西大陸中央部にあるグロワール王国は少し前まではそれほど存在感のない国だった。
先の大戦以前から存在し、大国と呼べる領土と人口を誇る一方で、伝統的に消極的な外交を続けており、大陸の歴史にほとんど絡まないまま
周辺国は、確かな力を保持しながらも近付かなければ害のない国として、グロワールの事を"脚のない巨人"と呼んだ。
──そんな状況に変化が起きたのは国王マチアスが病に倒れてからだ。
国家の主柱を欠いた事で更に内向的になると予想されたグロワールが、それを裏切るように外交を活発化させたのである。
かの国との繋がりは周辺国に少なくない恩恵を齎す。それを理解してか、強硬な姿勢を貫いたグロワールは、数100年に渡って孤立していた状態から僅か数ヶ月で地域大国の地位までのしあがったのだった。
更に、それによって不利益を被ったとある国がグロワールに敵意を見せると、報復と称して侵攻し、瞬く間に飲み込んでしまう。
それを見た周辺国はグロワールという名の巨人が遂に立ち上がったのだと震え上がり、大陸の勢力図も大きく変化する事となった。
──グロワール王国の急激な変化の裏にいたのは次期女王のクラリスという女性だった。
父王の代理として政務に携わる事となった彼女は、当時17歳。
それまで王女として政治に関わる事なく過ごしており、大臣達は彼女に何もせずにお飾りとして
しかし、その願いを良い意味で裏切ったクラリスは、施政者としての類稀なる才能を開花させ、次々と国に利益を齎した。
1年も経つ頃には支配者としての風格を纏い、大臣達を完全に従えていた程だ。
人々は、クラリスがこれからも国を導き、豊かにしてくれるに違いないと信じていた。
──問題が起きたのはクラリスが19歳の時だった。
その年、国王マチアスはついぞ回復する事なくこの世を去った。
それによってクラリスは正式に女王に即位する事が決定し、これまで以上に実権を握れるようになると思われた。
しかし、とあるスキャンダルによって城内に不穏な空気が漂い始めると、数日後に行われた戴冠式の場で最悪の形で表出するのだった。
★
戴冠式は王城の広場で行われていた。
クラリスの姿を一目見ようと集まった数万人の国民は先程まで地鳴りのような大歓声を上げていたのだが、今は静かに城壁の上にいる2人の人物に目を向けている。
片方はこの式の主役である新女王クラリスだ。
純白のドレスを身に纏った黄金の髪の女王は、その美貌と溢れ出るオーラで多くの目を惹きつけている。
一方、彼女と相対しているのは肥え太った中年の男だった。
王弟パスカル。
クラリスの叔父に当たる人物である。
彼は若い頃、幾度となく問題を引き起こし、先々代国王によって王位継承権を永久に剥奪されている。
クラリスは昔から彼を"王家の恥"と侮蔑していた。
そんな男が重要なこの式典に乱入し、戯れ事を口にしたとあって、彼女の機嫌は今すこぶる悪かった。
「──叔父上。よく聞こえなかったのだが……今、何と口にした?」
クラリスは目に殺意さえ込めてパスカルを睨み付ける。
しかし彼はそれに全く怯んだ様子もなく、ニヤリと醜い笑みを浮かべた。
「お前に女王になる資格はないと言ったのだ、クラリス。当然だろう? なにせお前には王家の血が流れていない可能性があるのだからな!」
勝ち誇ったようにパスカルが言うと、観衆がざわつき始める。
「いきなり現れて何を言うかと思えばそんな事か。それは飽くまで可能性の話だろう? 王家を象徴するこの金髪を見て、私が何処ぞの下級騎士の娘だとでも侮辱するつもりか?」
「ふん。金髪などそこらに溢れているではないか。それに染料を使えば容易く色など変えられる。なんの証明にもならんと分からんのか?」
