「物語ですか?」
「そう。せっかくなんだし小説とか描いてみたら?」
ローザの言葉に里帆は目を見開く
「…やってみます」
「そうね。何事もチャレンジする姿勢は大事だと思うわ」
ローザが笑顔で言った時、注文していた懐石メニューが届く。その後は食事をしながらたわいない会話に花を咲かせたのだった。
ローザが料金を払い店を出た後、ローザは2人にこう声をかける
「良かったらうち泊まってく?」
「え?」
「泊まっていきなさい。着替えとかは用意するから。まだまだ色々話したいし」
ローザの熱意に押され、2人は彼女の家へと向かった。彼女の住まう家も高級マンションである。モノトーンな内装にあちこち和風の小物が置かれてあった
「こういうの好きなんですか?」
「ええ。和風の小物とか好きなのよね」
ローザがほうじ茶をついでくれた。里帆と高成が飲み終えるとついてきて。とローザに言われる
「はい…」
通されたのは一室の部屋。机にクローゼットとベッドが置いてあるだけで小物などは置いてない。おそらくはゲストルームのようだ。
「今からここでやりなさい。すっきりするでしょ」
「え、でも」
「だってあなたたち色々重いもん背負ってそうに見えるもの。一回やってすっきりしなさい」
ローザからの指示にびっくりしていると、高成のスマホが鳴る。秋華からだ
「もしもしこーちゃん?今ええん?土曜は明日やんね?」
「うんあってる」
その言葉を聞いて、一瞬高成は気まずさを感じた
「待ち合わせ場所と時間決めてなかったなー思うて。どこにしよう、こーちゃんの家まで来ようか?」
流石にそれはまずい。ローザの家にいる事が知られてしまう
「あー…じゃあ駅前の公園でいい?10時からはどう?」
「ええね。じゃ、それで」
秋華は電話を切った。しかし会話内容は里帆とまだ部屋の中にいたローザにもしっかり伝わっていた。
2人とも黙っていたが、ローザは敢えて触れなかったのか、じゃあ。と言って去っていく。去り際何かあればいつでも言ってちょうだいと告げていったのだった
「…今の人って」
「立花さん。大学時代からの知り合いで、同じ職場…」
里帆はうつむいていると、高成に近寄って勢い任せにキスをして押し倒した。
「ふっ…」
この日の里帆はいつも以上に積極的だった。一旦顔を上げると高成の目を見て口を開ける。
「山岸くん…」
そのまま2人は抗う事無く快楽に及び始めた。気づけば服は乱れ、互いの顔は紅く染まる。
「はあ…はあ…」
2人が事に及んでいる様をローザは部屋の外で立ち聞きしていた。
「ふうん…ちゃんとやれるのね」
その言葉にはどこか含みを感じられる。
「あっ…」
ベッドの上。いつの間にか下着姿の2人。高成が避妊具を付けると、里帆は高成に騎乗する形でそれを入れる。
「んふっ…いいっ…」
里帆は両手を高成の胸付近に置いた。彼女の掌からぐっと力が伝わってくるのが高成にも分かる。高成は里帆の腰に手をやると、ゆっくりと動き始めた。
「んんっ…」
「はあっ…」
里帆の手の力が更に強まる。呼応するように声も大きくなっていく。
「ああっ、あん…」
淫らな音が部屋に響く。
「ああっ!もっと…!」
里帆に言われるがままに突き続けた。その後もずっと彼らは絡み合っていた。
「ふうー…」
ローザの部屋。小さな張り子と言った和ものの小物が2つくらい置かれている。ドレッサーはまるで女優が使っているようなものだ。
ローザはドレッサーに座りスマホを見ていた。ライン画面である。
「明日はどう?」
和哉からの誘い。ローザはどうしようかと迷っていた
(行くべきか、行かないべきか…)
悩んでいると、和哉からコメントが付く。
「山岸くんは?」
それを見てローザは迷いを生じていた。
(山岸くんに伝えるべきか、否か…せっかくだし…)
ローザは和哉のメッセージをスクショし、高成のラインに送った。それでもって、秋華に和哉も加えて…という場面を想定しながらメッセージを送ったのであった。
高成がそのメッセージに気づいたのは、明け方の事だった。
(まじか。…立花さんは気にしないだろうけど…)
その様子を里帆は高成の後ろから見ていた。振り返った高成は彼女が起床していた事に気づく。
最終的に秋華に和哉も合わせる事になった。更に里帆も同席する事になったのである。和哉は所要の為合流するのは午後以降になったため、先に秋華と里帆の会合が実現する。
「おはよう。よく眠れた?」
朝ごはんに目玉焼きとウインナーを用意するローザが2人にそう問いかける。
「よく…眠れたと思います」
「私も…」
そう答えると、ローザは席に座って。と穏やかに声をかける。
「せっかくだから朝食食べてって。ご飯振る舞うの久しぶりだから」
「いいんですか?」
「いいのいいの。さ、どうぞ」
目玉焼きとウインナー、白いごはんに米麹みそを使った手作りのお味噌汁が食卓に並ぶ。どれも絶品だった。3人は食べ終わると、各自支度を始める。
「わたしはここでいるから」
「そうですか…確か社長は午後からでしたっけ」
「そうよ。だから私はここで片付けとか掃除とかしようかなって思って。普段あんまり出来ないしね」
「分かりました…」
その後。高成と里帆は指定の待ち合わせ場所で秋華を待つと、彼女がやってきた。
「こーちゃんお待たせ~!あれ、お友達?」
「あ、うん…今日一緒に周ってもいいかな?」
「いいよ!増えるんは大歓迎!!」
秋華は無邪気に喜んでいる。
「あっ、自己紹介まだやった…私立花秋華って言います。山岸くんの友達です。よろしくお願いします」
秋華は丁寧に里帆へ対し頭を下げながら自己紹介をした
「飯田里帆です。よろしくお願いします…」
