔王ジルの時代。
人はジルに率いられた魔人に。魔人に率いられた魔物の群れに怯える日々。
彼らは人よりも遥かに強い生命力。
彼らは人よりも遙かに強大な魔力。
更には人の力では破ることのできない無敵結界。
特にこれがある限り、魔王と魔人を倒すのは不可能である。
村が滅んだ。街が滅んだ。国が滅んだ。
このままでは、人が滅んでしまう……
人は彼らの脅威に怯え、神に祈る。
どうか、我々に魔王と魔人を退ける力を……!
AL教団初代法王が、聖都シャングリラにて祈りを捧げると、神が法王の願いに応えて試練の洞窟を創り出した。
ただ力を与えるだけでは堕落する。
真に願うのならば、この試練を乗り越え我がもとまで来るがいい。
その時は、汝らの願いを叶えてつかわす。
法王は、早速大陸中の国々にふれを出す。
魔人の脅威に怯える日々は終わりだ!
勇者よ! この神の試練を乗り越え、魔人を討伐する力を手に入れろッ!!
AL教団は、自らの教義に反する教えを持つ宗教組織にまで声をかけ、このダンジョンの攻略を目指した。
それから数百年の時が過ぎ、遂に英雄が誕生する。
千年たった今でも名を残す5人の英雄。通称、エターナルヒーロー。
エターナルヒーローのリーダー、聖戦士ブリティッシュ。
AL教団聖女カフェ・アートフル。
魔法Lv3の全知の賢者ホ・ラガ。
JAPANの侍マスター日光。
闇に身を浸す光の義賊カオス。
彼らは遂に最深部へと到達し、そして願った。
神よ、どうか我々に魔王と魔人を倒す力をください!
願いは正しく叶い、そうしてエターナルヒーローはダンジョンを出た。
ブリティッシュの手には魔王をも殺せる【魔剣】が。
カフェ・アートフルの手にも魔人を難なく引き裂ける【聖刀】が。
ホ・ラガには神に与えられたこの世全ての知識が。
そして、残り2人は魔人を倒すための贄となった。
日光は聖刀に、カオスは魔剣に……
ブリティッシュは仲間を失った悲しみに頬を濡らしながらこう言った。
「さあ! 人よ立ちあがれ! 私とカフェの手にある剣は、魔人を!魔王を殺せる剣である! もう奴らを恐れる必要などないのだ! さあ友よ! 今こそ人の世を取り戻すのだ!」
……人間は戦った。
戦い、戦い、戦い……
魔人が率いる魔物を滅ぼした。
魔王が率いる魔人の内、魔人レキシントン、ザビエルの2体を滅ぼした。
そうして人を愛した光の魔人ガイを仲間に引き入れ、遂には魔王ジルをも倒したのだ!
その後ブリティッシュとカフェは、役目が終わったと光の彼方へ消え去った。
全知の賢者ホ・ラガは、それでも人を見守るのだと言い残し、北の果てに塔を立てて隠棲した。
最後に光の魔人ガイがジルの力を奪って魔王となり、生き残りの魔物と魔人を引き連れて、西の魔の森へと姿を消した。
英雄が去り、こうして世界は平和になった。
後に残されたのは聖刀日光と魔剣カオス。
この2つの対魔王兵器は、今もAL教団本部があるシャングリラ聖宮に眠っている。
第2話 システム屋に行こう!
「と、いうわけで、今でも最深部に到達出来れば、どんな願いでも叶えてくれるらしいんです。それにダンジョンの魔物を倒せばお金も手に入ります。それどころか、珍しいアイテムを手に入れれば……」
和馬は香の話に驚愕の色を隠せない。
香はそれをダンジョンのことだと思ったようだが、実は違う。
魔王、魔人、無敵結界、エターナルヒーロー、AL教団……
どれも聞いたことがあった。
ありふれた(?)存在である魔王と魔人はともかくとしても、だ……!
(ここって、もしかしてランスの世界か?)