「子供の頃から知っている貴方は私の金髪が紛い物でないと分かるだろうに……。それに私が間男の子種だという証拠もないだろう? 全ては貴方の想像に過ぎん」
「その可能性が僅かでもある時点で問題なのだ。騎士風情の娘が王となるなど諸侯は認めないだろうし、何より教会が許さない」
パスカルのその言葉にクラリスは小さく舌打ちする。
場合によっては王家を凌ぐ影響力を持つエクラ教。彼等が崇める神の血をグロワール王家は引いているとされていた。
そのお陰で歴代の王は宗教の力を借りる事ができ、国を一つにまとめる事が出来たのだ。
彼等の協力がなければクラリスといえども貴族達を完全に御すのは難しかった。
(母上も余計な事をしてくれたものだ……)
クラリスは愚かな母を恨まずにはいられなかった。
先日発覚したクラリスの立場すら揺るがしかねないスキャンダル。
それは彼女の母である王妃が側近の騎士と不倫していたというものだった。
元々その騎士と恋仲だった王妃は、望まぬ政略結婚の末に王家に嫁ぐことになったらしい。
それは同じ女としてクラリスも同情するのだが、父と正式に結婚した後もその騎士との関係を続けていた事は軽蔑するしかない。
調査の結果、クラリスを妊娠した時期に騎士を寝室に招いていた事も分かっていて、クラリスが王家の血を本当に引いているのかという疑惑が生まれたのだ。
今回の件に関してはパスカルの言い分にも正当性がある為、余計にクラリスを悩ませている。
「ならばどうするつもりだ、叔父上。まさか貴方が代わりに王になるとは言うまいな。私以上にその権利のない事は流石に理解している筈だ」
「分かっているとも」
「では、どうするのだ? 残念な事に王族は私と貴方以外にいないのだが」
「そうだな。父親が誰か分からないが一応は王になる権利を持つお前と、継承権こそないが確実に王家の血を引く私。その2人だけだ」
パスカルの言い方に嫌な想像をしたクラリスは、声を低くして訊ねる。
「──何が言いたい?」
「なあ、クラリスよ。お前が真に国を想うなら、選択肢は一つしかないだろう?
────私の子を産め」
パスカルはニヤリと笑ってそう口にする。
予想していたクラリスは不快そうに目を細めた。
「私自身に継承権はないが、子供は別だ。その子を次期国王とするならば、教会も一時的にお前が女王の地位に着くことを認めてくれるかもしれないぞ」
クラリスはもう一度舌打ちする。
私情を抜きにするならパスカルの提案は受けるべきだと理解したからだ。
国中が注目するこの式典でこうも声高に暴露されては、王妃の不貞を隠す事はもはや不可能だろう。
必ず生まれる事になるクラリスの子種への疑念を晴らすにはパスカルの子を産むのが1番だった。
軽蔑する彼の子を孕むなど想像するのも嫌だったが、これを拒否すれば貴族女性としての責務を放棄した王妃と同列に見られる事は間違いない。
数万の民や貴族、教会関係者の前でパスカルの発言を許してしまった時点でクラリスに逃げ場はなかったのだ。
「……どこまでが貴方の計画なのやら。──良いだろう。貴方の子を産んでやる。それで文句はないな?」
「ああ。お前が賢い子で良かったぞ、クラリス」
「チッ……。晴れの日に最低の気分になったな。この話は後日改めてするとしよう。
──満足したならさっさと失せろ、叔父上」
クラリスは、顔も見たくないというようにパスカルに背を向ける。
恐らくここまでの全てが彼の思惑通りなのだろう。
20年近く続いていた母の不貞がこのタイミングで露見した事も、改めて考えればおかしな話だ。
見下していた相手に出し抜かれ、想像しうる最悪の状況に追い込まれた事にクラリスは苛立ちを隠せなかった。
