封印されてたビッチ妖狐が呪われた少年に負けるだけの話 作:社畜怪人
『─────感ずるぞ。滾るほどの命の気よ─────』
かつて、【ソレ】は、天地に名を馳せた大悪の化身であった。
『─────感ずるぞ。妾に掛けられた呪が絶えた気配─────』
数多の陰陽師が己を封ずるべく用意した男に、【ソレ】は騙された。
命の営みを閉ざすものに、呪あれかし。
悦びを奪うものに、絶望の未来を。
妾の未来を奪った全てのモノの未来を、道連れにしてくれる。
地の底に封じられる間際の呪いの言葉は、陰陽師たちと、己を騙した男を侵した。
子を授かれず、精は涸れ果て、命は大地に吸われ。
そんな中、一人の陰陽師は、己の精と命を、未来へと託した。
【ソレ】の呪いは長くとも千年の時を経れば、無為に帰すもの。
しかし陰陽師の祈りは祝を転じ、呪いへと姿を変え、何者かも分からぬ者を狂わせているのであろう。
『─────妾の空腹を満たす胤を、命を、──────!!!』
その気配は近い。
【ソレ】にとって、胤とはエサであり、命であり、快楽であり───
封ぜられた間、如何程に餓えたことか。
その飢えを満たさんとする、生きるものとして当然の摂理。
煩わせた呪符の類も、今や紙切れ以上の意味を果たさず。
【ソレ】は、目の前の餌を喰らうべく、地の底より舞い戻る────
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寂れた神社の一角。
山の上に建っていたであろう其処に、【ソレ】は蘇る。
都合よく、命の気配もする。
数こそ少ないものの、濃密な気配。
現世に舞い戻った【ソレ】が襲い掛かったのは、無垢そうな少年であった。
若人の命を刈り取るのは、【ソレ】としても不本意だ。
しかし、空腹には耐えられぬ。
『そなたの生と精、妾の糧としてくれようぞ!』
高らかに吠えた後、少年の纏っていたものを爪で切り裂き。
目の前に現れた摩羅に、【ソレ】は息を呑んだ。
数多の男を誑かし、餌とし、虜としてきた【ソレ】は、間違いなくこれこそが陰陽師の呪の変異だと確信した。
勝てるわけがない。挑むことさえ躊躇われるような、巨根ということさえ烏滸がましい程の摩羅が、そこにはあった。
挑めば敗れるのは自明の理。
大悪の化身、あらゆる男の精を搾ってきた【ソレ】ですら、目を疑うような凶器。
鬼に見せれば女と見紛うほどに華奢で、小柄なのに。
『────なんたる摩羅。雌を天にやるためだけの凶器よ』
「あの、あなたは誰ですか?」
『────足が竦んでおらぬ。成程、かの陰陽師どもの心胆をも継いだか』
「僕を殺しに来てくれたんですよね、良かった……!」
『────む』
何者かも分からぬものに衣服を裂かれ、裸体を晒しているというのに怖気づく気配さえない。
か弱い命の気配と、摩羅より漂う痛々しい程の呪いの気配に、【ソレ】は呆れ返る。
そしてその呪いこそが己の求めるものであったと理解し、刹那の逡巡。
命を惜しまぬというのであれば、その呪い、その精ごと己の糧として食らってくれようぞ───歪な微笑を浮かべて、【ソレ】は少年へと襲い掛かった。