※この作品はR-18です。

【R-18】レッドキャップ 【後日談】   作:WhatSoon

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#94 レスト・イン・ピース part1
で、ピーターが間違ってしまった話。


What if …?

「ピーターのして欲しい事、何でもしてあげる」

 

 

ミシェルがそう、口にした。

 

思わず僕の口から息が漏れた。

何を言ってるのか分からなくて、僕は黙ってしまった。

 

そんな僕の様子を無視して、ミシェルは言葉を繋げる。

 

 

「何でも良い……ピーターが望むなら……私のこと、好きにして良い」

 

 

心臓が跳ねて、彼女の事を直視出来なくなる。

何でも?

何でもって……そんなの。

 

 

「よ、よくないよ。ミシェル……そんな事を言ったら!僕だって男だし──

 

「良い。ピーターなら、良いから」

 

 

細く、白い指が絡まる。

僕を見る目が、熱っぽくなる。

 

吐息を感じる。

 

 

「何でも、してあげる」

 

 

僕は、僕は──

 

 

 

 

彼女を抱きしめた。

 

 

 

 

「ど、どこにも……行かないでよ……ミシェル」

 

「…………」

 

「君が何者だったとしても……僕は、僕は君の事が好きなんだ……」

 

「……ピーター」

 

 

ミシェルの手が、背中に回った。

抱きしめ返されたのが分かった。

 

 

「……いいよ、ピーター」

 

 

彼女の言葉に顔を上げた。

顔も触れるぐらいの距離で、吐息を感じた。

 

 

「ピーターが愛して、くれるなら」

 

「……ミシェル」

 

 

唇を、合わせた。

 

彼女が悪人だとか、レッドキャップだとか、もう全部、どうでも良かった。

ただ、僕は彼女のことが好きで、彼女と一緒に居たかった。

 

不都合な現実から目を逸らして、今はただ……全てから目を逸らして、彼女だけを見つめていた。

 

月は綺麗に輝いていた。

しかし雲が……少しずつ、月を隠し始めていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ミシェルと手を結んだまま、二人……いつものアパートに帰って来た。

 

手は離せなかった。

離してしまったら、どこかに消えてしまいそうだったから。

 

それは僕達の隣り合う部屋の、玄関の前でも……手放せなかった。

 

 

「……ピーター?」

 

「ご、ごめん……」

 

 

離さなきゃならないのに、手を離せない。

分かっているけど、分からない。

 

彼女は何故──

 

僕はどうして──

 

ミシェルが、穏やかに笑った。

 

 

「ん、いいよ。今日は一緒に寝てあげる」

 

「……い、いや……それは──

 

 

僕は驚いて、それでも……彼女の言っていた「何でもしてあげる」という言葉を思い出して……頷いた。

 

 

「……ありがとう」

 

「ううん、私も……今日は、一人で寝たくなかった……から」

 

 

手を結んだまま、僕の部屋に二人で入る。

ベッドの上に二人で並んで、手を重ねている。

 

……僕の心にある焦燥感、緊張感。

心臓は高鳴っている。

 

彼女が愛しいから……そして、彼女が居なくなってしまえば……怖いから。

 

 

「……ピーター、シャワー浴びてきたら?」

 

「あ、う、うん。そうだね……」

 

 

名残惜しくも、彼女の手を離して……僕はシャワールームへ向かった。

プロム用のカジュアルなスーツを脱ぎ捨てて、火照った身体を水で冷やす。

 

……深呼吸する。

 

大丈夫。

今すぐに彼女が居なくなる訳じゃない。

 

……彼女の悩みを訊いて、助けるんだ。

それは僕にしか出来ない事だから……。

 

 

蛇口を閉めて、シャワーを止める。

身体を拭いて、パジャマに着替える。

 

 

「あがったよ、ミシェル」

 

「ん、じゃあ次は私が入る」

 

 

いつも通りの態度からは……あの血塗れのマスクの姿とは被らない。

だけど、実際に……僕は昨日、彼女の顔を殴ったんだ。

 

血塗れになるまで……顔の骨が折れる感触もあったのに、止めずに、何度も──

 