「よろしくお願いします~。あ、えっと…年上?それとも同い年?」
秋華が少しおどおどしながら高成へ聞く。
「飯田は立花さんと同い年だよ」
「そうですか!じゃあ、里帆ちゃんて呼ばせてもろてええですか?」
「はい!…じゃあ、秋華ちゃんでいい?」
「ええよええよ!よっしゃ決まり!」
秋華はいつも通りのテンションに戻った。
「せっかく里帆ちゃんもおるしどこいこか、なんか行きたいとこある?」
秋華の問いに、里帆はじゃあ…と前置きしたうえでこう答えた
「プラネタリウムはどうかな?」
「ええね!おしゃれやし、こーちゃんもそれでええ?」
「おう、いいよ」
一行は街中の映画館の一角にあるプラネタリウム施設へ訪れた。そういえば飯田は星やその成り立ちに興味を持っていたな、と高成はふと思い出した。
「ではどうぞー」
スタッフに案内されて暗い部屋に案内される。そこにはプロジェクターにスクリーン、そして大きなふかふかとした丸い茶色のソファが10個くらい置かれてある。聞けばくつろぎながら楽しめるコンセプトのようだった。
「それでは間もなく開始します」
スタッフの声がどこからか聞こえ、プラネタリウムが始まった。
「星はどのような生涯をたどるのか、見ていきましょう…」
煌めく星々の名前に星座、星の成り立ちなどについて紹介されていく。
「すごい…」
里帆は思わずそう漏らしながら、瞳に焼き付けるように終始目を見開いていた。
「終わったね」
こうしてプラネタリウムが終わると里帆はそう名残惜しそうにつぶやいた。そんな里帆の横顔を秋華は興味ありそうに見ている。
「里帆ちゃん星好きなんやね」
「…うん。好き」
秋華と里帆は現時点ではなんとか会話もできてはいるようである。高成は少しだけ安堵の表情を浮かべたのだった。
「お腹空いてきたかも」
秋華の言葉を聞いて、どこで昼食を食べるかという話になった。
「うーん、じゃあ、あのレストランは?こーちゃんも大学の時から行ってるやろ?」
秋華が言ったのは、かつて男女何人かで訪れたあのビュッフェ形式のレストランの事である。
「じゃあ、そこにしようか」
レストランはかなり人が来ている。少しの間順番待ちで外で待ってから入店する事がが出来た。
「里帆ちゃんは好きな食べ物ある?」
「んー…大体は何でも食べるかも」
「ええね、好き嫌いないのすごいわあ」
秋華はいつも通りの笑顔だが、里帆の顔は少しこわばっている。緊張しているのかもしれない。各自メニューを取って席に着くと、自分らの好きなタイミングで食べ始めた。
「これ美味しい。たらこスパゲティ」
「このお味噌汁だしが効いてる」
食事に舌鼓を打っていると、秋華が話し始めた。
「ここ大学ん時からよー行っとるき、色々懐かしいわあ」
秋華が大学時代の事を振り返っているようだ
「あんね里帆ちゃん、うち、こーちゃんと何回もここへ来た事あるんよ。こーちゃんはあん時から変わっとらんね」
「…そうなの?」
「うん。うちはこーちゃんの爽やかで優しくて話しやすいとこがほんま好きやわ」
その言葉を聞いた里帆は思わず石のように固まった。秋華自体は高成をほめたつもりだったのだが、里帆にはどうやら違った意味に聞こえたものと思われる
「そ、そっか…確かに私も山岸くんのそういう所好きかな」
里帆は何とか言葉を吐きだすが、その後は黙ってしまった。
「…」
黙々と食べ続ける里帆。秋華も今は食欲の方へ気が取られているようだ。
(なんかぎすぎすしてきたか…?)
高成は周りの空気の冷たさ、ぴりぴりとした感覚を受けている。
「なあ、次どこ行く?」
高成はなんとかしたいと思い、考え付いた言葉を放つ。すると先に食いついてきたのは秋華だった。
「こーちゃんの家は?」
「ああ…いいよ」
「じゃあ、うちはそこでええよ。里帆ちゃんはどっか行きたいとこある?」
秋華に聞かれ、里帆もそこでいいと話す。
「じゃ、決まりやね」
結果、高成の家へ行く事になった。皆食べ終わるとそれぞれ会計を済ませて外に出る。
「あれ、曇って来た?」
空は先ほどとはうって変わって、灰色が目立つ。そうこうしているとぽつぽつと雨が降って来た。一行は急いで高成が大学時代から一人暮らししているマンションへと向かう。
「はあ…はあ…」
息を切らしながら走って玄関のドア前までたどり着いた所で、秋華は大きく息を吐いた。
「はあ~…疲れた…」
高成は息を整えながら里帆と秋華を中に入れた。
「あんま片付け出来てないけど」
「おじゃましまーす」
高成はそうは言ったものの、どの部屋もきちんと片付いてはいる。
「綺麗やん。うちの部屋とは大違いや」
「そ、そっか…」
はは…と高成が照れくさそうに話していた時だった。
「んじゃ、やろっか」
それはまるで息を吸うかの如く。秋華が里帆の眼前で高成に抱き付いてキスをする。
「え」
まったくの想定外だったのか里帆は硬直してしまう。秋華は勿論里帆の様子には気づいていない。
「ん…」
「ここ座ろ」
一度口を離した秋華に促され、近くのベッドに座る。
「はあ…我慢できんかった…」
秋華はすっかり蕩けた表情を浮かべていた。高成は少しだけ驚いてはいるが、これまでの秋華の様子とは殆ど差異が無かったのでそこまで気にも留める事は無かった。
秋華は器用に高成のズボンのファスナーを外し、まだ半立ちのそれを咥える。じゅるじゅると淫乱な音があっという間に響き渡る。
「んっ…」
その様子を里帆はただただ見ているだけだ。
「んっ…ん…」
「ほろほろへそう?」
秋華が両手でそれをしごきながら、吸う力をさらに強めるとすぐさま精が吐き出された。秋華はごくんと飲み干すと美味しいと告げる。
「ほら、やろ…」
