聖都シャングリラの南端に位置する洞穴、通称【試験ダンジョン】
そこは既に探索され尽くし、当然のことながら宝箱なんて一つも残ってはいない。
アリスダンジョンなら3ヶ月に一度のペースで宝箱が復活するが、試験ダンジョンには当たり前だけどもそれはない。
彼の地に残されているのは魔物のみ。
それにしても強力な魔物は討伐済みで、残るは繁殖力の強い雑魚だけだ。
そこに目をつけたのが、今から500年ほど前の冒険者協会である。
当時、アリスダンジョンに入って行方不明となる冒険者が多発していた。
世界は魔王の恐怖から解放されていたとはいえ、全ての人が裕福に暮らせていた訳ではないからだ。
なぜなら人は平等ではない。
特にこの世界において、この言葉は真理であった。
才能限界レベル、技能レベル。
どんなに努力をしても、決して覆すことなど出来ない絶対の壁。
いや、たゆまぬ努力の果てに技能レベルが加算された実例はある。
神からのギフトや気まぐれで、才能限界が上がったり、やはり技能レベルを貰ったりする実例もあった。
しかし、これは特異な例である。
殆どの場合は、どんなに努力をしても報われず、ましてや幸運を期待するなんて馬鹿げてる。
だけども、その幸運を手にする可能性が高い場所があった。
アリスダンジョン。神の創りしダンジョン。
この地に眠る宝箱を開け、ギフトとして技能レベルが上がったなんて話は良く聞く話だ。
更にこの地には、スターレベル神との遭遇も良く報告に上がる。
彼と出会い、そして気にいられれば、もしかしたら才能限界を上げて貰えるかもしれない。
そこまで望まなくても、宝を見つけることが出来たなら……
低階層では大抵の場合は大した物は出てこない。
しかしだ、たまに物凄いお宝が出てきたなんて話も良く聞くのだ。
だからこそ人は一攫千金を求めてアリスダンジョンを目指した。
魔物の徘徊するアリスダンジョンへと!
一般人の平均的な才能限界レベルは精々が5前後。
そんな明らかに弱い人間達が徒党を組み、洞穴を彷徨い、そして死んでいく。
多い時には日に100人単位の人が骸となり、ここに来てようやく冒険者協会が重い腰を上げる。
アリスダンジョンの探索が出来るだけの実力があるかどうかを確かめるために。
このシャングリラに昔からあった3階層からなる無名のダンジョンは、その試験に持ってこいであった。
こうして今では試験ダンジョンと呼ばれるダンジョンに、冒険者協会が最下層に置いたスタンプを入手して、初めてアリスダンジョンへと潜れるようになるのだ!
そんな場所に、2人の新米冒険者が訪れる。
一人は遠い東の果て、JAPANから来た姫君、織田香。
もう一人は更に遠い異界の彼方から来訪した少年、山本和馬。
2人は顔を緊張に強張らせながら入口に立つ。
手に持つ武器を必要以上に握りしめ、いざ! 試練の場へ!!
第4話 試験ダンジョンに潜ろう!
……と、そう簡単に行くはずはない。
「か、和馬さん、落ち着いてっ!」
「お、おう……!」
手が震える。
恐らく顔も真っ青だろう。
和馬は手に持つロングソードが、酷く恐ろしく感じて仕方なかった。
これからコレで殺し合いをするのだと思うと、どうしても身体が思うように動かない。
だけども、そうもいかない。
そうしてる訳にはいかない。
香が平然としているのに、自分が怖がっている訳にはいかない。
それはちっぽけなプライドだったけども、それを失くした瞬間、和馬は自分が自分でなくるのだと無意識に悟っていた。
和馬は手をぎこちなく上げて少し待って欲しいと香に伝えると、大きく深呼吸を何度か繰り返す。
はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ……
動機が穏やかになっていく。
顔は青いままだったけど、それでも震えは大分治まってくる。
「行こっか」
「はい。でも無理しないでくださいね?」
心配そうな香の声に苦笑い。
情けないな、俺ってヤツは……
和馬はそう思いながら、ロングソードの柄を力強く握った。
「もう少し強力な武器を使えたら良かったんですけど……」
「仕方ないよ。武器スキル持ってないんだからさ」
和馬のロングソードは最も安価で使いやすく、そして威力の低い武器の一つだ。
