あとは勢いさえあれば、とはおもうけど。
勢いだけでも上手くは行かないもの。
要は匙加減匙加減。
胸の内側が燃えるように熱く、お腹の奥が疼いて治まらない。身体は身体で素直になり、小細工無しで先へ進もうとする。少しはものを考えろ、とは思うけれども無い頭を絞った所で何も変わりはしないのも分かっている。
どうなろうと知ったことか、そんな捨て鉢な感情に突き動かされて私は今日も止まらない。きっと疲れ果てて動けなくなるまで、楽しい時間は続く。
楽しくて愛しくて――幸せすぎて、泣きたくなる。
この幸福は、果たしてこの先も続くのだろうか。何処かで揺り返しが来て、御破算になるのではないだろうか。そんな薄甘く粘っこい不安はでも、艶かしい満足感に掻き消されていく。
考えるのは今度で良い、考えなくて良い。
君も浮かれる春の季節に、楽しめ一瞬を、それこそ真の人生だ。
ワイアームなんか諳じつつ、私はただ愛に身を任せる。ああ、また夜が更けていく。
逆に不義理というか追い討ちになるのではないか、そう思わないわけでは無いけれど。そもそもこちらから言うべきことか、とさえ考えなくは無いけれど。
向こうが以前打ち明けてくれた以上、こっちも言わなければならない。
そんな想いを込めて――、
「さっき大喜くんに、告白しました」
文化祭前に聞いた言葉と同じような台詞を、私は蝶野さんに向けていた。
あの時は、何故蝶野さんが親しくもない私にまで告白を報告するのか今一つ分からないまま、でもなんだか釈然としない気持ちを抱えてそれを聞いていたのを覚えている。だけど今はもう、その意味がハッキリと見えている。
蝶野さんは見抜いていたのだ、私が大喜くんを好きになりつつある事を。だからこそ自分が先手を打ったと公言する事で立場を明確化しようとした、
それは決して悪いことじゃない、当然の駆け引きだ。幼稚園児じゃあるまいし、好き好き言ってれば良いって訳じゃない。どうやって絡めとるか、それを考えるのも恋のうちだ。
とは言え素直に引き下がれる程私は諦めが良くはない、食い下がるだけ食い下がる。未練がましくても女々しくても、それが私。鹿野千夏は負けない、絶対に。蝶野さんがどう出ようとも、私は曲がらないし折れもしない。正面から撃ち合うだけだ。
そう覚悟して見据えるその顔は、しかし。
「……ぁ。おめでとう、ございますっ」
……明らかに困惑の色に染まっていた、もしかしたら口論処か拳だって飛んでくるかと身構えたのに。
「えー……大喜スゴい喜んだと思いますけど、どんな返事くれました?」
「あーいや、実はまだ何も。真っ赤になって動かなくなったから、体育館の裏に置いてきた」
まあそうなりますよねー、私の時もそうでしたよー。急にテンションを上げて笑いだす蝶野さんは、ちょっとだけ怖い。あと告白されたら固まる子なのか、大喜くん。
それはそれとして、この反応はおかしくないか。私を糾弾するなりなんなり、そういう事をする流れではないのだろうか。
いぶかしんでいるのを感じ取ったか蝶野さんは照れ臭そうに頭を掻きながら、それでも笑顔で話し始める。
「えっと。あの私、もう……フラれたんです。雛とは付き合えない、って秋合宿の時に言われちゃいまして。まさかああも頑なだとは」
え。
ええ。
えええ……ええ?