そう話しかけながら秋華は服を脱いでいく。黒い質素なブラジャーとパンツ姿からは彼女のグラマラスな体型が見て取れる。
「あ…」
ここで里帆と秋華の目が合った。里帆は肩を跳ねさせながら、後ろに一歩下がる
「せや、里帆ちゃん」
「あ…あの…」
「里帆ちゃんもやろうよ。一緒に」
その言葉を聞いた里帆は思わず目を丸くさせる。高成からすればもはや驚く事でもないが、里帆からすれば当たり前の反応と言える。
「ほら、大丈夫やからこっちおいで」
そう言った秋華は優しく里帆を抱き締める。だが、里帆の表情は更に硬くなった。秋華が里帆へキスしようとした瞬間。里帆の両手が伸びた。
「やだっ!!」
叫び秋華を拒絶した里帆は、勢いのままに走って高成の家を飛び出していく。高成が彼女の名を呼ぶも、反応は無かった。
部屋には高成と秋華が取り残される。
「…嫌われちゃったかな」
秋華が不安そうにつぶやいた。高成は何も返す事が出来ない。
結果、2人は1度だけ交わると解散したのだった。その後夕方、高成は里帆に改めて電話をし、もう一度会う事になった。
「飯田…!」
「山岸くん…」
里帆の表情は晴れない。
「さっきは…その…」
「驚いた?」
「うん…」
里帆はうつむきながら答えた。一応秋華はいつものノリでそうしただけだが、秋華の事情を知らない里帆が驚くのも仕方ない事なので、高成はここで秋華の弁明をするのは避けた。
「…さっきはごめん」
「…」
里帆はしばらく口を閉ざしていると、絞り出すように話し始めた。
「やっぱり私…エッチにはなれないんだなって」
「飯田…」
「秋華ちゃんを見て、そう思ったの…私とは違うなって…」
静かにぽつりぽつりと語り里帆の声には、悲壮感が伴っている。
「私には菊川さんに言われたような、才能なんてものもないと思う…ただ作り話作ってただけだし…」
「…」
高成には言葉が出てこない。必死に頭の中でひねり出そうとするも、彼女に掛けて上げるべき最適な答えが見つからないでいる。
「分かってはいたけど、私はずっと、何の取り得も無いただの良い子のままなんだって…思っちゃった」
里帆の大きな瞳からぽろぽろと涙が出てくる。高成はついにいたたまれなくなって、リュックから新品のポケットティッシュを取り出して里帆に渡した。
「ありがと…」
ティッシュで涙をぬぐう里帆を前にしても、なかなか言葉が出てこないが、1つ思いついたものがあったので高成は試しに聞いてみる
「飯田はさ、おれ以外とはしたくないんだよな?」
「うん。私はもう山岸くんとしか出来ない。山岸くんが特別だから。だからずっと嘘ついてた」
即答だった。高成は何度か里帆の言葉を頭の中で繰り返しながら、考えを巡らせる
(となると…)
「…今は無理してエッチにならなくても、いいんじゃないかな。あと飯田が何の取り得も無い事は絶対ない」
「え?」
「だって無理した方が辛いと思うし…こんなおれが言うのもあれだけど…」
「山岸くん…そっか、そうだよね…」
里帆は自分を肯定するように頷いた。
「あと飯田、さっきの取り得で思ったんだけど…物語書いてみようよ。おれも協力する。絶対に」
才能なんてそんなものやってみなければ分からない。里帆を元気づけて自信を持たせるためにも挑戦する事は大事であるという事を高成は彼女に伝える。
「山岸くん、ほんと…?」
「うん。やってみよう。もしかしたらそこから色々気づきが生まれるかもしれないし」
「そ、そっか、そうだよね。やってみなければわからないしね…」
里帆の表情が曇り空から光を出す太陽のように段々と晴れやかになる。
「うん、がんばる。…それともしよかったら、山岸くん読んでみてほしい。感想貰えたら嬉しいというか」
「うん。協力する」
里帆の決意が固まった。ここで2人のお腹が鳴る。
「おなか減ったね…」
「…今日お母さんいないんだよね。どうしよ、夕飯の支度まだだった…」
「あ、良かったらうちで食べてく?」
「いいの?」
高成は勿論と了承すると、里帆は嬉しそうにやった。と口にした。
にこにこと笑顔を浮かべている里帆。その顔は高校時代から変わらない。高成も彼女と言えばこの表情だよなと思うほどで、それくらい印象が強い。
「豚汁にしたんだけど食べれる?あと卵焼きとかサラダとか」
「うん!」
早速高成の家へ入って支度をする。
「卵焼き…つくろうか?」
「いいの?飯田が良いなら…」
「たまにやらないとコツとか忘れちゃうし」
そう言って器用に菜箸と卵焼き用フライパンを扱う手は慣れたものだ。里帆は料理に興味があり、高校時代から高成は彼女の作ったお菓子やお弁当と言った手料理を何度か食べた事がある。それに文化祭では看板のデザインも担った。
里帆はこういった何かを「作る」という事を好んでいる。その点で言えば高成の言う通り、決して彼女に何も取り得が無い訳では無いのだ。
(ああいうの好きなんだろうな)
「出来たー!良い感じ」
高成が海藻サラダを準備しながら横目で里帆を見ていると、卵焼きが上手く行ったのか少しはしゃいでいる里帆の姿が見えた。
「おーすごい」
「今日は上手く行ったかも」
木製の食卓テーブルにごはんとおかずを運び終えると、2人はいただきまーすと挨拶をして食べ始めた。ちなみに里帆が使っている箸は割り箸である。
「うん。美味しい!」
「よかったあ。豚汁も美味しい」
テレビをつけると、野球中継が始まっていたのでそれを見ながらご飯を食べ進める
「山岸くんて、ビール飲む?」
「ここにいる時は飲まないかなあ、居酒屋誘われた時しか飲んでないや」
「そうなんだ。私も飲まないかなあ。一回飲んでみたけど駄目だった」
「そっかあ…」
ここで打者がホームランを打ち、実況と解説及びスタンドの大歓声がテレビで聞こえてくる。