 

「ピーター?」

 

「っ、あ、あぁ……どうかした?」

 

「ううん、大丈夫。私は」

 

 

ミシェルが僕の頬を撫でて、笑いながら横を通り抜けた。

だけど、その笑みは……心の底から、なのだろうか。

 

……僕は彼女を愛している。

例え、どんなに裏で悪い事をしていても、彼女の事を愛している。

 

自分の、親愛なる隣人(スパイダーマン)としての在り方を捻じ曲げたとしても……それでも。

 

彼女と一緒に居たい。

 

 

シャワールームで水が流れる音がする。

僕は手に巻いた腕時計型のスーツを握る。

 

公正とは言い難い。

ヒーローとしては失格だ。

 

それでも、好きな人と一緒に居たい。

彼女が居なくなれば、僕は生きていけない。

 

一年だ。

たった一年、一緒に居ただけだ。

 

それでも、僕の生きて来た人生を塗り替えてしまうほど、彼女を好きになっていた。

 

 

シャワールームのドアが開いた。

 

 

……一つ、懸念点が湧いた。

彼女はプロム用の黒いドレスを着ていた。

 

寝るために他の服を用意してあげないと──

 

 

「……ピーター」

 

 

そう訊こうとしたのに、彼女はシャワールームから出て来た。

 

……バスタオルを身体に巻いた姿で。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!パジャマとか用意するから──

 

「ピーター」

 

 

慌てる僕を他所に、ミシェルが僕に近づいた。

シャワーを浴びて濡れた艶やかな素肌に、視線が吸い寄せられそうになる。

 

 

「ミ、ミシェル?」

 

「ピーターはまだ、私のことが好き?」

 

 

視線が釘付けになる。

怯えるような目をしていた。

縋るような目をしていた。

 

僕は……頷いた。

 

 

「好きだよ」

 

「…………」

 

「他の誰よりも……何もかもがどうでも良くなるぐらい……君の事が好きなんだ。例え、何があっても……」

 

「……そう」

 

 

その目に喜びが映った。

 

綺麗な唇が仄かに笑う。

可憐さと、不思議な色気があった。

 

そして、その唇が言葉を紡いだ。

 

 

「私も、ピーターが好き」

 

「……そ、っか。凄く、嬉しいよ」

 

 

心の底から喜べる筈だった。

だけど、沢山の迷いや、彼女を取り巻く苦しみを考えると……辛い。

 

喜びたかったのに、水を……いいや、汚泥を差し込まれたような気持ち。

 

 

「だから、ピーター……」

 

 

彼女の、柔らかな肌が僕の手に触れた。

 

 

「私を抱いて」

 

 

彼女の言葉は理解できた。

だけど、脳が理解を拒否していた。

 

 

「……ミシェル」

 

「お願い、ピーター。何も、何も……言わずに……」

 

 

縋るように、懇願するように……抱いて欲しいとミシェルが言った。

 

それで、彼女が喜んでくれるなら……僕は、僕は……従う。

 

 

僕は、彼女の言葉に頷いた。

 

 

その時の彼女の顔を、僕は二度と、忘れられなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

全裸で、ベッドに横たわるミシェルを……見下ろした。

 

綺麗な首筋、張りのある二つの緩やかな膨らみ、綺麗な肌。

 

思い描いていたよりも、綺麗で……僕を唆る。

怖くなるほど蠱惑的な、少女らしい肉体美がそこにあった。

 

純白のシーツに触れる事を、躊躇するように。

僕が触れてしまえば、その純白を汚してしまわないかと……思わせた。

 

 

「ピーター、はやく……」

 

「う、うん……」

 

 

だけど、どうしたら良いかなんて分からない。

僕が知っている情報は、ちょっとしたアダルト雑誌ぐらいの知識だから。

 

彼女を不快にさせたくなくて、行動出来ずにいると──

 

 

ミシェルの手が僕に手を掴んだ。

 

 

「怖がらなくて良い、から」

 

「……ミシェル」

 

「好きに、触りたい場所を触って……?」

 

 

