TS転生っ娘とへんたいお姉さん 作:ニンプキン
「さよーならー」
「はいさようなら」
終業の挨拶を終えた綾奈は、ほっと息を吐いた。今日は不思議と調子がよくて、授業中にお腹を下すことも、休み時間にトイレにこもることもなかった。自分も成長しているのだろうか。お腹を擦りながら綾奈がそんなことを考えていると、横から快活な声が届いた。
「綾奈ちゃん、帰ろう」
「えっ、由希ちゃん……い、いいの?」
「? うん」
いつも由希と一緒に帰っているはずの子たちを探すと、もう教室から出ていってしまったようだ。綾奈は、自分の世話をする内に由希が孤立してはいないかと心配になった。
もしそんなことになったらと思うと薄い吐き気がこみ上げる。わたしなんかと付き合うからなんて、考えてしまうのだった。
「どうかした?」
「……ううん、なんでもない」
「そう? じゃあ行こう」
「うん」
それはそれとして友達と登下校出来るのは嬉しい。
由希に手を取られながら、綾奈は無意識に頬を緩めていた。
「それでね、その時弟がーー綾奈ちゃん?」
学校から少し離れた場所で由希の話を聞いていた綾奈はふと立ち止まった。体調は悪くないはずなのに、どこか違和感がある。
心配そうにこちらを見つめる由希をよそに綾奈は今までの行動を思い出し、
「傘、忘れた……」
「うぇっ?」
早歩きで学校に戻る綾奈と由希ーー先に帰っていいと言ったのに付いてきたーーは、ものの数分で教室の前の傘立てに辿り着いた。
そこには一本だけ水色の傘が立ててあって、綾奈はそれを取ろうとすぐに駆け寄った。
「お前あのゲリ女が好きなのかよ!」
「っ!?」
突然教室から響いた声に綾奈はびくりと体を震わせる。どうやら壁で隠れている場所に、数人の男子がいるようだった。彼らの声は先ほどの言葉を皮切りに、どんどん大きくなっていく。
「確かに顔は良いかもしんねーけど、あいつゲリばっかしてんじゃん」
「前にあいつが漏らしたときおれ後ろの席でさ」
「えー、臭かった?」
「サイアク。ちょー臭かった」
「きったねー!」
ぎゃはは、と重なる笑い声に綾奈は完全に固まってしまった。わかってる。わかっていた。女子の同情的で少し迷惑そうな目と違って、男子の目はどうやっていじめてやろうかというそれだった。
傘を手に取ったままうつむく綾奈のお腹が少しずつ動き始める。けれど突然ぶつけられた悪意のせいで、綾奈は気づくことも出来なかった。
「綾奈ちゃん、大丈夫だから。行こ? ね?」
すぐ近くに来ていた由希が綾奈の背中を押す。
中の男子に見つからないように、二人はそっとその場を離れた。
二度目の帰り道は、すっかり静かになっていた。俯きがちに歩く綾奈の隣で、由希が心配そうに見つめている。綾奈の中では、ついさっき向けられた言葉がぐるぐると渦巻いていた。臭い、汚い。それは綾奈が常日頃から向けられている感情だ。
けれど、それを面と向かって言われたことはなかった。自分に気を遣って言わないんだとは分かっていたが、いつの間にか受け入れてもらえると勘違いしていたのだ。
キュウウ……コポポポポ……
強い違和感になり出したお腹を抱えるようにしながら、そっと隣の由希に意識を向ける。いつも世話をしてくれる彼女だって、本当は止めたいと思っているのかもしれない。
「あ、綾奈ちゃ」
「由希ちゃん」
遮ってしまった。何か話してくれようとしたのに。
でも、これだけは聞かなければならなかった。
「わたし、迷惑掛けてる、よね」
「そんなことないっ!」
「……ぇ?」
思いのほか強い口調で返されて、綾奈の顔に困惑が浮かぶ。頬を紅潮させた由希は続けて言い放つ。
「だって、私、綾奈ちゃんのこと好きだからっ」
「へ?……あ、友達、だから?」