「すごいなあ」
「ね、ほんとすごい」
里帆の目はどこか羨望の感情があるように高成からは見えた。
そうこうしているとあっという間に時間が過ぎる。高成は里帆に先にシャワーを浴びるように勧めると、里帆は先に山岸くんどうぞと高成へ譲った。
高成はシャワーを浴びながら、里帆や今日の秋華について色々考えを蜘蛛の巣のように巡らせていた。
ここで高成のスマホが鳴る。電話主はローザからだ。
「もしもし、お疲れ様です」
「ええ、社長がようやく用事がすんだみたいで。待たせちゃったけどこれから会える?」
そうだ。午後から和哉が会いたいと言っていたのだ。だが秋華とは別れ今この状態である。正直会いづらさは出来ていた。
またローザは秋華の連絡先を知らないので、連絡出来るのは高成だけである。
(どうすべきか…)
と悩んでいた場面で、里帆がシャワーを浴び終えてリビングに戻って来た
「シャワーありがと…」
「いえいえ」
高成はこの事を里帆に話す。
「…山岸くん行って来たら?」
「え…?」
「私はここにいるから…」
その言葉は彼女の表情を見るに、私は行きたくないからあなたが行けという内容を含んでいるように聞こえる。高成は先ほどの会話を思い出し、強引に勧めるのもよくないと判断したのだった
「分かった。行ってくる…」
高成は素早くシャワーを済ませると着替えてローザに指定された場所へと向かった
「いってらっしゃい」
去り際、里帆が彼を見送ってくれた。その目には諦めの感情がにじみ出ていた
指定場所の噴水付近。高成が連絡を取った際たまたま近くにいた秋華も交えて高成とローザが和哉を待っていると、和哉は黒いリムジンに乗ってやって来た
「お待たせ」
パーカーにジーンズと若者らしいファッションに身を包んだ和哉が3人を出迎える。
「お疲れ様です」
高成と秋華がそう頭を下げて挨拶すると、和哉は堅苦しいのは無しでと言った。
「じゃ、いこっか。皆乗って」
車に乗り込み、着いた先は前に行ったVIP専用風俗店。この車はその風俗店の送迎車と言う訳である。
「ようこそお越しくださいました」
到着すると玄関では執事服を着たボーイとドレス姿のコンパニオン各2名が出迎え、車のドアを開けてエスコートしてくれた。
「すごい…」
秋華は初めてとあって、物珍しそうにあたりを見回していた。
「いらっしゃいませ。そしてお久しぶりです」
支配人と日向が高成の目の前へと現れる。
「お久しぶりです…」
「ふふっ。おひさ~」
日向もあれからは特に変化はない。髪を降ろし、黒いドレスを身にまとっている。支配人が専用の大部屋へと案内する。
「…知り合い?」
秋華がこそっと高成へとそう聞いてきた。高成がそうだと返すと、秋華は興味深そうに日向を見ている
「仲良くなれるかなあ?」
「なれると思うよ」
なぜか高成にはそう言える自信があった。
秋華は早速日向の元へ話しかけに行った。互いに自己紹介すると徐々に話が弾んでいった
(予想通りで良かった)
高成がほっと息をつくと、和哉が話しかけてくる
「彼女、山岸くんの同期だよね」
「はい、そうです」
「仲良いの?」
「大学時代からの友人ですね」
「そうなんだ…」
和哉は目を細める。
こうして専用の大部屋、もとい区画に通されると、乱 交パーティーが始まった。部屋には軽食とアルコールが置かれた大きなテーブルにソファと椅子、壁の向こうにはそれぞれ浴室にベッドルームが2つ配置されている。普段コンパニオンが客を取る部屋をVIPらとの乱 交パーティーを楽しむために作られた部屋なのだとか。
今ここにいるのは日向、ローザ、和哉、高成、秋華の5人と支配人が連れて来たコンパニオン合わせて6名である。支配人は自室へと戻っていったようだ。
「ああっ…」
高成は日向と秋華を、和哉はローザとコンパニオンを相手している。酒池肉林のパーティーの中嬌声がやまない。そんな折和哉は高成に目線を向けていた
「社長…?」
目線に気づいた高成が声をかけたが、和哉は複雑そうな表情を浮かべて何も言わなかった
…この頃。里帆は高成の家で自前の小さなノートにシャーペンを走らせていた。そこには人物の設定や物語のプロットが書かれようとしていた
「ん…」
彼女の脳には一瞬、高成が秋華を抱いている様子が映る。
「…」
次の瞬間、秋華が里帆へ置き換わった。そして里帆のペンの動きがさらに走り出す
「いける、かも…」
乱交パーティーが終わったのは夜明け。皆解散していく。送迎車によって高成ら4人は帰路につく事になった
「…すごかったね」
車内で秋華が高成を横目で見ながらそうつぶやいた
「こーちゃんて社長…男の人ともやるんやね」
「あー…まあ…」
社長と言う立場上断りづらさの方が大きいのは言えなかった。
「ただいまー」
「おかえり、山岸くん」
「飯田…おかえり。…朝ごはん作ろっか」
「うん」
2人は静かに朝ごはんを作りだした。
「目玉焼き、やってみていい?」
里帆にそう言われた高成は、ぜひ。と返した
「よし…上手く行くかな」
やはり自分はそんな彼女が好きで、勿論彼女の執筆については応援したい気持ちは当然ある。高成は里帆への好意を改めて振り返っていた。
「どうかな…」
フライパンを取ると、ちょうどいい焼き加減になったようだ
「良かった!」
「おおーっすごい!」
「えへへ…」
高成に褒められ、とても嬉しそうな表情を浮かべる里帆。2人はご飯をよそってインスタントの味噌汁をお椀に盛ると食卓に並べて共にいただきます。と挨拶した
「うん、美味しい」
「いい感じ…!」
テレビをつけると情報番組が放映されている。食べ終えると里帆は高成へちょっといい?と話しかけた
「見てくれる?」