彼女に誘導されるまま……僕は彼女の乳房に触れた。

 

凄く、柔らかかった。

 

そして、誰も触れる事のできなかった彼女の部分に触れているという『特別感』は僕の感情を昂らせた。

 

彼女がそこに居るのを確かめるように、手で触れる。

 

 

「……そう、そんな、感じで」

 

「……うん」

 

 

無意識に息を荒げながら、彼女に触れる。

こんなにも、柔らかかったんだ。

こんなにも、華奢だったんだ。

 

そして……指が、下腹部に触れた。

そこから下には──

 

 

「……いいよ、触って」

 

 

彼女の秘部があった。

指で、なぞる。

 

 

「ん……」

 

 

初めて生で見る女性器に、少し戸惑いながら……なぞる。

 

 

「あっ……」

 

 

デリケートな部分に触れる度、彼女が艶やかな声を出した。

……気付けば、僕の男性器は大きく硬くなっていた。

 

彼女の陰部の膨らみを、指で押すように揉む。

 

 

「ん、ん……」

 

「……こ、これで良いのかな?」

 

 

思わず不安になって訊いてしまった。

凄く情けない声で……幻滅されないか、怖くなっていた。

 

 

「……もう少し、内側にも触れて、欲しい」

 

 

そう言われて、僕は彼女の陰唇を……指で広げる。

綺麗なピンク色の、中が見えた。

 

 

「……指、入れて?」

 

 

僕は頷いて……彼女の、穴に中指を入れた。

きゅうきゅうと強く締め付けられて、心臓が高鳴った。

 

 

「んっ、もう少し、奥の……上」

 

 

誘導されるまま、触れて……触れた。

 

 

「ん、ぅ、そこ……そこが、凄く、気持ち、いい……から」

 

 

指で押して──

 

 

「んっ」

 

 

擦って──

 

 

「あっ」

 

 

揺らした。

 

 

「……ん、もう、良いかな……濡れた、から」

 

 

指を抜くと……僕の指には粘液が付いていた。

彼女の愛液だ。

 

独特な香りに、僕はもう……耐えられないほど、男性器に血が通っていた。

筋が浮いて、硬くなっている。

 

 

「……コ、避妊具(ゴム)取ってくるね?」

 

 

そう言って立ちあがろうとした時、ミシェルに手を引っ張られた。

驚いて振り返ると、目を細めて……僕の唇を指でなぞった。

 

 

「無くていい」

 

「で、でも……」

 

 

性病の危険性や、妊娠。

脳に幾つも付けるべき理由が湧いて──

 

 

「ピーター……」

 

 

ミシェルが仰向けになって、自身の陰唇を広げた。

扇状的な仕草に、目を釘付けにされる。

 

 

「お願い」

 

「っ、あ……」

 

 

まるで光に誘われる蛾のように、僕は彼女に吸い寄せられて──

 

彼女の秘部に、僕の陰茎を押し当てた。

 

 

「……もう少し、下……」

 

 

息を荒げる。

 

 

「ん……そこ……」

 

 

彼女の中に、僕の性器が入っていく。

 

ぬるぬるとした感触。

きゅうきゅうと締め付けられる。

ひだが絡みついて、性器を刺激する。

 

 

「んっ、そう、その、まま……」

 

「う、くぅ……」

 

 

我慢のあまり、声を堪えている。

押し広げる感触が、脳に伝わってくる。

 

彼女が僕と繋がっている場所から、血が垂れる。

 

 

「あ……」

 

「大丈夫……大丈夫だから、そのまま……」

 

 

破瓜の痛みに堪えながら、そう彼女が口にする。

 

初めて、だったんだ。

僕が……初めて、彼女に受け入れられたんだ。

 

脳を占める幸福感と、綺麗な物を汚してしまった罪悪感を感じつつ……性欲のまま、彼女の中にペニスを押し込んだ。

 

そして、ようやく──

 

 

「んっ、ぁっ」

 

 

彼女の、奥にまで到達した。

背筋をなぞる快感。

 

痛いほど締め付けてくる彼女の膣。

 

多幸感と、初めて感じる刺激に……僕は──

 