いや、いやいや。いやいやいやいや、何がどうなってんの。そう言えばキャンプファイアの時に揃って姿が見えなかったけど、まさかあの時にか。
でもだって大喜くんは、蝶野さんの事を……。
「元々脈はなかったんですよね、大喜はずっと千夏先輩が好きですから。まあ私としてはもう吹っ切ったんで、二人ともお幸せにって感じですかねー」
聞き捨てならない言葉に一瞬ギョッとした、その刹那。するりと私の隣を通り抜け、蝶野さんは行ってしまった。
それは、それは。どういうこと、だ。大喜くんが私を好き、だなんてそんなの有り得るか。
背筋を伝う冷や汗を感じながらも、そう言えばと考えを巡らせる私。大喜くんはいつだって私を支えてくれる、それは彼の優しい気質からのものだと思っていた。誰に対してもああで、天然の人たらしなのだと。
でもそれが、勘違いなのだとしたら。夢佳にチケットを届けてくれた時とか、明らかにボロボロだったらしい。そうなってまで尽くしてくれたのは、一重に――。
「私を好き、だから……?」
そうか、そうだったのか。私たちはかなり前から、両想いだったのか。
回りも察しも悪い頭をフル回転させてようやく私は、それを理解する。
弾かれるように床を蹴って駆け出す脚は、意思を飛び越えて一気に加速していく。まだ固まっているであろう大喜くんを目指して。
置きっぱなしにしていた大喜くんを回収し、でも何を言ったものか分からず無言のまま私たちは猪股家へと帰る事になった。……まあ照れ臭いったら無かったな、うん。返事は貰えなくても気持ちは分かったわけで、つまりまあアレですよこれからは彼氏彼女になれるわけでして。
しかし二人して真っ赤な顔をした私たちは、由紀子さんにはどう見えていたんだろう。晩御飯の時もニヤニヤしてたから、あれこれ察したんだろうな。特に怒られるような事は無かったから良かったけど、ちょっと気まずい。
なんにせよ落ち着かないまま時間は過ぎて、もう夜も遅い。明日に備えて眠っていなければならないこの刻限に、どういうわけか私と来たら。
「ぇあ、の……千夏、先輩?」
大喜くんを、押し倒していた。
胸を突き破らんばかりに心臓が早鐘を打ち、血管が荒れ狂う血液で引き千切れそう。頭の中はただ、大喜くんの事だけで埋め尽くされていく。
どうしてこうなったのか、何をやっているのか。そんなのはもう、考える気もしない。
風呂上がりの大喜くんを見た瞬間、私の理性は弾け飛んでしまったんだろう。
もう我慢なんかいらない、私たちは両想いなのだから。そんな甘い考えが楔になって、勢いよく自分が狂っていくのが分かる。
いつぞや渚たちとキャーキャー言いながら見た
ボディソープやパジャマから移った柔軟剤の香りに混ざり混む、これはきっと男の子の匂い。牡臭さ。それを味わうように舌を這わせ、少しずつ少しずつ舐め下ろしていく。何か言おうとする大喜くんの口はでも、半開きのまま。私の舌が肌を滑り乳首へと到達した瞬間、金縛りにあったように動きを止めてしまったのだ。
小さな突起を舌先で弾くと、それに呼応するように大喜くんの身体がビクンと震える。その動作は私に察させて余り有る、大喜くんはここに触れられると弱いのだと。私は乳首が特別気持ちいいとかはないけど、どうも大喜くんにはかなり効くようだ。まあ個人差あるからね、風が吹いても感じちゃうから徹底的にガードしててちょっと胸に手が触れただけで怒る子もいるし。て言うか夢佳がそうで、渚がふざけて触ったときは「ふひゃぁあっ!!」と絶叫してたな。そのあと多種多様かつ夢のような罵倒のフルコースをかましてたけど、あれは自業自得とは言えちょっと可哀想だったな渚……。
しかしこれは、楽しいかもしれない。