里帆がバックから出したのは自分の小さなノートだった。そこにはびっしりと設定および起承転結、プロットが書き込まれている
物語の内容は勿論自分と高成らの高校時代からの体験談が元である。高成はそれらにじっくりと目を通した。
「えーと…タイトルは…「カラミざかり」」
「…直球、すぎたかな。でも…分かりやすい方がいいかなって」
「おれは、いいと思う。分かりやすいし。いい」
「山岸くん…ありがと…」
高成はそっと里帆へノートを返した。
「それで、山岸くんにお願いがあって」
「?お願いって…」
里帆は居住まいを正して、真正面から高成の顔を見る
「山岸くんが、いろんな人とする話を、聞かせてほしい」
高成は目を見開いた。なぜならその告白は、かつて己が里帆へしたものと同じだったからだ
「飯田…それって…」
「山岸くんが色んな人とする話を聞けば、その…参考になるかもというか」
「そっか…」
高成の心はまだ落ち着かないが、里帆の執筆活動を応援したい・手伝いたいと言う気持ちに嘘偽りはないのも事実である。
(まさか、立場が逆転するとは…思わなかった…)
「嫌なら、いいから…」
里帆は高成を気遣うようにそっと呟く
(どうする、べきか…)
これまで高成は秋華やローザに和哉、本番こそしてないが一度だけ訪れた優里をはじめとする客たちと関係を持ってきた。その為里帆以外の女を抱く事は殆ど抵抗感は感じなくなってきた。
そこに、里帆の為に何かしたいという気持ちも重なってくる。
「…分かった。飯田の言う通りにする」
「いいの?」
「うん。それで出来上がったらだけど…おれにも読ませてほしい」
「うん。途中でも見せるよ」
里帆は何度も頷きながら、高成の決意をかみしめていた。
その後里帆は帰宅し、高成は自宅で一人取り残されていた。
「ふう~…」
テレビをつけ、番組を見る。しかしすぐに飽きて消してしまった。傍らに置かれたスマホを見ると、ライン画面に手が無意識に検索をし始めた。
「…」
惹かれたのは優里の連絡先。あれから消さずにそのまま残っていたのだった。
「誘ったら、来てくれるだろうか」
高成の脳裏には、大学時代に女性用風俗のバイトで接客した時の優里の姿がよぎる
「高成くんの真似。してくれませんか?」
優里の言葉が思い出される。連動するように高成の鼓動がばくばくと音を立て始めた。手には汗がぐっしょりにじみ出ている。
高成はゆっくりと指を動かした。打ち込まれたメッセージは『今、元気?』というもの。どうやら優里からはブロックされていなかったようで、何かに引かれていくように高成はそのメッセージを優里へと送った。
「はあ…はあ…」
送った。送ってしまった。高成の脳内と胸中では様々な感情が複雑に絡み合っている。
優里とやりたい、犯したい、どうせ嫌われてるのに返信なんか来るはずない、もう彼氏いるかもしれないのに、無駄だ、でも、やりたい、会いたい
「はあー…」
その頃。優里は自室で読書していた。久方ぶりの休日という事で、日頃の疲れを取るべく家でのんびりする予定だったのだ。
「ん?」
スマホが鳴る。画面を見て思わず声を上げた。
「こう、せい…くん…」
優里の心臓も高成と同じように、ばくばくと音を立てる。
会いたい。したい。でも今なんで…優里の胸中も欲求と高成への思いで糸が複雑に絡み合う様相を呈していた。しかもりお、もとい高成として以降、あれからはそのような行為はしていなかった為、余計に欲求が暴発しかけけそうになっている
「茜谷先輩」
ふと脳裏によぎったのは、後輩の河邊という男だった。彼は積極的で明るく優里に懐いているが、同時に彼と仲の良い島田という女性も優里の頭の中に思い浮かぶ。
「っ…」
気づけば優里は高成に電話をかけていた
プルルルル…
「もしもし…」
「あ、茜谷さん…」
「あのっ…高成くん、今会える…かな…?」
ーここから彼らが出会い、欲求に身を任せるまでそう時間はかからなかった。互いに堰を切った濁流のように、快楽も欲求も全てがあふれ出していく。
「はあー…」
気づけばここは高成の自宅。たどり着くや否や2人は舌を絡ませキスをすると、服を脱ぎ獣のように蛇のように絡み始める。
「ああーっ…」
「んんっ…」
汗をにじませ、体液が絡み合う。無論ここまで激しい交わりはこれまで2人の間では無かった事。それでもここまで2人をかきたてるのは、それだけ色々と想いがあったからだろうか
「あっ…もっと…!」
優里が懇願する度に、高成は激しく奥を突く。快楽に身を任せ喘ぐ優里。そんな彼女の最近の様子を振り返ってみようと思う
「あの、おれと…付き合って…くれませんか」
この間。書類作成を手伝ってくれた河邊から立ち寄ったラーメン店にて優里はそう告白された。
「え…」
当然ながら優里には河邊に対してそのような下心などある筈が無かった。ただ気のおける後輩の1人。と考えていた優里にとってこの告白は予想外の事だった。
「あ、ちょっと電話出ますね…」
告白した河邊の元に、電話がかかって来る。相手は島田だ。
「ねえ、べっちーどこにいるの?抜けるなんて…」
「や、今、その…急用で…」
「わかった!そっち迎えに行く!!場所教えて!」
「あっ…」
島田に言い寄られた河邊はとうとう今いる場所を明かしてしまった。そしてその後、ラーメン店に島田がやって来ることになったのである。
「あ、先輩。返事、いつでもいいんで…」
「うん…」
その後河邊は急いでラーメンを食べ終わると、迎えに来た島田と共に店を出ていったのだった。
それからは、まだ河邊に返事は出していない。しかし今こうして高成と絡みあっている優里の心は完全に高成へと傾いていた。
(やっぱり、私…高成君じゃないと…!)