 

「っあ……」

 

 

射精してしまった。

彼女の中に、精液を流し込む。

 

脳に焦りと、止めなきゃならないという危機感……それでも、その生理現象は止まらなかった。

 

ドクドクと流し込んで、ミシェルが僕の顔を見た。

 

 

「ピーター……」

 

「っ……ご、ごめん」

 

 

情けない。

恥ずかしい。

 

彼女は僕に身体を曝け出してくれたのに、怖かっただろうに、緊張していたのに……答えられなかった。

 

不甲斐なかった。

 

……そんな僕の顔を彼女が触れた。

 

 

「……まだ、出来る?」

 

「……っ」

 

 

そう言ってくれた。

……彼女の膣に入れたまま、僕のペニスは……勃起を維持していた。

 

 

「……うん」

 

「なら、そのまま……して?」

 

 

脳が焼き切れるほどの、誘惑。

それに僕は……従った。

 

腰を、ゆっくりと動かす。

……凄く、気持ちよかった。

 

だけど、ミシェルは少し痛そうにしている。

 

 

「……だ、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫、だから……もっと、激しくして、良いから」

 

「で、でも……」

 

 

ミシェルが僕に手を伸ばして、顔を引っ張った。

 

 

「私の事、忘れられなくなるぐらい……メチャクチャにして?」

 

 

唇を重ねた。

舌を絡める。

下品な音を立てながら、貪りあう。

 

精液と愛液が混じった彼女の膣を、掻き混ぜるように……僕は腰を振る。

 

 

「ん、んっ……」

 

 

華奢な身体を抱きしめて……彼女を犯す。

舌を絡めていた口を離して、息を深く吸う。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

「い、いい……よ、ピーター、そのまま……」

 

 

汗と愛液が混じって、シーツを汚す。

 

だけど、そんな事、どうでも良かった。

 

 

「ミシェル、ミシェル……!」

 

 

好きだ。

好きだ。

好きだ。

 

 

「んっ、ピーター……ピーター……!」

 

 

愛してる。

愛してる。

愛してる。

 

好意をぶつけながら、劣情のまま彼女を貪る。

 

彼女をベッドに横たわらせて、足を開かせて……犯す。

 

乱れた彼女の顔は、初めて見る表情で……多幸感に満ち溢れていた。

 

……先程とは比べ物にならない快楽が、僕を襲う。

 

 

「……ミシェル、そ、そろそろ……」

 

「いいよ、んっ、ピーター……ぁ、ん……中に、射精()して」

 

 

僕は息を荒げて、腰を振る速度を早める。

勢いも強める。

 

ぱちゅん、ぱちゅんと淫靡な音が部屋に響く。

互いの汗を混じらせて、精液と愛液を混じらせて……ドロドロに溶けて一つになってしまう程に、まぐわう。

 

 

そして、僕は彼女の腰を掴み──

 

 

「う、くぅ……」

 

 

彼女の一番奥で、射精した。

僕の身体に残っていた全てで、彼女に印を付けるように……出した。

 

 

「……ん」

 

 

僕がペニスを抜くと……先程まで繋がっていた場所から、白い精液が溢れた。

 

その光景を見て……彼女がもし、妊娠すれば……ずっと、僕と一緒に居てくれるんじゃないかと……そんな事を考えてしまった。

そう考えてしまう程に、僕は焦燥感に苛まれていた。

 

……直後、浮遊感を感じた。

前日、寝れていなかったからか……疲労の限界が来て、頭が真っ白になっていく。

 

倒れ込む僕を、ミシェルが抱きしめた。

 

 

「ミシェ、ル……」

 

「……ピーター、ありがと」

 

 

抱き締められる。

感謝の言葉……なのに、それは僕を不安にさせた。

 

 

「……一緒、に──

 

「……ごめんなさい、それは……無理、だから」

 

 

掠れた目で、ミシェルを見上げる。

雫が落ちてきていた。

 

彼女の涙だった。

 

 

「……ミシェル、僕は──

 

 

僕の言葉を無視して、ミシェルが口付けした。

チクリ、と背中に小さな痛みを感じた。

 