そう、誰でも使える武器。
例え才能限界レベルが5にすら達しない普通人であっても。
和馬はグルリと周囲を見る。
この試験ダンジョン入り口前の周囲をだ。
そこには何十人もの冒険者見習いともいえる者達や、みすぼらしい姿の、それでもロングソードやこん棒を片手に徒党を組んでる者達が居る。
前者はともかく、後者は明らかに戦闘者としての才能がない。
なのに何故? と思うかもしれないが、この試験ダンジョン内に居る低レベルモンスターを退治し、そのモンスターが落とす金銭でその日暮らしをしているのだ。
アリスダンジョンに入れるだけの才能はなく、それでも畑を耕したりとかいった普通の生活を嫌がり、冒険者を志したものの才能がなかった者達のなれの果て。
大抵はスグに諦め、一般の生活に戻って行くものだが、中にはこうして夢を捨てきれない者達もいるのだ。
冒険者をやっていくには、最低でも武器関連の技能レベルがなければやっていくのは難しい。
なのに、彼らの大部分はそれが無い。
そんな程度の者達が持つ武器なのだ、ロングソードは。
例えば香。
彼女が持つ武器は【家宝の朱槍】(攻+75)
ゲームで言うなら終盤に出てくる超強力な武器だ。
そんなちょっとチート気味の武器を自由自在に振り回す。
試しに和馬が使ってみても、自由自在どころか、重すぎて持つのがやっとである。
ちなみに香は、槍戦闘Lv1にして、護身術Lv2。
Lv1……普通にその武器を使いこなせる。いわゆる一人前。
Lv2……必殺技などが使えるその武器のマスター。いわゆる天才。
Lv3……その武器において神と呼ばれる伝説級。いわゆる歴史に名を残す者。
こうやってみれば、香は主武器である【槍】を一人前に使いこなせ、更に護身術は天才級なんだと解る。
ひるがえって和馬を見てみよう。
彼は異世界人Lv3と冒険者Lv1しか技能レベルを持っていない。
戦闘関係の技能は持っておらず、なんとか冒険者レベルが役に立つといった所か?
ついでに言えば、和馬は元の世界で空手初段だ。
段持ちなら、そこそこ才能がありそうだけども、現実は厳しい。
和馬自身、空手の才能があるなんて思ってなかったけど、どことなく憮然とした気持ちになりはした。
もっとも、素手でモンスターと戦うような破目にならない分、これはこれで良かったのだろう。
下手に才能を持っていれば、剣で戦うよりも素手で戦った方がいいですよ? なんて言われた可能性もあったのだし。
そうはいっても、それとて何の慰めにもなりゃしない。
この先アリスダンジョンの深部を目指すなら、どうしても強力な武器が欲しかった。
今でなくても、いつかは……!
しかし武器技能を持っていない和馬は、強力な武器を装備出来ない。
家宝の朱槍を試しに持ってみても、ステータスには表記されず、ただ重たいだけなのは先に言った通りだ。
こうなれば、いずれ戦闘では殆ど役立たずになる可能性が高い。
もっとも、才能限界レベルが無限であるのだから、ひたすら経験を積むことで、ロングソードのままでも誰よりも強くなれる可能性を秘めているともいえる。
……これはこれで気の長い話で、即戦力が欲しい和馬にとっては、やっぱり何の慰めにもなりゃしない。
とにかく、こうしてても仕方ない。
和馬は震える手で自らの装備をもう一度確認する。
ロングソード、それにアーマー。
続いてステータスを確認し、
山本和馬 18才
クラス 学生
Lv1(才能限界Lv∞)
経験値( 0/100)
HP 25/25
MP 0/ 0
力 9
守備 5
魔法力 0
魔抵力 8
回避 5
速度 5
武器:ロングソード(攻+10)
防具:アーマー(防+8)
アクセサリー:なし
GOLD:0
攻撃力 19
守備力 13
魔法攻撃力 0
魔法防御力 8
技能レベル
異世界人 Lv3
冒険者 Lv1
固有スキル
攻撃
戦術的撤退
祝福 弾数 3/3
キチンと装備が表記され、攻撃力と防御力の上昇を確認する。
異世界人Lv3と祝福の弾数3が気にはなるが、これは後日にシステム屋で調べることが決まってるので後回し。
今度は腰に吊るした2つの袋を見る。
ひとつ千ゴールドもした武器・防具袋と道具袋だ。
これはRPGによくある4次元ポケットと言えば解るだろうか?