「ああっ…!あっ、んんっ!」
激しく乱れる優里。高成もまた、快楽にはまっている。
(茜谷さんこんな表情、するんだ…)
高成は優里の顔を真上から覗き込んだ。
「来て…!」
そう懇願されると、高成は優里に顔を近づけてキスを交わす
「んっ…」
その後も夕方近くまで2人は熱く絡み合った。気づけば互いの裸体には体液がこれでもかと滲んでいる。
「一旦休憩にしてシャワー、浴びる…?」
「そうしよっか…茜谷さん先にどうぞ」
「分かった…じゃあ、お風呂借りるね」
優里はシャワーを浴びに浴室へと向かった。高成がベッド横をちらっと見ると、もうゴムがあと2つしか残っていなかったのに気づく
(シャワー浴びて、ごはんがてらに買いに行くか)
「お風呂ありがとう」
浴室から出て来た優里はそのまま裸で高成の目の前に現れる。
「いえいえ…あ、お風呂浴び終わったら買い物行こうと思うんだけど…」
「分かった…あ、せっかくだしどっか食べにいこーよ」
「うん」
高成は頷くと、シャワーと着替えを手早く済ませて優里の元へ向かった。
「…早いね」
「そう?」
「じゃ、いこっか。こっちも着替えたし、準備はおっけーだよ」
2人は一度ドラッグストアによってジュースやお菓子と共にゴムを何箱か買うと、その足でファミレスへ向かった
(そう言えば…)
高成は優里の髪に目線が行く。あの雨の日から、接客した時からずっとショートヘア変えていないのか、と高成は心の中でそう感じていた。
「髪型、あれから変えてないんだ」
「…うん。結局この方が落ちつくから」
「そっか」
ファミレスでは優里は変わらず旺盛な食欲を見せていた。ハンバーグ定食(ご飯大盛り)にフライドポテトにたこ焼きにデザートに、と勢いよく食べ進め、更に高成へファーストフード店へ行かないか?と進めてきた
(茜谷さん…なんか高校時代よりも食べてる?)
疑問に思った高成は、その事を優里に投げかけてみる
「うん。確かにあれからより食べるようになったかも。これでも押さえてる方なんだけど」
「そうなの?」
「…なんでだろうね?今でも夜中にラーメン大盛りとかよくやってるよ」
「あの…太らないの?」
高成がぼそっと呟くと、優里はそれがね~と笑って否定した。
「多分代謝が良いのかな…そういえば昔から太った事一度も無いんだよねえ。てか食べないと痩せるし」
「へえ~まじか…」
「高成くんは?」
「おれも太った事は無いかな…」
すかさず優里は高成の脇腹を右手でつまもうとする。しかし思ったよりつまみきれなかったのか、何度も試して来たが、結局上手く行かなかったようだ
「…ちぇっ、からかってやろうと思ったのに」
「聞こえてる聞えてる」
そんな高成の呟きにふふっと優里が笑う。
「ねえ、今は…彼女いるの?里帆ちゃんとはまだ続いてたり、する?」
「あー…」
(隠しても良い事無いしな…でも、おれと飯田が言った犯された話の部分だけは言わない方が良いのかな)
高成は迷った。しかし結果的には里帆とはもう恋人関係は高校時代に解消したが、今も仲が良いという事を優里に簡潔に伝えた。
「そうなんだ…別れても仲がいい、か…ふーん」
優里は想定外だったのか不思議そうに高成の顔を見つめていた。
「じゃあ、今は彼女いないんだ」
「うん。そう言う事にはなるかな…」
「へー…」
この時。優里はある決心を固めつつあった。
河邊からの告白は断る。そして高成との関係を取り戻す。それが彼女の決心そして答えだった。河邊のすぐそばには島田という女の影がいる。彼女を傷つけるくらいなら、彼女に取られるくらいならいっそ彼は選ばない方が良い。それに今高成へは愛欲が感じられる。河邊には抱く事は無かった感情だ。
だが高成には一度フラれてはいるので、今すぐ付き合ってとか、そう言う告白をする気にもなれない。それならセフレでいいやと優里は考えたのだった
「ねえ、これからさ…たまに私と遊んだりしない?」
「え、いいの?」
「いい、いい!むしろ忙しい事とか色々忘れられるからさ」
優里は笑顔で高成にそう言った。
(これでいい…今はこれでいい)
優里は心の中でそう呪文のように呟く。そして体の疼きが止められなくなっていた。
(高成くんの事考えると、したくなってくる…しかもこれは高成くんしか起こりえない事だ。他の子にはこんな事ならないのに)
優里は高成の腕を掴む。
「?どうしたの…?」
「…ねえ、はやく帰って続きしよ」
「あ、マックは?」
「…そこ急いで寄ってから…」
優里は言ったとおりにファーストフード店に立ち寄り、高成の分も含めたドリンクと軽食を購入する。それから高成の家へ戻るまでは終始無言だった。
高成の家に帰ってからは、2人はずっと夜明けまで絡み合っていた。時折優里が買ったジュースやナゲットを食べながらセックスにふける様には想いや愛情などなく、欲求をただただ解消するためのものとなりつつあった。勿論互いに複雑な想いこそ抱えてはいるが、今は欲求に流されている。
「ああっ…」
(高成くんとやるのこんなに気持ち良かったなんて…!)