舌でなぞり、唇で包み、時には前歯で軽く噛んであげたり。そうするとほんのり色付いた乳首はだんだんと隆起し、その存在感を増していく。
――隆起、か。そう言えば男の子には、
乳首を弄びながら手を滑り込ませるのは、大喜くんの腰の下。下着の中へと、侵入していく。
「うぁ、あ、……っ」
僅かに聞こえた抵抗の声も、乳首への責めで打ち消して。私の指はついに、そこに到達した。
指に伝わるのは、張り詰めた硬い硬い肉の感触。湿り気を帯びたそれが何なのか、私は知っている。大喜くんの、……オトコノコ。本能そのもの。
これが硬く大きくなるのがどういう意味か、それも分かっているつもりだ。
「そっかー……大喜くんって、私にこうされたかったんだぁ……」
これは合意の上だ、合法なんだ。そんな詭弁に唆されて私は顔の高度を下げていく。布越しでもハッキリと分かる程熱くなったオトコノコに頬擦りし、そして布地を唇で引きずり下ろし――それを露にしてしまう。
「んぁ。んー……ふむ……」
一応知識はあるけれど、こうして現物を目の当たりにする日が来るとは思わなかった。
触った感じより更に大きく聳える姿は、グロテスクながら何処か愛らしいから不思議だ。
これが入るのかー……入るのかなー…………。そんな思いにかられながら意図せず動いた腰の奥、ショーツの中で感じたのは粘っこい水音。腿を擦り合わせるとクチュクチュとそれが高まっていく。うーんまあ、どうにかなるかな。大分ドロドロみたいだし。
改めて大喜くんに覆い被さり、私は決意と共に腰を降り下ろした。
「っ、ぁー……ぅ」
普段指さえ通らない場所がメリメリと掘削されていく違和感と、大喜くんと繋がった高揚感。それが混ざりあいながら、たったひとつの感覚を呼び覚ます。ただ純粋な、快感を。
痛みもなにもかも、遠くへと消えていく。頭の中は白く染まり、目の前さえ歪んでいく。確かなのは、結合部から感じる焼けるような熱い想いだけ。それだけを頼りにして、私は腰の動きを速めていく。
他のすべてがどうでも良くなり、譫言のように大喜くんへの愛を垂れ流し、瞼の裏で稲妻が瞬く。
その刹那、私の中で何かが弾け飛んだ。
「うっ、あ、あー……あぁ…………」
ドクドクと脈打つオトコノコ、子宮の入り口に叩き付けられる濁流の感触。全ての感覚が、本能が事態を察させてくれる。大喜くんが、射精したのだ。内側からお腹が膨れていくような、熱く大量の――精液。その質量だけでなく、蠢く精子の有り様さえ感じ取れる程鮮明に理解できた。
充たされていく、満たされていく。
心の空白も身体の空白も、等しく。
気が付けば長く尾を引く低い嬌声を口から漏らし、私の意識は蕩けて澱みへと堕ちていった――。
………………。
…………。
……。
押し寄せる快感の大波からようやく立ち直るのに、どれくらいかかっただろうか。激しい喘ぎが治まって人心地着くと、どうにか視界がクリアになり始める。
頭に昇りきった血がようやく降りてきたのだろう、どうにか私にも理性が戻ってきた。おかえりなさい早かったね、じゃなくて。
どうしたもんだろう、やってしまった。最後まで、やりきってしまった。初志貫徹過ぎるだろ、私はさ。
血の気が引く、とはまさにこの事か。大喜くんはずっと啜り泣きしてるし、部屋はメチャクチャだしどうしよう。それに私らこのまま寝るのか、もう一回お風呂なんてわけにも行かないし。と言うか由紀子さんたちにも色々聞こえていたんじゃなかろうか、どうしよう全部が全部不味い。不味すぎる。
それに、だ。なんだあの痴女っぷりは、何処であんなこと覚えてきたんだ私と来たら。
しかし考える時間はない、そしてそもそもの時点で私にそんな頭はない。一先ずウェットティッシュで綺麗にして部屋に戻るしかないか。
とりあえず現時点では由紀子さんが上がってくる気配はない、明日までにどうやって誤魔化すか考えよう。
