彼は明らかに興奮していた。
普段自分が利用している道の脇に、ダンジョンへの入り口が出来ていたからだ。しかし、その道は多くの他の冒険者も利用しているため、急がないといけない。恐らく、他の冒険者達もしばらくするとこのダンジョンを見つけて、その攻略に乗り出すだろう。
「ふっ。やはり僕は選ばれた存在のようだね」
だが、彼にはアドバンテージがあった。このダンジョンは昨日まで存在しなかった。毎日利用している道路沿いの崖にポッカリ空いた洞窟-ダンジョン入口-が存在していたため、それは間違いない。つまり、これは出来たばかりの新ダンジョンである。新ダンジョンはほとんどの場合一本道であり、脇道のようなものは存在しない。従って、後から来た他の冒険者が、別ルートを通って彼よりも先にダンジョンコアルームに辿り着くことは無い。
そして、彼に先行する冒険者も存在しない。どうしてそれがわかるのかというと、彼が持つ二つのスキル、『魔力感知』と『気配察知』が影響している。彼には、『魔力感知』により、自分が向かうダンジョン奥に、大きな魔力の塊が存在していることがわかっていた。そして、ダンジョンコアは純粋な魔力の結晶である以上、この巨大魔力はダンジョンコアのものだと考えて間違いない。
さらに、『気配察知』。これは付近にいる人間やモンスターを察知することができるスキルだ。それによると、彼の周辺には何体かのモンスターの気配がある他は、誰もいない。つまり、このダンジョン内には、彼以外の冒険者は存在しないことになる。
モンスターを数体しか感知できないというのは若干心配ではあるものの、恐らく新ダンジョンだからそんなものなのだろう。彼はそう判断していた。
「また、素通りさせた?」
彼はそう疑問を口にする。あたかも、口に出せばその質問に答える者がいるとでもいうかのように。彼は、ダンジョンに入って既に25メートルほど進んでいる。その間、3体のモンスターに遭遇したが、そのいずれもが、彼が近づくとダンジョンの岩の間にある細い空洞に入ってしまい、彼との接触を避けていた。彼は、『気配察知』の感触と、その余りに細い空洞にスルスルと入っていることから判断して、それらのモンスターはスラミーだと推測していた。
スラミーは低級のモンスターで、街の子供達でも簡単に殺せるような存在だ。そんな低級の存在が、強者たる彼を避けるのは一見不思議ではなそうなものだが、それは早計というものだ。
スラミーはあまりに弱く、そして低知能なため、自分が勝てる相手なのかどうかを判断できずに、動くものなら何でも襲撃するという習性があるのだ。なのに、ここのスラミーたちは彼を攻撃せずに、そのまま通過させている。
「感知能力も低いのか?まあ、スラミーだし」
彼は釈然としないながらも、そう判断した。彼が釈然としないのは、今迄に遭遇したことのあるスラミーならもう少し広めの感知能力を持っていたからだ。とは言え、彼が遭遇したことのあるスラミーは全て沼地に生息していた。
沼地に住むスラミーと、岩場に住むスラミーは能力が違うのか? まあ、住んでいる環境が違う訳だから、能力値に違いがあるのは不思議ではない。同じ個体の中でも、ある程度の能力値のばらつきというものはあるわけだから……。
恐らく考えすぎだろう。スラミー達は避けているわけではなく、偶々岩場に戻る動きをしているだけだ。
彼がそう思いながら歩いていくと、そこは出来たばかりの新ダンジョン、すぐに行き止まりに着く。
「ここがダンジョンコアルームか」
そこに在るのはただのドア。だが、その奥からは禍禍しい強力な魔力を感じる。ここまで一本道だったし、この先にダンジョンコアがあるはずだ。
彼がそのドアに近づき、ドアノブに手を掛けようとした時、『気配察知』に反応がでた。
「そこだっ!」
彼は振り向きざまに、懐に忍ばせていた投げナイフを素早く放つ。
キンッ!
だが、金属音をたてて、ナイフは弾かれる。
問題ない。それは想定内だ。元々彼は投げナイフがそれほど得意というものでも無く、先ほどのナイフは単ある牽制に過ぎない。彼は、そのまま流れるような動作で腰に差した剣を抜き構える。
「え?」
背後をとった敵に対してナイフで牽制。振り向きざまに剣を抜くというのは、冒険者育成所で習う基本的な動作の一つだ。そのため、彼はここまでの動作をほとんど何も考えずに反射的に行うことができた。
だが、背後を取った相手の姿を認めた時、彼の動きは固まる。
そこには、女の子が立っていた。それも、とびきり扇情的な姿をした美少女だ。美少女は、生地の薄い黒色の、露出の大きな服を着ていて、その大きな胸の膨らみを自慢げに露出していた。
また、美少女の穿いているスカートはあまりにも丈が短すぎるのと、スリットを深く入れすぎているせいで、その下の下着が顔を出しそうなほど。
なんで、こんな荒事にはとても向いているように見えない美少女がダンジョンなんかにいるんだ?
彼は、状況が理解できずに混乱する。
だが、
「うふふふ。中々やるのね。気配は隠してたつもりなのに、あたしに気付くなんて」
美少女が、その可愛らしい口を開く。その言葉は、表面だけなら彼の技量を褒めている。だが、美少女の表情は彼を小馬鹿にしていた。
突然現れた露出過剰な美少女に、意識を奪われていた彼は、その美少女の残虐な表情に、意識を現実へと向ける。
「っ?! なんだっ?! お前っ?!」
すると、彼の持つスキル『魔力感知』に異様な反応があることがわかる。そう、彼の『魔力感知』は、目の少女がモンスターであることを告げていたのだ。人間とモンスターでは、魔力の波長が全く異なるため、この二つを間違えることはない。彼にはその自負があった。
だが、目の前の美少女は、一見人間のように見える。人間のような恰好をしたモンスター? そんなものが存在するのか? 冒険者育成所で、そんなモンスターがいるとは、教わらなかったぞ?
