TS転生っ娘とへんたいお姉さん 作:ニンプキン
六時半に起き出して、身支度を整えてから朝ごはんを食べる。途中で便意を催して、我慢しながら味噌汁を飲み干すのが綺奈の日課だった。
ムリュムリュムリュ、ドチャ
「ふぅ……ん、」
水分を多く含んだ便が落ち、綺奈は背筋を震わせた。登校前に下痢が出ると遅れていくことになるかもしれないので、少しでも形が残っていると安心する。
念入りに汚れを拭きとってからショーツを上げようとすると、お尻に食い込むような感じがした。
(また相談しなきゃ)
以前胸に違和感があった時も
「あやちゃん、お腹大丈夫?」
はっと顔を上げると、階段の上から従姉が覗き込んでいた。メイクもそこそこで、トイレの水を流す音を聞いて顔を出してくれたようだ。
「大丈夫」
「そう? 良かった。そろそろ出るなら一緒に行かない?」
「! うん」
そうして綺奈は一週間ぶりの登校の準備を始めた。
◆◆◆
「おはよう、綺奈ちゃん」
「由希、ちゃん。おはよう」
かなり早い時間に教室へ辿り着いた綺奈を出迎えたのは、このクラスで唯一綺奈と交友関係を持っている少女だった。
頻繁に体調を崩す綺奈は教員たちから扱いを持て余されており、月に何度も休んでいては碌に友達も出来ない。そんな中、ずっと仲良くしてくれる由希が不思議だった。
「もう治ったの?」
「う、うん」
「そっかぁ。先週はね――」
と、綺奈が休んでいた時のクラスの様子を聞かせてくれるのだ。彼女がいるからこのクラスで学生生活を送れていると言っても過言ではない。
二人が話していると、ぽつぽつと他の生徒も登校してくる。彼らが教室に入ってくるたびにこちらをちらちら見てくるのが嫌だった。
「はーい、座ってぇー。出席とるよー」
担任の先生も綺奈がいるかを確認してから教卓につく。特別扱いをされるのは仕方ないと、心の中ではわかっている。それが治しようがないから諦めているだけでもあった。
(っ、きもちわる……)
今日は体調が良かった。だから普段は見学する体育にも少し参加させてもらって、由希と一緒にバドミントンをした。運動してお腹が空いたから、給食も普段より多く食べた。そんなことをしたら、お腹が耐え切れないと分かっていたはずなのに。
ゴポゴポ……グウゥ~ッ
体調がおかしいと気づいたのは五時間目が始まってすぐだった。お腹の奥がもやもやして、それがだんだんと胸の方に上がって来たのだ。
何度唾を飲み込んでももやもやは降りて行かない。それどころかお腹も緩んできて、綺奈は上と下、両方の我慢を強いられていた。
「ぐ、げぷっ」
持ち上がるような感覚を咄嗟に押さえたが、口の中に苦い味が広がった。もう限界が近かった。
「せんせ、う、」
声を上げることも出来ずに綺奈は口元に手をやった。お腹もどんどん下ってきて冷や汗に溺れそうになった時、そっと背中に手が添えられた。
「先生、工藤さんが体調悪そうなので保健室に行ってきます」
吐き気を堪えながら顔を上げると、由希が隣に立っていた。綺奈は由希に支えられて教室を出て、トイレに向かう。
お腹と口元に手を置きながら少しずつ進んでトイレの個室に着き、綺奈は背中を擦られながら薄ピンクの便器に向けて口を開いた。
「げ、えっ……うぶ、おえぇっ!」
ばちゃばちゃと音を立てながら、どろどろになった給食が水面に落ちる。その後何度もえづいていると、空気が抜ける感覚と共に熱いものがお尻に広がった。
「っ! そと、でて!」
「わ、わかった!」
綾奈は由希を追い出すと、ぬるつく下着をずり下げた。
ブジュ――ッ! ブビビッ、ビヂビヂビヂッ!