優里はなんども絶頂を迎える。その顔を見る度に高成は彼女の事をこう感じ始めていた。
(おれとしたかったんだ。ほんとに)
何度目か分からなくなったほどの絶頂を迎えた優里に高成はそのセリフを投げかけて見た。
「…したかった…ずっと…あの時から…」
「やっぱり、そうだったんだ…」
「…だからさ、これからもしようよ」
高成は頷く。なぜなら断る理由が思いつかなかったからである。里帆の創作活動の為というものがあるし、優里を快く思っていないという事も無い。
成人してからローザに秋華に和哉にと、彼らの出会いを得て欲求に抗う事無く身を任せて来た高成には、もう快楽に抗う意志など残ってはいない
朝。優里はまた連絡してほしいと言ってそのまま大学へと向かっていった。高成も朝ごはん代わりに野菜ジュースを飲むとそのままスーツを着て出勤していった。
「おはよう、山岸くん」
「おはようございます。社長」
スーツ姿の和哉が微笑みながら挨拶をしてきた。傍らにはローザもいる。高成はいつも通り同僚たちにも挨拶を済ませると、ローザと共に営業先の大学病院へと電車で移動した。
「最近山岸くん顔色良いわね。目元にくまはあるけど」
「そうですか?」
「そうよ。目元のくまはホットパックやマッサージがおすすめよ。今度やってみなさい」
「ありがとうございます」
到着し、事務員に連れられて総合受付の横にある部屋に入ると寝間着を着たある人物がお茶を片手に持ってやって来た
「や、山岸…くん…?」
「あ、帆波ちゃん…」
「山岸くんだ…!久しぶり!覚えててくれたんだね…!!」
手を振る黒髪セミロングで水色の寝間着にパーカーを羽織ったマスク姿の女性の名は仮屋崎帆波。高成とは幼なじみで、同じ幼稚園と小学校に通っていた。
左腕に点滴を差し、スタンドを引いている彼女は元来病弱で持病もあり、よく高成は彼女の家へプリントや手紙を持っていっていた記憶が思い出として心の隅っこで残っている。
「山岸くんの友達?」
ローザが聞くと、高成は幼なじみだと返した。
「あ、スーツって事は仕事中?」
「あ、うん…」
帆波はごめん。と謝ると背中に背負ったリュックから筆記用具とメモを取り出し、何やら書き出すとささっと高成へ手渡した。
「これ、連絡先。多分前のとは変わってるから」
「そっか。ありがと」
帆波は失礼しました。と言い残して病室へと駆け足で戻っていった。
「へえ~幼なじみねえ」
ローザは天井を見上げながら呟く。
「ほんと、人ってどこで出会うか分からないわよね」
ローザもたまに外出先で友人と出会ったりする事があるようだ。
「山岸くん。人の出会いは大事にするのよ」
「はい」
高成が返事をした時。担当者がやってきて会議が始まった。
終わった後、病院を後にし会社へ戻りデスクワークをこなして今日の仕事は終わる。
(…電話してみようかな)
会社を出て街を歩きつつ、帆波から貰った連絡先の記されたメモを眺めていると急にスマホが鳴る
「ん?貴史?…もしもしー」
「こーせー?今大丈夫?」
「おう、時間あるけどどうした?」
電話主は高校時代からの高成の友人である吉野貴史からだった。彼は高校を卒業後トレーナーになるべく専門学校に通い資格を習得すると、応援していたプロ野球の某球団の専属トレーナーに就職していた。
聞けば彼はしばらく前に階段から転落して足を骨折してしまい、救急車で病院へと搬送されて今も入院中のようだった。たまたま今日高成が営業で訪れている場面を遠くから見ていたのだという。
つまりは帆波と同じ病院に貴史はいる。
「あそこでこーせー見かけてさ。今から会える?」
「…分かった」
高成は近くの菓子店で貴史と帆波への見舞い品を買うと、タクシーに乗り大学病院へと向かっていった。
貴史の病室は個室。ノックするとはーいと貴史の声がした。高成が中に入ると、寝間着姿でベッドの上で横たわる貴史とスーツ姿のがたいのいい長身の男性がいた。貴史の右足には頑丈にギプスが巻かれており、見るからに痛々しい。またベッドの傍らには車いすと松葉づえも置かれていた。
「あ、貴史さんのご友人で?」
「あ、はい。そうです」
高成は勿論ともいうべきか、その顔に見覚えがあった。彼の名は綺堂衣吹。日本のプロ野球を知る者なら彼の名を知らない者はいないと言っても良い程の一流プレイヤーである。
ポジションはピッチャーで右投げ。自己最速は160㎏とかなりの剛速球の使い手だが、多彩な変化球も彼の持ち味である。これらを武器に高卒で4球団競合の末貴史が就職している球団のドラフト1位として入団。2年目から1軍でもばりばりに活躍するようになり、この年には新人王も獲得した。
そんな人物が今この場所にいるのである。高成はその現実をまだ上手く飲み込めずにいた。
「ぶっきー、緊張しなくていいよ。こいつはおれの高校時代からの友人。こーせー一応自己紹介してやって」
「えっと…山岸高成です。よろしくお願いします」
貴史に促されて高成は衣吹に自己紹介すると、彼も短く自己紹介をしたのだった。
「あと、これ…良かったら」
高成は見舞い品の菓子折りを貴史に手渡すと、貴史は素直に喜んで受け取ってくれた。衣吹は菓子折りと貴史と高成にきょろきょろと不安定に目線を向けていた。