マジマジと目の前の【香】と名乗った少女を見る。
蝶みたいに後ろ髪を結わえたロリンな美少女。
着ている服も、着物を魔改造したような現実で見たらちょっと微妙なアレだ。
もしかして……いや、もしかしなくても香姫だ。
戦国ランスで織田信長の妹として登場。
ルートによっては凄惨で残酷な最期を迎えてしまう少女。
和馬はそんな彼女の最期が嫌で、何十周もクリアしときながら、CG回収とキャラクリのために一回やっただけでその後は決して五十六ルートには入らなかった。
いや、正史ルートでさえ、しょうがなく数度やったきりで、遊びで楽しくやる時には常に蘭ルートか猿殺しルート、気分変えに謙信ルートしかやらない。
決してやらない。やってたまるかコンチクショー!
あんな健気で可愛い子が不幸になるとこなんざ見たくねーのだ!
って訳で、確かにこの子は香ちゃんだ。
もしくは、香ちゃんに近い【ナニカ】だろう。
何故そう思ったかと言えば、和馬が知るランスシリーズにはこんな展開はありえないから。
世界観もおおむね重なっているとはいえ、やはり違うと和馬は考えたのだ。
シャングリラは砂漠に囲まれた陸の孤島だった筈だ。
AL教団の本部は川中島だった筈だ。
エターナルヒーローの事跡も大分違う。
魔王ガイにしたってそうだ。
確かに彼が魔王ジルを倒したが、エターナルヒーローとはまったく関係ないはずだったからだ。
精々が、カオスを使ってジルを倒したってことぐらいしか関係ない。
……まあ、どうでもいいかと、和馬は今考えてたことを振り払う。
そんなことよりも、まず考えなくてはならいことが沢山あるからだ。
香がダンジョン探索を勧める訳は、生きる糧を手に出来るのだということとは別に、神に願えば元の世界に帰れるかもしれませんよ? と言うことだろう。
確かに、何も知らなければすぐさま香の提案に乗ったろうと和馬は思った。
だけども、和馬は知っている。
恐らくだが、このダンジョンの最深部にいる神、それはプランナーだろうと。
プランナーは、いいや、この世界の神はタチが悪い。
願いを曲解するなんて当たり前。碌な目に遭わないこと間違いなしだ。
だが、そんなん言ってる場合でもなかった。
「えっと、無理しなくてもいいんですよ? 和馬さんが働ける場所が見つかるまでは私が……」
「いや、大丈夫。いつまでも香ちゃんの世話になる訳にはいかないしさ。それに、お兄さんのことがあるんだろ? 俺も手伝うよ」
どうせ最深部まで行けるわきゃねーし、それにこんなちっちゃい子の世話にいつまでもなれない。なりたくはなかった。
ちっぽけなプライドだ。そう和馬は自嘲する。
だが、香の喜びぶりを見たら、これで良かったのだと思った。
最深部を目指さず、香の目的の物を見つけたら一緒にJAPANに連れてってもらい、そこで就職させてもらおう。
結局は香の世話になるんじゃん。
なんてことには気づきもせず、
「じゃ、冒険者になりに行きましょうね!」
と嬉しそうに手を引く香の後についてった。
宿の部屋から出る際に、香は今しがた借りてた部屋を引き払った。
ご宿泊ではなく、ご休憩。
にやにやした厳つい顔の宿屋の主に、違う! そんなんじゃない! そう訴えたい気持ちをグッと和馬は堪える。
香自身がなんの事だか分かってない以上、この件には触れない方が身のためだ。
「レベル屋さんとシステム屋さんはどこでしょうか?」
「冒険者協会の中にある。その通りを抜けてスグだ。行けば分かるさ」
「ありがとうございます。じゃ、行きましょう和馬さん」
「あ? ああ……」
香は目的地の場所を宿屋の主に聞くと、宿屋から出て外へ出た。
もちろん和馬も香についていく。
香の隣に立ち、ゆっくりとした歩調で宿屋の主に言われた道なりに進んだ。
あまり目立たないようにキョロキョロ辺りを見回す。
ここが日本ではないんだと、改めて良く分かった。
見たことないけど、中世ヨーロッパ風な建物と、アラビアンナイトに出てきそうなイスラム圏の建物が混在した感じと言えばいいだろうか?