「……そ、んなかんじ」
言い切った割には歯切れが悪くて、綾奈は首を傾げた。けれど例えそれが嘘でも綺奈は嬉しかった。たった一人の友達が自分のことを好きだと言ってくれるなんて、どんなに幸せなことだろう。綺奈はほっと体の力を抜いた。それがいけなかった。
ゴポポポ……グウウゥ~ッ
「なんで、急にっ……」
「綺奈ちゃん? どうしたの、お腹痛い?」
緩んだ腹から軟便が下りてきて、強烈な便意が綺奈を襲う。パーカーの上からお腹を擦るも便意は収まるどころか強くなっていく。ストレスと安心感の落差でお腹が下ってしまったようだ。カイロを貼ったお腹部分をぐっと握り締めて、綺奈は必死で我慢した。
「私の家に行こう。今日はお母さんもいないし……我慢、できそう?」
由希の問いに、綺奈は小さく頷いた。いつもの下校ルートを外れて住宅街に進んで行く由希と、それを追う綺奈。便意を我慢しながら歩く綺奈が遅れるのは当然のことで、由希はそれを見越して必要以上にゆっくりと歩いていた。
しかし我慢の限界は訪れる。元々普段よりもトイレに行く回数が少なかった綺奈のお腹には、いつも以上に便が溜まっていた。少量の便を何度も排泄する綺奈の生活では大量の便を留める力など、あって無いようなものだ。
ブスッ、ブビビビッ……
「っ、う」
「待って、綺奈ちゃん! もうちょっとだから!」
「う、ううぅ……」
ぎゅうとお腹を押さえてくの字になるまで体を曲げ、綺奈はぎりぎりで波をやり過ごした。荒く息を吐く綺奈の額には冷や汗が滲んでいる。じっとりとしたそれは下着を肌に貼りつかせ、ひどく気分が悪かった。
だというのに、緩く水分を含んだ便が腸内を滑り落ちていく。ぬるつき始めた
「も、でる、むりっ」
「待って! もう着くから!」
「は、ぐ、う、ぅ……」
けれど、好きだと言ってくれた友達にこれ以上迷惑を掛けたくない。
その一心で必死に出口を締め上げて、足を震わせながら由希の家に入った。あわただしく靴を脱いで、背中を押されながらトイレに駆け込む。下着ごとズボンをずり下げて暖かい便座に腰を下ろし――
ミチミチミチッ、ボチャ、ドボドボッ!
「はぁ……まにあった……」
一番先だけが固くなった便は、柔らかな軟便と緩い下痢に押されて便器の中に飛び出した。綺奈の全身から力が抜けて勝手に尿が漏れ出していく。トポトポと二つの水を排泄しながら我慢から解放されたことによる快感に身を震わせた。
(間に合った。間に合った! ふふ)
同級生から酷いことを言われて、それでも友人に元気づけられて。最後の最後に報われた気がして、綺奈は無意識のうちに笑みを浮かべていた。
それでも段々と冷静になってきて、音を消すこともせず排泄に耽っていたことに気がつくと、少しずつ恥ずかしさが蘇ってくる。
最後に思い切りいきんでお腹の中に残っていたものを出し切りきれいにふき取って、綺奈はすがすがしい気分でトイレを出た。
◆◆◆
扉一枚を隔てた向こう側で綺奈ちゃんがうんちをしている。
今まで何回もあったことだけど、それが自分の家となると別格だった。お母さんがいないのをいいことに靴を脱ぎ散らかして静かに、でも確実に音が聞こえるようにトイレの前に立つ。
トイレの前にはランドセルが乱暴に投げ捨てられていて、綺奈ちゃんがどれだけ必死だったのかがはっきりわかった。ぱちりと気づかれないように換気扇を切って、聞き耳を立てる。がさがさと聞こえた衣擦れの後に一瞬だけ間が空いて。
そして聞こえてきた大量の水音に、お腹の奥が燃えるように熱くなった。音だけでイってしまいそうになりながら呼吸を押さえて、短パンの上から股座をこする。