勿論、人型モンスターというものは存在する。ゾンビやスケルトンといった、人間の死体が基になったモンスターがそうだ。それに、ゴブリンやオークといった二足歩行をしているモンスターも、人型と分類される。だが、それらはあくまで人型をしているというだけだ。完全に人間と見た目が変わらないモンスターなど存在するのか?
彼は混乱する。育成所の座学で習った内容と、現実が乖離していたからだ。
そして、その隙を少女は見逃さなかった。
腰の剣を抜き放ち素早く接近すると、彼に斬りかかる。
「なっ!」
彼は慌てて、自分の剣で攻撃を受けとめる。
だが、
「っっ!!!?」
すぐ目の前に、美少女が相対することになり、彼は動揺する。まだ20歳の青年に過ぎない彼は、冒険者養成所での訓練や数年間にわたる冒険者としての経験を忘れ、目の前の少女―-それも、たわわに実った胸部の果実――に釘付けになる。
当然、そんなものを至近距離で見せられた彼の股間はズボンの下でその存在を主張することになる。
「……厭らしい男。戦闘中に勃起するなんて」
少女は汚物を見るような目で彼を睨み付けると、腕の力を軽く緩める。
「っ?!」
美少女の爆乳に釘付けになっていた彼は、その突然の動きに対応出来ずに体勢を崩す。
「ふっ!」
彼の隙を作った美少女は剣を一閃。彼の剣をその手から弾き飛ばす。
カラン
乾いた金属音とともに、彼の剣は洞窟の堅い床に転がる。
彼は現状に驚愕する。少女の腕や脚は、彼が握っただけで簡単に折れそうなほどに細い。また、少女のほっそりとして精巧な指は、到底水仕事や力仕事をやっている者のそれでは無い。それなのに、どうしてこんな速度と力、それに技量を持っているのか?
「戦闘中に考え事? 随分と余裕なのね?」
美少女は傲然と微笑むと、左手の小指を微かに振りわせる。
何だ? その小指には、何かの細い糸が巻き付いている。否。よく見ると、少女の指にはすべて糸が巻き付いていて、ダンジョン中に広がっている。
「しまった!!」
罠にかかったことに気付いた彼は、慌てて逃走を試みる。
しかし、現実は無常。罠に気付くのが余りにも遅すぎた。彼の足に糸が絡みつく。逃走のため動き出した足は、そんな絡んだ糸に引っ張られてしまう。当然の結果として、彼は勢いよく転倒する。
「くっ!!」
受け身を取ろうとするも、地面はゴツゴツした岩場。満足な受け身が取れずに、岩に体を強打する。
「うふふふ。這いつくばってるのがお似合いよ。人間は」
美少女が傲然と見下ろしてくる。
「舐めるな!!」
彼は、倒れた相手を見下ろし隙だらけになった美少女に、予備のナイフを投じる。
ナイフの狙いは胴体。頭は頑丈な頭蓋骨で守られていて攻撃が通りにくいし、そもそも的が小さい。一方、胴体は重要な臓器が無防備になっている。従って、胴体を攻撃するというのが戦闘の基本だった。良くも悪くも彼は基本に忠実な、優秀な新米冒険者だった。
だが、彼が基本的な動きしかしないことは少女に看破されていた。そんな美少女にとって、不安定な姿勢で投じられたナイフを防ぐのは容易で、軽く剣を振るっただけで攻撃を弾く。
「動きが見え見えなのよ。あんた」
美少女は右手の親指を動かし、次に左手の薬指を振る。
すると、美少女の指に巻き付けられている糸の何本かが蠢動し、彼の四肢を拘束する。
「くっ!!放せっ!!」
自身の体が拘束され身動きの出来ない彼は何とか抜けだそうともがく。だが、彼がもがけばもがくほどに糸が食い込み、ますます強固に彼を拘束する。
彼が完全に拘束されたことを確認した美少女は、傲然と彼のそばへと近づく。
彼の側に立った美少女は、当然のように足を上げる。
すると、少女の穿いているミニスカートがめくれ、パンツが丸見えに……ならなかった。
美少女はノーパンだったのだ。
彼の視界の中で、少女の陰毛と、陰毛に半分隠された性器が露わになる。
当然、そんなものを見せられた彼のペニスはさらに勃起し、ズボンの下でギチギチとその存在を主張。射精してしまう。
彼のペニスの無様なさまを見た美少女は、妖艶にほほ笑む。そして、
「くすくす。男たちって本当に単純よね。こんなに簡単に射精するなんて。まあ、取り敢えず、その下品な股間から痛めつけてあげるわ」
少女はそう宣言するや、振り上げた足を彼のギチギチに勃起した股間へと振り下ろす。
ペチャ。
「イぎャああアあ!!」
股間はその一撃で潰れ、あまりの痛みに彼は悶絶する。
「ふふふふ。今度は、頭。もっとイタブリたいけど、後が支えてるんだから」
少女はそう宣言すると、剣を振り上げる。
「嫌だ!死にたくない!!死にたくない!!」
命乞いする彼に、死神が迫る。彼の死神は、美しい少女の姿をしていた。
「何でもします!! 何でも!! そうだ!! 人間達をこのダンジョンにおびき寄せます!! 僕は役に立ちます!!」
彼は必死に命乞いする。だが、死神は無情だった。
「残念。あんたはここまで」
ザシュ!コロコロ。
命乞いも空しく彼の首は撥ねられ、ダンジョン内に転がる。