そんな建物が縦横無尽としているのだ。
ただありがたいなと思ったことが衛生管理だろう。
道には汚物やゴミはあまり落ちていなかった。
中世のヨーロッパだったなら、現代日本の都市部に暮らす和馬にとって耐えがたい汚臭がしただろうが、それはなかった。
(ランスっぽい世界で本当に良かった……)
和馬がそんな事を考えてると、道の先にやたらと賑わってる大きい店舗が目に入る。
ここが冒険者協会なのだろう。
店の前には西洋風の鎧に兜。腰に剣を差した戦士風の青年が立っているぐらいだし。
彼は仲間でも待っているのか、遅い遅いと呟きながら、イライラと地面を蹴っていた。
これは関わると面倒くさいことになる。
和馬だけでなく香もそう思ったのだろう。
わざわざ大きく旋回して、彼に近づかないようにしながら冒険者協会と思しき店の中に入った。
中に入ると、戦士、魔法使い、僧侶、神官、シスター、巫女さん、侍、拳闘士……
明らかにカタギじゃない、冒険者なのだろう人達が列をなして並んでいる。
彼らの形相が怖かったのか? 和馬は途端に不安そうにする香の手を取り、自分達も静かに列に並ぶ。
宿を出る時に姫鎧を着こみ、大きな朱槍を背にする香はともかく、ジーパンにワイシャツ姿の和馬は明らかに浮いていた。
自分を見下す視線をいくつも感じる。
香がいくら立派な鎧に身を包もうとも、ちみぃ彼女じゃ威厳もなく、当然一般人然とする和馬じゃ言わずもがな。
それでも傲然と胸を張り、何でもない、いいや、むしろ逆にせせら笑いながら背に香を隠した。
怖くて怖くてたまらないのだが、人は守るモノがあれば強く……はなれなくても虚勢は張れる。
そんなに和馬に、見下した視線だけでなく、暖かい何かを含んだ視線が混じるようになる。
「君達は初心者かい?」
浅黒い肌、精悍そうな目つき。
だけども女性特有の柔らかい雰囲気だけは損なわれていない。
声色も優しく、こちらを気遣っているのが和馬と香には分かった。
「はい、そうです」
香が返事をする横で、和馬もコクンと頷いてみせる。
「今日が初めて?」
「はい」
「だったらコッチじゃなくて、システム屋の方じゃないの?」
「あっ、はい! そうです!」
「うん、案内するよ。ついてきて」
そう言って背中を見せて歩いて行く。
和馬と香は顔を見合わせ、
「行こうか、香ちゃん」
「はい、和馬さん」
と頷き合い、彼女の後を追った。
彼女の腰には西洋剣が吊られており、目の前の女性が冒険者、それも戦士であるのだろうと分かる。
しかもその自信、その気遣い。
たぶん、高レベルの冒険者なのではないだろうか?
などと色々妄想を張り巡らせる和馬だったが、その考えは恐らく当たっていた。
「私は竜胆沙耶。君達、冒険者の資格取ったらウチのギルドに来ないか?」
その名前を聞いた時、和馬はピピン! っときた。
この人は、ぱすてるチャイムのヒロインの一人だ。
だとすれば、目の前の女性は優秀な冒険者なのだろう。
見かけが1作目じゃなく、2作目の方だし……
それよりも、彼女の存在が在るというなら、この世界はやっぱりランスじゃない……?
「あはは、ちょっと急すぎたね。ごめんごめん」
和馬のおかしな様子を見て、彼女はちょっと反省した。
いきなりこんなことを言われても困るだろうと。
そして指を差す。
先ほどのレベル屋とは違い、人がまばらにしか居ない部屋の扉の前。
「あそこでシステム神に登録出来る。そしたら試験洞窟に入れるようになるよ」
「ありがとうございます」
「いいよいいよ。これも先達の役目だからね。でね、さっきの話なんだけど、困ったことがあったらウチに来なさい。ギルド名【舞弦】。中規模のギルドだけど、みんな気のいい奴らばかりだからね。じゃ、幸運を祈ります」
そう言って、ギルドの詳しい場所をメモして香に渡すと、手をひらひらさせて今来た道を戻って行く。
和馬と香は慌てて頭を下げながら礼をいい、彼女が完全に視界から消えるまで見送った。
そして前を見る。
冒険者となりに行きましょうと香が言った意味。
さっきまでは何も考えてはいなかったけど、実際どういう意味なんだ?
今さらながら疑問を感じ、だがその疑問を聞く前に、自分達がシステム神の部屋に入る順番がきてしまった。
「行きましょう」
「うん香ちゃん。行こう!」
沢山の不安と、それと同じくらいワクワクする。
和馬は、冒険者となるための一歩を踏み出す為の一歩を踏み出した。