何の痛みだったかは……分からない。

だけど、無理矢理起こそうとしていた意識が、急激に睡魔に沈んでいくのを感じた。

 

 

「……君を、守り……たく、て……」

 

「……愛してる。ううん、愛してた、よ……ピーター」

 

 

暗闇の中に沈んでいく僕が見たのは、大粒の涙を流しながら無理をして笑っている、彼女の悲しすぎる笑顔だった。

 

 

それが、僕が最後に見た……彼女の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の眠る墓は、ニューヨークの墓地にある。

 

……あの日、目覚めた僕の前から、彼女は居なくなっていた。

 

そして、数日後……スタークさんから、彼女が亡くなった事を聞かされた。

 

彼女の心臓には爆弾があって、それが爆発してしまった……らしい。

 

ミシェルの事を、アベンジャーズは前から知っていたらしく……彼女を救うために大規模な作戦が実行されたらしい。

それでも、彼女を助ける事は出来なかった。

 

らしいと言うのは、全てが終わった後に知ったからで……スタークさんに、謝られた。

 

 

君の想い人を助ける事が出来なかったと、やつれた顔で……全てが終わったのだと、僕は知った。

スタークさんに酷い事を言いそうになって、僕は飲み込んだ。

 

何もしなかったからだ。

僕は何も出来なかった。

 

大いなる力に対して、責任を全うしなかった。

 

僕は彼女と一緒に居たいと言いながら、目を逸らしてしまった。

 

だから、これは……僕の責任だ。

僕が悪いんだ。

 

何日も泣いて、崩れて……何も出来ず、無気力な日々を過ごした。

 

 

 

僕は、彼女の死体を見る事も出来なかった。

上半身が裂けて、見れるような物じゃなかったと……スタークさんは言っていた。

 

僕は無理を言って、彼女の墓を建ててもらった。

本来なら、親族のいない彼女は共同墓地に行く筈だったけれど……それでも、僕が管理をするからと、言ったんだ。

 

墓石に視線を移す。

 

 

R.I.P.(安らかに眠れ)

『MICHELL JONES』

 

 

そう、彼女の墓石に刻まれていた。

一輪の花を捧げて、立ち上がる。

 

……脳裏に焼きついた幸せな記憶。

だけど、今はそれが辛かった。

 

乾いた涙腺が痛む。

 

僕は……どうすれば良かったんだろう。

何度も何度も思い描いた。

 

……幾つも、選択を間違えた。

その結果が、彼女の死だ。

 

神様がいるのなら、僕を罰して欲しかった。

彼女ではなく、僕を。

 

 

……僕は震える手で、墓石を撫でる。

冷たく、硬かった。

 

 

もう一度だけで良いから、彼女に会いたかった。

彼女に、僕を叱って欲しかった。

笑って欲しかった。

 

僕の胸の中にある想いを全て、打ち明けたかった。

 

それももう、叶わない。

 

 

 

手を、握りしめる。

 

叔父が死んだ時、もう二度と間違えないと誓ったのに。

 

また、間違えた。

 

僕はなんて、どうしようもない人間なのだろう。

 

 

……立ち上がろうと脚に力を込めた。

だけど、立ち上がれなかった。

 

僕は、僕は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君、邪魔だよ。花も添えられない」

 

「……っ、あ、すみま、せん……すぐ、退きますから……」

 

 

振り返ると……いつか見た、薄い金髪の、コバルトブルーの瞳を持った男がいた。

……ハロウィンパーティで会った、少しミシェルに似ている人。

 

どうして、ここに──

 

男はミシェルの墓に花を置いた。

真っ黒な花だ。

 

 

「貴方は……」

 

「……彼女の親戚だよ」

 

 

目を見開いて、乾いた唇を閉じた。

少し、彼が祈っていた。

 

死んでしまったミシェルに対して、彼が何を感じているのか……僕には分からない。

それでも、大切に思っていたのだろうと感じた。

 

……居ない、と聞いていた親戚を名乗る男なんて警戒するべきだろう。

それでも、彼の表情を見れば責める事は出来なかった。

 