便器にお尻を向けるのと、水下痢が噴き出すのはほとんど同時だった。水のようになった便が綺奈の意思に反して噴き出していく中で、恐る恐るショーツを覗き見る。
「ぁ……」
べったりと付いた、隠しようのない茶色い染み。それを唯一の友達の前でしてしまったことが、綾奈を追い詰める。
「あ、ぅ……」
綺奈は呆然としながら汚れきったお尻を便座に降ろして、下痢を垂れ流すことしか出来なかった。
◆◆◆
工藤綺奈。私が初めて好きになった人。
彼女と出会ったのは、四年生の時だった。保健委員になって、先生に言われるまま保健室を訪ねた私は、まさに運命的な出会いをしたのだ。
あの時はちょうど綺奈ちゃんがベッドに吐いてしまったところで、カーテンの隙間から苦し気に俯いている青白い顔が見えた。暖かそうなもこもこのパーカーの上からでもわかる体の薄さに、胸がどきどきしたのを覚えている。
その後保健の先生が外に出るからって私に綺奈ちゃんの様子を見ていてほしいと言ってきた。今思うと結構な無茶を言ってると思うけど、あの時の私は綺奈ちゃんの横顔に目を奪われていたから一も二も無く頷いた。
そっとカーテンを開いて綺奈ちゃんの様子を伺うと、中に密封されていた酸っぱい臭いが鼻を突いた。思わずえづいてしまって、その音で綺奈ちゃんと目が合った。
きれいな子だと思った。
肩のあたりで切り揃えられた髪が白くて小さな顔を象っていて、その中央で黒曜の瞳がきらめいていた。人の目を宝石みたいなんて思ったのは、あれが最初で最後だ。私はあっという間に綺奈ちゃんの虜になってしまった。
綺奈ちゃんは突然現れた私に戸惑っているようで、一瞬先生を呼びかけた。でも先生が出て行ってしまったことに気がついて、私にこう言ったのだ。
『外に出てていいよ』
真っ青で今にも倒れそうな顔色に反して、芯のある声だった。胃酸で枯れた声は少し低くて、まるで男の子と話しているような気さえした。だから、ぺたりと座り込んだその足元に広がる茶色の染みが、すぐには綺奈ちゃんと結びつかなかった。こんなにきれいな子から、私と同じ汚いものが生まれるとは思えなかった。
私の視線が吐しゃ物に向かっていると気づくと、綺奈ちゃんはそれを手で隠そうとした。私もすぐに目を逸らしたけど、タイミングの悪いことに、そこで綺奈ちゃんの吐き気がぶり返した。
ベッドの隅をじっと見つめていた綺奈ちゃんが口元に手を当てたことで、私は異変に気付いた。起こしていた体を曲げて吐き気を堪える綺奈ちゃんは、多分私を外に出そうとしていたんだと思う。でも私は自分でも抑え切れない興奮の下で、一歩綺奈ちゃんに近づいた。
『ぅぷ、っ、げぇっ!』
目の前で綺奈ちゃんの体がびくんと跳ねて、酸っぱい臭いが強くなった。口元には色の薄い液体が付いていて、震える指の隙間から服の上に垂れていた。
戻れない。そう確信したのはこの時だ。
初対面の人の前で吐いてしまったことを気にすることも出来ないほど苦しむ綺奈ちゃんの姿に、頭を殴られたような衝撃を受けた。
『けほ……う、げほっ』
私は震える手で綺奈ちゃんの背中に手を伸ばした。お腹と口元を押さえて咳き込む綺奈ちゃんを見ている内に無意識に息が荒くなって、眩暈すらしていた。
あの時はあそこで先生が戻ってきてしまった。でも今年は偶然同じクラスになって、その姿を誰よりも近くで見ることができる。今も、扉越しに綺奈ちゃんが苦しみを感じている。
「ぉ、えっ」
ぴちゃちゃ、と聞きなれない音がした。さっきひどくお腹を下していたみたいで今は座っているはずだから、足の上に吐いてしまったのだろうか。
綺奈ちゃんはお腹が弱いから、普段は給食を全部食べたりしないし牛乳も冷たいうちに飲まない。でも今日は少し調子が良いみたいだったから、体育の時間に誘って一緒に運動した。その後水を飲もうとしたところで給食の準備を手伝ってもらって喉を乾かせて、牛乳をすぐに飲ませた。
私の妄想が全て現実になったようで、調子に乗っていたのは自覚している。偶然を装いはしたけれど、かなり不自然だったと思う。それでも私はこの声を聞けるなら、綺奈ちゃんが苦しんでくれるなら、何でもしてしまえるのだろう。
綺奈ちゃん。
私はあなたが好きです。いつか、この思いを受け取ってくれたらいいな。