しかし、その原因となる男は一切気にする事なく、更に口を開いた。
「──待てクラリス。お前は不貞女の娘だ。いつ他所の男から子種を貰ってくるか分かったものではない」
「──私を侮辱するのか?」
流石に聞き流せなかったのか、クラリスは怒気を含んだ目でパスカルを睨み付ける。
「そう言われても仕方のない事をお前の母はしたのだ」
「──私にどうしろと言うんだ」
「私が望むのは確実に私の子を孕んでくれる事のみだ。それは諸侯や教会の方々も同じ気持ちだろう。幸いこの場には多くの証人がいる。次代の王に禍根を残さない為にもこの場で種付けを行うべきだと私は考えている」
クラリスは一瞬、言われた事の意味が分からなかった。
数秒してようやくその非常識な提案を頭が理解する。
沸き上がったのは抑えようのない怒りだった。
「──私にこの観衆の前で貴方に抱かれろと言うのか……! ふざけるのも大概にしろ……! そんな戴冠式、聞いた事もない……!!!」
「下級騎士の娘を王にするのだ。それくらいして当然だろう。言っておくがこれは私1人の考えではないぞ」
パスカルは、クラリスを完全に不貞の子だと見做して言葉を続ける。
「エクラ教のクレモン枢機卿より、この場でお前の純潔を確認し、私が子種を注ぐ様子を公開したなら教会はこの件に関して二度と口を出さないとの言葉を頂いた。そして大臣達の過半数からも賛同を得ている」
「ッ……」
クラリスが大臣席に顔を向けると、気不味そうに何人かが目を逸らした。
その反応でパスカルの言葉が嘘ではないと理解する。
王妃の不貞が明らかになってから彼等の態度が変化している事には気付いていた。
伝統を重んじる彼等にとって血筋とはそれほど重要な事なのだろう。
さっそくクラリスの舵取りに支障が出始めている。
貴族席を見てもパスカルのふざけた提案を止めようとする者はいない。それが答えだ。
「…………ッ」
クラリスは最後に、集まった数万の観衆を見回すと、苦渋に満ちた顔で言葉を絞り出した。
「──分かった。貴方の提案を受け入れよう」
それを聞いた観衆は大きく響めき、パスカルは醜く顔を歪めて笑うのだった。
★
クラリスは城壁の上から観衆を見下ろしていた。
広場には大きなスクリーンがあり、彼女の姿を観衆も見る事が出来る。
金髪碧眼の美しい容姿は深窓の令嬢の様にも見えるが、纏うオーラは人の上に立つ"王"のそれだ。
19歳という若さながら国を導いてきたその功績を知らない国民はいない。
──しかし、そんな気高い女王が現在、人々の見つめる先でドレスを脱がされようとしていた。
クラリスが身につけているのはこの日の為に作らせた純白のドレスだ。
彼女の背後に立つパスカルが背中の紐を解き、そのドレスを肩からゆっくりと下ろしていく。彼女はそれを抵抗する事なく受け入れていた。
少しして白い下着に包まれた乳房が顔を出すと、小さく歓声が上がった。
そのままドレスは腹部や腰まで降りていき、最後はストンと床に落とされてしまう。
スクリーンには美貌の女王の下着姿が映し出された。
「ッ…………」
下着姿を見られたクラリスは僅かに顔を強張らせる。
それでも身体を隠そうとはせず、堂々とその姿を観衆に晒した。
「ほう……。中々綺麗な身体だな。私が見てきた中でも1番かもしれん。全体的に細いわりに胸や尻の肉付きは悪くない」
「それは良かったな。叔父上には勿体なかろう」
「くふふ。確かに、この中年めが穢してしまうのは惜しいかもしれんな」
パスカルは鼻息を荒くしながらクラリスの艶姿を眺めると、その身体へと手を伸ばした。
彼は露出した腰回りを撫でた後、ブラジャーの上から胸を揉み始める。
クラリスは嫌悪を隠す事なくその手を受け入れた。