全てを失ったような顔だ。

僕が毎朝、鏡で見る顔に似ていた。

 

 

「……何も、訊かないんだね」

 

 

僕に顔も向けず、男が口にした。

 

 

「……いえ、訊く権利が、僕には……ないので」

 

「……そうか」

 

 

彼が立ち上がり、振り返った。

複雑な感情が入り混じった顔で僕を見て──

 

 

殴られた。

 

 

頬を殴られた僕は、よろめいて後ろの木々にぶつかった。

 

 

 

「……本当は殺してやりたい所だけど、僕も君と同じ、何も出来なかった屑だ」

 

 

震える声で彼がそう言った。

 

 

「そして、彼女は君を愛していた……だから、これで許してやる。殴りたかったら、君も僕を殴っていいよ」

 

「……い、いえ……僕は……」

 

「……あまり、公平(フェア)じゃなかったか。スパイダーマン」

 

 

ぽつりと彼が溢した言葉に、目を見開いて……それでも、震える拳を握って下を向いた。

 

 

「もう、僕はそう名乗りませんよ」

 

「……折れたのか」

 

「好きな女の子も守れないのに、ヒーローなんて──

 

 

 

 

 

 

もう一度、彼に殴られた。

地面に崩れて、土の味を噛み締める。

 

 

「う、ぐ……」

 

「さっき、許すと言ったけど……すまないね。もう一度、殴ってしまったよ」

 

 

男が僕の服の裾を掴んで、無理矢理立たせた。

 

 

「……ぅ」

 

「僕はきっと、彼女と最後に話した一人だ。彼女は最後に何を話したと思う」

 

 

僕は彼の、ミシェルとよく似たコバルトブルーの瞳を見た。

睨んでいるけれど、憎んでいるようには感じなかった。

 

 

「君の事だ。ピーター・パーカー、スパイダーマン、君だ。君なんだよ」

 

「僕、が……」

 

「そうだ。他の誰でもない、君の事を最後に話した」

 

 

襟を掴んでいた手が離れて、僕は地面を踏み締めた。

 

 

「恨み節か?後悔か?怒りか?違う……彼女は君を心配していた」

 

「……ミシェル」

 

 

墓に視線が移る。

もう二度と合わせる事の出来ない顔を、脳裏に思い浮かべる。

 

 

「『大いなる力には大いなる責任が伴う』……そして、例え自分が死のうとも、必ず立ち上がって欲しいと……そう言ったんだ」

 

「……う、ぁ」

 

「今際の際だぞ!?僕ではなく、君に伝言を頼まれたんだ……!僕が……だから、君に立ち上がって貰わなきゃならない」

 

 

心が震える。

 

 

「彼女は君の重荷になりたくなかった……だが、僕は君に、彼女の事を忘れて欲しくはない!そうでなくては、報われない!」

 

 

叫ぶような、喚くような、泣いているような……彼の顔が歪んで、息を深く吐いた。

 

 

「これは八つ当たりだ。だが、忘れないでくれ。彼女の事を……僕が言えた義理ではないだろうが、それでも……頼む」

 

 

そう言って……ふらふらと、彼は墓石のある墓地から出ていった。

僕はまだ、彼女の墓石の前に立っていた。

 

 

……思い出す。

彼女が好きだったヒーローの事を。

 

 

先程の言葉を。

 

 

 

大いなる責任を。

 

 

 

手首に巻いている時計型のスーツを見た。

 

 

ミシェル。

分かったよ。

 

 

また、立ち上がるよ。

もう少しだけ、頑張ってみるよ。

 

君が好きだったヒーローであり続ける為に。

 

助けられなかった君の代わりに、沢山の人を助けるよ。

これからも……困っている人のために、頑張るよ。

 

与えられた大いなる力を使って、もう、二度と間違えずに……ヒーローとして。

 

 

 

 

 

だって、僕は──

 

 

 

 

 

親愛なる隣人、スパイダーマンだから。

 

 

 

 

 

どっちが好き?

  • ピーター優勢
  • ミシェル優勢
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