「これ、ゆっくり食べるわ。まだしばらくは入院生活だしな」
「そっか」
貴史はへへっと笑う。その顔は高校時代から変わらない。
「じゃあ、おれ行くわ」
「おう。また来いよ」
高成は立ち上がって部屋から出る。ドアを開けて廊下に出た時、左手首を誰かにぎゅっと握られる。
「…綺堂さん。どうしました?」
「山岸さん、ちょっといいですか?」
衣吹は高成の手首をつかんだまま、おもむろに口を開く
「今日、この場に僕がいた事、絶対誰にも口外しないでくださいね」
「えっあ、はい。わかりました」
これほどまでのスターだ。きっと色々しがらみとか秘密厳守とかあるのだろう。高成は衣吹の言う通りにするべきだと考え返事をすると、その足で帆波の元へと向かった。
貴史が入院している部屋の階とは違う階に帆波はいた。個室にいる彼女は先ほどあった時と同じ寝間着にパーカーを着ている
「山岸くん」
「帆波ちゃんこれ…お見舞いに良かったら」
高成が菓子折りを手渡すと、帆波は目を輝かせて喜んだ
「嬉しい!ありがとう…!」
「いえいえ」
帆波はテレビと冷蔵庫が設置されている棚の傍にあるソファに座るよう、高成に促した。ソファの横には大きなスーツケースが置かれている。あちこち物は置かれてはいるがそこまで散乱はしていない。棚や小さなクローゼットに収納しているのだろう
「どうぞ良かったら。汚いけど」
「ありがと」
高成はソファに座る
「…山岸くんてもう就職したの?」
「うん。まあね。院に行くのも考えたんだけど就職する事にした」
「いいなあ~…私はまだ大学卒業出来てないから」
帆波は入退院を繰り返している事もあって何度か留年しているのだと高成へ語った。だが体調が良い日には通学しており、今は四回生なんだとはにかみながら答えた
「帆波ちゃんは卒業後はどうするの?」
「まずは院へ行こうと思ってる。やりたい事まだまだあるのと、それに…こんな体じゃあどこも採用してはくれないだろうし」
「そっか…難しいんだなあ…」
「…山岸くんはどう思う?」
「…いいと思うよ。その…無理して就職して病状が悪くなるくらいなら、自分のペースでやっていけばいいんじゃないかな?…親は、どう思ってるの?」
「親も…山岸くんと同じ意見だったかな。まあこういうのは小さい頃からだし、そこはもう割り切ってるんだと思う」
高成の脳裏には幼い頃の帆波の姿が浮かんでいた。久しぶりに幼稚園に来た時に、これまた久しぶりに小学校に来た時。小学校高学年から帆波が所属していた養護学級で一緒に折り紙の作品を作った思い出、帆波が休んでいた時帆波の家へよくプリントを持っていって、帆波の母親からその度にお菓子をもらった思い出、そして寝間着に時折酸素カニューレを装着した帆波の姿。
里帆や優里らとはまた違う、儚さと淡い雰囲気を持つ帆波。高成はそんな彼女を思い出しながら、自分の近況話について帆波に聞かせた。
「へえ~すごいとこ就職したねえ。…すごい」
「いやいや、そうでもないよ」
「そんなこと無いよ…すごいよ。山岸くんは」
帆波はじっと高成を見つめている
「山岸くん…良かったら、もっと近くに来なよ」
帆波に誘われ、高成は彼女の横に座る。
「…目元は変わらないね。くりくりしてる」
「そうかな?」
「うん。変わってない。可愛いよね」
帆波は高成の両頬に手を添えて、懐かしそうに見つめていると、そっと彼にキスをした。
「…へへっ。やっと出来た。この日の為にずっとファーストキス取っておいたから」
「そうなの?」
「うん。ほんとだよ」
帆波は高成の胸へ左手を置く
「…山岸くん。私の処女もらってくれる?」
高成はえ、と口に出した。それを聞いた帆波は少しうつむきながら語り出す。
「実際この年で処女とか恥ずかしいもん。中学高校大学とクラスの女子はいっつもそういう話ばっかだった。退院して久しぶりに学校に行ったら、クラスの女子が彼氏とやったとかセフレとラブホにいってきたとか聞かされて萎えるんだよね」
「そうだったんだ…」
話を聞いて高成も高校時代、同級生の女子が彼氏とラブホテルで何度もやったという事をクラスメイトに話していたのを思い出す。
「でも私、山岸くんとしかそういうのしたくないと思ってたから。だからずっと我慢してた」
「そうなの?」
「うん。で、今日やっとチャンスが来た。…やってよ」
「…」
高成の腕が動く前に、帆波の腕が動いた。帆波は両腕を高成の背中に回し、そのまま彼が自分を押し倒すような構図へと持っていく。
「ぎゅってして…」
高成は帆波に言われるままにぎゅっと抱きしめると、キスをした
「んっ…」
彼女に促されるままに、高成は帆波の左胸に手を置き、軽く柔らかく揉んでいく。心臓の鼓動が手にはっきりと伝わってくるのが分かる。
そして帆波の寝間着の上部分をほどき、下着を持ち上がると彼女の上半身が露わになる。体は里帆や優里よりも華奢で肋骨が浮いて出るほどだ。そして胸部に何か所か残る手術跡を見て高成は痛々しさを覚える。
(あんま揉まない方が良いかも)
更新遅くなりすみません
今後もよろしくお願いします。