逆流する精液をショーツで食い止め、どうにか息を整えて私はなんとか立ち上がる。汚れた箇所を拭って一応掃除はするけれど、雑把放題の私じゃどうにもなりゃしない。それでも何とか、形だけは綺麗にしたつもりだ。
あとは大喜くんをどうするか、だけど。
「えぁ、えー……うん。じゃあ、あー……、おやすみなさい……」
それ以外に何を言えというのか、言えるというのか。涙こそ止まったけれど虚ろな目で天井を見上げている大喜くんに、かける言葉は思い当たらない。
とにかく明日だ、明日になればきっと何か手を思い付く。私の七色の脳細胞よ、なんとかしてくれ頼んだよ。
さて、結果を言えば。朝日を浴びてもまだ、妙案は浮かばなかった。
結局期待に応えてくれなかった脳髄を恨みながら、それでも起きなければならない。
「あぁ千夏ちゃんおはよう、大喜ならもう行ったわよ? ……あの子も元気よねぇ、ホントにぃ」
由紀子さんに生暖かく見送られて、学校へ着いても心は乱れたまま集中出来ない。誰かに相談しようにも事が事だから躊躇われる、渚は絶対「あんたバカなの!?」って来るだろうし。
バカじゃないもーん、ちょっと短慮なだけですよーだ。いやそれは致命的なんだけどさ。
昼休みを迎えてもまだまだ悩み続け、悩んだまま帰宅時刻になってしまった。
このまま買えれば嫌でも大喜くんと対面だ、まあ嫌ではないけど。むしろ嬉しいけどね、私は大喜くんが大好きなんだから。
――と。
「ぁ。……千夏先輩……」
バドラケを担いだまま校門前で風に吹かれていたのは、誰あろう大喜くん。うう、気まずい。なにしろ被害者と加害者の対面だ、これは大変大変。
しかし大喜くんは、私を責めるような事は言わなかった。口にしたのは、それとは真逆の言葉。
「俺は、……千夏先輩が好きです。先輩が俺を好きになってくれて嬉しかった、だからこそ自分を大切にしてほしいんです」
私はきっと、忘れない。大喜くんの夕陽よりも眩しい眼差しを、不器用に言葉選んだ声を。
自分でも分からないまま涙が止まらない、でも一つだけ理解する。私がほしかったのは、これなんだ。身体よりも、心からの告白がほしかったんだ。
誰が見ていようと聞いていようと、知ったことか。
昨夜よりもずっと強く、ずっと熱く。私は大喜くんを抱き締めていた。
自重しよう、自分をそして大喜くんを大切にしよう。そう思っても、夜が来るとなかなか自分が抑えきれなくなる。悪い癖だな、これは。
今は一度身体が達しきったから一周してそこそこ理性的だけど、燃え上がってくるともう無理だ。獣のように声を上げ、大喜くんを貪ってしまう。
お腹の深い部分に大喜くんを感じながら腰を激しく揺さぶり、最後の一滴まで精液を吸い尽くさないと気が済まない。我ながらどんだけだ、なんなんだこの性獣。
まったく困った困った、まあ良いけど。
身体を起こした勢いでズルリと抜け落ちたオトコノコは、さすがに疲れたのか力無くうなだれて見える。そろそろ止めようかな、なんて頭の片隅では思うけれど。思うけれども、それで止まれるほど器用でも無いのだ。
「あー……むっ」
私は大きく口を開け、粘液にまみれたオトコノコをぱっくりと呑み込んでしまう。大喜くんと私の味が交ざって、生臭い香りが鼻へと抜けていく。初めての日乳首にしてあげたように攻めてあげると、口の中でたちまちオトコノコが屹立していった。
これならもう一回くらいは平気かな、まだ味わい足りないし。お腹もいっぱいにはなっていない、もっと注いでほしい。
これからどうなるのか、どうするべきか。
考えるのも億劫で、ただただ流れるように私たちは歩んでいく。
こんな事ばかりしていて子供でも出来たら一大事だけど、躊躇いたくないから。私はもう迷わない、二度と立ち止まらない。