その名の通り、武器・防具がいくらでも入る袋(ただし、同一武器・防具は無理)と、道具がいくらでも入る袋(ただし、同一アイテムは9個まで)である。
武器・防具袋は現在空で、道具袋には、
世色癌 9個
世色癌2 9個
帰り木 1個
がしっかり入っているのを確認すると、すぐに取り出せるように何度か出し入れを繰り返す。
特に世色癌は重要だ。
HPが回復するとか超スゲーアイテム。
ドラクエでいう薬草。ファイナルファンタジーでいうポーションである。
だから命が危なくなる前に、すぐさま使えるようにしとかないとと、和馬は必要以上に出し入れを繰り返した。
ちなみに、これらのアイテムは香の道具袋にも当然入っている。
……ここまでに使ったお金の金額を考えると、やっぱり無理ですなんて言えない。
詳しく言えば、
宿屋ご休憩 2G
システム神の祝福 200G
冒険者登録手数料 150G×2=300G
パーティ登録料 50G
武器・防具袋 1000G
道具袋 1000G
世色癌 5G×18=90G
世色癌2 20G×18=360G
帰り木 5G×2=10G
ロングソード 100G
アーマー 80G
計 3192G
宿屋での一泊にかかる平均金額が5G
一食にかかる金額が2~5Gである。
一日で20Gかかると考えれば、3192Gとは159日間、おおよそ5ヶ月分強の生活費に相当する。
ついでに言えば、香の持ち金総額が5300Gだ。
その半分以上を、和馬は香に使わせてしまった計算になる。
和馬が周囲の冒険者崩れから情報収集したところ、この試験ダンジョンBF1に居るモンスターは【イカマン】のみ。
こいつが落とす金が10~15G。
BF2に居るモンスターが【ハニー】と【るろんた】
こいつらが落とす金額が10~30Gって所らしい。
そして、和馬が香と共に決めたパーティとしての決まり事。
入手したゴールドは3分割。
和馬 3分の1
香 3分の1
パーティ 3分の1 である。
これより後は、装備品や娯楽等の個人的にかかる金額は全部自分持ち。
パーティにためる金額は、基本的に日常にかかるお金……
例えば、食事代、宿泊費、回復アイテムの補充、冒険にかかる費用(登録代金等々)
そして、香の強い要望により、ここまでにかかったお金の返却はなし! である。
……和馬は思うのだ。
これから先、一生、香に頭が上がらないと……
だから逃げる訳にも、これ以上怯えた様を見せる訳にもいかない。
和馬はバンっと勢いよく両頬を叩いて気合を入れると、
「……行くぞっ!」
そう言って、試験ダンジョンの入り口……階段を降りていく。
隣の香も神妙な声で、「はい」と頷き和馬の後を追った。
薄暗い階段を抜けると、大人が3~4人並んでも余裕がある、やや広い通路に出た。
岩肌が剥き出しで、所々にある光りゴケみたいな何かの光りだけが頼りだ。
和馬は冒険者Lv1をすぐさま使う。
目の前に現れる未完成の地図。
ゲームで言う所のオートマッピングである。
ちなみに冒険者技能とは、
冒険者Lv1……ダンジョンのオートマッピング
冒険者Lv2……ルドラサウム大陸のオートマッピング
冒険者Lv3……この世界全ての完成されたマップ
その他にも、冒険者として必要な様々な技術の習得が出来たりする、結構便利な技能である。
今のところは、このオートマッピングが便利すぎて、和馬は他の技術にはあまり目がいっていない。
「このピコピコ光ってるのが、今の私たちの位置なんですね」
香がマップ中で光ってる部分を指差した。
和馬は香の言葉に頷き返し、肯定する。
「そうみたいだな。ってことは、この上矢印が階段ってことか?」
「……降りる場合は下矢印なんでしょうか?」
「さあ? まあ、そうだとは思うけど……」
と、その時だ。
薄暗い通路の先から、
────イカーッ!
気色悪い声が響いてきたのは。
その声は、段々と2人の居る場所に近づいてきて、そして……!
上半身がイカの化け物が現れた。
怖い。逃げたい。一人だったらとっくに逃げ出している。
ヌメリと光る白いイカ。下半身に人間の足がニョキッと生えていた。
ゲームで何度か見たことがあったが、現実で見るとかなり気色悪い。
そういえば、ランス6では一般人がとても苦戦してたっけ……
軽くあしらい蹴散らしていたランスが強すぎるのか、それとも普通にこのイカマンが強いのか。
どちらにせよ、
「和馬さん……ッ!」
「……ああ、分かってる!」
逃げ出す訳にはいかない。
……イカだけにいかない。
ぶふぅー!
和馬の脳裏に親父ギャグが炸裂!
普段ならお寒いギャグだが、どうにもテンションが普通でない今、とても面白いギャグに感じた。
青ざめていた顔がゆるみ、僅かにだが笑みが戻る。
強張っていた身体からも力が抜け落ち、武器を買ってすぐにした素振りを思い出しながら和馬は剣を振った。
初めての戦い。
初めての殺し合い。
「うおおおおおおおおおおおおっっ!!」
和馬は剣でイカマンを【叩き】ながら、この感触を生涯忘れることはないだろうと思った。