綺奈ちゃんの気持ちよさそうな声と、緩いうんちが落ちる音。おしっこが勢いよくあそこから飛び出ていく音。どれもが興奮の材料になって、下着の中がぐちょぐちょに濡れだしていく。鼻血が出なかったのは奇跡だったと思う。
それから何分経ったのか、トイレの中から紙を巻き取る音が聞こえてきて私は我に返った。トイレの前には水滴が落ちていて、股のところはまるでお漏らしをしてしまったみたいに濡れていた。興奮から一転さっと血の気が引いて、慌てて自分の部屋に走る。
使い物にならなくなった下着を脱ぎ捨てて、そこでほんの少しだけ欲が湧いた。
もし綺奈ちゃんがお漏らししてしまっていたら。もし私がこのまま下着を履かなかったら。私の頭は完全にショートしてしまったんだと思う。普段なら、そんなこと思いつきもしないのに。
するりと履けてしまったズボンは少し古いもので、ほつれたところが肌に直接触れるとくすぐったかった。お尻の方が目立ってるような気がしたけれど、もう後には戻れない。私は下着を履かないまま階下に降りて行った。
綺奈ちゃんはまだトイレから出て来てなくて、ほっとしながら玄関に向かう。食い込んでくる布地に背筋を震わせながら靴を直していると、後ろから水を流す音が聞こえてきた。振り返るとほんのりと頬を赤く染めた綺奈ちゃんが立っていた。
「お腹、大丈夫?」
「うん……あ、あのね、その、聞こえた?」
もじもじと服の裾を引っ張りながら言う綺奈ちゃんの姿に、今度こそ鼻血を吹き出しそうになって、ぎりぎりで堪えた。最近の綺奈ちゃんはなんだか大人っぽくなったというか、夏休みの後くらいからとてもえっちになったような気がする。きれいな足が見えるような服とか、小さいけど大人が着るような下着とか。それでいて距離感は前のままだからあんまりべたべた出来なくて、その、とても困る。
だからこんなことをしてるのも全部綺奈ちゃんのせいなんだ。
そんな現実逃避で目の前の光景に耐えてどうにか口を動かして答える。
「ううん」
「ほんと? よかった」
「っ、」
危なかった。
前にお姉さんといる時に見せていた、へにゃりと緩んだ笑顔。あれを直接向けられたのは初めてだったけど、やっぱり可愛くて、頭がどうにかなりそうだった。これ以上一緒に居たら、家に帰したくなくなってしまう。
「……もう、帰る?」
「うん。由希ちゃん、今日はありがとう」
「そ、っか。気を付けてね」
同じ時間使ってるはずなのに私のよりもぴかぴかなランドセルを背負い直して、綺奈ちゃんは玄関に立った。まっすぐ家に帰ることが多い綺奈ちゃんが家に来てくれるのなんて、これが最後になるかもしれない。そう思うと何がなんでも引き留めたいと手を伸ばしかけて、ひっこめた。
「由希ちゃん?」
「……なんでもない。またね!」
「うん。また明日」
がちゃりと扉を開けて、綺奈ちゃんが家を出て行く。私も一緒に外に出て、綺奈ちゃんの姿が見えなくなるまで手を振って。そして家の中に戻る頃には、私もおしっこがしたくなっていた。ただでさえハーフパンツで擦られ続けている上に、六時間目の終わりからずっとトイレに行っていないのだ。
名残惜しく思いながら靴を脱いで、トイレに入る。
そうして上の空だった私の鼻に、強烈な臭いが突き刺さった。思わず口元に手を当てて便器の中を見ると、底の方に茶色い汚れがこびりついていた。
そうだ。
ここでさっきまで綺奈ちゃんがうんちをしていたんだ。いつもはトイレを出る綺奈ちゃんに付き添うから、綺奈ちゃんがうんちをした後のトイレなんて見る機会がなかった。でも今ここにそれが実現している。ショートパンツを脱いで座ると、便座に綺奈ちゃんの体温が残っている気がした。
「は、ぁ……ぁっ」
びくびくと背筋が震える。そっと手を這わせると、
私は綺奈ちゃんの残り香の中で、思いっきり感じながら、綺奈ちゃんを想った。